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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
第三章~魔の門の封印者~
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第四十六話  砦の支配者


 礼拝堂に入るとユーキたちは素早く構えて周囲を警戒する。もし、礼拝堂の中に転移門やベーゼにとって重要な物があった場合、警備のベーゼが待ち伏せしている可能性があったからだ。だが意外にも礼拝堂の中にベーゼの姿は無く、半壊した机や椅子、瓦礫などが散乱しているだけだった。

 ユーキたちは視線を動かして何処かにベーゼが隠れていないか調べるが、やはりベーゼの気配は無く、外と比べると安全だと感じた三人は構えている武器を下ろす。しかし、ベーゼが突然礼拝堂に入って来て奇襲を仕掛けてくる可能性もあるため、油断はしなかった。


「中はボロボロですね。もう少し綺麗にすればいいのに」

「ベーゼが礼拝堂に来て祈りを捧げるなんてことはしないだろうからな。砦が放棄された時のままにしてあるのだろう」

「ハハハ、成る程……」


 別世界の侵略者であるベーゼが侵略する世界で祈りを捧げるなどあり得ないというカムネスの言葉にユーキは納得して苦笑いを浮かべる。何よりもベーゼに信仰心や祈りを捧げようと思えるくらいの知能があるとも思えなかった。

 お喋りを済ませるとユーキたちは礼拝堂の中を調べるためにゆっくりと奥へ進む。カムネスが前に出て移動し、その後ろをユーキとアイカがついて行く。周囲には柱などがあり、その陰からベーゼが飛び出してくるのではと予想しながら進んだ。

 礼拝堂の真ん中あたりにやって来るとユーキたちは足を止めて礼拝堂の奥を見つめる。一番奥には聖卓があり、その前には濃紫色の穴があった。

 穴からは微量だが瘴気が湧き出ており、禍々しい雰囲気を出している。穴を見てユーキとアイカは目を大きく見開いた。


「会長、あれって……」


 ユーキが穴を見つめながらカムネスに声を掛ける。現状と穴の見た目から何なのかは想像できたが、念のためにカムネスに確認した。


「……ああ、あれがベーゼの転移門だ」


 カムネスは二人と同じように穴を見つめながら答え、カムネスの言葉を聞いたユーキとアイカは「やっぱり」と思いながら目を鋭くした。

 初めて見るベーゼの転移門にユーキとアイカは目の前にある穴からベーゼたちが自分たちの世界にやって来るのだと僅かに驚きを感じる。一方でカムネスはこれまでに何度も転移門を見ているためか、驚いたりなどせずに黙って転移門を見つめていた。


「転移門から瘴気が出てますけど、向こう側はどうなってるのでしょうか?」


 アイカは転移門の奥がどうなっているのか気になり、難しそうな顔をしながら考える。すると、転移門を黙って見ていたカムネスは静かに口を開いた。


「まだハッキリとは分かっていないが、転移門の向こう側はベーゼの世界と直接繋がっており、ベーゼの世界は常に瘴気で満ちているのではないかとベーゼを研究している人たちは考えているそうだ」

「だから、転移門から瘴気が湧き出てるのですか?」

「恐らくそうだろうね」


 カムネスの言葉を聞いてユーキとアイカは再び目を鋭くした。ベーゼの瘴気は人間にとって害でしかないため、もしこちらの世界の住人がベーゼの世界に行くことができても、瘴気で満ちた世界では生きていくことはできないだろうと考える。


「さて、お喋りはここまでだ。急いで転移門を封印してしまおう。転移門から新たにベーゼが出てきたら面倒だからな」


 第一目的を果たすためにカムネスは転移門に向かって歩き出す。ユーキとアイカは初めて見た転移門に驚いて目的を忘れていたのかカムネスの言葉で目的を思い出し、ハッとしながらカムネスの後を追った。

 転移門の前まで近づくとカムネスは自分のポーチに手を入れて転移門を封印するためのマジックアイテム、封鎖石を取り出す。ユーキとアイカは封鎖石を使われる光景を見るのも初めてなため、どのように転移門が封印されるのか興味があった。


「お前らか、俺の砦を滅茶苦茶にしてくれたのは?」


 カムネスが封鎖石を使おうとした時、礼拝堂の中に五十代前半ぐらいの低い男の声が響く。声を聞いた三人はフッと反応して周囲を見回す。すると、聖卓の右側の奥にある暗い部屋から気配を感じ、ユーキたちは一斉に構えて警戒した。

 ユーキたちが部屋を見つめていると部屋の中から大きな人影が出てきた。現れたのは身長は3m強はある人型の怪物で薄紫色の肌をしており、頭部には僅かに尖った耳と大きな一つ目、鋭い牙の並んだ口があり、額には三本の小さな角が生えている。腕と足は太く、焦げ茶色の長ズボンを穿いて両肩に銀色のショルダーアーマーを付けており、右手には1mはある銀色の片手持ちハンマーが握られていた。

 一つ目の怪物はユーキたちの方へ歩いて行き、三人の目の前までやって来ると立ち止まってユーキたちを見下ろしながら不愉快そうな表情を浮かべた。


「人間のガキどもに押されていると聞いた時はふざけていると思っていたが、まさか本当にこんなガキどもに攻め込まれているとはなぁ」


 低めの声を出しながら一つ目の怪物は不機嫌そうな口調で語る。ユーキたちは現状と一つ目の怪物の言葉から、目の前にいる一つ目の怪物がベーゼだと確信した。


「ところでどうしてお前たちは此処にいやがるんだ? 外はバッドバスが護ってるはずだろうが」

「バッドバス……あの途中から現れたベーゼのことか」


 カムネスは広場に現れた未知のベーゼのことを思い出し、ユーキとアイカも話を聞いてフッと反応した。

 三人はフィランとミスチアに倒された未知のベーゼがバッドバスという名前でエブゲニ砦に棲みついているベーゼたちの指揮官ではなかったと知る。それと同時に目の前にいる一つ目のベーゼがエブゲニ砦の指揮官ではないかと予想した。


「何を黙っている? さっさと答えないか!」


 ユーキたちが黙って考えていると質問に答えない三人に一つ目のベーゼは苛ついてきたのか地団駄を踏む。そんな一つ目のベーゼをユーキとアイカは目を僅かに細くし、カムネスは表情を変えずに黙って見つめる。

 カムネスは転移門を発見した直後に指揮官と思われる一つ目のベーゼと遭遇したことで一つ目のベーゼとの戦闘は避けられないと感じて戦闘態勢に入る。ユーキとアイカも戦うしかないと考えており、愛刀と愛剣を構えた。

 

「バッドバスとか言うベーゼなら僕たちの仲間が倒した。外にいるベーゼも粗方片付いている。残っているのは僅かなベーゼとお前だけだ」


 フウガを抜刀できる体勢を取りながらカムネスはバッドバスが倒されたことを話す。喋ってもこれから起きる戦闘に直接影響が出るわけが無いとカムネスは考え、素直に教えることにしたのだ。


「何だと、バッドバスを倒した? ……フン、やっぱりそうか」


 バッドバスが倒されたことを聞いた一つ目のベーゼはつまらなそうな顔で呟き、ユーキとアイカは一つ目のベーゼが予想外の反応を見せたことを意外に思い軽く目を見開いた。

 一つ目のベーゼは表情を変えずに鼻を鳴らし、右手に持っているハンマーを肩に担いだ。


「優秀な人間の死体を使って作ったベーゼだと言うから少しは役に立つと思っていたが、こんなに早く倒されるとは。所詮はゴミ同然の死体を素材にした実験体か」

「……ッ!」


 一つ目のベーゼの言葉にアイカは僅かに目を鋭くする。人間の死体を使ってベーゼを作っただけでなく、死者を冒涜する発言をした一つ目のベーゼに対してアイカは苛立ちを感じていた。


「運よくバッドバスでお前らを皆殺しにできればいいと思っていたが、そんなに都合よくはいかないな。……なら、俺が直接お前らを殺すしかないってことだ」


 アイカが苛ついていることに気付いていない一つ目のベーゼは小さく笑いながらハンマーの柄の部分で自分の左手をポンポンと軽く叩いた。


「喜べ? お前ら如き貧弱な生き物が上位ベーゼであるこのケンプファル様の手で死ねるんだからなぁ」

「上位ベーゼ?」


 ユーキはケンプファルと名乗る一つ目のベーゼの言葉を聞いて小さく反応する。目の前にいるベーゼが以前遭遇したベギアーデと同じ、ベーゼの中でも最高位と言われている上位ベーゼを名乗ったので驚いたのだ。

 アイカも驚いており、カムネスも上位ベーゼと遭遇したのは初めてらしく僅かに目元を動かしていた。


「……アンタ、上位ベーゼだったのか」


 ケンプファルが愉快そうに笑っているとユーキが軽く俯きながら呟き、ユーキの声を聞いたケンプファルが笑うのを止めてユーキを見つめる。するとユーキは顔を上げてケンプファルを見上げた。


「以前会った奴もそうだったけど、上位ベーゼっていうのはベーゼ以外の種族を平気で見下すほど傲慢な性格をしてるんだな」

「ちょ、ユーキ?」


 突然挑発を始めるユーキにアイカは驚き、目を見開いてユーキを見つめる。カムネスは視線だけを動かし、笑いながら挑発するユーキを黙って見ていた。どういうわけかカムネスはユーキの挑発を止めようとしない。

 ケンプファルは体の小さなユーキを大きな一つ目でジッと見つめる。見下している人間が挑発してきたことを不愉快に思っていたが、同時にベーゼを恐れない人間の子供を面白く思っていた。


「随分偉そうな口を利くチビだな。俺たちベーゼと対等の立場でいるつもりか? あまり調子に乗った態度を取ると早死にするぞ」

「生憎、俺は言いたいことはハッキリと言うことにしてるんだよ。相手が図体のデカい一つ目のオッサンでもな」


 ユーキは小さく笑い、自分の性格を話しながら挑発を続ける。敵を笑いながら小馬鹿にするユーキを見たアイカはその意外な一面に目を丸くしていた。


「ヘッ、本当に生意気なチビだな。いいだろう、そんなに死にたいのなら望みを叶えてやろうじゃねぇか。そして、上位ベーゼの力をその身で思い知るんだなぁ」


 ケンプファルはニヤつきながら右手に持っているハンマーをユーキたちに向けて勢いよく振り下ろした。


「散開!」


 カムネスは力の入った声で叫ぶと右へ跳んだ。ユーキも後ろに跳び、アイカも少し遅れて後ろに跳ぶ。三人が移動した直後、ケンプファルのハンマーは三人が立っていた場所を叩き、轟音を立てながら床に大きなくぼみを作る。同時に周囲に床の一部だった石片などが飛び散った。

 ケンプファルの攻撃でユーキたちが立っていた場所は粉々になり、アイカはケンプファルの予想以上の力に驚く。ユーキとカムネスは上位ベーゼならあれぐらいの力はあると思っているのか、落ち着いた様子でケンプファルを見ている。


「す、凄い力……」

「ああ、上位ベーゼを名乗ってるだけはあるな」


 隣で冷静に呟くユーキにアイカは再び目を丸くする。ケンプファルに攻撃を目にしても冷静に語るユーキにアイカは驚いていた。


「だけはあるって、恐ろしくないの?。彼は明らかに今まで戦ってきたベーゼとは力が違うのよ。と言うよりも、どうしてあんな挑発をしたの?」

「勿論、攻撃を誘うためさ。どんな敵でも何も考えずに攻撃すれば必ず隙ができる。ああいう他人を見下す傲慢な奴は挑発をすれば必ず乗ってくると思ってたけど、こんなに簡単に挑発に乗るとは思わなかった」


 ユーキはケンプファルの単純さに驚いているのか小さく苦笑いを浮かべ、アイカは短時間で相手の性格を分析し、攻撃を誘う作戦を思いつくユーキを見て流石だと感心していた。

 攻撃を避けられたケンプファルはハンマーを上げてユーキたちを鋭い目で見つめている。ケンプファルの様子から自分の攻撃が簡単にかわされたことをかなり不満に思っているようだ。


「たかが人間の分際で俺の攻撃をかわすとは生意気な。大人しく叩き潰されやがれぇ!」


 ケンプファルはユーキとアイカに走っていき、二人が間合いに入ると再びハンマーを振り下ろして攻撃してきた。ユーキとアイカは走って右へ移動してケンプファルの攻撃をかわす。ハンマーは二人が立っていた場所を叩いて床を粉砕した。

 攻撃をかわしたユーキとアイカはケンプファルから少し離れた所で立ち止まり、ケンプファルの方を向いて構える。ケンプファルが二人の方を見るとユーキは月影を持ったまま左手をケンプファルに向け、左手の前に闇の弾を作り出す。


闇の射撃ダークショット!」


 ユーキは攻撃魔法を発動させ、ケンプファルに向けて闇の弾を放つ。闇の弾は真っすぐケンプファルの顔に向かって飛んで行き、飛んでくる闇の弾を見たケンプファルは鼻で笑いながらハンマーで闇の弾を叩き落した。


「馬鹿め、こんな単純な攻撃が俺に通用すると思ったか。やはり人間は貧弱で頭の悪い生き物……」


 ケンプファルが笑いながら馬鹿にしているとケンプファルの左側頭部にユーキが現れる。闇の弾にケンプファルの意識が向けられている間にユーキはケンプファルに近づいて左側に回り込み、強化ブーストの力で脚力を強化してケンプファルの頭部と同じ高さまで跳び上がったのだ。

 目の前に近づいたユーキにケンプファルは驚き、ユーキは驚いているケンプファルの頭部に月下で袈裟切りを放つ。しかし、ケンプファルは咄嗟に上半身を後ろに反らしてユーキの袈裟切りを回避した。

 攻撃をかわされてユーキは悔しそうな表情を浮かべ、そんなユーキを見てケンプファルは笑みを浮かべながら体勢を直し、ハンマーを右から横に振ってユーキに反撃する。ユーキはジャンプしている状態であるため、攻撃がかわされることはないとケンプファルは考えていた。

 ユーキは左側から迫ってくるハンマーを見ながら目を鋭くし、ジャンプした状態で体を捻じるように右に回して強引に体を動かす。すると、ハンマーはユーキの背中の数cm横を通過し、ユーキはギリギリで攻撃をかわすことができた。


「何だとぉ?」


 空中で攻撃をかわしたユーキを見てケンプファルは驚き、アイカも目を見開いてユーキを見ている。ユーキはアイカとケンプファルが驚く中、着地するとすぐに後ろに跳んでケンプファルから離れて態勢を整えた。


「またしても俺の攻撃をかわすとは、本当に生意気なチビだな」

「チビでも俺はメルディエズ学園の生徒なんだ。普通のチビと一緒にしないでくれよな?」

「メルディエズの生徒だろうが何だろうがチビはチビだ。ガキはちょこまかしねぇでさっさと潰されちまえ!」


 ケンプファルは近づくとハンマーを振り下ろして攻撃した。ユーキは姿勢を低くしてケンプファルの懐に入り込んでハンマーをかわす。同時にケンプファルの右側面を通過しながら月下を振り、ケンプファルの右脇腹を切り裂く。

 脇腹を斬られたケンプファルは痛みで僅かに表情を歪ませながら自分の後ろにいるユーキを見る。ユーキも振り返って自分を睨むケンプファルを睨み返した。


「ガキだからってナメるなよ」


 ユーキが低めの声でそう言うとケンプファルは表情を険し、右から振り返りながらハンマーを横に振ってユーキを攻撃した。だが、ユーキは後ろに跳んでケンプファルの攻撃を楽々とかわす。

 ケンプファルが単純な攻撃しか仕掛けてこないのを見たユーキは先程の挑発が上手くいってケンプファルが冷静さを失って興奮していると感じ、これなら問題無くケンプファルを倒せると考えていた。

 攻撃をかわしたユーキを睨みながらケンプファルはハンマーを振り上げる。すると、ケンプファルの左側からカムネスが近づき、ケンプファルを鋭い目で見つめながらフウガを抜いてケンプファルに連続切りを放った。

 フウガはケンプファルの左腕や左脇腹などを切り裂き、ケンプファルは痛みで思わず声を漏らす。だが、ケンプファルは痛みに耐えながらカムネスを睨み、傷だらけの左腕を外側に振ってカムネスに反撃する。

 カムネスは迫ってくる左腕を見ると反応リアクトを発動し、素早く後ろに下がってケンプファルの攻撃をかわす。そして回避した瞬間に前に踏み込み、フウガでケンプファルの脇腹に突きを放つ。反応リアクトを発動したままだったため、ケンプファルの腕をかわした直後にケンプファルが作った隙に反応して攻撃できた。

 斬られた直後に刺されたケンプファルは苦痛の声を上げながら後ろに下がり、左腕で刺された箇所を押さえながらカムネスを睨む。カムネスは無言でケンプファルを見つめながらフウガを納刀する。


「テ、テメェ、俺がガキと戦っている最中に横やりを入れやがってぇ、卑怯じゃねぇか!」

「悪いが僕は負けられない戦いをしている時は結果を優先する性格なんでね。場合によっては卑劣な手段でも取る」


 カムネスは冷たい言葉をケンプファルに向けて言い放ち、ケンプファルは奥歯を噛みしめながらカムネスを睨む。カムネスとケンプファルの会話を聞いていたユーキはカムネスの意外な一面を見て少し驚いていた。

 ケンプファルはカムネスを睨んだままハンマーを両手で握る。先程カムネスに刺された箇所からの出血は既に止まっており、ユーキとカムネスは上位ベーゼは回復力も並のベーゼよりも高いと知って目を僅かに鋭くした。その直後、ケンプファルはカムネスに向かって大きく踏み込み、ハンマーを振り下ろす。

 カムネスは大きく後ろに跳んでケンプファルの振り下ろしをかわした。かわされたハンマーは床を叩き、轟音を立てながら床を砕いて周囲に大小無数の石片を飛ばす。

 飛ばされた石片は柱にぶつかって傷を付け、近くにある壊れた机や椅子を粉々にする。そして、石片はユーキやカムネスにも迫っていた。

 迫ってくる石片を見たユーキは強化ブーストを発動させて動体視力と腕力を強化し、石片をかわしたり月下と月影で叩き落したりする。一方、カムネスは再び反応リアクトを発動させ、勢いよく飛んでくる石片に反応してフウガを抜き、もの凄い速さで振って飛んでくる石片を全て弾いた。

 石片を凌いだカムネスを見たケンプファルは更に表情を険しくしてハンマーで攻撃しようとする。すると、ケンプファルの右斜め後ろにアイカが回り込み、プラジュとスピキュを構えてケンプファルに鋭い視線を向けた。


「サンロード二刀流、仄日斬そくじつざん!」


 アイカはプラジュで袈裟切りを放ちケンプファルの胴体の右後ろを斬り、続けてプラジュで逆袈裟切りを放って同じ場所を斬る。斬られたケンプファルは声を上げながら前によろけるが、すぐに体勢を直してアイカの方を向いた。


「クソォ、ちまちま攻撃してきやがって。鬱陶しい真似すんじゃねぇ!」


 ケンプファルは声を上げながらアイカに向かってハンマーを振り下ろして攻撃する。アイカは右へ跳んでハンマーをかわし、かわしてすぐにスピキュを持ったまま左手をケンプファルの顔に向けて伸ばした。


光の矢ライトアロー!」


 アイカは左手から光の矢を放ってケンプファルに攻撃する。光の矢はケンプファルの額に命中し、光の矢を受けたケンプファルは声を上げながら左手で光の矢が当たった場所を押さえた。ケンプファルの様子からかなりダメージを受けているようだ。


「どうやら貴方には光属性の魔法はよく効くみたいですね」

「こ、この小娘、よくもこんなイテェ攻撃を当てやがったなぁ! テメェから先にぶっ殺してやるぅ!」


 ケンプファルは怒りを露わにしながら近くに落ちている大きな石片を左手で拾い、アイカに向かって投げつけた。

 アイカはケンプファルが石片を投げるのを見ると左へ移動して石片をかわす。かわした直後にアイカは再び左手をケンプファルに向けて魔法を撃とうとするが、ケンプファルはアイカに向かって踏み込み、ハンマーで攻撃してきた。

 距離を詰めてきたケンプファルを見たアイカは一瞬驚くがすぐに後ろに下がってハンマーをかわす。だが、ケンプファルはかわされたハンマーを振り上げ、今度はアイカの頭上から振り下ろして攻撃してきた。

 最初の攻撃を回避した直後だったアイカは反応に送れてしまい、振り下ろされるハンマーを見て驚愕する。攻撃を受けてしまう、アイカがそう思った次の瞬間、右側から闇の弾が飛んできたケンプファルの右腕に命中した。

 闇の弾が右腕に当たったことでケンプファルの攻撃はアイカに当たることなく止められ、驚いていたアイカは闇の弾が飛んで来た方を見る。そこには月下を握ったまま右手を前に突き出すユーキの姿があり、アイカはユーキが自分を助けてくれたのだと知った。


「アイカ、大丈夫か?」

「え、ええ、ありがとう」

「攻撃をかわした後も気を抜くなよ」


 ユーキの忠告を聞いたアイカは軽く頷いてからケンプファルの方を向き、攻撃を警戒しながら後ろに跳んで距離を取る。ユーキもケンプファルが次にどんな攻撃を仕掛けてくるのか予想しながら双月の構えを取る。

 ケンプファルは自分の邪魔をしたユーキの方を向き、鬱陶しそうな表情を浮かべる。既に闇の弾を受けた箇所から痛みは引いており、ケンプファルは普通にハンマーを構えることができた。


「またお前か! いいところで邪魔しやがって、今度こそ叩き潰してやる!」

「さっきから同じようなこと言ってるけど、ちっとも俺たちを倒せてないじゃないか。あまりカッコつけると後で恥をかくぜ?」

「うるさい! ビービー喚くなぁ!」


 大きな声を出しながらケンプファルはユーキに走って近づき、ハンマーを斜めに振って攻撃する。ユーキは月下と月影を弧を描くように動かしてハンマーを流してケンプファルの右斜め前に移動し、そのまま二本の刀で逆袈裟切りを放ちケンプファルの胴体を斬った。

 斬られたケンプファルは声を漏らしながら痛みに耐え、目の前にいるユーキに左足で蹴りを放つ。しかし、ユーキは後ろに下がって蹴りを難なくかわし、ケンプファルは攻撃をかわしたユーキを悔しそうに睨む。

 ケンプファルがユーキを睨んでいると背後にカムネスが回り込み、フウガを抜いてケンプファルの背中を斬った。胴体に続いて背中から伝わる痛みにケンプファルは声を漏らし、後ろを向いてカムネスを見ると右に振り返りながらハンマーを横に振って反撃する。だが、カムネスは後ろに跳んでハンマーをかわした。

 ユーキたちは三人、別々の位置からケンプファルを見ながら構え、ケンプファルは大きな一つ目を動かして三人の位置を確認する。

 位置を確認する中、ケンプファルはユーキたちを見ながら三人を鬱陶しく思い、ユーキたちも何度も攻撃を受けているのに倒れないケンプファルの生命力の高さから流石は上位ベーゼだと内心驚いていた。


「攻撃した直後に距離を取りやがって、姑息な戦い方しかできねぇのか?」

「姑息とは心外だな。これは立派な戦術だぞ?」

「そうそう、ヒットアンドアウェイってやつだよ」


 カムネスに共感するユーキは小さく笑いながら自分の知っている言葉を口にする。カムネスとケンプファルは聞き慣れない言葉を耳にして不思議そうな反応を見せ、それに気付いたユーキは一瞬「しまった」と言いたそうな反応を見せるが、すぐに苦笑いを浮かべて誤魔化す。アイカだけはユーキの言葉が彼が転生する前にいた世界の言葉だと気付き、黙ってユーキを見ていた。


「何を言ってるか分からねぇか、俺はお前らみたいな奴が嫌いなんだ。二度と姑息な手を使えないようぶっ飛ばしてやる!」


 ケンプファルはそう言うとハンマーで足元に落ちている石片を横から叩いてユーキに向けて飛ばした。ユーキは飛んできた石片に驚きながら右に跳んで回避する。

 ユーキが石片をかわすと、ケンプファルは壊れた椅子をハンマーで叩いてアイカに向けて飛ばす。アイカは正面から飛んでくる椅子を左に跳んで回避した。ケンプファルは続けて壊れた机を叩き、カムネスに向けて飛ばす。カムネスも左に跳んで机をかわす。

 それからケンプファルは落ちている石片や椅子などをハンマーで打ち飛ばして攻撃する。ユーキたちは飛んでくる物を問題無くかわすことができるが、ケンプファルが連続で物を飛ばしてくるため、なかなか近づくことができない。ハンマーで打つ物の中には飛ばされている最中に粉々に砕け散り、散弾銃のようにばらけて飛んでくる物もあるため、回避するのが難しい時もあった。

 近づけないのなら魔法を撃って反撃すればいいと考えられるが、飛んでくる物をかわしているせいで上手く狙えず、魔法を撃つことに集中することができなかった。


「クソォ、俺たちを近づかせまいと瓦礫を打って攻撃してきやがる。このままじゃ攻撃を避けてるだけで体力を削られちまう。何とかしないと……」


 ユーキは攻撃を避けながら打開する策は無いか考える。アイカとカムネスも避けたり、武器で飛んでくる物を叩き落しながら作戦を考えていた。

 三人は反撃する方法が無いか飛んでくる物をかわしながら考える。そんな中、アイカは飛ばしてきた椅子をかわそうと椅子に意識を集中させる。だがその直後、椅子は飛ばされている最中にバラバラになり、無数の木片となってアイカに飛んでいく。

 椅子が木片になったのを見て驚くアイカは思わず目を閉じてしまい、全身に木片を受けてしまう。幸い飛んできた木片は殆どが小さく、勢いも弱かったため当たっても殆どダメージを受けなかった。


「よかった、細かくなったおかげで怪我をせずに済んだわ。もっと警戒して避けないと……」


 ダメージが大したこと無いことにアイカは安心して前を見る。だが、今度は大きめの石片が飛んでくるのが見え、アイカは目を見開いて驚愕する。石片の大きさは50cmほどで先程の椅子のように粉々になっていない。直撃すればただでは済まないとアイカは直感した。

 アイカは石片を避けようとするが木片を受けたことで隙を作ってしまい、回避が間に合わない状態だった。石片は勢いを弱めることなくアイカに迫っていき、アイカは避けられないと恐怖の表情を浮かべる。


「アイカ!」


 アイカが石片を見ていると右からユーキの声が聞こえ、同時にアイカは強い力で左に押される。アイカが驚きながら右を見ると、そこには左腕で自分にぶつかるユーキの姿があった。

 ユーキの姿を見たアイカはユーキが助けてくれたのだと知って驚く。その直後、アイカに向かって飛んで来ていた石片がユーキの体に直撃した。


「ううぅっ!!」


 体に伝わる重い衝撃と痛みにユーキは表情を歪め、石片がぶつかった時の勢いで大きく飛ばされ、礼拝堂の壁に叩きつけられてしまう。ユーキは持っていた月下と月影を落とし、そのまま俯せの状態で倒れた。


「ユーキィッ!!」


 自分を庇って石片の直撃を受けたユーキを見てアイカは思わず叫び、離れた所で攻撃を避けていたカムネスもユーキが倒れたのを見て目を見開いた。

 アイカは慌てて倒れるユーキに駆け寄り、彼を仰向けの状態にして抱き起こす。ユーキは目を閉じており、口からは僅かに血が垂れていた。


「ユーキ、しっかりして!」

「う、うう……」


 痛みで表情を歪ませながらユーキは掠れた声を出す。ユーキが生きていることにアイカは一安心するが、自分を護るためにユーキが負傷したことに彼女は強い罪悪感を感じていた。

 アイカはユーキの上半身を支えた、彼の傷を治すために自分のポーチからポーションを取り出そうとする。だが、そこにハンマーを肩に担いだケンプファルが近づいてきた。ケンプファルに気付いたアイカは最悪の状況に目を大きく見開いてケンプファルを見る。


「ウハハハハ! 女を庇って負傷するとは、何とも惨めだな? それが俺を小馬鹿にした結果だ」

「クッ! 人を助けて怪我をした人を馬鹿にしないでください!」

「フン、その怪我をさせた原因を作った奴が随分偉そうなことを言うな?」

「……ッ!」


 ケンプファルの言葉にアイカは言葉を詰まらせる。ケンプファルの言うとおり、ユーキは自分を庇って負傷してしまったため、アイカは何も言い返すことができなかった。

 アイカが悔しさ、自分の情けなさに表情を歪めているとケンプファルはハンマーを振り上げてアイカとユーキを攻撃しようとする。

 ケンプファルの動きに気付いたアイカは床に置いてあるプラジュを拾って応戦しようとするが、ユーキを抱き起している状態ではまともに戦うことはできない。何より、今の状態では攻撃をかわすこともできず、アイカの力ではケンプファルの攻撃を防ぐことも不可能だ。

 ユーキを休ませれば戦えるが、そうなるとケンプファルが動けないユーキを狙う可能性が高くなるため、ユーキの傍を離れられることもできなかった。

 どうすればいいのか、アイカはケンプファルを睨みながら考える。すると、ケンプファルの背後にカムネスが回り込み、ケンプファルの背中と同じ高さまで跳び上がるとフウガを抜刀してケンプファルの背中に連続切りを放った。


「グオオォッ! や、やりやがったなぁ」

「生徒会長として、これ以上生徒を傷つけさせるわけにはいかないんでね」

「なら、お前から先にぶっ殺してやる!」


 攻撃目標を変えたケンプファルは振り返り、ハンマーでジャンプしているカムネスを攻撃しようとする。カムネスはハンマーを振り上げるケンプファルに向けて左手を伸ばした。


風刃ウインドカッター!」


 カムネスは魔法を発動し、左手の中から風の刃をケンプファルに向けて放つ。風の刃はケンプファルの胸部に命中し、ケンプファルはその衝撃で体勢を崩す。その隙に着地したカムネスは後ろに跳んでケンプファルから距離を取った。

 ケンプファルはカムネスを睨みながら彼の後を追い、ハンマーを連続で振り回して攻撃する。だが、狙いもせずにただ力任せに振り回しているだけのハンマーが当たるはずもなく、カムネスは反応リアクトを発動せず、全ての攻撃を楽々と回避した。


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