黄色い薔薇
美しい少女が歩いていた。
少女は黄色い薔薇を一輪、手に持ってそぞろ歩いているようだった。
随分と場違いな花を持っているなぁ。
と、ワタシは思った。
ここは霊園である。
霊園に花を持ってくるのであれば、菊の花だろう。
もしくは、白い百合の花とか。
紫の花もいいかもしれない。
そんなことを思っていた時、ふと、故人が生前好きだった花を持ってきたのかもしれないと思った。
ワタシは、自分の家の墓を掃除しに来たところだ。
近々法要がある。
熱心な親族は事前にお墓前りにくるだろう。
その時に、お墓が汚れていては何を言われるかわからなかった。
雑草が生えていた。
苔が生えている。
御供物がこびりついていた。
ゴミが落ちていた。
そんなことを法要の席でネチネチを言われるのは嫌なので事前に掃除をしにきたのだ。
水場に行って、掃除に使う水を汲む。
その間も、少女はワタシの視界の隅にチラチラと映っていた。
目的のお墓の場所を知らないのだろうか。
あちこちの墓石を覗き込んで、墓碑銘を確認しているようだった。
水を汲んで、自分の家のお墓に向かっているとき少女とすれ違う。
軽く会釈をした。
少女もペコリとお辞儀をする。
「もしかして、○○さんですか」
「え? そうですけど」
すれ違いざまに声をかけられた。
確かにワタシは○○だ。
しかし、少女のことは知らない。
「ああ、よかった。お顔がにているからそうだと思った」
「はぁ」
「××ちゃんのご兄弟でしょう?」
「確かにそうですけど。あの、何か?」
霊園に不釣り合いな笑顔で少女は話す。
少女の笑顔は美しかった。
「××ちゃんに用があってここまできたんです」
「あの、××は……」
「もちろん知ってます!」
どこまでも少女は楽しそうに話す。
××は死んだ。
一年近く前の話だ。
今度の法要は××の一年忌なのだから。
「あの私も入院していて……。やっとここまで来れたんです! やっと、私も自由になれたから」
「はぁ」
「××ちゃんどこですか?」
「こっちですけど」
そう言って私は少女を案内した。
案内する間のワタシの心中は複雑だった。
どうして少女は笑顔でいられるんだろう。
××はあんなに酷い死に方をしたというのに。
墓前に立つと少女は花受けに黄色い薔薇を刺した。
ワタシは後ろに立ってそれを見ている。
少女は手を揃えるでもなく、お辞儀をするでもなく佇んでいた。
少女を見るていると怒りが湧いてきた。
お墓参りにくるのであれば、それなりの作法というものがあるだろう。
そんなことも知らないのだろうか。
少女は明るく、楽しそうな声で言った。
「××ちゃん。やっと一緒に行けるね。待っててくれてありがとう。一年前は失敗しちゃった。ごめんね。今度こそ、一緒だからね」
「えっ」
そういえば、××は誰かに突き落とされたと言っていなかったか。
少女はワタシの横を通って行ってしまった。
慌てて振り返るが、少女はどこにもいなかった。
墓前に黄色い薔薇が一輪揺れている。