リンゴ
「そんな男性でいいの?」
いきなり、美しい少女に言われた。
正直「はぁ?」と思った。
いきなり何言ってんのこの子。
「えーと、なんのことでしょうか」
「そんな風にあなたを殴ってくる男性なんかと一緒に暮らしていていいの?」
「……」
何も言い返せなかった。
彼が殴ってくるのは本当のことだからだ。
「でも、でも彼はワタシのこと、愛してくれているし」
我ながら陳腐な返事だなと思う。
でも、事実だ。
彼はワタシのことを愛してくれる。
愛しているから、ワタシのことを「いい女」に教育するために殴るのだ。
全ては愛ゆえに、だ。
殴られるのはワタシが悪いから。
だから、ワタシは黙って受け入れる。
「殴られて、なじられて、だした料理は投げ捨てられる。どんなに掃除しても怒られるし、あなたの行動は全部チェ
ックが入る」
なんで、この少女はそのことを知っているのだろう。
全部、家の中での出来事だし、誰にも喋っていないのに。
見つけられるような部分にアザもないし。
外から分かるわけないのに。
少女がいうことが全部当たっていて、気味が悪かった。
「あなたにこれをあげるわ」
少女が差し出してきたのは、リンゴだった。
赤く熟したスーパーで売っているような、よくあるリンゴ。
「これはリンゴ?」
「そうよ。毒リンゴ。人間なんて一口食べればあっという間よ」
「ど、毒……」
「白雪姫が魔女からもらった毒リンゴよ」
手の中のリンゴは、どこからどうみても普通のリンゴだった。
これが毒リンゴ? 白雪姫?
白雪姫だなんて童話の世界じゃない。
「な、何を言っているのよ。大人を揶揄うものじゃないわ」
少女はうふふと笑った。
「このリンゴを碌でもない男に食べさせてもいい。あなたが食べたっていいわ。捨てるのも一つよね。ああ、そうだ。リンゴをいっぱい買って男が食べるか食べないか賭けをするのもいいわね。あなたの好きにしていいのよ。選択するのはあなただから」
少女はワタシの手をとってリンゴを握らせた。
両手で包み込むように持った。
リンゴはずっしりとしている。
これが毒リンゴ。
一口で人間が死んでしまう毒リンゴ。
「よく考えて、あなたの人生の大きな選択よ。このままでもいいし、違う人生を選択をしてもいい。でも、選ぶのは
あなたなの」
少女はニコニコと笑顔で怖いことをいうと踵を返して、どこかに行ってしまった。
残されたのはワタシとリンゴ。
ずっしりと手に感じる重みは人生の重みだ。
ワタシはどうするべきだろうか。




