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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
最終章~異世界の勇者~
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第二百十七話  惨劇の始まり


 スローネの隣で作業をしていた生徒会の男子生徒たちは何が起きたのかすぐには理解できなかった。だが、倒れるスローネと剣を抜いているアトニイを見てアトニイがスローネを後ろから襲ったのだと知り、佩している剣に手を掛ける。


「ラヒート、これは何の真似だ!?」

「いきなり教師を背後から斬るなんて、頭がイカれたか!?」


 後輩の予想外の行動に驚きながら男子生徒たちはアトニイを睨む。アトニイは男子生徒たちを見ると不敵な笑みを浮かべたまま剣を振って剣身に付着している血を払い落とした。


「私はいたって平常だ。スローネを斬ったのも目的地である結界陣に辿り着いて用済みとなったからだ」


 低めの声で語るアトニイを見た男子生徒たちは軽い寒気を感じて後ろに下がる。

 目の前にいるアトニイは明らかに先程までと雰囲気が違う。明らかな敵意と殺意が感じられ、男子生徒たちはアトニイを危険視していた。


「何でこんなことをしたかは分からないが、お前が見過ごせないことをやらかしたのは確かだ!」

「ラヒート、お前を教員傷害の容疑者として拘束する!」


 生徒会のメンバーとしてメルディエズ学園の人間に害をなしたアトニイを捕らえようと男子生徒たちは剣を抜いて構える。アトニイは構えた男子生徒たちを見ると小さく鼻を鳴らす。


「……やめておけ」


 見下す笑みを浮かべるアトニイは床を強く蹴り、一瞬にして男子生徒たちの背後に移動した。その直後、男子生徒たちの体に大きな切傷が生まれ、傷口から鮮血が噴き出す。アトニイはもの凄い速さで男子生徒たちの横を通過し、その時に男子生徒たちを斬っていたのだ。

 男子生徒たちは自分たちの身に何が起きたのか理解できず、崩れるようにその場に倒れる。アトニイの攻撃で致命傷を負った男子生徒たちはそのまま動かなくなった。


「お前たちでは私に勝つことは愚か、傷をつけることすらできん」


 息絶えた男子生徒たちを見下ろしながらアトニイは届くことの無い言葉を口にする。

 男子生徒たちを始末したアトニイは倒れたままのスローネを興味の無さそうな顔で見ると一番近くにある石柱に近づいて見上げた。


「四本の内、一本でも魔力を送るのを止めてしまうと結界が消えるのだったな」


 スローネが言っていたことを思い出すアトニイは剣を強く握りながらゆっくりと振り上げ、目の前の石柱に袈裟切りを放つ。

 アトニイにの攻撃で石柱は大きな音を立てながら鈍器で砕かれたように破壊される。すると彫られていたルーン文字から光が消えた。

 石柱のルーン文字の光が消えたのは結界陣に送られていた魔力が止まったことを意味しており、送られた魔力が止まったことで結界陣の光も消える。

 他の石柱からは魔力が送られ続けているが、三本だけでは結界を張るだけの魔力を送ることができず、結界陣が光り出すことは無かった。

 アトニイは結界陣の光が消えたことでメルディエズ学園とバウダリーの町を囲んでいる結界も消えたと確信して再び不敵な笑みを浮かべる。


「これで準備は整った。……メルディエズ学園を壊滅させる時が来た」


 メルディエズ学園の生徒とは思えない言葉を口にしながらアトニイは出入口の方へ歩き出し、倒れるスローネと男子生徒たちをそのままにして部屋を後にした。


――――――


 バウダリーの町の商業区の街道には幾つもので店が並んでおり、大勢の住民たちが店の前で商品を買ったり眺めたりしていた。

 住民たちの中でユーキはブローチやペンダントなどを扱う出店の前に立って難しい顔をしている。その後ろではウェンフとグラトンがユーキを黙って見つめていた。

 メルディエズ学園を出たユーキはアイカの誕生日プレゼントを何にするか考えながら商業区に移動した。どんな物をプレゼントするか悩んだ末、ユーキは少し高めの宝飾装身具をプレゼントすることを決め、扱っている出店の前に来て今に至る。


「先生、決まりましたか?」

「もうちょっと待ってくれ」


 後ろで待っているウェンフに声を掛けたユーキは目の前に並べられている商品を見ながらどれにするか考える。

 ウェンフはなかなか決めずに時間を掛けるユーキを困ったような顔で見つており、グラトンはその隣で座りながら欠伸をしていた。


「……よし、これにしよう」


 ユーキは目の前にある小さな木箱に入った金色の腕輪を手に取り、店主に代金を渡してウェンフとグラトンの下へ向かった。


「おまたせ」

「遅いですよぉ。私もプレゼントを選ばないといけないのに~」

「ごめんごめん」


 小さく頬を膨らませるウェンフにユーキは苦笑いを浮かべながら謝罪する。


「それで、お前は何を買うんだ?」

「私はお金があまりないから花束にしようかなって思ってます」

「そうか、それじゃあ一番近くの花屋に行って……」


 ユーキがウェンフと今後の予定について話そうとしていると右の方から爆発音のような音と住民の叫び声が聞こえ、音と声を聞いたユーキとウェンフはフッと反応する。


「何だ?」

「休憩場の広場の方から聞こえてきましたよ」


 街中で何か問題が起きたと確信していたユーキとウェンフは走って音が聞こえた広場へ向かい、グラトンも二人の後を追うように走った。

 住民たちの間を移動しながらユーキたちは商業区の中にある休憩場の広場に辿り着く。広場では住民たちが隅に移動して緊迫した表情を浮かべながら広場の中央を見ている姿がユーキたちに目に入った。その光景はまるで広場に危険生物が侵入し、襲われないように距離を取っているようだ。

 ユーキとウェンフは周りの様子を気にしながら広場にいる住民たちが見ている方角を確認する。広場の中央では床の一部が破壊され、すぐ近くには身長180cmほどの人型の生物が立っていた。ただ、人型ではあるが人間ではない。

 頭部には鼻も口も耳も無く、四つの鋭い赤い目だけが付いており、強靭な肉体は舛花ますはな色で両手と両前腕部、両足と両下腿部が江戸紫色になっている。そして右手には黒いサーベル状の剣が握られ、左腕にはバックラーのような黒く丸い盾が装備されていた。


「あれってモンスター? どうした街の中に……」

「……いや、違う」


 低い声を出してユーキがモンスターであることを否定し、ウェンフはユーキの方を向く。ユーキは大きく目を見開きながら人型の生物を見ており、ウェンフもユーキの顔を見て驚きの表情を浮かべる。


「あれは、ベーゼだ」

「えっ?」


 ユーキの口から出た言葉にウェンフは耳を疑う。当然だ、バウダリーの町はメルディエズ学園と同じようにベーゼが近づけないよう結界で護られている。それなのに結界で護られた町の中にベーゼがいると言うのだから驚かない方がおかしい。


「あれって、ベーゼなんですか?」

「ああ、中位ベーゼのアルティービだ」

「だ、だけど、この町は結界で護られているからベーゼは町に近づくことすらできないはずでしょう? どうして町の中に……」

「分からない。だけど、実際にベーゼがバウダリーに侵入している」


 広場の中央にいるアルティービを見つめながらユーキは腰の月下と月影に手を掛け、ゆっくりと広場に入っていく。

 ウェンフはユーキの姿を見て目の前のアルティービと戦おうとしていると知ると自分も一緒に戦うべきだと思い、腰の剣を握っていつでも抜ける状態にした。

 アルティービを見て怯えていた住民たちはユーキとウェンフの姿を見て、メルディエズ学園の生徒が駆けつけてくれたと知って安堵の表情を浮かべる。

 早く目の前にいるベーゼを倒してほしい、住民たちはそう心の中で祈りながらユーキとウェンフを見つめた。


(いったいどうなってるんだ? バウダリーは学園と同じように結界が張られているからベーゼは侵入どころか学園とバウダリーに近づくことすらできないはずだ。なのにどうして奴は町の中にいる?)


 ユーキはアルティービを警戒しながらどうしてバウダリーの町に侵入できたのか考える。アルティービを見た直後は突然の出来事に混乱して分からなかったが、落ち着きを取り戻すとすぐに考えられる理由に気付く。


(結界が張られているバウダリーにベーゼが侵入している、一番可能性としてあり得るのは結界が機能していないってことだ。だけど、もしそうだとしたらどうして結界が機能しなくなってるんだ?)


 結界を張る結界陣を管理しているのはメルディエズ学園であるため、ユーキは学園で何か問題が起きたのではと予想する。しかし今はアルティービが侵入していること以外は何も分からないため、まずは目の前にいるアルティービを倒すことに集中することにした。

 ユーキはアルティービの数m前まで近づくと月下と月影を抜いて構え、ウェンフも剣を抜いて中段構えを取る。グラトンは二人の後ろで四足歩行状態のままアルティービを睨み、小さく唸り声を出した。

 アルティービは近づいて来たユーキたちに気付くと彼らの方を向いて右手のサーベルを前に出す。

 戦闘態勢に入ったアルティービを見るとユーキは軽く膝を曲げてすぐに移動できる態勢を取った。


「ウェンフ、気を付けろ? 情報ではあのアルティービは中位ベーゼの中でも特に強く、上位ベーゼに匹敵する力を持ってるらしい」

「えっ、上位ベーゼに匹敵!?」


 目の前の敵が予想していた以上に手強い相手だと聞かされたウェンフは訊き返し、ユーキも微量の汗を流しながら頷く。


「……ただ学園が作られてから生徒がアルティービと接触した回数は少なく、戦い方や生態と言った詳しい情報は無い。だから上位ベーゼに匹敵するって話も本当かどうか分からない」

「そ、そうなんですか……」

「だけど、本当かどうが分からないからと言って油断はできない。俺も今回初めて戦うから、間違い無く苦戦を強いられるだろうな」


 未知の敵ほど厄介な存在はいない、そう感じながらユーキはアルティービを睨み、月下と月影を強く握る。ウェンフも息を飲みながらアルティービの動きを警戒し、イザとなったらすぐに雷電サンダーボルトが使えるようにした。

 住民たちが見守る中、ユーキとウェンフはそのように戦うか考える。そんな時、二人の数km後方で大きな爆発が起き、爆発音はユーキたちのいる広場にまで届いた。


「何だ!?」


 アルティービの出現に続き、大きな爆発が起きたことに驚くユーキは思わず振り返り、ウェンフや広場にいた住民たちも爆発が起きた方を向いた。


「お、おい! メルディエズ学園の方で何か爆発が起きたみてぇだぞ!」


 街道から広場に入ってきた住民の男が慌てた様子で近くにいる他の住民たちに声を掛け、話を聞いた住民たちはざわつき出す。

 ただでさえベーゼが街中に現れて大変なのにそんな状況で更に問題が起きたため、広場にいた住民の多くは混乱しかかっていた。


「学園で爆発が起きたって……先生、どうなってるんですか!?」

「分からない。だけど、バウダリーにアルティービが侵入し、更に学園で爆発が起きた。偶然とは思えない」


 周りにいる住民たちがざわつく中でユーキは冷静に状況を分析し、誰かが仕組んだことではないかと推測する。

 誰かの仕業だとして、いったい誰がこんなことをしたのかユーキは小さく俯きながら考える。その時、アルティービがもの凄い速さで正面からユーキに近づき、持っているサーベルを振り下ろして攻撃してきた。

 アルティービに気付いたユーキは目を見開き、咄嗟に月下と月影を交差させてアルティービのサーベルを防いだ。


「先生っ!」


 攻撃されたユーキを見てウェンフは思わず叫ぶ。ユーキは両腕に力を入れ、奥歯を噛みしめながらアルティービのサーベルを防ぎ続ける。


「……ウェンフ、コイツは俺が何とかする。お前は急いで学園に戻れ!」

「えっ! で、でも、先生一人じゃ……」


 情報が殆ど無いアルティービの相手をユーキ一人に任せるのは危険だと感じるウェンフはユーキと共にアルティービと戦おうと思い、持っている剣を構え直す。

 ユーキはウェンフが一緒に戦おうとしていることに気付くとアルティービの攻撃を防いだまま視線を動かしてウェンフを見る。


「ウェンフ、アルティービが現れたことや学園で起きた爆発が偶然じゃないとすると、誰かが仕組んだ可能性がある。もし本当に誰かが仕組んだことなら学園で更に問題が起きるはずだ。そうなったら問題を解決するために一人でも多くの生徒が必要になる。お前は学園で問題が起きたらすぐに対処できるよう急いで帰るんだ!」

「で、でも!」

「俺なら大丈夫だっ!」


 強化ブーストを発動して両腕の腕力を強化したユーキは止めていたアルティービのサーベルを押し上げる。

 サーベルを押し戻されたアルティービは大きく後ろに跳んでユーキから距離を取り、サーベルを構え直してユーキの動きを窺う。ユーキも月下と月影で双月の構えを取り、アルティービの次の攻撃を警戒した。


「コイツを片付けたら俺もすぐに学園へ行く。だから早く行け!」

「……分かりました!」


 自分を頼ってくれているユーキの期待に応えるため、ウェンフは言われたとおり学園に戻ることにする。素直に自分の指示に従ってくれたウェンフを見てユーキは小さく笑った。


「グラトン、お前もウェンフと一緒に学園に戻れ。問題が起きたらウェンフやアイカたちの言うとおりにするんだぞ?」

「ブゥ~~」


 グラトンは返事をするような鳴き声を上げ、ユーキはグラトンの反応を見るとアルティービの方を向いた。

 ウェンフは剣を鞘に納めるとグラトンの背中に乗り、グラトンはウェンフが乗るとメルディエズ学園に戻るために勢いよく街道を走っていた。

 広場にいた住民たちは走り去るグラトンとその背中に乗るウェンフを驚きながら見つめる。そこへ騒ぎを聞きつけたバウダリーの町の警備兵たちがやって来た。

 警備兵たちは広場にいる住民たちと中央で向かい合うユーキとアルティービを見て状況を把握し、広場にいる住民たちに避難するよう指示を出す。住民たちも連続で問題が起きたため、流石に避難した方がいいと悟って素直に警備兵の指示に従った。


「広場から住民たちが避難し始めたか。これで周りを気にせずに戦える」


 住民が巻き込まれないよう気を付けながら戦う必要が無いと知ったユーキは少しだけ気持ちが楽になり、目の前にいるアルティービと全力で戦えると感じていた。


「こっちは急いで学園に戻って何が起きたのか確かめないといけないんだ。ちゃっちゃと片付けさせてもらうぞ!」


 ユーキがアルティービを挑発するような言葉を口にすると、距離を取っていたアルティービが再びユーキに向かって走り出す。距離を詰めて来るアルティービを見たユーキは迎え撃つために同じようにアルティービに向かって走る。

 相手が自分の間合いに入った瞬間、ユーキは月影で、アルティービはサーベルで袈裟切りを放つ。月影とサーベルがぶつかった瞬間、広場に剣戟の音が大きく響いた。


――――――


 メルディエズ学園の北西では薬草庭園などで使われる道具や肥料、苗などを保管されている木製の倉庫が爆発して燃えており、近くにいた数人の生徒が爆発に気付いて集まっていた。

 なぜ爆発する原因の無い倉庫で爆発が起きたのか分からず集まっている生徒たちが困惑している。


「いったい何が起きたんだ?」

「分からない。いきなり倉庫が爆発して火が上がったんだ」


 燃える倉庫を見つめながら二人の男子生徒が爆発が起きた原因を考える。するとそこへ騒ぎを聞きつけたフレードとジェリックがやって来た。


「おい、こりゃあどうなってやがるんだ!?」

「あぁ、ディープス先輩。……それが俺たちも分からないんです。近くを歩いていたら突然小屋が……」


 フレードに状況を説明した生徒は倉庫の方を向き、フレードも面倒そうな顔をしながら燃えている倉庫を見つめる。


「どっかの馬鹿が近くで炎属性の魔法の練習でもしてて、それが倉庫に当たっちまったんじゃねぇのか?」

「それは無いと思います。倉庫の近くで魔法を使っていた生徒は一人もいませんでしたから。そもそも、正当な理由も無く訓練場以外の場所で魔法を使うことが禁じられていますし、倉庫を吹き飛ばすほどの威力があるとは思えません」

「じゃあ、何が原因でこうなっちまたんだよ!」


 原因が分からずに苛ついているのかフレードは強い口調で目撃者の男子生徒に問い掛ける。男子生徒はフレードの迫力に驚きながら「さぁ?」と分からない素振そぶりを見せた。


「フレードさん、とりあえず倉庫の火を消した方がいいんじゃないスか?」


 ジェリックは燃えている倉庫をそのままにしておくのはマズいと感じ、フレードに消火することを進言する。ジェリックの言葉を聞いたフレードは冷静さを取り戻して燃えている倉庫とその周りを確認した。

 燃えている倉庫の周りには同じように道具などを保管しておく小屋が幾つもあり、火が燃え移ってもおかしくない状態だった。

 フレードは倉庫と小屋の間隔からこのままでは被害が酷くなると感じ、ジェリックの言うとおり消火を優先しようと考える。


「水属性の魔法が使える奴は協力しろ! 魔法で倉庫の火を消すんだ!」


 周りにいる生徒たちに声を掛けたフレードは右手を燃えている倉庫に向け、右手から水撃ちアクアシュートを放つ。周りでも水属性魔法が使える生徒はフレードと同じように水撃ちアクアシュートを燃える倉庫に向かって放った。

 フレードたちが放った水球は燃える倉庫に命中して火を消す。撃たれた水球の数が多かったため、火は周りの小屋に燃え移る前に消化された。

 火が消えるとフレードは煙を上げる倉庫に近づき、改めて爆発した原因を調べる。フレードは倉庫の扉を開け、中がどんな状態なのかを確かめた。

 爆発によって中に保管されていた物は全て破壊、もしくは燃え尽きてしまっているため、倉庫の中の物に爆発の原因があるかどうか確かめることはできなかった。


「中のモンは全部ぶっ壊れてやがる。これじゃあ何が原因で爆発したのか分からねぇ」

「これは生徒会か先生たちに調べてもらうしかないっスね」


 同じように倉庫の中を確認するジェリックは自分たちには何もできないことをフレードに伝え、フレードも状況から生徒会や教師に頼むのが一番だと考えていた。


「調べても分からねぇなら、これ以上俺らが此処にいる理由もねぇな。あとは生徒会の連中に任せて俺らは退散するぞ」

「ハイ」


 自分たちにできることは無いと感じたジェリックはフレードの提案に賛成する。周りの生徒たちも調査は生徒会と教師に任せるべきだと思っていた。

 だが生徒の中にはあとからやって来る者たちに状況を説明しようと考えている者もおり、移動せずに生徒会と教師が来るのを待つことにした。


「さ~てと、俺は訓練場に行って剣の練習でもすっか」

「悪いが、お前には此処に残ってもらうぜ?」


 突然聞こえて来た男の声はフレードは目を見開き、ジェリックや他の生徒たちも声を聞いて反応する。

 初めて聞く声にフレードは警戒を強めて周囲を見回す。すると燃えていない小屋の陰から一人の男が現れた。

 三十代後半で身長が180cmほどで逆立った栗梅くりうめ色の髪を持ち、深緑の長袖長ズボン姿で銀色の鎧に二本の剣を腰の左右に一本ずつ装備した男。ガルゼム帝国の将軍、アイビーツ・クリクトンだった。

 フレードたちは突然現れた男を見てより警戒心を強くした。雰囲気と格好からメルディエズ学園の関係者でないことは間違い無いと考え、フレードは男を見つめながらそっと腰のリヴァイクスに手を掛ける。


「何だアンタは? 見たことねぇ顔だな?」

「おいおい、俺のことを知らねぇのか? 自分で言うのも難だがこれでも有名人なんだぜ」


 アイビーツはフレードの問いに答えずに笑いながら語り、フレードはヘラヘラする目の前の男を見て軽く苛ついた。


「……っ! フレードさん、この男アイビーツ・クリクトンっスよ」


 ジェリックの言葉を聞いたフレードは視線だけを動かしてジェリックを見る。


「アイビーツ・クリクトン? あのガルゼムの将軍のアイビーツ・クリクトンか?」

「ハイ、以前依頼で帝都に行った時に街に出ていたのをチラッと見たことがありますから」


 間違い無いことを伝えながらジェリックはアイビーツを見つめる。フレードや周りの生徒たちは実際に目撃したジェリックが言うのなら間違い無く本物の帝国将軍だと感じていた。


「ハハハハッ、メルディエズ学園の中にもちゃんと俺を知ってる奴がいてくれたか。嬉しいねぇ」

「……で、その帝国の将軍様が何でこんな所にいるんだ? と言うか、俺に残ってもらうと言ってたが、ありゃあどういう意味なんだ?」


 鋭い目で睨みながらフレードはアイビーツに尋ねる。倉庫が爆発した直後にガルゼム帝国の将軍が現れたため、倉庫の爆発に関わりがあるとフレードは確信していた。

 フレードが見つめる中、アイビーツは笑いながら両手をフレードたちに見せる。


「一つずつ答えてやるよ。まず、俺が此処にいる理由だが……」


 アイビーツは説明している途中で口を閉じ、両手の中に紫の光球を作り出し、フレードはアイビーツが光球を作り出すのを見て目を見開く。その直後、アイビーツは両手の光球をフレードの近くにいる二人の男子生徒向けて一発ずつ放ち、男子生徒たちの頭部に命中させた。

 光球は男子生徒たちに当たると爆発して顔面を吹き飛ばす。顔に致命傷を負った男子生徒たちは声を上げる間もなく仰向けに倒れて動かなくなった。

 フレードやジェリックたちは殺された仲間の姿を見て驚愕する。


「俺はメルディエズ学園を襲撃するためにやって来た」

「!!」


 敵意があることを口にしたアイビーツを睨みながらフレードはリヴァイクスを抜いて構え、ジェリックや周りの生徒たちも持っている剣や槍、杖などを一斉に構える。

 アイビーツが光球で攻撃したのを見たフレードたちは倉庫の爆発はアイビーツの仕業で、光球で倉庫を破壊したに違いないと考えていた。


「テメェ、どういうつもりだ!? 何で帝国がメルディエズ学園を襲撃するんだよ!」

「おっと、勘違いするな? 俺は帝国の命令で動いてるわけじゃねぇ。帝国は一切関係ねぇよ」

「ああぁ? じゃあテメェの独断ってことかよ!」

「それも違う。俺は俺の本当のボスの命令で動いてるんだ」

「どういうことだ。分かりやすいようにハッキリ言いやがれ!」


 フレードはアイビーツに目的を吐かせようと声を上げる。仲間の生徒が二人も殺されており、フレードはアイビーツに強い怒りを感じていた。


「その問いに答える前に二つ目の質問に答えてやる。……俺がお前を呼び止めた理由、それは……」


 アイビーツは不敵な笑みを浮かべると両手で腰の二本の剣を同時に抜き、もの凄い速さで振る。するとアイビーツの剣から小さな青白い斬撃が無数に放たれ、フレードとジェリック以外の生徒全員に命中して体に大きな切傷が付けた。

 生徒たちはいつの間にか自分たちが斬られていたことに驚きながらその場に崩れるように倒れる。生徒たちが倒れた直後、辺りは血で真っ赤に染まり、フレードとジェリックは表情を歪ませた。


「お前を殺すためだよ」


 アイビーツは不敵な笑みを浮かべたまま両手に持つ剣を構え、フレードはアイビーツから殺気を感じながらリヴァイクスを握る手に力を入れ、ジェリックも大量の汗を流す。


「おい、ジェリック。お前はこのことをカムネスたちに伝えてこい」

「えっ?」

「帝国の将軍が襲撃してきたんだ。もしかすると帝国の兵士が他にも侵入している可能性もしれねぇ。カムネスたちに伝えて学園中を調べさせろ。その間、俺はコイツを片付ける」

「わ、分かりました!」


 現状を生徒会に伝えるため、ジェリックは走って校舎へ向かう。危機的状況であるのは間違い無いため、ジェリックは全速力で走った。


「俺を片付ける? もしかして俺に勝つつもりでいるのか?」


 アイビーツは残ったフレードを見つめながら挑発的な態度を取り、フレードはアイビーツを睨んで足の位置を変え、動きやすい体勢を取る。


「当たり前だ。可愛い後輩たちを殺したテメェは必ず俺がぶっ倒す!」

「フッ、面白い。やってみな」


 そう言ってアイビーツは地面を強く蹴り、フレードに向かって勢いよく跳ぶ。フレードもアイビーツを迎撃するため、リヴァイクスの剣身に水を纏わせ、刃に沿って高速回転させた。


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