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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
最終章~異世界の勇者~
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第二百六十四話  勝利への希望


「攻略法を見つけたって、本当なの?」


 弱点が無いと思われていた覇者スプレマシーを突破する方法があると聞いたアイカは驚きの表情を浮かべながらユーキに尋ね、ユーキはアイカの方を向くと小さく頷いた。


「アイツの覇者スプレマシーは同族以外の攻撃や敵対行動を無力化するんだろう? それはつまり、フェヴァイングと同じベーゼには一切効果が無いってことだ」

「ああ、ソイツは分かってる。……で、それがどうしたんだよ?」


 フレードはユーキの言いたいことが分からず、分かりやすい説明を求めるように訊き返した。

 アイカもフレードと同じで意味が理解できずに小首を傾げながら考えている。


「ベーゼに効果が無いのならこっちもベーゼの力を使って戦えばいいんですよ」

「だから、それは無理だっつてんだろう! ベーゼは全員フェヴァイングに絶対服従なんだ。ベーゼを仲間に引き込んで戦わせるなんて絶対に無理……」


 若干力の入った声を出しながらフレードはユーキの考えを否定しようとする。するとフレードは何かに気付いたような反応を見せながら喋るのをやめた。そして、しばらく何かを考えるような素振りを見せた後、ユーキを見つめる。


「……そうか、そう言うことか」


 ユーキはフレードの反応を見て自分の言いたいことに気付いたと知り、小さく笑みを浮かべる。

 アイカ、パーシュ、ミスチアの三人はフレードが何に気付いたのか理解できず、不思議そうな顔でフレードを見ていた。

 一方でカムネス、フィラン、ペーヌはフレードと同じようにユーキが考えていることに気付いた反応を見せている。


「あのぉ、いったいどういうことですの? わたくしにも分かるように説明してほしいですわ」

「なぁに? ホントに分からないの? まったく困った馬鹿弟子ね」


 ペーヌが理解できていないミスチアに呆れると小馬鹿にされたミスチアは目を細くしながらペーヌを睨む。

 理解していないアイカたちに分かりやすく説明するため、ペーヌはアイカたちの方を向いて口を開いた。


「いい? 同族以外の攻撃を全て無力化してしまう覇者スプレマシーを突破するにはフェヴァイングと同じベーゼが攻撃しなくてはいけないわ。だけど、人間である私たちにはそれができない」

「んなことは分かってますわ。その覇者スプレマシーを突破できねぇから悩んでるんじゃねぇですか」

「そうね。……だけどこの中には覇者スプレマシーの影響を受けない存在がいるわ」

「影響を受けない?」


 ミスチアは驚くべき言葉を口にするペーヌを見て目を軽く見開き、アイカとパーシュも少し驚きながらペーヌを見ている。


「ええ、ベーゼの力を持ち、フェヴァイングと戦おうと言う意志を持つ存在がね」

「そんな奴がいるのかい? さっきフェヴァイングと戦った時、あたしらは傷一つ負わせることができなかったんだよ? あたしらにはどうすることも……」


 数分前の戦いを思い出しながらパーシュは自分たちには何もできないと語ろうとする。だが途中で何かに気付いてフッと顔を上げ、隣にいるアイカの方を向いた。

 アイカはいきなり自分を見つめるパーシュに対して少し戸惑っているような表情を浮かべながらまばたきをする。

 パーシュの反応を見たペーヌはと小さく笑った。


「そう。ベーゼ化することが可能な存在なら覇者スプレマシーを突破してフェヴァイングにダメージを与えることができるってことよ」

「!」


 ペーヌの言葉に反応したアイカは目を見開き、自分の言葉を話していると気付く。そして、自分だけでなく、同じように半ベーゼ状態であるユーキもその対象だと知ってユーキの方を向いた。

 アイカと目が合ったユーキはアイカを見ながら小さく頷く。ユーキはパーシュたちから覇者スプレマシーの能力を聞かされた時、すぐに自分とアイカがフェヴァイングと戦える存在だと言うことに気付いていた。


(フェスティさんが言っていた俺とアイカがカギっていうのはこういうことだったんだな……)


 決戦直前にフェスティに言われた言葉の意味を理解したユーキは心の中で納得する。

 連合軍の誰もフェヴァイングに傷を負わせることができない状況でベーゼ化することができるユーキとアイカはフェヴァイングと唯一戦える戦士。まさにユーキとアイカが決戦に勝つためのカギと言える存在だった。


「ユーキとアイカならフェヴァイングと戦うことが可能、つまり私たちにはまだベーゼたちに勝てる可能性があるってことだね」

「そう言うことになる」


 カムネスが返事をするとパーシュは希望が見えたと感じたのか明るい表情を浮かべた。

 フレードもユーキとアイカが自分たちを一方的に甚振ったフェヴァイングを倒してくれると考え、ニッと笑っている。ただ、心の中では自分の手で雪辱を晴らせないことに悔しさを感じていた。


「あの~、ユーキ君とアイカさんなら覇者スプレマシーの影響を受けないと皆さんは思っているようですが、本当にお二人なら問題無く戦えるんですの?」


 パーシュたちがフェヴァイングと互角に戦えると思う中、ミスチアが若干不安そうな顔で声を掛けて来た。

 その場にいる全員はミスチアの言葉を聞いて一斉に彼女の方を向く。


「確かにお二人はベーゼの力を使うことが可能ですが、それでも覇者スプレマシーの影響を受けないと言う保証はありませんわ。もしかすると覇者スプレマシーを突破することができないかもしれませんわよ?」

「……それは問題無い」


 不安がるミスチアにフィランが無表情で声を掛け、ミスチアはチラッとフィランに視線を向ける。


「どうしてそう言い切れるんですの?」

「……戦いが始まる直前、ベギアーデはアイカ・サンロードを連れ去ってユーキ・ルナパレスに自分を追って来るよう挑発した。あれは半ベーゼ状態の二人が覇者スプレマシーの影響を受けず、その場にいるとフェヴァイングが不利になると考えたからだと思う」


 フィランは表情を変えずにユーキとアイカを自分たちから引き離した理由を語る。

 話を聞いているミスチアやパーシュたちはフェヴァイングと戦った時の状況、ユーキとアイカのベーゼ化の力を考え、フィランの推測は間違っていないかもしれないと感じていた。


「……フェヴァイングも二人がいると覇者スプレマシーの本当の力を確かめることができないと言っていた。きっとユーキ・ルナパレスとアイカ・サンロードは覇者スプレマシーの影響を受けないと分かっていたからベギアーデに引き離させた」

「だからユーキ君とアイカさんは覇者スプレマシーの影響を受けることは無い、と言うことですの?」

「……ん」


 頷くフィランを見たミスチアは難しそうな顔をする。確かにここまでの情報からユーキとアイカが覇者スプレマシーの影響を受けずに戦えると考えられるだろう。

 しかし、絶対に大丈夫だとは言い切れないため、ミスチアはまだ少し不安を感じていた。


「確かにユーキとアイカが絶対に覇者スプレマシーの影響を受けないとは言い切れない。だけど、私たちよりはフェヴァイングと戦える可能性は高いわ」

「僕たちがどうすることもできない以上、ルナパレスとサンロードにフェヴァイングを何とかしてもらうしかない、ということですね」


 何もできないことに小さな悔しさを感じながらペーヌとカムネスはユーキとアイカに全てを託そうと話し、視線をユーキとアイカに向けた。

 パーシュたちもフェヴァイングを倒せるのはユーキとアイカしかいないと感じて二人を見つめる。


「ユーキ、アイカ、私たちではフェヴァイングを倒すどころか、傷を負わせることすらできない。つまり、貴方たち二人でフェヴァイングと戦ってもらうことになるわ」


 ペーヌは真剣な表情を浮かべながら現状とフェヴァイングに勝つための条件を語り、ユーキとアイカは黙ってペーヌの話を聞いている。


「二人だけにベーゼ大帝の討伐を任せるのは心が痛むけど、今の私たちには貴方たちに頼ることしかできない。……フェヴァイングのこと、任せてもいいかしら?」

「……ハイ、勿論です」


 既にフェヴァイングと戦う覚悟ができているユーキはペーヌを見つめながら返事をする。

 アイカも自分とユーキにしかできないことなのだから引き受けようと思っており、パーシュを見ながら無言で頷いた。

 ユーキとアイカがフェヴァイングの相手を引き受けるとペーヌは真剣な顔のまま二人を見つめ、目で「お願いね」と伝える。

 パーシュたちもユーキとアイカの戦闘技術とベーゼ化した時の力ならフェヴァイングに勝てるはずだと思っていた。


「それじゃあ、砦に向かいましょう。フェヴァイングが転移門を開く前に止めないと」


 ベーゼの大群を呼ばれる前に阻止しなくてはいけないと語るペーヌを見てユーキたちは目を鋭くした。

 現在ユーキたちがいる駐屯所がある広場から転移門が開かれる砦まではそれ程距離は無いため、走れば数分で辿り着くことができる。

 ユーキたちは街道に出るために走って広場の出口へ向かった。


「ところでペーヌさん、正門前で待機してる連合軍の本隊はどうしましょう?」


 ロギュンからの連絡があってから放置し続けている連合軍をどうするか、ユーキは走りながらペーヌに尋ねた。


「私たちはフェヴァイングを止めに行くからもうゾルノヴェラの情報を集めることはできないわ。正門の周辺を探索しながら少しずつ進軍するように伝えて」

「分かりました」


 返事をしたユーキは走りながら自分の腕に嵌められている伝言の腕輪メッセージリングを起動させて本隊に連絡を入れる。

 ゾルノヴェラの情報を得られなかったため、連合軍はゾルノヴェラの構造やベーゼの数、配置場所といった情報を集めることができない。情報が無い以上、慎重に進軍するしかないため、連合軍の本隊には無理をしないよう伝えておく必要があった。

 フェヴァイングを倒すまでの間、本隊が無事であることを祈りながらユーキたちはゾルノヴェラの中央にある砦を目指した。


――――――


 街道に入ったユーキたちは全速力で走り、道を間違えることなく最短ルートを通って砦に向かう。当然ユーキたちの前には行く手を阻むために大勢のベーゼが現れて襲い掛かってきた。

 ベーゼたちにとってゾルノヴェラの中央にある砦はとても重要な場所であるため、本能でそれを知っているベーゼたちはユーキたちを砦に近づかせまいと全力で阻止しようとする。

 ユーキたちは邪魔をするベーゼたちを次々と倒していき、少しずつ目的地に近づいて行く。そして、数分間全力で走ったユーキたちは砦がある大きな広場に出た。

 広場はユーキたちが今まで足を踏み入れた広場よりも大きく、ゾルノヴェラの何処にでも行けるよう街道への出入口が幾つもあった。

 中央には少しボロボロだが周りの建物とは雰囲気や大きさが違う城のような形の建物がある。それこそが三十年前にベーゼの世界に繋がる転移門が開かれた魔法陣がある砦だった。


「あれが魔法陣のある砦か……」

「三十年前はあの砦の一階にある大広間で転移門が開かれ、そこから大量のベーゼがこっちの世界にやって来たわ」

「じゃあ、そこに転移門を開くための魔法陣もあるんですね?」

「恐らくね」


 ユーキの問いにペーヌは砦を見つめながら返事をする。フェヴァイングがいつ転移門を開くか分からない以上、少しでも急がないといけないと考えるユーキは目を鋭くしながら砦も見つめた。


「皆さん、急いで砦に向かいましょう!」

「待ちな、アイカ」


 砦に向かおうとするアイカをパーシュが呼び止め、アイカは足を止めて不思議そうにパーシュの方を向く。

 パーシュはアイカが自分の方を向くと無言で砦の方を指差し、アイカやユーキたちは砦を確認した。

 ユーキたちの視線の先には砦の壁に開けられた大きな穴があり、その穴から大量のベーゼが隊列を組みながら姿を現した。

 砦から出てきたのは頭部に四つの鋭い赤い目だけが付いた身長180cmほどの人型のベーゼで右手には細長く黒いサーベルが握られ、左腕には黒いバックラーのような盾が付いている。それは中位ベーゼの中でも最強と言われているアルティービの大群だった。


「あれは、アルティービ!」


 ユーキはバウダリーの町で戦った中位ベーゼが大量に現れたのを見て驚くと同時に警戒心を強くする。

 アイカたちもここに来て最強の中位ベーゼが大量に現れたため表情を鋭くしながら身構えた。


「よりにもよってアルティービが出てくるとはねぇ。しかもあんなに沢山……」

「フェヴァイングは僕らが転移門を開くのを阻止しにやって来ること、覇者スプレマシーの影響を受けないルナパレスとサンロードが自分を倒しに来ると言うことを確信していたのだろう。だからこそ、手元の戦力でも最強であるアルティービの部隊を迎撃に向かわせたんだ」

「ケッ、流石は用心深いベーゼ大帝様だぜ!」


 フェヴァイングの周到さにフレードは苛立ちを露わにし、パーシュとカムネスもフェヴァイングとの戦闘前にアルティービが現れたことを厄介に思う。


「……数は四十前後、ある意味で上位ベーゼを相手にするよりも厄介」

「どうしますの、馬鹿師匠?」


 フィランがアルティービの数を確認する横でミスチアがペーヌにどう動くか尋ねる。

 ペーヌは砦の前で隊列を組みながら自分たちの方へ近づいて来るアルティービを無言で見つめ、しばらくするとアルティービたちを見つめながら口を開く。


「ユーキ、アイカ、私たちがアルティービたちを攻撃して道を開くわ。その隙に貴方たちは砦に突入して」

「えっ? 俺とアイカがですか?」


 ペーヌの提案にユーキは少し驚きながら確認し、アイカも意外そうな顔でペーヌの方を向く。


「あのアルティービたちはきっと私たちを砦に入れさせないための妨害ってだけじゃないわ。万が一砦に入られてもフェヴァイングが戦闘で有利に戦えるよう私たちの体力を削ぐための存在よ」


 妨害だけでなく戦いで勝つための保険としてアルティービたちを差し向けたと知ったユーキはフェヴァイングの狡猾さに目を僅かに鋭くした。


「ここで全員でアルティービたちと戦って砦に突入するよりは貴方とアイカが先に行き、残った私たちがアルティービの相手をした方がいいわ」

「で、ですがそれではペーヌさんたちが……」


 既にフェヴァイングとの戦闘で体力を消耗しているペーヌやパーシュたちに上位ベーゼに匹敵するアルティービの相手をさせるのは心苦しいのかアイカは少し不安そうな顔をする。しかもアルティービは四十体近くいるため、いくらペーヌたちでも危険だと感じていた。


「私たちなら大丈夫よ。あんな奴ら、ちゃっちゃと片付けて後を追うから」

「そうそう。それに忘れたのかい? フェヴァイングとまともに戦うことができるのはアンタたち二人だけなんだよ?」

「ここでアルティービの相手をさせ、君たちの体力を消耗させるわけにはいかない。それではフェヴァイングの思う壺だ」


 ペーヌに続いてパーシュとカムネスもユーキとアイカに先に砦に入るよう説得する。


「お前らが心配するほど俺らは傷ついちゃいねぇ。余計なことは考えねぇで先に行け」

「お二人はご自分のやるべきことだけを考えてください」

「……問題無い」


 フレード、ミスチア、フィランもアルティービの相手を引き受けることを伝えながら得物を構える。

 ユーキとアイカはパーシュたちが自分たちにフェヴァイングの討伐を託してくれたこと、自分たちを信じていることを感じ取ると無言で考え込む。

 しばらくするとユーキとアイカは決意を固めたような顔をしながらお互いを見合い、パーシュたちの方を向き直した。


「分かりました。ここはお願いします」

「皆さん、無理だけはしないでくださいね?」


 ユーキとアイカの返事を聞いてパーシュとフレード、ミスチアは小さく笑い、フィランもよく見ないと分からないが小さく笑っている。カムネスとペーヌは真剣な表情を浮かべながらフウガとウォーハンマーを構えた。


「それじゃあ、行くわよ!」


 ペーヌは大きな声でユーキたちに声を掛け、ユーキたちも一斉に身構える。その直後、ペーヌはアルティービたちに向かって走り出し、ユーキたちもそれに続いた。

 アルティービたちは全速力で自分たちに向かって来るユーキたちを見ると赤い目を光らせ、最前列にいるアルティービたちは右手に持っているサーベルの剣身に青く光り黒煙を纏わせた。

 サーベルの黒炎を見たパーシュはアルティービたちが何か仕掛けてくると直感して走りながら左手をアルティービたちに向けて伸ばし、混沌紋を光らせて爆破バーストを発動させる。


火球ファイヤーボール!」


 パーシュは左手からアルティービたちに向けて三つの火球を放った。

 アルティービたちは飛んでくる火球を見るとサーベルを勢いよく振り、剣身に纏われていた黒炎を球状にして火球に向けて放つ。その数は六つで全て勢いよくパーシュの火球に向かって行った。

 火球と黒炎は双方のほぼ中央でぶつかって爆発し、爆炎によって火球とぶつからなかった黒炎も全て爆発して周囲に砂煙と熱風を広げた。

 砂煙と熱風を受けてアルティービたちは僅かに体勢を崩す。正面は広がった砂煙で見えなくなっており、アルティービたちは態勢を整えて周囲を警戒する。その時、砂煙の中からフレード、カムネス、ペーヌが飛び出して正面にいるアルティービたちに攻撃した。

 フレードは刃に沿って水を高速回転させているリヴァイクスで袈裟切りを放ち、カムネスはフウガを素早く抜いて居合切りを放つ。そしてペーヌはウォーハンマーを勢いよく振り下ろして攻撃した。

 三人の前にいた三体のアルティービは左腕の盾でフレードたちの攻撃を全て防いだ。

 攻撃を防がれたのを見たフレードたちは驚いたりせず、鋭い目でアルティービたちを睨む。そんな時、フレードたちの攻撃を防いだアルティービとは別のアルティービたちが三人の左右に回り込み、サーベルで斬りかかろうとする。

 アルティービたちがフレードたちに反撃しようとした時、パーシュ、フィラン、ミスチアがアルティービの背後に回り込んで得物で攻撃した。

 パーシュたちの奇襲に気付いたアルティービたちは素早く振り返り、サーベルや盾で攻撃を防いだ。


「チィ! 流石は最強の中位ベーゼ、不意を突いても防がれちまうか」


 予想以上の反応速度にパーシュは不服そうな顔をする。しかしパーシュたちは攻撃が通用しないからと言って感情的になったりせず、冷静にアルティービの動きを分析しながら相手をした。

 パーシュたちが攻撃を仕掛けたことで隊列を組んでいたアルティービたちは一斉に動き出し、パーシュたちを取り囲もうとした。

 するとアルティービたちの頭上を何かが通過し、アルティービたちは上を向いて確認する。そこにはアイカを抱きかかえるユーキがアルティービたちの頭上を跳び越える姿があった。

 ユーキはパーシュたちが攻撃を仕掛けてアルティービたちの気を引いている隙に砦に近づくことにし、強化ブーストで自身の脚力を強化した状態でアイカを抱き上げてアルティービたちの真上を通過したのだ。

 結果、ユーキとアイカは攻撃されることなくアルティービたちの防衛を突破することに成功した。

 アルティービたちの頭上を通過し、後方に着地したユーキはアイカを下ろすと鞘に納めてある月下と月影を抜き、アイカもプラジュとスピキュを抜く。

 振り返ってアルティービたちと交戦するパーシュたちを見たユーキとアイカは「死なないでください」と目で伝えてからアルティービたちが出てきた穴から砦の中に侵入した。

 ユーキとアイカが砦に侵入したのを見たアルティービたちはユーキとアイカを止めるために二人の後を追おうとする。だがパーシュたちはアルティービたちの間を通って穴の方へ走り、穴の前までやって来るとアルティービたちの方を向いて得物を構えた。


「悪いけど、此処から先は行かせないよ!」

「アイツらにはテメェらのボスを倒すって言う重要な役目があるんでなぁ!」

「貴方たちには此処でわたくしたちのお相手をしてもらいますわ」


 パーシュ、フレード、ミスチアはユーキとアイカの後は追わせないことを伝えながら足を軽く曲げたり、得物を握る手に力を入れた。

 アルティービたちはパーシュたちが自分たちの邪魔をしようとしていると気付くと四つの目を赤く光らせながらサーベルを構える。その姿はまるで邪魔をするパーシュたちに怒りを感じているようだった。


(……さ~て、コイツら相手にどこまで持つかしらねぇ)


 ウォーハンマーを構えるペーヌは心の中で呟きながら目の前にいるアルティービたちを見つめる。

 いつものペーヌやパーシュたちなら中位ベーゼの大群が相手でも負けたり苦戦を強いられることは無いだろう。だが今はフェヴァイングとの戦闘で体力を消耗しており、長時間戦える状態ではない。

 増してや敵は全て最強の中位ベーゼであるアルティービなので問題無く勝てるとは言えない状況だった。

 ペーヌは構えを崩さずに視線だけを動かして右隣に立つカムネスを見る。カムネスはフウガを納刀し、いつでも居合切りを放てる体勢を取っていた。


「ユーキとアイカには大丈夫だって言ったけど、これは下手をすれば死ぬかもしれないわね」

「僕らにとって都合の悪い条件が揃ってますからね。仕方がありません」

「そうね。……でも、どんなに厳しい状況だとしても、やるしかないわ」


 ペーヌはアルティービたちの動きを警戒しながら足の位置を変えて動きやすい体勢を取る。


「コイツらを何とかしないとユーキとアイカはフェヴァイングだけでなく、コイツらまで相手にすることになってしまう。そうなったらベーゼの力を解放したあの子たちでやられちゃうわ」

「ルナパレスとサンロードがフェヴァイングと互角に戦えるようにするためにも僕らが彼らを引きつけておかなければならない、と言うことですね」

「ええ。……それに私たちは二人にフェヴァイングの相手を押し付けちゃったんだから、多少キツイ状況でも我慢して戦わないとね」


 小さく笑いながら語るペーヌを見たカムネスはつられるように小さく笑った。

 カムネスとペーヌが喋っているとアルティービたちが動き出し、ゆっくりとカムネスたちとの距離を縮めてくる。

 アルティービたちが動いたことに気付いたカムネスは真剣な表情を浮かべながらフウガの鯉口を切った。


「ルナパレスとサンロードがフェヴァイングを倒すまでの間、僕らはアルティービたちの足止めをする。彼らを行かせたらベーゼの力を使いこなす二人でも勝ち目は無い。一体も砦に入れるな!」


 珍しく力の入った声で指示を出すカムネスにパーシュたちは意外そうな顔をする。

 普段冷静なカムネスが力の入った声を出したことで彼もいつも以上に気合いを入れていると感じたパーシュとフレードはニッと笑い、自分たちも負けてられないと感じながら剣を握った。

 カムネスが指示を出した直後、アルティービたちは一斉にカムネスたちに向かって走り出す。中には突撃せず、距離を取ってサーベルに黒炎を纏わせるアルティービたちもおり、遠近の両方から攻撃を仕掛けようとしている。

 この世界を護るため、そしてユーキとアイカがフェヴァイングと全力で戦えるようにするためにも死守してみせる。そう思いながらパーシュたちはアルティービたちの迎撃に入った。


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