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雲行きが悪いとは、まさにこのことを言うんだろうな

「これが、生捕を命じられていたターゲットBだよ、ハデスさん」


 ヒノクは、クラウを乗せた台座を、ハデスとケルの前にスライドさせてそう言った。彼女は現在睡眠薬を投与されているため目覚める気配はない。そんなクラウをハデスは眺めてニヤリと笑みをこぼす。


「うん、この子だ。間違いないね」

「しかしどうしてこんなカラスの獣人が必要なんだ。特に何かこの女が特別な様子は見られなかったが」


ラキュラは巨大な椅子に座りながら、ハデスに声をかける。ハデスは、ケルに何か腕輪のようなものを取り出させて、それを腕にはめると答えた。


「まあなんだろうな。少しエラーが起きたようだからさ。それの修正をしようと思ってね」

「修正?」


 ラキュラはハデスの言葉の意味がわからず、それを繰り返す。するとハデスは、自身の手をクラウの頭にあてがった。


「ああ、そうさ。あの『呪われし紅炎(カースドプロミネンス)』……ああ、君はその用語は知らないか。まあとりあえずこの子はあのターゲットAと離れないことになってるはずなんだけどね。なんでか一緒に旅をしてくれないから困ってたんだ」

「まるで全部貴様の思い通りに動くかのような言い方だな。御伽噺を書いてるわけでもないだろうに」

するとハデスは、手に黒色の光を放ちクラウの頭に触れた。そしてラキュラの言葉に笑みを返す。

「ふっ、僕からすれば、ただ努力する姿を見ているだけで、ここまで誰かを好きになるということ自体が御伽噺だよ」


「どういうことだ?」

「いや。こちらの話さ。さて、これでいいかな」


 ゆっくりとクラウの頭から手を離すハデス。彼は作業を終えるとラキュラの方に向き直り、不敵な笑みを浮かべて彼に言った。


「さて、先程君たちの話は聞こえたけど、やっぱりターゲットAの殺害は難しかったようだね」

その言い方に少しの苛立ちを覚え、ヒノクは言葉を返す。

「おい! まるでラキュラ様が負けたみたいな言い方はよせよ! ファルの最後の攻撃を食らっていなきゃ、ラキュラ様は確実に、奴をしとめてた!」

「よせ、ヒノク。結果が全てだ。そこに言い訳するつもりはない」


ヒノクを静止し、そう言葉をこぼすラキュラ。そんな彼にハデスは言う。


「そうだよね。ファルの妨害は予想できた。これは紛れもない君のミスだ。まあでも心配しなくていいさ。まだあの魔法装置『クラウディア』は君に貸してあげる。ああ、それと、ここに彼らも来るんだろう、少しこちらにも調べたいことがあるからその時のためにケルを貸しておく。ケル、もう話してもいいよ」

「ありがたき幸せです。ハデス様。さて、そういうわけだ、頼むぞ貴様ら」

「うん。うちの可愛い犬を頼むよ。じゃあ僕はそろそろ帰るから」


 そしてケルを残して城を出ようとするハデス。そんな彼をラキュラは呼び止める。


「待てよ、ハデス」

「ん? 何だい?」


 足を止めラキュラの方に向き直るハデス。ラキュラはそんな彼の目を睨みつけるようにしながら言う。


「ターゲットAのことについてな。少し疑問に思うことがあったんだ。貴様がパーツ商人にこの標的を殺害させる時も多額の金を払ったと聞く。そして俺たちもまた、成功してないのにも関わらず、こんな高価な魔法道具を授かっている。これはあまりにも羽振りが良すぎる」

「貴様! これほどの恩寵を受けているのにもかかかわらず! どこに文句が――」


「いいよ、続けて、君は何が言いたいんだい?」


 ラキュラの態度に憤るケル。しかし、そんなケルの言葉を遮り、ハデスは問いかける。ラキュラは、ハデスから目を離すことなく、言葉をこぼした。


「お前の目的はおそらく、あのフェニックスを殺させることじゃない。あのフェニックスに然るべき敵を当てて成長させる、それこそが、お前の目的なんじゃないか? つまりお前は、はなから俺たちがやつを倒せると思っていない」


 ラキュラが言葉を発し終えると、ハデスはその顔に不気味な笑みを浮かべた。そして、彼はさぞや楽しそうに、ラキュラに問う。


「だったら、君はどうするんだい?」


 ラキュラは真っ直ぐに彼を見据えて、答える。


「別に。ただこの不条理な世界と共に、貴様の期待にも逆らっていくだけだ。俺の野望のために」

「そうかい、それは楽しみだ」




「うわぁぁ、やっぱりすごいですね! 周りは水ばかりです!」

「おう、兄ちゃん! 海は初めてかーい? そんなに飛び出して、振り落とされるなよーい!」

「はい!」


 サン、ネク、シェド、ユニの4人はカモメの鳥人モンメの船で、シーラへと向かっていた。ちなみにモンメは商店街でハチの向かいで魚屋を営んでいるものであり、サンとも顔馴染みである。


 彼らはスカイルにいた時、ラキュラのいるシーラにどのようなルートで行くのか悩んだ。その時名乗りを上げてくれたのがモンメだったのだ。モンメの趣味は魚釣りで、それ用の船も購入していた。その船を借りるために、彼ら4人は飛行船で海に面した土地に降りてから、モンメの船で出発することになった。


「サン! サン! 見てください! 魚が跳ねてますよ! 楽しそう!」

「ん、ああ、そうだね、ユニ」


 船のマストではしゃぐユニに、サンは曖昧な笑みを浮かべて声をかける。そんなサンの様子を見て、ネクは隣のシェドにヒソヒソと声をかける。


「……やっぱりサン。元気ないね」

「まあそうだろうな。幼馴染2人の無事がわからないんだから」


 シェドはサンに気取られぬようネクにそう返した。ラキュラにてスカイルを襲撃され、自身の大切な人達が攫われたのだ。当事者としては、彼らのことが気がかりでならないだろう。


「……でも、良かった。ユニがいてくれて」


 ネクは賑やかに海を満喫するユニを見てそう呟いた。シェドもその言葉に同調する。


「ああ、そうだな。ああいうふうに空気を暗くしない奴がいるだけで、サンも気分は楽だろう。ユニが狙ってやってるのかはわからないけどな」

「……そうだね。でも、絶対私たちにはできないことだね、あれは」

「……まあ、そうだな」


 彼らがそんな会話をしている間にも、どんどん船は進んでいく。するとサンは、自分の視線の先に、不自然な光景が広がっていることに気づいた。


「ん? なんだ、あれ?」


 それは、あまりにも巨大な黒い雲の存在だった。しかもそ他は晴れているのにも関わらず、の雲は妙なことに、その島にのみ厚くかかっている様子だった。


「……大きな雨雲、ですかね? この後雨でも降るんでしょうか?」


 するとサンとユニの言葉を受け、船の操縦をしていたモンメが答える。


「いやぁ、それがおかしいんだぜーい。サン。変なことによー、ここ数週間はずーっとあんな感じでシーラに雲がかかってんだよーい。不気味で近寄り難いったらありゃしねーい」

「確かに、不思議な話だな」


 シェドはモンメの話を聞きながら心の中で呟く。するとネクがそんなシェドに声をかけた。


「……シェド、これはもしかしたら」


「まあそうだろうな。獣の力では説明のできない力。おそらくあれはきっと、魔法の類だろ。しかしなあ、雲行きが悪いとは、まさにこのことを言うんだろうな」


 深々とため息をつくシェド。そんな中船はどんどん、黒い雲へと近づいていった。そしてもう少しで、その雲に入ろうと言う時に、モンメが口を開いた。


「とりあえずシーラにきてすぐの港に停めるからなー。スアロとクラウちゃん達のこと頼んだぜーい」

「わかったよ。ありがと。モンメさん」

「ありがとうございました! 楽しかったです」


サンと同様、フォレスに拾われるまでの記憶がないクラウの過去が少しだけ掘り下げられました。

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