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聖別の儀

聖別(せいべつ)の儀」



 それは、人が天使よりスキルを授かる神聖な儀式。

 この世界では、16歳になる年にこの儀を行い、その内容でその者の一生が左右される。そして俺は今、この聖別の儀を執り行うため、同期数十名と共に教会に集められている。


「では、最後に……カイネ・フォン・アイリーンベルク」


 大司教様が仰々しく俺の名を呼ぶ。


「はい!」


 授かるスキルの内容は、自身の素質や才能に応じて天使達が決める。

 本物の天使を目にできる一大イベントとあって、教会には国の要人から、よく見知った近所の人達まで大勢の国民が足を運んでいた。

 名家の出であり、剣術に座学に全てにおいて、際立った才はないが血の滲むような努力をした俺は、国中の期待を受けて自信満々に前へ出た。

 きっと俺は今日、ここで素晴らしいスキルを手に入れ、割れんばかりの拍手喝采をその身に浴びるのだろう。

 これほど誇らしい瞬間があるだろうか。


「……あ」


 意気揚々と前へ出た俺だが、初めて見る天使の美しさに……思わず間抜けな声を出してしまった。

 そして、そんな俺ににっこりと微笑んで、天使は太陽のような眼差しで見つめている。


 ああ、こんなことされたら……まずい。

 好きになってしまいそうだ……。

 俺の純情が揺れ、不意に天使の両手が光を放ち、その淡い光が俺の全身を暖かく包み込む。

 ほんの十数秒の出来事、これでギフトの授与は完了だ。

 そして、儀式を受けた者は、ここで授かったスキルを観衆に見せつけるように披露し場を盛り上げるのだ。

 さあ、今年の大本命である俺の力を見せてやろうか。

 そして、皆の熱い期待の眼差しの中、俺が放ったのは……。



「……は?」



 俺の手から出てきたのは、黒い泥のようなモヤ。いかにも体に悪そうな排気ガスのような真っ黒い気体。

 予想外のモノが飛び出したことに、その場にいた全員がざわつく。

 そんな戸惑う俺を導くかのような、優しいような悪戯っぽいような声が聞こえた。


「フフフ、その力の使い方を教えてあげましょうか?さあ、その手で私の体に触れてみてください」


 声の主は、俺にスキルを授けてくれた天使様。


「ほら、遠慮しなくてもいいんですよ……?」


 天使様に触れるなど恐れ多いことだが、こんな綺麗な女性にそう誘われては抗えない。

 俺は言われるがまま、うるさい鼓動を感じながら、ゆっくりと彼女の方へと手を伸ばしていく。

 黒い何かを纏ったまま。


 そして……。



─── パリーンッ!!



 俺の禍々しい能力が天使の体に触れた瞬間、甲高い破裂音が教会中に鳴り響いた。

 俺は凍り付いた、天使以外の全員が凍り付いた。

 何と彼女の頭上にあった天使の象徴、光り輝く天使の輪が爆発四散したのだ。

 永遠のように感じられた数秒の静寂の後、教会内は当然とんでもない大騒ぎになった。


「こ、こいつ……!天使様の天輪を破壊しおったぞぉ!!!」

「捕らえろ!捕らえろぉ!!天使様に手をあげるなど、反逆罪だ!!」

「この大罪人め!!大人しく往生しろ!!」


 何が何だが分からないまま、俺は衛兵達に取り押さえられる。


「ま、待ってくれ!!俺は天使様の言った通りに……!!」


 最高にの一日になるはずが、全く逆の状況になってしまった。

 俺は衛兵達の隙間から、必死に藻掻きながら声を絞り出したが……。


「ふざけるな!人間に天使様のお声が聞き取れるはずないだろ!」


 一蹴されてねじ伏せられてしまう。

 そうだ。

 天使の声は通常人間には聞こえない、向こうが聞こえるようにしない限り。

 つまり、あの天使は俺にだけ聞こえるように話しかけてきたのだ。

 しかも、当の天使はいつの間にかいなくなっている。

 ふざけるな、もう弁解の余地がない。


「あ、悪魔よ!悪魔の子よぉ!!もう命で償うしかないわぁ!!」

「何てことをしたんだ……!!お前のせいで国全体が呪われちまう!!」

「この……アイリーンベルク家の恥さらしめッ!!未来永劫、輪廻の輪から外れてしまえぃ!!!」


 実父に友人に近所のおばさん。

 親しかった人もそうでない人も、全ての人が最上級の罵倒を浴びせてくる。


「カイネくん……」


 激しい罵声の中から、ふと弱々しい声が聞こえた。

 俺は咄嗟に顔を上げた。

 

「ミ、ミーナ……!」



 彼女は俺と同じく名家の出であり、家柄の関係で幼い頃からの付き合いだ。

 個人的には許嫁と言っても過言ではないくらいの関係だと思っている。 

 この状況をどうにかできる訳ではないが、俺は縋るように彼女の名を呼ぶ。

 だが、返ってきたのは何の救いもない一言だった。



「最っ低」



 ……たった一言だけだったが、今浴びせられているどんな罵詈雑言よりも心に響いた。

 

「く、くそぉ!!お前ぇ!!俺が誕生日にプレゼントした指輪返せ!!今その指につけてるやつ……あ、捨てるなぁ!!もっと大切にしろぉ!!」


 憐れみのような軽蔑のような、非常に言葉にし難い冷たい表情だった。

 この国では、常に神を至上として物事を判断する。神の使いである天使に危害を加えるなど言語道断なのだが、それにしても酷い変わり様だ、もう少しで涙が出そうだ。

 そして、いつになく険しい顔の大司教様が告げる。


「カイネ・フォン・アイリーンベルク……。汝を第一級反逆罪として、ヘルヘイム送りとするッ!!」



 数秒の思考の後、混乱しきった俺の頭は、ようやく何を宣告されたのかを理解した。



「ヘ……ヘルヘイム!?い、嫌だ!!誤解だ!!誰か助けてくれえ!!!」



 こうして俺は、理不尽にも命を拒絶する地、地上の冥府と呼ばれる隔離域「ヘルヘイム」に島流しされることになってしまったのだ。

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