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植物な少女とワタシ  作者: 生方冬馬
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ステルンベルギア

家の花壇に黄色い花が咲いた。


クロッカスのような花だ。


家族に「クロッカスって秋に咲くんだね」と言ったら馬鹿にされてしまった。


どうやらこの黄色い花は「ステルンベルギア」と言う花らしい。


球根を植える花で秋に咲く花で、彼岸花の仲間だと言うことだ。




花壇は当然、露地だ。温室ではない。


この寒くなる季節に茶色い地面に色を添えてくれるステルンベルギアをワタシは可愛いと思い始めていた。




毎朝、出勤前に花壇の前に立ち様子を見る。


今日は一輪、咲いたな。


今日は一段と色が濃く見えるな。


今日は一輪、萎れそうだな。


そんな観察をしながら、咲いている花に毎日、楽しさと期待を膨らませていた。




そんなステルンベルギアの中の一輪の様子がおかしい。


蕾は黄色く色づいているのに一向に咲く気配がないのだ。


まだ咲かない。


まだ咲かない。


家族に相談してみても「育成不良じゃない? たまにあるわよね」と気にしていない様子だった。




ある寒い休みの日。


私は花壇のステルンベルギアをなにはなしと見つめていた。


季節は、もう秋から冬に移りかわろうとしている。


ほとんどのステルンベルギアは枯れて、球根は休眠期に入ってしまった。


あの咲く気配のない一本だけだが、黄色い蕾を揺らしている。


「ねぇ、ねぼすけさん。他の子たちはみんな咲いて眠ってしまったよ。いつになったら花を開けるの?」


ワタシはそんな独り言を花に向けて言っていた。




太陽の光が、雲の間からさした。


花壇が陽の光に包まれる。


蕾が大きく揺れた。


そしてゆっくりと蕾が開き始めたのだ。


ワタシは思わず、スマホを取り出して動画を撮影する。




ゆっくりと開花したステルンベルギアは花弁を大きく広げた。


黄色が濃い。


そして、中に美しい少女がちょこんと寝ていた。


少女はむずかるように身震いすると、陽光が眩しいのか目をつむる。


そんな一連の動作は目覚めるのを嫌がる幼子のようだった。


やがて少女は大きくあくびをすると、伸びをした。


そして花からぴょこんと飛び降りると、陽光に向かって走って行ってしまった。




ステルンベルギアに目を戻すと、さっき咲いたばかりだというのにもう、枯れ落ちてしまっていた。


あの少女はどこに消えてしまったのだろう。


目の錯覚だろうか。


いや、確かに少女はステルンベルギアの中から走り去ったのだ。


見間違えなどではない。




そうだ、動画を撮っていたのだと思い出す。


動画を再生してみたが、動画には黄色い花が咲いている場面が写っているだけだった。



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