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ありがとう。でも、大丈夫。俺は――ファル先生の弟子だから

「サン、フェニックスになれ」


 ファルの唐突な提案にサンはたじろぐ。


「え? 何でだよ! ファル先生。まだ俺が旅に出るのを止めようってのか?」

「止めようなんて思わないさ。お前はもうスカイルだけに留まる器じゃないよ。今からやるのは、俺がお前に施す、最後の修行だ」


 ファルは、鞘から真剣を抜き出すと、息を整えて静かに構えた。そしてサンに言葉を続ける。


「サン。今からお前に双翼陽天流の照型を全て見せる。一度で覚えろ。フェニックスの目なら、それができるはずだ」


 ――あ、そっか。


 そのときサンは、どうして彼が自分が来る前に型の練習をしていたのか悟った。それは完璧な双翼の照型を自分に継承するためだったのだ。


「わかったよ、ファル先生。しっかり見てる。……サン・ライズ」


サンは自身の背中に翼を発生させ、自身の両目にフェニックスの能力を獣発する。ファルはその様子を見届けた後、ふーっと細く息を吐いた。そして左の刀を真っ直ぐに向け右の刀を顔の横に位置させる。


「じゃあ行くぞ、双翼陽天流一照型、木洩れ日瞬閃!!(こもれびしゅんせん)」


――ビュン!!


 そして左の刀を引き右の刀を押し出して、瞬く間に2つの刀を取り替える。どちらかの刀で敵の攻撃を払い、そこに瞬く間に木洩れ日を差し込む双翼ならではの技。仮に一の突きが交わされていたとしても、瞬時に二の突きに切り替えることもできる。


 ――すげえ、はやいし、綺麗だ。


 サンは目の前の師の剣舞のあまりの美しさに思わず見惚れていた。しかし、絶対にその技がどのように放たれているか、見逃すことはなかった。筋肉の動き、呼吸のタイミング、瞬間毎の重心の位置。サンは文字通り一度の瞬きをすることもなく、ファルの双翼陽天流を観察していた。


 こうしてファルは双翼陽天流五照型までの型を全て終えた。もちろん時間にしたら30分もない剣舞。しかし、サンはその師の剣を一瞬も残らず目に焼き付けた。


「さて、これで終わりだが、ちゃんとできそうか」

「うん、ばっちりだよ」


 サンはファルの言葉に力強く頷く。これで自分も双翼を使えるだろう。そんなことを考えた矢先、サンは、あることに気づいた。


「あれ? でも待ってくれよファル先生。俺、刀なんてもう一本もってないぜ? 万年炎を宿しても折れない刀なんて、この刀以外あるとも思えないし」

「ああ、まあ今はそうだな。だが、お前たちが次に向かう先は、ラキュラ達の本拠地であるシーラになる」

「シーラがラキュラの本拠地なのか!?」


そういえば確かに、飛行船でシェドがそのようなことを話していた。彼の予想はまさに的中したというわけだ。


「そうだな。奴らはハビボルに接近する前にすでに秘密裏にシーラを陥落させていた。そしてな、サン。シーラには、アサヒが使用していた2本目の刀『ヘスティア』がある」

「ヘスティア?」

「ああ」


とはいえその『ヘスティア』は、神々がアサヒの死亡時に取り上げたものを、ラキュラが五神獣に就任した際、譲渡されたものである。とはいえ、この襲撃時そのヘスティアを持ってこなかったところを見るに、彼はまだ、あの剣に選ばれることができてはいないのだろう。


 しかし、そんなことを五神獣の存在もよく知らないサンに言うことはできない。ファルはいくつか情報を伏せながらサンに伝える。


「だからな、サン。お前はシーラでその刀を手に入れてこい。そしてラキュラを倒し、スアロやクラウ、そしてさらわれたスカイルのみんなを助けるんだ。お前なら、きっとできる」


 そのファルの瞳には決して打算や濁りは存在しなかった。彼は本当に、サンの勝利を心から信じてくれているのだ。サンはその瞳を真っ直ぐに見つめ返す。


「わかったよ、ファル先生。必ず俺はラキュラを倒してくる。必ずだ」

「ああ、信じてるよ。でも俺も、ケガが完治したらすぐに、シーラに向かう。だから危なかったら逃げてもいいからな」

「ありがとう。でも、大丈夫。俺は――ファル先生の弟子だから」


こうしてサンのこのスカイルでの冒険は幕を閉じた。そして、サンはファルの新たなる教えをその身に秘めながら、魚人の国、シーラへと足をすすめていくのだった。





 ここは、暗き闇に包まれたシーラの街。その地に高々と聳え立つ城ギャスリガの王座にラキュラは堂々と鎮座する。そんな彼に、1人の男が話しかけてきた。


「随分な痛手を被りましたね。まさか、五血将のうち4人がやられたとは。しかも、ナヅマが帰ってこないということは、おそらくターゲットAすら倒せていない」


それはヒノクだった。飛行船からこちらの城へ攫ってきた鳥人達をこの城へ収監し終わった彼は、疲れ切った顔で、ラキュラに続ける。


「おまけに俺たち2人のダメージも甚大だ。こりゃあ立て直すには相当な頑張りが必要ですよ」


しかしラキュラはボロボロの体を抱えながらも、冷たい目を向けて、ヒノクの言葉に応える。


「あいつらのことは構わんだろ。五血将と同じだけの力を持った一級改造獣人は山ほどいるし、あの最強の改造獣人も健在だ。それに俺の傷とて一週間もすれば回復するさ。そこから行動を起こせばいい。俺たちが少しでも早く野望を叶えることが散っていった奴らのためにもなる」

「そうですね。まあ起きたことは仕方ないから、気楽に頑張りますか。別に元の2人に戻っただけですしね」


「ぎぎ、ががが、ラキュラ、様、ぎが」


 するとと二人が会話している部屋に、一人の改造獣人が入ってきた。イルカの頭に、タコの獣人の体。ここにきてからヒノクがシーラの適当な死体を集めて掛け合わせた家政婦用の獣人だ。


「どうした? 12号?」


 12号と呼ばれた獣人は瞳をぎょろぎょろとさせながら、彼に応じる。


「ギャぎ、ぐ、お客様が、2人ほど」


 ――客、か。


 ラキュラは12号の言葉を頭の中で繰り返す。わざわざこのギャスリガに訪ねてくるような客など自ずと限られてくる。


「わかった。通せ」

「言われなくても、もうすでに来ているよ」


 すると、コツコツと2つの足音がこちらに近づいてくるのがわかった。両者とも真っ黒なローブのようなものを羽織り、不気味な雰囲気を漂わせていた。


 ラキュラの前に現れたのは、犬の耳をその頭に付けた獣人、ケル。そしてもう一人、背中に、巨大な鎌を携えて、ラキュラを前にし、少しも物怖じすることなく、不適な笑みを浮かべる白髪の男。彼はラキュラに対して続ける。


「その様子だと随分と苦戦したようだね。獣界の鳥人相手にその様で、本当に野望なんて果たせるのかい?」


 神経を逆撫でするような不快な声。本来目の前の男が並みの獣人なら、その首を跳ね飛ばしているところだ。だが、流石にラキュラにも、彼に対してそのようなことをできる力はない。ラキュラは、呆れたような表情を浮かべて、男に尋ねた。


「わざわざ『神界』から俺を笑いにきたわけじゃないだろ。ケルも連れて、ここに何しにきたんだ? ――ハデス」


そして、ハデスと呼ばれた男は、その顔に歪な笑みを浮かべるのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――To be continued


4部終了!!

3部から続いてみてくださってるんだなという方も増えて本当にうれしい限りです。5部もすぐに始めることになると思うのでこれからもよろしくお願いします!


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