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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
第二章~強豪の剣士~
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第二十七話  真夜中の来襲


 真夜中に響く高い金属音に驚いたユーキとアイカは立ち上がり、厩の外に出て周囲を見回す。金属音は静かな町の中で響き続けており、ユーキとアイカは夜遅くに鳴っていることから何か良くないことが起きたのではと感じて顔に緊張を走らせた。そしてその直後、二人の予想は的中する。

 屋敷の外から一人の警備兵が馬に乗って飛び込むように屋敷の敷地内に入ってくる。警備兵は屋敷の玄関前で馬を止めると急いで馬から降り、玄関に駆け寄って強く扉をノックした。

 遠くから警備兵の様子を見ていたユーキとアイカは嫌な予感がし、厩の中に戻ると自分の武器を手に取って警備兵の下へ走る。


「男爵様、扉を開けてください!」


 警備兵は声を上げながら扉を叩き続ける。深夜であるため、警備兵の声は屋敷全体に響いた。勿論、ユーキとアイカのところにも届いている。

 扉を叩いていると、玄関が開いて屋敷の中から蝋燭台を持った寝間着姿の使用人が現れる。熟睡しているところを起こされたため、とても眠そうな顔でしていた。


「……どうなさったのですか、こんな夜中に?」


 使用人は目を半開きにしながら気の抜けた声で尋ねる。すると警備兵は目を大きく見開きながら使用人に近づいた。


「すぐに男爵様を起こしてくれ。ベーゼが現れた!」

「……何ですって!?」


 警備兵の言葉に使用人は驚いて声を上げる。走っていたユーキとアイカもベーゼが出現したと聞いて目を大きく見開き、今町中に響いている金属音が敵襲を知らせる警鐘の音だと知った。


「ベーゼが現れた!? 間違い無いのですか?」

「確かだ。正門から少し離れた所に大勢のベーゼが現れて町に近づいて来ている。見張り台の上からこの目で見た!」


 警備兵は正門を護っていた者らしく、自分の目を指差しながら情報に間違いが無いと話す。使用人は大変なことになっていることに驚愕し、同時に先程まで感じていた眠気が完全に消えた。


「今の話、本当ですか!?」


 使用人と警備兵が緊迫した表情を浮かべているとユーキとアイカが玄関に辿り着き、ユーキは使用人と警備兵に情報の真偽を確かめた。

 走ってきたユーキとアイカを見て使用人は一瞬驚くが、ベーゼとの戦闘を得意とするメルディエズ学園の生徒が屋敷にいることを思い出して少し安心したのか僅かに表情を和らげた。


「本当にこの町の近くにベーゼが現れたんですか?」

「え、ええ、大勢のベーゼが正門近くに現れたそうです……」

「よりにもよって皆が眠りについている深夜に現れるなんて……それで、ベーゼの数は?」


 ベーゼの規模がどれ程のものか、ユーキは報告に来た警備兵に尋ねる。警備兵はユーキ顔を見た後に小さく俯き、右手を顎に当てててベーゼの数を思い出す。


「私もハッキリと数を確認した訳ではないので、正確な数は分からないが……私が見張り台の上で見た時は三十体はいたはずだ」

「三十体?」


 警備兵からベーゼの数を聞かされたユーキは訊き返す。敵の数が自分の予想していた数と全く違うので意外に思っていた。


「……ちょっと妙ね」


 ユーキの隣に立っているアイカもベーゼの数を聞くと難しい顔をしている。ユーキは目を僅かに鋭くしてアイカの方を向いた。


「……アイカ、君も変だと思うか?」

「ええ。モルキンの町はラステクト王国に存在する町でもそれなりに大きい町、もしベーゼたちの目的がこの町を襲撃することだとしたら数が少なすぎるわ」

「俺もそう思う。これだけ大きな町を襲撃するのにベーゼの数が三十体ほどだなんて、どう考えてもおかしい」


 町一つを攻めるのに敵の数が少なすぎるため、ユーキとアイカは違和感を抱いていたのだ。いくら人間や亜人よりも力のあるベーゼでも僅か三十体程度で町を襲撃しても制圧できるはずがない。それはユーキとアイカでなくても分かることだ。


「いや、三十体と言うのは正門から確認できたベーゼの数であって、それが全てだとは断言できない。もしかすると、正門付近以外にもベーゼがいる可能性があるかもしれない」

「確かに、ベーゼが何処かに潜んでいる可能性も十分ありますね」


 ベーゼが自分たちを油断させるためにわざと少ない数で現れたのかもしれないとアイカは考え、警備兵と使用人も自分たちが気付いていないだけでべーぜがいるかもしれないと考え、僅かに不安を露わにしていた。


「……まあ、ベーゼたちが何を考えているかは後で考えるとして、今はこの事をロイガント男爵や先輩たちに知らせることが先ですね」


 ユーキの言葉で今やるべきことを思い出した使用人はハッとし、慌ててロイガントたちにベーゼが現れたことを知らせに向かう。警備兵は使用人が報告に向かったのを確認するとユーキとアイカの方を向いた。


「君たちはメルディエズ学園の生徒だろう? メルディエズ学園の生徒は冒険者や我々よりもベーゼとの戦い方をよく知っていると聞いている。良ければ力を貸してくれないか?」

「勿論です」


 アイカは力強い声で返事をし、ユーキも警備兵を見上げながら小さく頷く。警備兵は協力してくれるユーキとアイカを見ながら感謝の笑みを浮かべた。

 メルディエズ学園の生徒は依頼や休暇で学園の外に出ている時にベーゼと遭遇した場合、もし依頼主や近くにいる者からベーゼの討伐を要請されれば、特別な理由が無い限りは協力することを義務付けられている。そのため、ユーキたちもモルキンの町の近くに現れたベーゼと戦うことを受理したのだ。

 ただ、いくら義務付けられているとはいえ、正式な依頼とは関係のない戦闘をするため、それに見合った報酬は請求することが許されていた。請求するかは要請を受けた生徒の自由だが、大抵の生徒は報酬を請求している。

 報酬を受け取った場合、通常の依頼で得た報酬と同じでメルディエズ学園に回す分と生徒が受け取る分と分けなくてはならないが、この場合は生徒が多めに報酬を得ることができる。


「では、早速だが正門に向かい、私の仲間と共にベーゼを迎撃してくれ」

「分かりました。では、すぐに正門に……」

「待ってくれ、アイカ」


 正門に向かおうとするアイカをユーキが止め、突然止めたアイカは不思議そうにユーキを見る。


「先輩たちに声も掛けずに二人で正門に向かうのはマズい。俺たちの内、どちらかが残ってパーシュ先輩とフレード先輩にこのことを伝えた方がいいんじゃないか?」

「言われてみれば確かに……勝手に行動したらパーシュ先輩に怒られるかもしれないからね」

「だろう?」


 パーシュが怒った時の顔を想像し、ユーキとアイカは思わず苦笑いを浮かべる。ベーゼが現れたため、急いで迎撃に向かわなければならないが、仲間に何も言わずに行動すれば戦闘や連携で支障を来す可能性があるため、独断行動は避けなくてはいけなかった。


「パーシュ先輩に怒られないようにするため、ちゃんと先輩たちには伝えとかないとな」

「その必要は無いよ」


 突然パーシュの声が聞こえ、ユーキとアイカが屋敷の方を向くと、玄関前には制服を着て愛剣を佩して立っているパーシュとフレードの姿があった。その後ろには寝間着姿のロイガントと執事が立っている。


「先輩たち、起きていたのですか?」

「当たり前だろう。あんだけうるさい音が町中に響けば誰だって起きるに決まってる」


 フレードは右手の小指で耳の穴を掻きながら迷惑そうな顔をする。どうやらフレードたちも警鐘の音を聞いて目を覚ましたようだ。


「警鐘の音で目を覚ましてからしばらくして、ベーゼが現れたって使用人が騒いでいるのを聞いてね。ロイガント男爵もそれを危険だと感じたのか、あたしらにベーゼの討伐を依頼したんだ」

「そうだったのですか」


 パーシュとフレードが既にベーゼが現れたことに気付いていると知ったアイカは知らせる手間が省けると感じ、全員でベーゼの迎撃に向かえると安心する。すると、パーシュがアイカの方にゆっくりと近づいてきた。


「アイカ、部屋にいないと思ったらあたしらよりも先に外にいたんだね?」

「ハイ」

「……どうして外にいたんだい? あたしは警鐘の音を聞いてすぐにアンタの部屋に行ったんだけど、その時既にアンタはいなかった。つまり、ベーゼの情報が入る前からアンタは外にいたってことになる」

「そう、ですね……」


 アイカはパーシュの推理を聞きながら小さく頷く。まるで何かを探られているような気がし、アイカは複雑な気分になっていた。

 パーシュはアイカの顔をしばらく見つめてから視線をユーキに向けた。ユーキは今晩、ヒポラングの見張りをするために外で眠ることになっている。アイカがユーキと一緒に外に出ていた点から、パーシュは一つの答えを導き出す。


「アイカ、アンタ、ユーキと一緒に寝てたのかい?」

「えっ!」


 楽しそうな顔で尋ねるパーシュを見てアイカは目を見開く。アイカの反応を見たパーシュは更に二ッと笑みを浮かべる。


「図星かい? フフフ、意外だね。アンタが年下好みでこんなに大胆だったとは……」

「ちちちち、違います! 私はただ、ユーキが一人で厩で寝るのが気の毒だと思って……決してパーシュ先輩が想像してるようなことはしてません!」


 顔を赤くしながら全力で否定するアイカを見てパーシュは楽しそうに笑う。

 二人のやり取りを見ていたフレードは興味の無さそうな顔をしており、話のネタにされているユーキは全力で否定するアイカを見ながら「そこまで否定しなくても」と言いたそうな顔をしていた。

 ユーキたちが様々な思いを抱きながらやり取りをしていると、今まで黙っていたロイガントがユーキたちに聞こえるような大きな咳をする。それを聞いたユーキたちは現状を思い出し、一斉にロイガントの方を向いた。


「……そろそろよいかな?」

「ああ、すまないね男爵様」


 笑いながらパーシュは謝罪し、ロイガントは若干呆れたような顔でパーシュを見る。だがすぐに表情を鋭くし、ユーキたちを見つめながら口を動かした。


「既にパーシュ・クリディックに言ってあるが、まだ話していない者たちもいるのでもう一度話しておく。現在この町にベーゼたちが接近してきている。ベーゼどもの狙いは分からんが、この町の住民たちを狙っている可能性は高い」


 ロイガントは真剣な表情を浮かべながら現状を語り、ユーキたちも先程まで浮かべていた笑みを消し、黙ってロイガントの話に耳を傾けていた。


「モンスターや盗賊と違い、ベーゼはこの世界にとって極めて危険な存在だ。そんな連中がこの町に迫って来ているのなら、放っておくことはできん。……メルディエズ学園の生徒たちよ、町の住民たちのため、ベーゼたちを倒してくれ」

「任せてくれ、男爵様。あたしらはメルディエズ学園の生徒、ベーゼと戦うことが仕事だからね。ベーゼの討伐を依頼されりゃ、迷わずに引き受けるよ」


 パーシュが語ると、ユーキとアイカがロイガントを見ながら小さく頷く。フレードも若干面倒くさそうな顔をしているが、文句などは一言も口にしない。面倒に思っていてもメルディエズ学園の生徒としての立場や役目はしっかり把握しているようだ。

 ロイガントはユーキたちの反応を見て笑みを浮かべる。執事も盗賊を討伐した実績を持つ四人が共に戦ってくれるので頼もしさを感じていた。


「ベーゼたちは正門の近くに現れたと報告を受けているが、まだ他にもベーゼが潜んでいる可能性がある。警備の兵士たちと協力してベーゼを全て倒してくれ。報酬は見合った分、しっかり出そう」

「期待してるよ」


 パーシュは鞘に納めてあるヴォルカニックを握り、フレードも小さく笑いながら拳を鳴らす。ユーキは手に持っていた月下と月影を腰に差し、アイカもプラジュとスピキュを佩してから制服のポケットに手を入れ、赤いリボンを取り出して髪をいつものツインテールにした。


「さぁて、それじゃあ早速、正門に向かうか。奴らが何を考えてるにしろ、まずは戦力がどれだけが確認しねぇといけねぇからな」

「そうですね、もしかすると正門だけじゃなく、別の場所から襲撃してくるかもしれませんから、戦力を確認しながら情報を集め……」


 ユーキが正門がある方角を見ながら喋っていると、厩がある方から何かが走ってくるのに気付き、口を閉じて走ってくるものを確認する。それは厩で眠っていたはずのヒポラングでユーキに向かって勢いよく走って来ていた。

 ヒポラングを見たユーキは目を見開いて驚き、アイカたちもヒポラングに気付いて同じように驚く。やがてヒポラングはユーキの前までやって来てその場に座り込んだ。


「な、何だよお前、起きたのか?」

「ブオオォ」


 返事をするように鳴き声を上げるヒポラングを見て、ユーキは面倒そうな顔をする。これからベーゼと戦うため、ヒポラングの相手をして無駄な時間を使うのだけは避けたかった。


「……俺たちはこれから大事な仕事があるんだ。お前は大人しく厩で寝てろ」


 ユーキはヒポラングを帰そうと厩がある方を指差す。だが、ヒポラングは座り込んだままユーキを見つめていた。

 言うことを聞かないヒポラングを見ながらユーキは後頭部を掻く。言うことを聞かないのなら強引に厩に連れて行くしかないと感じてヒポラングの尻尾を掴もうとする。すると、やり取りを見ていたフレードがヒポラングを指差した。


「……いっそのことソイツも連れてったらどうだ?」

「ええぇっ?」


 とんでもないことを言い出すフレードにユーキは声を上げ、アイカやパーシュも驚きながらフレードの方を見る。勿論、ロイガントたちも驚いてフレードを見ていた。これからベーゼと戦うというのにモンスターを同行させると言えば驚くのは当たり前だ。


「アンタ、何考えてるんだい? ベーゼと戦いに行くって言うのにモンスターを連れていこうなんて」

「そうですよ。この子はユーキに懐いてはいますが、尻尾を首に巻き付けたりしてユーキから離れようとしません」

「ああ、そんな状態じゃユーキはまともに戦えない。連れてったところで邪魔になるだけだ」


 パーシュとアイカはヒポラングを連れて行くことに反対し、ロイガントたちも連れて行かない方がいいと言いたそうな顔でフレードを見ている。ユーキも連れて行くべきではないと思っているのか、複雑そうな顔をしていた。

 全員が反対する中、フレードは目を僅かに細くしながら腕を組み、ユーキの隣に座っているヒポラングを見つめた。


「戦いの邪魔になるとは限らねぇだろう。コイツは普通のヒポラングと比べてデカく、力もつえぇ。上手く扱えばベーゼとの戦いで役に立つかもしれねぇだろう」

「それはそうかもしれませんが、この子はユーキにしか懐いていませんし、私たちの都合のいいように動いてくれるかどうか……」

「ならルナパレスに協力するよう指示させればいいじゃねぇか。少なくともソイツはルナパレスの言うことを理解し、素直に従ってるぜ」


 フレードはライトリ大森林からもロイガントの屋敷に戻るまでの間、ヒポラングがユーキの言うことに従っていなことを語り、アイカたちもヒポラングの行動を思い出す。

 モルキンの町に戻ってきてから、ヒポラングは町の住民たちを驚かせたり、食材を勝手に食べるといった問題行動を起こしていたが、ユーキが近くにいれば大人しく、彼が止めれば素直に問題行動を止めた。

 ユーキが近くにいる時のヒポラングの様子を考えれば、指示を出せば邪魔はせず、共に戦ってくれるかもしれない。アイカたちは少しずつヒポラングを連れて行っても問題無いかもしれないと感じ始めていた。


「それにだ、ソイツを此処に置いて行ったら見張る奴がいなくなって勝手に行動し、町の食い物とかを食い荒らすかもしれねぇぞ。寧ろそっちの方が問題あるんじゃねぇのか?」

「た、確かに……」

「そもそも置いて行ったとしても、ソイツは勝手にルナパレスの後をついてくると思うぜ」


 これまでのヒポラングの行動からあり得ると感じたアイカは複雑そうな表情を浮かべ、パーシュやロイガントたちも置いて行けばより面倒なことになるかもしれないと感じていた。


「置いて行って問題行動を取られるよりは、身近なところに置いといて見張っておくのは一番だと俺は思うぜ」

「……パーシュ先輩、どうしますか?」


 アイカは指揮を任されているパーシュの方を向いて尋ねた。パーシュは腕を組みながら考え込み、チラッと座り込んでいるヒポラングに視線を向ける。普段ならフレードの無茶苦茶な提案や作戦を聞いてもすぐ反対するのだが、今回はフレードの言っていることに一理あるため、反対することはできなかった。

 パーシュは黙り込んでどうするか考え、しばらくすると顔を上げて軽く息を吐いた。


「仕方がないね、連れて行こう。此処に残してまた何か問題を起こされたらたまんないし」

「ほほぉ? お前が俺の案を聞くとはなぁ。明日は雪でも降るか?」

「何とでもいいな」


 挑発するフレードを軽く流し、パーシュはユーキの方を向く。パーシュと目が合ったユーキはチラッとヒポラングを見てからもう一度パーシュの方を見て、本当に連れてっていいのか目で再確認する。パーシュはユーキを見ながら小さく頷いた。


「……お前を連れて行くことになったよ。一緒に正門まで来てくれ」


 ユーキはヒポラングの方を見ながら同行するよう伝え、ヒポラングはユーキを見下ろしながら小首を傾げる。アイカとパーシュはヒポラングの反応を見て、戦場に行って大丈夫なのか小さな不安を感じていた。


「んじゃ、そろそろ正門に向かうか。ベーゼどもが俺たちに合わせてゆっくり侵攻してくるはずがねぇし」

「そうですね。少しでも早く正門に行けるよう、馬に乗っていきましょう」

「それがいいね。男爵様、すまないけど馬を貸してくれるかい?」

「ああ、使ってくれ」


 返事をしたロイガントは執事の方を向き、馬を用意するよう目で指示を出す。執事は頷くと玄関の近くで待機していた使用人に馬を用意するよう伝え、使用人は急いで厩に向かう。それからしばらくして、使用人は馬を四頭連れて戻ってきた。

 アイカは用意された馬に一斉にまたがり、パーシュとフレードも続いて馬にまたがる。メルディエズ学園の生徒はどんな状況でも迅速に行動できるよう、馬車だけでなく馬の乗り方も学園で教わっていたため、馬に乗ることに何の問題も無かった。

 ユーキも乗馬するために残りの一頭に近づく。すると、ヒポラングが尻尾を体に巻き付けて自分の方にユーキを引き寄せた。


「ちょっ、何すんだよ!」


 邪魔をするヒポラングを見ながらユーキは少し力の入った声を出す。するとヒポラングは細長い尻尾を器用に動かしてユーキを自分の背中に乗せる。背中に乗せられたユーキはまばたきをしながらヒポラングを見つめ、アイカたちも目を丸くしながらヒポラングに注目した。


「……もしかして、お前に乗って正門に行けってことなの?」

「ブオォ」


 背中に乗るユーキを見ながらヒポラングは返事をするように鳴く。懐いているとはいえ、モンスターが自分から人間を背中に乗せて移動しようとする光景にアイカたちは意外そうな反応を見せ、ロイガントたちも少し驚いた顔をしていた。

 折角ロイガントが馬を用意してくれたのに乗らないのは少し申し訳ないとユーキは思っていたが、ヒポラングが自分から背中に乗せてくれたので、折角だからヒポラングに乗って移動してみようと考えた。

 何より、馬に乗ろうとしてもヒポラングは馬に乗せずに何度も自分の背中に乗せようとするとユーキは予想していたため、馬に乗ることを諦めた。

 パーシュはユーキがヒポラングに乗って移動することにしたのだと悟り、とりあえず全員の準備が整ったと判断する。何も問題は無いことを確認したパーシュはロイガントの方を向いた。


「それじゃあ、あたしらは行くから、アンタらは全てが片付くまで屋敷の中に隠れてるんだよ?」

「分かっている。間違っても外に出ようとは考えんよ」

「ならいい」


 笑いながらそう言ったパーシュは手綱を引き、馬を走らせて屋敷の敷地から出ていく。アイカとフレードもそれに続いて馬を走らせ、残ったユーキはアイカたちが走っていくのを見てからヒポラングの背中を軽く叩いた。


「よし、俺たちも行くぞ。アイカたちの後を追ってくれ」


 ユーキが指示を出すとヒポラングは軽く鳴いて後ろ足を曲げる。そして、地面を強く蹴って高くジャンプし、ロイガントの屋敷を囲む塀を軽々と跳び越えた。


「おおおおっ!? 凄いジャンプ力!」


 予想以上のジャンプ力に驚いてユーキは声を漏らす。跳んでいる最中、ユーキの体に風が強く打ち当たり、ユーキは勢いで振り落とされないようにしっかりとヒポラングに掴まった。

 ヒポラングは屋敷から少し離れた所にある街道に着地する。着地した時の勢いで僅かに砂煙が上がり、大きな音が街道に響いた。

 ユーキはヒポラングの着地点を確認するために周囲を見回す。すると、後方から馬に乗るアイカたちが走ってくる姿が見えた。


「あれは、ユーキ?」

「アイツ、俺らよりも後に出たはずなのにどうして前にいるんだよ」

「多分、あのヒポラングはあたしたちが思っている以上に身体能力が高いんだろうね」


 馬を走らせながらアイカたちはヒポラングの身体能力に驚き、それと同時にヒポラングが戦闘に加われば強い戦力になると感じた。

 アイカたちは馬をより速く走らせてユーキとヒポラングの方へ向かう。先頭のパーシュはユーキとヒポラングの真横を通過する時について来るよう合図を送り、そのまま走り去っていく。

 パーシュに続いてアイカとフレードもユーキとヒポラングの真横を通過し、先に行ったアイカたちを見たユーキは進行方向は間違っていないと知り、前を向いてヒポラングの背中を再び叩いた。


「よし、このまま真っすぐ行け。今度はアイカたちを追い越さないように走っていけよ?」


 ユーキが指示するとヒポラングは四足で走り出し、アイカたちの後を追う。ジャンプ力だけでなく、移動速度も予想以上に高いことにユーキは驚き、目を見開きながらヒポラングを見つめる。


「思っていた以上に凄いな。……もしコイツが仲間にすれば、フェスティさんの言うとおり心強い味方になるかもしれない」


 フェスティの言ったことを思い出し、ユーキはヒポラングが仲間になった時のことを考える。どうすれば仲間にすることができるのか気になっていたが、今は出現したベーゼを討伐することが重要であるため、ユーキはベーゼとの戦いのことだけ考えることにした。

 どれ程のベーゼが待ち構えているのか、ユーキは表情を鋭くしながら正門に向かった。


――――――


 モルキンの町の正門の上にある見張り台や城壁の上にある通路では大勢の警備兵が町の外に注目している。見張り台や通路のあちこちに立てられている篝火が周囲を照らしており、町の外も薄っすらとだが確認することができた。


「……こりゃあ、なかなかの厄介な状況だな」

「ああ、まったくだ」


 見張り台の上にいる二人の警備兵は緊迫した表情を浮かべながら町の外を見つめていた。近くにいる他の警備兵や城壁の上にいる警備兵たちも同じような表情で外側を見ている。

 正門から500mほど離れた所に複数の影があり、正門に向かってゆっくりと近づいてくる。ハッキリとは見えないが、近づいて来る影の内、何体かは黒緑のボロボロのフード付きマントを身に付け、手に剣を持った鼠色のミイラのような姿をしていた。


「……おのれぇ、ベーゼどもめ」


 見張り台にいる警備兵の一人が近づいて来るものを睨みながら苛立ちの籠った声を漏らす。この時、モルキンの町の正門に近づいて来ている複数の影こそが大量のベーゼだったのだ。


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