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うちの自慢の弟弟子くらい倒してみろよ

 サンも返事を書き終わり、シェドとサンは、ユニやラビと共に外に出た。ちなみにネクは自分達が修行しているうちに、先ほどの熊で晩御飯の準備をしてくれている。


「さて、力の説明と言われても、何から説明したもんかねぇ」


 そう言ってラビは、タバコのように人差し指でセロリを挟み、カリカリと齧っていた。サンはその様子に思わず、ひそひそ声でシェドに耳打ちする。


「なあシェド。あのラビって人、いつまで野菜齧ってるんだ?」

「あーあれか。まあ最初は気になるよな。どうも昔ユニに聞いた話だと、かつてタバコに憧れがあったけど、自分の健康志向の精神が喫煙を拒みあのスタイルになったらしい」

「まじかよ。絶対何も咥えない方がカッコいいじゃないか」

「お前それ本人にはいうなよ。殺されるぞ」

「お前ら、何ひそひそ話してんだ? 人の話聞いてんのか?」


荒々しい言葉で、サンとシェドのことを責め立てるラビ。そんな彼の声に反応し、サンは慌てて姿勢を正す。そんなサンに対して、冷たい目を向けながら、ラビは彼に問いかける。


「後なぁ。お前、サンって言ったよな? シェドはどうせ理解できてるだろうからお前に聞くが、ファルさんから、どれだけ『獣力』の、概念について説明を受けたんだ?」

「ジュウリョク? 物の重さのこと?」


 ラビはサンの言葉を聞いて、深くため息をついた。


「やっぱり聞いてないのか。まあ、だいぶ子供のころから陽天流を教えたらしいから、理論の話は省いたんだろう。とすると、体感してもらった方が早いか。おいユニ。ちょっとお前にやってもらうことがある」

「はい? なんですか?」


急に名前を呼ばれて、どこか抜けた返事をするユニ。そんな彼に対して、ラビはセロリを齧りながら言葉を続ける。


「このサンと手合わせしろ。そうすりゃあ、その『獣力』ってやつもわかるようになるだろ」

「なんでですか? ラビさん、もう僕は蹄鉄拳を人に使うのはやめるっていってるじゃないですか」

「別にいいだろこれくらいなら。それにサンが強くなるために必要なことなんだから、少しぐらいは協力してやれよ」

「わかりましたよ」

「ええぇ」


サンは、ラビの言葉を聞いて、少しだけ嫌そうな顔を浮かべる。というのも、サンはスアロにボコボコにされていた経験から、あんまり手合わせという形で刀を振るのは好きではないからだ。しかし、そんなサンの小さな不満の声を、ラビの長い耳は、聞き漏らすことはなかった。


「なんだ? サン? 文句あんのか? 人のセロリにケチつけるぐらいなんだから、うちの自慢の弟弟子くらい倒してみろよ」

「いいえ、ありません。頑張ります」


――さっきの会話、聞こえてたのか。悪いことしたな。


 陰口みたいになってしまった罪悪感を覚えながらも、ラビの提案を受け入れるサン。しかし、何か理由でもない限りあまり人を傷つけたくない彼は、ラビに対して、こう告げる。


「でもいいのかな? 俺だって陽天流を使いこなせないわけじゃない。お互いに全力でやったら、ユニに怪我させちゃいますよ」

「ああ、言い忘れてたな。お互いに流派の攻撃は無しにしろよ。それじゃあ、この手合わせの意味がない」

「へ?」


サンは思わず、彼の言葉に間抜けな返事をする。流派の技、すなわち照型は使えないということか、でもそれならなおさら。


「でもそれならなおさら、怪我させちゃうじゃないですか。だって俺は、武器があって向こうはないんでしょう。それは少しユニに悪いですよ」

「はっ」


 するとラビは、サンの言葉を鼻で笑いあかし、セロリを勢いよく齧った。そしてそれを咀嚼しながら。サンに対してこう告げる。


「バカ言うなよ。照型以外の攻撃なんかじゃ、ユニの体には傷ひとつつけられねぇよ」



 自身の刀を顕現させて、ユニに向かって真っ直ぐに構えるサン。拳を硬く握りしめて、じっとサンのことを見つめるユニ。両者の空気は切迫していた。


『ユニの体には傷ひとつつけられない』


 サンは頭の中でラビの言葉を繰り返す。実を言うとサンは先ほどのこの言葉に少しの憤りを覚えていた。なぜなら彼は、ファルの元で同年代の誰にも負けない期間剣術の鍛錬を積んできたつもりだ。だからこそ、刀を扱う上での基本的な戦い方も心得ている。


 確かにユニは強いと思う。だが、そうだとしても、この自分が彼に傷ひとつつけられないなんて、師と自分への冒涜ではないか。


 サンは刀をキツく握りしめる。そしてユニに向かって言葉を放つ。


「じゃあ、行くよ、ユニ」

「はい! 来てください、サン!」


そしてサンは勢いよく地面を蹴った。ラビには炎の使用自体は禁止されていない。サンは刀に炎を灯し、ユニへと切り掛かる。


 ――カァァァン。


 しかしそれは、ユニの腕によって簡単に受け止められてしまった。またか。サンは心の中で呟く。シェドの時でもそうだったが、どうして自分の刀はこうも簡単に素手で受け止められてしまうのか。


「中々はやいですね! では次はこちらから行きます!」


サンの刀をそのまま弾き一気に距離を詰めるユニ。ジャカルよりもずっと早いそのスピードにサンは驚きながらも、ガードのために刀を構える。


 ――ガァァァァン!


「――――!?」


しかしユニはそのガードもろとも拳を当ててサンのことを吹き飛ばした。恐るべきそのパワーにサンは自身の目を白黒させる。


「やっぱり全然知らないんですね。『獣力』のコントロール方法」


ユニはどこか残念そうな顔をして、サンにそう言葉を発した。悪かったよ、期待に応えられなかったみたいで。サンはそう心の中で呟きながらも、頭の中で考える。


 どうもユニやラビは『獣力』というものを使いこなせるらしい。そしてそれは、シェドとユニの技を見ていると、体を固める、パワーを増加させるなどの効果があるようである。


 もちろんサンはラビに対して戦いの中で獣力の正体を突き止めるようには言われていない。しかしサンは、スカイルでの落ちこぼれ経験から、無意識に自分に何が足りないかを発見しようとする癖があった。


「どうしますか? ラビさん。今のやりとりだけでも十分獣力の必要性は伝わったと思いますけど――」

「ごめん。ユニ。もう少しお願いできないか」


 サンを気遣い、手合わせを止めようとしているユニの言葉を遮るサン。そして彼はそのまま、言葉を続ける。


「なんとなく掴めるかもしれない。その、『獣力』ってやつ」


だんだんハンターハンター味が出てきた

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