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WOLFRIC 合成獣と聖魔の冠  作者: 九詰文登
第一章 大喰者
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月に吼えろ 3

 狼の迷宮五階層。四階層も魔物はほとんど変わらず目的はなかったので素通りし、五階層へと向かう。

 着くや否やアルマは五階層にいる魔物の種類を確認する。三階層から引き続きいる白狼(ホワイトウルフ)。その白狼(ホワイトウルフ)の上位種に当たる双頭狼(オルトロス)。火、風、水の基本魔法を扱うピクシーの三種類だった。

 双頭狼(オルトロス)は二つの頭を持ち合わせたことにより、通常の二倍の思考能力、二倍の思考速度を有しているだけでなく、牙という獣たる武器を通常の二倍有している強力な魔物だった。

「基本的に前衛として向かってくるのは白狼(ホワイトウルフ)双頭狼(オルトロス)だ。その後ろからピクシーが魔法支援してくるということになる。だからイギル。お前はサリナの盾だ。俺がお前らから離れるとき相手の支援攻撃からサリナを全力で守れ。サリナはいつも通りで頼む」

「うん、わかった」

「盾だな。全力でやるよ」

「よし。じゃあ死ぬなよ」

 アルマは毎回戦う前に必ず二人に死を想起させた。もちろん二人からしたら蜥蜴人(リザードマン)を倒してしまったアルマが前衛に出ている時点で、確実に安心できるのは確かだったが、それでもアルマは何度も死なないことを二人に求めた。

 そして二人の確認が取れたアルマは新たな魔力を有している双頭狼(オルトロス)に向かって風刃を飛ばすことで、双頭狼(オルトロス)の注意を引いた。

 こちらに気付いた双頭狼(オルトロス)白狼(ホワイトウルフ)同様帯電を利用した異様な速さでこちらに肉薄する。案の定、バックにはピクシーがついている。

「イギルは結界! サリナはピクシーを優先!」

「はい!」

「わかった!」

「|水よ、悪しき流れから我を守り給え《オー・グラン・パーセル》」


――水属性結界魔法水壁――


 イギルによる水の結界を確認した後、アルマはトレンチナイフを引き抜き、双頭狼(オルトロス)の前へ立ちはだかる。

 双頭狼(オルトロス)は自らの目の前に突き出されたアルマのトレンチナイフを持った右腕を反射的に噛みつくが、アルマがトレンチナイフを巧みに振るったために、上顎にナイフの刃が突き刺さる。

 片方の頭部にナイフが決まったことを確認したアルマは、すぐさまナイフを噛ませていない方の頭を岩鬼(ロックオーガ)の身体強化を使いつつ殴打した。

 グキャっという破砕音と共に頭部を凹まされた双頭狼(オルトロス)の頭部は機能を停止したかのように項垂れた。

 しかし文字通り双頭を持つ双頭狼(オルトロス)は片方の死程度でその動きを止めようとはせず、激痛によって行動が遅れたものの、アルマに次を許さず、後方へ飛んだ。

 ぽたぽたと血が垂れ、その鮮やかな白い毛を汚している頭部を見るに、そちら側はもう使い物にならないだろう。こうなれば一匹の狼と一緒どころか、頭部という重い部位を垂れ下げている時点で白狼(ホワイトウルフ)より動きは鈍いかもしれない――と思ったその瞬間目の前に大きな水の弾が現れた。

「|火を以て、迸る閃光を体現せん《フラム・ラピッド・ショック》」

 それをすぐさま避けようとした瞬間、その水の弾は目の前で蒸気となり消え去った。

「サリナ支援遅い! 気ぃ締めろ!」

「ごめん!」

 アルマは双頭狼(オルトロス)の目の前に特大の風刃を放ち、砂煙を焚く。そして。

「二人とも耳を塞げ!」

 特大の大地斬りと共に魔力振動を発し、一種の超音波のようなものを発生させる。空気が歪んだように錯覚する程の音は周囲で狩りを行っていた冒険者にも影響を与える。それほどの威力であったため、目の前にいた二匹は耳から血を吹き出す。

 砂塵が晴れた先には案の定ぐったりと横たわる二匹がおり、アルマは先に双頭狼(オルトロス)に止めを刺し、ピクシーも左手で魔力を吸い取った後、止めを刺した。

 アルマは砂塵によって汚れたローブを叩きながら二人の元に戻る。

「アル、大丈夫だった?」

 それを見ながらサリナが問う。

「問題ない。でも次はもうちょい速めで頼む。お前は直接敵を狙ってもいい」

「わかった!」

「イギルは得物の性質上、狼を狩るのはまだ早い。今回はほとんど出番なしだったが、岩鬼(ロックオーガ)が敵にいた時はよろしく頼む」

「おう!」


 双頭狼(オルトロス)の固有魔法は白狼(ホワイトウルフ)と変わらず、雷爪であり、ピクシーは身体複製はなく、黒霧という毒を盛った霧を発生させる魔法であった。

 

 それから三人は狩りを続け、魔晶石を入れるための袋が満杯になったところで、四階層への階段へ向かうことにした。

 しかしアルマたちが階段を昇ろうとした瞬間だった。まるで生暖かい、でもぞわぞわするような風に背中を撫でられたような感覚に襲われたアルマは、勢いよく後ろを振り向いた。

 ただの違和感であればただ振り返るだけであっただろうが、明らかな異様、いや異常さを察したアルマは紅魔眼(マジックセンス)すらも発現し、違和感の先を見据える。

 六階層への階段からは、胸を締め付ける感覚に襲われるほど重い魔力が溢れ出していた。紅魔眼(マジックセンス)は本来生物の中を流れる魔力を見る恩恵であるはずなのに、こんなものが見えているのは、この階段の先にいる者の魔力が強大すぎて、空気中に存在する魔素に影響を及ぼしているからであろう。

 姿を見せてすらいないのに伝わってくる圧倒的な圧力(プレッシャー)。刹那爆発ともいえる爆風と共に六階層の階段は砂塵に包まれ、砂塵を透過する紅魔眼(マジックセンス)での視界がくらむ程の膨大な魔力が奥から現れた。

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