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WOLFRIC 合成獣と聖魔の冠  作者: 九詰文登
第一章 大喰者
15/15

取り残された時の流れの中で 1

「アル! あの戦いの間に契約を行うなんて凄いじゃん!」

 サリナは、今まで浮かべていた不安げな表情とは打って変わって、嬉しそうに駆け寄ってくる。周りから見たらアルマが戦闘を行いながら、契約を行っていたように見えたらしいが、直接狼と戦っていたバンディはそんなことできるわけがないということを知っている。

「アルマ、お前なにした?」

「正直に言わせてもらうが、本当に何もしていない。最後だって殺すつもりだった」

「いやいや、それは無理があるだろう。狼の剣を突然発現して戦い始めた辺りからまるでやらせを見せられているようだった」

 バンディからはそう見えるのかと、少し悩んだのち、アルマはバンディには話すことを決めた。

 大喰手(ビックイーター)によって自らに人間種の禁忌である人体方陣が発現したこと。その能力が、魔物の魔力を吸収して、魔物を再現する能力であるということ。最後こそ、決死の覚悟でこの狼の魔力を吸収し、狼の魔法を再現したこと。

 そしてアルマ自身が自らの力を見つめなおし、動き始めることができたのはこの能力のおかげであること

「人体方陣を起因する魔物の複製能力か……。まあ魔法を使えないお前が人体方陣の生成なんて不可能だもんな」

 一応の納得を見せるバンディに対し、アルマは無言で頷いた。イギルとサリナはその間恐る恐ると、狼に触るか触らないかのようなことを繰り返している。

 それからアルマは狼に近づき、眠りこけている狼の首筋に触れる。

「お前そんな感じじゃなかっただろ」

 と言ってアルマは狼に触れた瞬間、無意識に魔力が引き出されるような感覚を覚えたと同時に狼はその姿を変えていく。光に包まれ、見る見るうちにその姿を小さくしていった狼の変化した姿は、赤い柄に鈍色に輝く二又の剣であった。柄には狼の紋章が描かれたこの剣は刃にEKSTASISと銘が刻まれている。

 この剣となった狼と魔力の交換のようなものを行ったアルマの頭には、その狼の魔力を元に、この狼の情報のようなものが頭に流れ込んでくる。

 まるで天啓かのように与えられた智慧はアルマの口を自然と開かせた。

「『紅砲剣(エクスタシス)』。陶酔の剣……」

 それらを見ていたサリナやイギル、バンディなど皆言葉が出ない。そして剣にもう一度魔力を流し込むと、その剣はだんだんと形を変え、狼の姿へと変わる。

「サイレンスていうのかお前」

 と、三人を置いてきぼりにサイレンスと呼んだ狼と二人の世界を繰り広げるアルマに、イギルはとうとう口を開いた。

「待て待て待て! お前のそのリアクションは絶対におかしいって。なんだよ、それについて教えてくれよ。みんなそう思ってるって!」

「剣になる狼らしい。その剣は剣としてだけじゃなくて魔弾も撃てるみたいだ」

 と言って、アルマは紅砲剣(エクスタシス)に魔力を流し込む。すると二又に別れている刃の間に黒い魔力が溜まり、アルマの意思でそれを射出するとダンジョンの岩壁が抉れて見せた。

「このくらいだな――」

「このくらい!? このくらいだって!? それがどれだけの価値がある物かわかってんのか!?」

 と言うバンディを横目にアルマはその抉れた迷宮(ダンジョン)の壁に近づき、手を添えた。それはここに広がっている分厚い土気色をした岩盤とは違い、鈍色でツルツルとした手触りをしている。

「金属か?」

 アルマがそういった瞬間にその壁面は、見られたことに気付いたようにその姿を岩の壁へと姿を変化させた。

「おい、アルマ聞いてんのかって!」

 アルマの肩を掴み、大きく体を揺らしたバンディは目を合わせようとしないアルマの不自然な様子に気付き、静かに尋ねる。

「どうしたんだ」

「お前見なかったか。ちょっとどいてろ」

 と言って、アルマはもう一度紅砲剣(エクスタシス)に魔力を込め、弾丸を迷宮(ダンジョン)の壁面へと放った。変わらずの威力で岩を抉るほどの力を見せる魔弾だが、その先にはただの岩が続いている。

「なんだよ迷宮(ダンジョン)の壁なんて撃って」

「いや、さっきはこの先に金属製の何かが見えたんだけどな……。気のせいか――気のせいか?」

 アルマは先ほど金属の壁面を触れた手を見つめるが、まだあのツルツルとした感触が残っており、気のせいではないことがわかる。

「お前、その剣だよ」

 痺れを切らしたバンディは改めてアルマに尋ねるがその声音は全くと言っていいほど焦りを見せない静かなものだった。

「わかってる。でも大事(おおごと)にしたくないだろ? ただ自分の召喚獣と模擬戦してただけだって!」

 と、後半を強めにアルマが言うとイギルとバンディは気付いたように声を小さくする。

 そのやり取りを見ていた他の冒険者たちは「なんだ、ただの模擬戦か」とか「でもかなり激しくなかったか?」とか口々に言い始める。アルマとサイレンスの戦いが予想以上に激化したこともあり、アルマの大喰手(ビックイーター)に気付いている者はいないようだった。

「まあバンディはただ働きだな」

 と笑うアルマにバンディはハッと自分の役目を思い出す。

「依頼人にどうやって説明したらいいんだよ。ちょうど近くにいた古い仲間が契約したとでもいうのか?」

 頭を抱えながらその大きな体を縮こまらせるバンディに、アルマも少し考えてから話始める。

「寄せ集めって言ってたが、契約の時に自分の本名を書いたりしたのか?」

「いや、そんなことはしてないな」

「そうだろうな。傭兵なんていつもそんなもんだ。じゃあ髭延ばせ」

「死んだことにしろってことか?」

 驚きながら言うバンディにアルマは静かに笑みを見せるだけだった。


 それから一行は話題の中心になることを避けるために、そそくさとその場を後にしようとした。そこで四階層の階段に向かったところ、焦った様子で階段を下りてくる二人の存在にアルマは気付く。それはエリスとアイロスだった。

「三人とも!」

 涙を浮かべながら三人を抱きしめるエリスは良い先生だろう。しかしアイロスは一切の動揺を見せず、アルマの後ろに聳え立つサイレンスを見つめていた。

「アルマ君、この狼――」

「契約獣です」

 アイロスの言葉に間髪入れないどころか食い気味に返答する。アイロスはそんなアルマの対応に怒りなどを見せたりせずに、静かに続ける。

「安全なら、君たちが無事ならいいんだ。でもアルマ君、強い力は身を滅ぼすことを覚えておいてくれ」

 まるでアルマの強さが悪いかのような言いようを横で聞いていたバンディが二人の間に割って入る。

「こいつがいなけりゃ――」

「よせ、何を言ってるんだお前は」

――こいつがいなけりゃ全員死んでいた、と言いかけたバンディは自らの言葉がよりこの場をややこしくしてしまうことに気付き、口を噤む。

「気を付けますよ、先生」

 アルマはそう答えながら笑った。


――サイレンスのことだよな?


 しかしアイロスがどこか大喰手(ビックイーター)のことを言っているのではないかという疑念がアルマに生まれていた。

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