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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

普通の国のアリス

作者: mimimi










・プロローグ




私はアリス


『普通』の国で生まれた

『普通』の女の子だった。

でもあるときを境に恐るべき『普通』の世界から零れ落ちてしまった。


私はあの頃の様に

『普通』で居続ければよかったのだろうか












・本編 アリスの生い立ち 独白


ある普通の年、普通の日、普通の天気、私は普通に生まれた。


病院ノ分娩室カラ桁魂シイ赤子ノ絶叫ト、悦ビニ弾ンダ看護士ノ声ガ響イタ。

「奥様、ヲ悦ビ遊バセ、体重モ容姿モ如何ニモ普通ナ赤子ニ御座イマス」

「マアゝ其レハ又悦バシキ事。彼方、此ノ仔ニ相応シヰ

極メテ普通ナ名前ヲ思考エテ下サル?」

「勿論既ニ選択ンデ在ルサ。此ノ仔ノ名ハ『アリス』。

此ノ国デ壱番普通ナ名前サ」


それから数年。私は普通の街の普通の家庭で、両親から普通な愛情を受けて

普通に育った。


「貴方。又アリスガ夜啼キシタワ。昨機ノ夜啼キカラ思考エタラ

凄ク普通ナ時間ノ間隔ネ」

「ソウダ。尿ノ量モ、泣声ノ大キサモ極メテ普通ダ。此ノ仔ハ素晴ラシク普通ダ」

「ソウネ。前ノ仔ハ普通ジャ無カッタモノネ」

「ソウ。普通ジャ無イ仔ハ要ラナインダ」

「ソウネ。普通ジャ無イ仔ハ要ラナイ

若シ普通ジャ無カッタラ、此ノ仔モ『処理』シナクチャ……」


「……マ……マ……」


「見テ!貴方!アリスガ喋ッタハ!」

「本当ダネ君!其レモ極メテ普通ナ言葉ジャナイカ」

「デモ貴方、喋リ始メノ年ハ普通カシラ……?」

「大丈夫。此ノ位ノ年ガ普通ダ。国ノ発表デ謂ッテイタ」

「デモ貴方、喋リ始メル時間帯は普通カシラ……?」

「大丈夫。此ノ位ノ時間ガ普通ダ。国ノ発表デ謂ッテイタ」

「ソウ!善カッタワ!弐人目迄『処理』スルノハ『普通』ジャ無イモノネ」

「ソウダネ。『普通』デ無イ事ハ避ケ無ケレバ為ラナイ」


「……パ……パ……」


……



それからまた数年。私は普通に成長し、普通の幼稚園に入り、

普通に家の外で初めて同い年の子供たちと出会った。

幼稚園で初めてした男の子との会話は、下らないけどよく覚えてる。


「御前、名前ハ何テ謂ウンダ?」

「私ハ『アリス』」

「御前、何人目ダ?」

「私ハ、弐人目」

「御前ハ何ダ?」

「私ハ。『普通』」


それから私はまた普通に成長して国立女子中等教育学校に入学し、

成長期を迎え国家の定める規定身長にまで順調に成長した。

それまで友達だった幼稚園で最初に会話をしたあの男の子は、

規定身長に到達できず『処理』され、私は彼とは友達ではなくなった。


しばらくして小さな彼の『ニ人目』と道ですれ違った。

彼は『一人目』だったから私が『二人目』なのを馬鹿にして、

いつも私をいじめていた。



ザマアミロ





14歳の時、中等学校でリデルという女の子と仲良くなった。

皆の顔も体型も声も性格も『普通』で似ている女子初等学校の中でも、

彼女と私は特にそっくりで、まるで双子か鏡写しのようだった。


ある普通の日の、普通の放課後。私はリデルに呼び出されて、

夕方の決まった時間に人通りの少なくなる中庭で話をした。


「アリス、『携帯』ッテ所持ッテル?」

「イイエ。ダッテ『携帯』ハ限ラレタ『大人』ダケガ所持テルモノデショ?

何デソンナ事聞クノ?」

「……私……『携帯』ヲ手ニ入レラレルカモシレナイノ」

「駄目ヨリデル!中等学校デ携帯ヲ所持ツノハ『普通』ジャナイハ!

国ニ『処理』サレテシマウ!」

「……アノネ……アリス……」

「……何?」


彼女ハスゥット息ヲ呑ンデカラ、壱息吐イテ話シ出シタ。


「『普通』ッテソンナニ大事?『普通』ッテ何?

此ノ学校モ、先生モ、外ヲ歩ク大人ノ人達モ、皆同ジ顔、同ジ背丈、

体格、皆『普通』。デモネ、コンナノ『普通』ジャナイワ!

私自分ガ異常シクナッタノカト思考ッテタケドソウジャナイノ!

『携帯』ノネットノ中デハ、私ト同ジ様ニ、此ノ世界ガ『普通』ジャ無イッテ

感ジテル人達ガ沢山居ルノ!私見タノ……私ノ『壱人目』ガ『処理』サレル

直前ニ『携帯』ヲ見テタ事。『壱人目』ガ其ノ『普通』ジャ無イ事ニ

気付キ始メタ人達ノ『コミュニティニ』属シテタ事……アリス……

『処理』サレテシマウノハ怖イ……デモ……私本当ノ事ガ知リタイノ!

御願イアリス……私ト一緒ニ私ノ『壱人目』ガ居タ『コミュニティ』ニ

参加シテ欲シイノ……私ト一緒ニ『本当ノ事』ヲ知ッテ欲シイノ!

御願イ!」


強イ風ガ弐人ノ間ヲ吹キ抜ケ、中庭デ独リダケ植エラレタ大キナ木ノ葉ガ、

ザワゝト鳴ッタ。


「リデル……本気ナノ……?」

「……私ハ本気ヨ……アリス……」

「今ナラ冗談デ済ムノヨ……」

「冗談ジャナイハ!私ハモウ『普通』ジャナイノ」

「……」


「理解ッタワリデル。貴方ガ其処迄思考エテ、尚且ツ『処理』サレル危険ヲ冒シテ

迄私ヲ信ジテ打チ明ケテクレタンデスモノ。私ガ貴方ヲ信ジ無イノハ友達トシテ

『普通』ジャナイワ!」

「本当?!有難ウ!」


彼女ハ頂点ニ達シテイタ緊張ノ糸ガ切レテシマッタヨウデ、

其ノ場ニ座リコンデシマッタ。

アリスハ驚愕イテ駆ケ寄リ、彼女ヲ抱キ起コシタ。


「鳥渡!大丈夫?リデル?」

「……フフ……大丈夫ヨアリス……デモ奇妙ネ。貴方は友達トシテ『普通』

デアル選択ヲシタノニ、之カラハ『普通』ジャ無イ人間ニナルノネ」

「フフフ……ソウネ。デモ貴方ノ友達デアルコトハ変ワラナイワ」

「アリス……貴方ガ何番目デモ、貴方ハ何時モ、何時迄モ、私ノ『壱番目』ヨ……」

「リデル……私ニトッテモ貴方ハ私ノ『壱番目』ダワ…」


弐人ハ目ヲ閉ジテ唇ヲ重ネタ。




その後私とリデルはリデルが、リデルの『一人目』の友達だった人から手に入れてきた

二つの携帯を共有し、『コミュニティー』や『メール』、『電話』で密に連絡を取り続けた。

『コミュニティー』では沢山の『普通』じゃない人たちと会った。


家や学校では『普通』だったけど、

『コミュニティー』の仲間たちやリデルと二人きりのときは

私はもう『普通』ではなくなっていた。


その頃には私とリデルは『普通』では無い関係になっていた。


リデルの告白があって、唇を重ねた日以来、私とリデルは『処理』されない程度に

『普通』な時間に二人きりで会って頻繁に肌を重ねていた。

鏡合せのような同じ顔、同じ体で、まるで二つに分かれた肉体を一つに戻そうとするように

互いの体を馴染ませ続けた。互いの体はこんなに近いのに、

魂の距離が悲しいほど離れていることに胸が引き裂かれそうだった。


中等学校卒業の日

私とリデルはある計画を立てていた。

『コミュニティー』の仲間の取り計らいで、遂にこの『普通の国』から

脱出する道が見つかったのだ。


『脱出』の首謀者は『コミュニティー』のリーダーの『しろうさぎ。』

彼に出会うまで私もリデルも『外国』の存在すら知らなかった。

この『普通の国』でない『不思議の国』が海の向こうにある。

私とリデルはその事実だけで胸が弾んだ。

二人でこの『普通の国』から脱出できるのだ。

決行は『卒業の日の朝』

集合場所は『××港』……


卒業式の前日、私とリデルはあくまで『普通』に中等学校最後の、

またこの『普通の国』最後の一日を過ごした。

その後何時もの様に二人きりで『普通』でない逢瀬を楽しんだ。


「アリス……愈ゝ明日ネ……」

「ソウネリデル……私達是デ遂ニ自由ニ成レルノネ」

「アリス……好キヨ……」

「リデル……此ノ国ヲ出タラ弐人デ暮ラシマショウ」

「其レハ素晴ラシイ思考エダワ!折角ナラウント『普通』デ無イ家ガ善イワ!

『赤ト白の縞ゝノ家』ナンカドウ?」

「フフ……ソウネ、思考エトクワ」


それからリデルは『しろうさぎ。』達と事前の打ち合わせに、

私はいつも通り『普通』の時間に自宅に帰り、

自分の部屋で『普通』の卒業旅行のためと偽って親に報告した

明日の脱出のための荷造りを済ませ床に就いた。

でもその日は『普通』ではなかった。




「アリス……アリス……」


ドアノ向コウカラ聞コエル父親ノ声デアリスハ目ヲ醒マシタ。

時計に目ヲヤルト時計ハ午前参時過ギ頃ヲ指シテイタ。

コンナ時間ハ『普通』デハナイ。


「アリス……開ケテクレアリス……」

「ドウシタノオ父サン……」

「少シ話ガアル……ドアノ鍵ヲ開ケテクレ……」

アリスベットカラ出テ、電気ヲ付ケドアノ鍵を開ケタ。

ソコニハ目ノ虚ロナ父親ガ立ッテイテ、少シ離レタ処デ母親ガ見テイタ。

「何……?コンナ時間ニ……『普通』ジャナイヨ……」

「アリス……」

「何……?」


突然父親ハアリスニ襲イカカリ、彼女ヲベッドニ押シ倒シタ。


「何スルノオ父サン?!放シテ!痛イ!」

「アリス……御前……『普通』デ無クナッテ……シマウ!

……『処理』サレテ……シマウ!」

「何デ?!私ハ『普通』ヨ!」

「アリス……済マナイ……私達ハ……忘レテ……忘レテイタンダ」

「何ヲ?!トニカク放シテ!嫌!オ母サン助ケテ」

「大丈夫ダ……アリス……僕ガ……オ父サンガ……御前ヲ……

『普通』ニシテヤル……『処理』カラ……救ッテヤル」

「何言ッテルカワカンナイヨ!」


ソウ謂ッテ父親ノ下半身アリスガ蹴ルト、肢ニ固イモノニ触ッタ。

青褪メタアリスノ服ニ、父親ガ手ヲ掛ケタ。


「アリス……『普通』ノ子ガ『処女』デ居ラレルノハ……今日迄ナンダ……」




「いやぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!!」




咄嗟に私はベッドの傍らにあった置物を父さんの頭に打ち付けた。

父さんは二度三度ビクビクと動いて動かなくなった。

寝巻にまだ温かい血が染みてきた。


『普通』の人は人を殺さない。


私は、この『普通の国』で『普通』で無くなってしまった。

私はさっきまで父親だったものを蹴り飛ばして、半狂乱で慟哭

する母親を振り切って、血まみれの寝巻のまま家から飛び出した。


此ノ儘デハ明日ガ来ル前ニ『処理』サレテ終ウ……


私は泣きながら裸足で約束の港に向かった。


「リデル……リデル……『コミュニティ』ノ皆……『しろうさぎ。』……

誰デモ善イカラ……」



「助ケて……」



夢中で走って走って走って

港に着くと、そこには小さな光が一つあった。


光の下でリデルや私と同い年くらいの沢山の女の子たちが沢山の、

また私たちと同い年くらいの男の子に凌辱されていて、

その様子を軍服を着て武器を持ち、ヘルメットを被った

『大人』たちが小さなハンディカメラで記録していた。


あの少年や少女たちも『コミュニティ』にいた子たちなのだろう。


今日は『普通』の子どもが『処女、童貞』でいていい最後の日。


彼女や彼らはまんまと『大人』の嘘に騙されて、結局今日『普通』になってしまった。

おそらく父親が私を襲ったのはこのことを知ってたからなんだろう。



そう、『しろうさぎ。』も『不思議の国』もはじめから無かったのだ。

あるのはようやく『本当ノ事』に気付いたこの

『普通の国』にいる『未だ普通でない』私だけ。


こちらに気付いた一人の『大人』がヘルメットを外した。

光の下でニヤリと笑ったその顔は

さっき私が殺した父親や

あのとき『処理』された男の子と同じ

『普通』の男の人の顔だった。


『しろうさぎ。』も『不思議の国』もはじめから無かったのだ。

あるのは間抜けな未だ処女の

『普通じゃない』私と『普通の国』だけ。


光から少し離れたところで立ち尽くして私は呟いた。


「リデル、良かったね『本当ノ事』が分ったね。」

リデルは光の下で犯されながら微笑っていた。


「リデル、ごめんね、『赤ト白の縞ゝノ家』は建てられないみたい。」

光の下でアリスやリデルと同じ顔の少女たちが微笑っていた。


もうアリスには、光の下で揺らめく沢山の同じ『普通』の顔の少女の中から

リデルを見つけ出すことは出来なくなっていた。


「アリス!アリス!アリス!アリス!」


同じ顔のどれか一つがこちらに気付いたのか叫び始めた。

きっとあれがリデルなんだろう。


「アリス!アリス!アリス!私貴方ト壱ツニ成リタイ!

アリス!アリス!アリス!御願此処ニ来テ!

アリス!アリス!アリス!私貴方ニ成リタイ!

アリス!アリス!アリス!ワタシハアリス!アリス!全部アゲル!

ダカラ私ヲ!ワタシヲ消シテ!殺シテ!アリスゥゥウウウウウ!」


リデル、貴方は私にはなれない。

私もリデルになれないよ。


もう二人を結びつけていた『不思議の国』も『赤ト白の縞ゝノ家』

も無いんだ。

あるのはこの『普通の国』だけ

あなたはもう『普通』の人

私と一緒にはなれないのよ


「私はアリス……私は…ワタシハ…フ……フフ……









あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」







その後アリスは自ら死を選んだわ

辱めを受け、『普通』になり果てる前にね


え?じゃあ私は誰かって?

手前はアリスでこうして自分の目の前で生きているし、

自分の半生を今ここで独白してるじゃないかって?



















「私はもちろんアリスよ……貴方にとって『一人目』のね……フフフ」




















・エピローグ

最初はどっかで読んだ『普通』って何?って悩む思春期かそのちょっと前の女の子

が主人公な漫画を知って、じゃあその着眼点をお借りして『不思議の国アリス』

とは逆に『普通』の国に迷い込むアリスの物語を書いて『普通』が如何に奇妙なもの

かっていうのを炙り出せたら面白そうだな〜なんて考えて、大体こんな構成でこんな

結末でやろうと思って書き始めたのですがどんどん鬱というかホラーというか中二病

というか誰得というかな方向に流れて行ってしまいました。


その前に椎名林檎の歌詞分析とかしていたせいです多分。


つうか自分で読み返してもこの文章怖いよ。

この文章書いたやつと友達になりたくねえよ。

犯罪者一歩手前だな!って感じですがなんか展開的には一応ちゃんと伏線は拾えた

気もするのでまあ良いかななんて思ったり。


ちなみにこの小説のテーマソングは書きながらひたすら聞いていた

椎名林檎のアイデンティティです。この小説がひたすら鬱、中二病、ホラーなのは

この曲を使ったエヴァMADを別窓で開いて見ながら書いてたせいです。

きっとそうです。だって僕はリア充だし(半笑)


とにかく僕たちの住むこの世界が、この奇妙なディストピアである『普通の国』

にならないことを願うばかりです。この、誰もが『一人目』な世界が維持される

ことを願って……


2009年7月18日 午後11:00ごろ 横浜より 

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― 新着の感想 ―
[一言] 普通じゃないと処理されてしまう世界・・・・・・ 想像しただけでゾッとしました。 もし、この世界がそんな世界だったら僕は命を捨ててしまうと思います。
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