表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
植物な少女とワタシ  作者: 生方冬馬
4/11

銀杏

どこからか、鐘が鳴り響く。


はて、ここに鐘があっただろうか。とワタシは首を捻った。





なんてことはない田舎の道だ。


唯一の特徴は立派な銀杏並木が続いていると言うことだ。




時刻は夕暮れ。いわゆる黄昏時だ。


よく先が見えない薄暗さと相待って、鐘がどこから鳴っているのかよくわからない。




鐘の音に耳を澄ませていると、「もし」と声をかけられた。


「はい?」


「もし、そこの方」


「ワタシですか?」


声のする方を見ればいつの間にか老婆が立っていた。


「今からここを立派な御方がお通りになられます。銀杏の下にお下がりください」


「えっ、は、はい」


ワタシが戸惑っていると老婆に手を引かれて銀杏の影に連れて行かれた。


「さ、ここでこっそりと覗きなされ。特別ですぞ。くれぐれも声を出しませぬように」


言い残して老婆は行ってしまった。


鐘が鳴り響いている。


その荘厳で威厳のある雰囲気にワタシはすっかり飲まれてしまった。


声を出すなと言われたので、手で口元をしっかりと押さえて音が漏れないようにする。


なぜか、言うことをしっかりと聞いたほうがいいと思ったのだ。


じっと周囲を観察する。


すると西の方からポツリポツリと明かりが近づいてきた。


ワタシは息を潜めて銀杏の影に隠れ、じっとしている。


ワタシの目の前を通っていくのは、とても荘厳な行列だった。


不思議なのは灯りに照らされて進んでいくのは全て老婆だということだ。




老婆たちの行列が、灯りだけを頼りに静かに進んでいく。


中央まで進んだ行列の、その中に一際美しい少女がいた。


この行列の主役だろうか。




一瞬、美しい少女と目があった。


少女が微笑むのが見えた。


それは今まで見てきたどんな人物よりも美しかった。


その後、行列は静々と進んでいつの間にか途切れた。


鐘の音も聞こえない。





ワタシは、ポーッと銀杏の下に立っていた。


美しい少女の一瞬の微笑みが頭にこびりついて離れなかった。


銀杏の葉っぱが静かに揺れていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ