砂中の街
流砂の中へ突入したヘルウルフは、砂の中を意外にも器用に駆け抜けて行った。
俺はずっと目を瞑っていたからよく分からないが、暫くすると砂の壁の外側に出たようだ。
そこでようやく目を開いた俺は、映り込んできたものに困惑した。
「どうなってんだよ……?」
そこには、崩れて廃墟になったような建物がずらっと並んでいた。
明らかにここに誰かが生活していた痕跡がある。
こんな地中に、いや、そもそもヘルヘイムにこんな建造物があるなんて。
「何よこれ?誰がこんな物……」
「ミミズさん!きっとミミズさんの仕業なの!」
「あの、もしかして、昔ここで悪魔達が?」
堕天使達が口々に言う疑問に、ルガルはうわ言のように答える。
「ここも昔は街だったんじゃがな。天使共にボロボロに壊されて、地上からも引きずり下ろされてしまったわ」
辺りに散らばる建造物は、今の人間が作るそれと何ら大差ない。
遠い目をしているルガルを見て、直接その戦いに関わった訳ではないのだろうが、ルルフェル達は気まずそうに俯いている。
「ほれ、話は後じゃ!さっさとついてこんか!」
気を取り直すようにルガルが声をかける。
先へ進むルガルに俺達はついていくが、その歩みは一瞬でビタッと止まる。
「おい、急にどうしたんだよ?」
今度は何をするんだと、俺は思わず身構えたが……。
「そうじゃ。昨日来た時、入り口の近くまで運んでたんじゃ」
そう言うとルガルは辺りをキョロキョロ見回し、最後に俺の足元を指差す。
「そこじゃ」
「は?」
一斉に全員が俺の足元を見る。
そこに転がっていた綺麗な少女の、真っ白い美しい像。
俺はそれを見事に踏んづけていたのだ。
「ちょ、あんた、ちゃんと足元見て歩きなさいよ!?」
「うおい!?こんなとこに放っておくなよ!!」
俺は大慌てで像から足を退ける。
周りの砂と全く同じ色で気が付かなかった。
そんなたじろぐ俺に、ルガルがゆっくりと近づいてくる。
わざとではないと言え、仲間を足蹴にしていたので、怒られるかと身構えたが……。
「ほれ、こいつに沢山ぶっかけろ。わしにやったみたいに」
ルガルは像を指差し、あっけらかんとした表情でそう言った。
「みょ、妙な言い方すんな!」
そして、誤解を招きそうな言い方が鼻についた。
「……仲間の像ならせめて立てとけよ」
俺は小言を言いながら、改めててその悪魔像と向き合う。
ルガルのようなケモ耳もない、人間にしか見えない少女の姿をしている。
きっと、像になってからずっと放置されていたのだろう。
丁重に祀られてあったルガルとは違い、酷く砂埃を被っている。
「カイネさん、何が起きるか分からないですし、少しずつかけてみたらどうです?」
「え?ああ、そうだな」
俺は珍しく慎重なルルフェルの意見に同意し、少しずつ聖水をかけていった。
「ほら、もっと優しく出して……。そう、いいわよ、上手ね」
そーっと聖水を出す俺の耳元で、ユールが不意にからかうように囁く。
「ッ!?だから妙な言い方すんなって!」
びっくりして思わずユールを振り払ったが、大声を出した勢いで、俺の聖水がドバドバと大量に漏れ出してしまった。
聖水に思い切り浸されたその悪魔像は、さっきまで真っ白だったが、すっかり色を取り戻している。
そして、暫くするとゆっくりと立ち上がり、戸惑う俺達をじっと見つめていた。




