第百九十七話 ベーゼ討伐依頼
生徒の声で賑わうメルディアズ学園。まだ午前中で大勢の生徒が授業を受けるために教室や訓練場へ移動している。勿論、依頼を受けるために受付ロビーへ向かう生徒も大勢おり、学園はいつもどおり平和だった。
正門が開いて一台の荷馬車がメルディエズ学園に入ってきた。荷馬車の御者席にはユーキが乗っており、荷台にはアイカ、男子生徒と女子生徒が一人ずつ乗っている。そして、荷馬車の右隣ではグラトンが荷馬車の速度に合わせて歩いていた。
「フゥ、着いた着いた」
「予定よりも早く依頼を終わらせることができてよかったわね」
「ああ、そうだな」
荷台に乗っているアイカの方を向きながらユーキは笑って返事をし、アイカもユーキを見ながら笑みを返した。
ユーキたちは三日前に蝕ベーゼの討伐依頼を受け、その依頼を終えて今メルディエズ学園に戻ってきたところだ。
依頼があったのはラステクト王国の西部にある村で討伐対象である蝕ベーゼの数も少なかったため、問題無く依頼を完遂することができた。
荷馬車はメルディエズ学園の校舎の入口前までやってくるとゆっくりと停車し、荷馬車が停まると荷台に乗っていたアイカと男子生徒、女子生徒が一人ずつ降りた。
「それじゃあ、俺は荷馬車を返してくるから、そっちは頼むよ?」
「ええ、グラトンを小屋に連れて行ったあと、受付ロビーに向かうわ」
アイカは荷馬車の近くで座り込んでいるグラトンに視線を向け、グラトンはアイカを見ながらまばたきをしている。
ユーキたちはメルディエズ学園に戻った後に効率よく帰還と依頼完遂の報告ができるよう、村から学園へ向かっている最中に誰が荷馬車の返却や報告を誰がするか決めていた。
話し合った結果、ユーキは荷馬車の返却、アイカはグラトンの面倒、残っている男子生徒と女子生徒が依頼完遂の報告をすることになった。
アイカはグラトンを見た後、待機している男子生徒と女子生徒の方を向いた。
「お二人はロビーで依頼完遂の報告をお願いします。報告が済んだらご自分の報酬を先に受け取ってくださって結構ですので」
「ああ、分かった」
男子生徒は依頼完遂を証明する羊皮紙をユーキとアイカに見せてから校舎に入っていき、女子生徒もその後をついて行く。二人が校舎に入るのを見たユーキは荷馬車を動かして荷馬車の返しに向かい、アイカもグラトンを厩舎へ連れていった。
ユーキは荷馬車を荷車や荷台を置いておく場所に戻すと荷台に積んであったメルディエズ学園からの支給品を返却して受付ロビーへ向かう。途中でグラトンを厩舎に連れていったアイカと合流し、二人は校舎に入っていく。
校舎に入るとユーキとアイカは真っすぐ受付ロビーへ向かい、受付嬢に依頼から戻ったことを伝えて自分たちの報酬を受け取った。
「報酬も受け取ったし、これで本当に依頼は終わりだな」
「お疲れ様。……ユーキはこの後、何か予定はあるの?」
アイカは自分の分の報酬をポーチに仕舞いながらユーキに尋ねる。ユーキはアイカの顔をチラッと見てから腕を組みながら考え込む。
「そうだなぁ……特にやりたいことはないし、寮の部屋に戻ってのんびりしようかな」
「それなら、これから一緒にお茶でもどう? 中央館の食堂に新しい紅茶が入ったらしいから、飲んでみようかなって思ってたの」
「新しい紅茶? そんなのが入ったのか?」
自分の知らない飲み物が食堂のメニューに加わっていることを知ったユーキは意外そうな表情を浮かべ、アイカはそんなユーキを見ながら微笑んで頷く。
「ええ、何でもいい香りのハーブが使われていて、疲れた時に飲むといいって食堂の人から聞いたわ」
「疲れた時にか……となると、リラックスティーかリフレッシュティーの類か?」
新しい紅茶がどんな物なのかユーキは軽く俯きながら呟く。
ユーキは異世界の飲み物の中ではコーヒーに似ているコキ茶をよく飲んでいるが、紅茶も興味がある物はたまに飲んだりしているのだ。
難しい顔で紅茶のことを考えているユーキをアイカは不思議そうな顔をしながら見ていた。
「……まぁ、此処で考えていてもしょうがないか。食堂に行って飲んでみればいいわけだし」
「ユーキ?」
「ん? ああぁ、ごめんごめん」
小声で呟いていたユーキは声を掛けられたことでアイカのことを思い出し、彼女の方を向いて謝った。
「俺もその新しい紅茶が気になるから付き合うよ」
「それじゃあ、このまま中央館へ行きましょう」
ユーキとアイカは新しい紅茶を飲みに行くため、中央館へ向かおうとする。すると二人の背後から女子生徒の声が聞こえてきた。
「悪いけど、紅茶はもうちょっと後にしてくれるかい?」
声を聞いたユーキとアイカは足を止めて同時に振り返る。そこには腕を組みながら二人を見て笑うパーシュの姿があった。
「パーシュ先輩?」
「やっと帰って来たね。アンタらが依頼から戻って来るのを待ってたんだよ?」
ユーキはパーシュの言葉を聞いて自分たちに何か用事があるのかと小首を傾げ、アイカも軽くまばたきをしながらパーシュを見ていた。
「悪いんだけど、一緒に学園長室に来ておくれ。学園長があたしとアンタたちに話があるんだってさ」
「学園長が?」
パーシュではなくガロデスが用事があると聞いてユーキとアイカは軽く反応する。しかもパーシュにも用事があると聞いて少し意外に思っていた。
「ああ、詳しい話はアンタたちが戻ってから話すって言ってたから、あたしもまだ聞かされてないんだよ」
ユーキとアイカは難しそうな顔をしながらどんな話なのか考える。
学園長であるガロデスが直接話すのだから重要な話であることは間違い無い。しかも神刀剣の使い手であるパーシュにも聞かせようとしているのだから、普通の生徒には話せない特別な話なのかもしれないと二人は予想していた。
考え込むユーキとアイカを見ていたパーシュは今どんな話なのか考えるより、学園長室へ向かって直接ガロデスから話を聞いた方がいいのではと思ったのか、若干呆れたような顔で小さく溜め息をつく。
「……とりあえず、学園長室へ行かないかい? 学園長は部屋で待ってるらしいからさ」
「えっ? ああぁ、そうですね……」
アイカはパーシュを見ながら苦笑いを浮かべ、ユーキもガロデスとパーシュを待たせていたことを申し訳なく思い、同じように苦笑いを浮かべていた。
パーシュは二人の反応を見ると二階へ続く階段の方へ歩いていき、ユーキとアイカもその後に続いた。ガロデスの用事とは何なのか、ユーキとアイカは考えながら学園長室へ向かった。
上の階へ上がり、しばらく廊下を歩いたユーキたちは学園長室の前までやってきた。
詳しく話を聞くため、ユーキたちは学園長室へ入ろうとする。そんな時、ユーキとアイカは自分の格好を見て軽く目を見開いた。
依頼から戻ったばかりなのでユーキとアイカの制服が少し汚れている。学園長であるガロデスに会うのだから身なりを整えなくては思った二人は制服に付いている砂埃などを払い落とした。
ユーキとアイカが制服を綺麗にしたのを見たパーシュは学園長室の扉を軽くノックする。すると扉の奥からガロデスの声が聞こえてきた。
「どなたですか?」
「パーシュです。ユーキとアイカが戻ったので連れてきました」
「そうですか。入ってください」
入室の許可が出るとパーシュは扉を開けて学園長室へ入り、ユーキとアイカもパーシュに続いて静かに入室した。
学園長室に入ると中ではガロデスが自分の机に座っている。だが部屋にはガロデス以外にもカムネスとロギュンがおり、ガロデスの机の前で横に並んでいた。他にも一人の中年男性がガロデスの近くに立っている。
ユーキとアイカはカムネスとロギュンがいることを知って驚き、パーシュも意外そうな顔をしている。パーシュの反応から彼女もカムネスとロギュンがいることを知らなかったようだ。
「ようやく戻って来たか。待っていたよ」
カムネスは腕を組みながらユーキとアイカに声を掛け、二人はカムネスに視線を向ける。
「会長と副会長も呼ばれていたんですか?」
「ああ、僕たちにも聞いてもらいたい話らしい」
そう言ってカムネスはチラッとガロデスの方を向く。ユーキ、アイカ、パーシュもカムネスとロギュンの隣まで歩いていき、呼び出したガロデスを見つめる。
ガロデスは揃うべき人物が全員揃い、ユーキたちが自分の話を聞く状態なのを確認すると真剣な表情を浮かべて口を開く。
「皆さん、お忙しいところを集まっていただきありがとうございます。ユーキ君とアイカさんも依頼から戻ったばかりのところを呼び出して申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です」
ユーキは軽く横に振りながら問題無いことを伝え、アイカも大丈夫ですと目で伝えた。
「それで学園長、僕らを呼び出した理由とは何なのです?」
カムネスが用件を尋ねるとガロデスはチラッとカムネスの方を向いた。
「実は重要な依頼が入りまして、皆さんにその依頼に参加していただきたいのです」
呼び出した理由が依頼だと聞いたユーキは「やっぱりな」と心の中で呟く。過去に似たような経験を何度もしていたため、ガロデスから呼び出された時点から予想はできていた。
アイカやパーシュも依頼の話だと予想していたのか、ユーキと似たような反応を見せており、カムネスとロギュンは表情を変えずに真剣な顔でガロデスを見ている。
「その依頼と言うのはそちらの男性に関係ある依頼なのですか?」
ロギュンはガロデスの隣に立っている中年男性を見ながらガロデスに尋ね、ユーキたちも一斉に男性に注目する。
男性は四十代後半ぐらいで身長は約165cm、青い目をして濃い茶色の短髪に黒い幞頭を被り、濃い黄色の漢服のような服を着ていた。ユーキたちは男性の格好を見てローフェン東国の人間だと予想する。
「そのとおりです。彼が今回の依頼を出したワンショウ殿です」
ガロデスが男性を紹介すると、ワンショウと呼ばれた男性はユーキたちの方を向き、拱手を取りながら軽く頭を下げた。
「お初にお目にかかります、ワンショウと申します。ローフェン東国の都市、レンツイの管理を任されているカン・フォムロンの補佐を務めております。今回、主に変わりメルディエズ学園に依頼を出しに伺いました」
礼儀正しく自己紹介をするワンショウをユーキたちは軽く頭を下げて挨拶を返したり、無言で見つめたりなどしていた。
ワンショウは挨拶を済ませるとゆっくりと顔を上げ、ユーキたちを見ながら口を開く。
「早速ですが依頼内容について説明させていただきます。今回、皆さんに依頼したいのはベーゼの討伐です」
ベーゼの討伐依頼だと聞いたパーシュ、カムネス、ロギュンは反応し、ユーキとアイカは無言でワンショウの話に耳を傾けた。
「最近、ローフェン東国の北部で大量のベーゼが北部にある村を次々と襲撃しています。既に幾つもの村が襲われて大勢の村人が犠牲になっており、二日前にもレンツイの部隊に所属する兵士たちが村襲撃の調査をしている時にベーゼの襲撃を受け、数人を残して壊滅しました」
ワンショウはこの数日の間に起きた出来事を細かくユーキたちに説明していく。説明を聞いていたユーキたちはローフェン東国で大きな事件が起きていることを知り、真剣な表情を浮かべていた。
「生き残った兵士の報告で我々は村を襲撃した犯人がベーゼと知り、更に兵士からベーゼがレンツイを襲撃する可能性があると聞いてすぐに情報を集めました。その結果、ベーゼが少しずつ数を増やしており、レンツイに向かって移動していることを知ったのです」
ワンショウが僅かな時間でベーゼたちが数を増やし、レンツイが確実に襲撃されることを話すと学園長室の空気が僅かに変わる。
ユーキたちは自分たちが思っていた以上に深刻な事態になっていたことを知って僅かに表情を鋭くする。
「ベーゼの数は多く、襲撃されればレンツイにいる兵士や冒険者だけでは倒すことはできません。皆さんにはレンツイに赴いてベーゼたちを討伐し、レンツイを護っていただきたいのです」
「成る程、そういうことですか」
必死な様子で頼むワンショウを見てカムネスは納得した様子を見せる。
カムネスの隣に立っているパーシュは都市がベーゼの襲撃を受けるのなら手を貸すべきだと考えており、ワンショウの依頼に参加するつもりでいた。
ユーキとアイカも依頼から戻ったばかりで少々疲れているが、レンツイの人々を護るために参加しようと思っていた。
メルディエズ学園の生徒には依頼を終えて学園に戻った直後に新しい依頼に参加するよう要請された場合、拒否する権利が与えられる。ユーキとアイカも依頼から戻ったばかりなので今回のベーゼの討伐依頼を拒否することが可能だった。
勿論、生徒に依頼を受ける意思がある場合は断らずに依頼を受けても問題は無い。ユーキとアイカも問題無いと感じ、依頼を受けるつもりでいた。
「皆さんにはレンツイに向かってベーゼの討伐を行ってもらいたいのです。……ただ、皆さんにもご都合があると思いますので、無理な場合は断ってくださって構いません。皆さんをお呼びしたのも、皆さんが今回の討伐依頼に適した生徒だと私が判断からですので」
ガロデスの言葉を聞いてユーキたちはガロデスに視線を向ける。メルディエズ学園の代表であるガロデスから期待され、依頼に適していると思われるのは生徒にとっては喜ばしいことであるため、ユーキはガロデスを見つめながら少し気分を良くした。
「ただ、ユーキ君とアイカさんは今回の討伐依頼に参加していただくことになると思います」
「……え?」
僅かに複雑そうな表情を浮かべるガロデスを見てユーキは思わず声を出し、アイカもガロデスの言葉に反応する。
パーシュとロギュンは意外そうな顔でユーキとアイカの方を向き、カムネスは表情を変えずに二人を見ていた。
「学園長、それはどういうことでしょうか?」
アイカは言葉の意味が理解できずガロデスに尋ねた。
「お二人は依頼に参加する生徒としてワンショウ殿が指名されたのです」
「私とユーキを?」
話の意図が分からないアイカは不思議に思いながらワンショウの方を向き、ユーキも意味が分からずにワンショウを見つめる。ワンショウはユーキとアイカが見ている中、理由を話すために二人の方を向いた。
「実は今回のベーゼ討伐をメルディエズ学園に依頼することを決めた時、ある人物からお二人を指名すれば必ず参加するから選んだ方がいいと勧められたのです」
「ある人物?」
「ハイ。彼曰く、『そこそこできる生徒だから参加させれば役に立つはずだ』、と言っていました」
「そこそこできるって、ちょっと失礼な言い方だな」
ワンショウの話を聞いたユーキは目を細くし、アイカはユーキの反応を見て小さく苦笑いを浮かべた。
不機嫌そうな顔をしていたユーキだったが、すぐに難しい表情を浮かべた。
レンツイを管理する人物やその補佐をするワンショウに勧めると言うことは、その人物はローフェン東国の人間と言うことになる。だが、ユーキには自分の実力を知っている東国の知り合いなどいないため、誰がワンショウに勧めたのか分からない。勿論、アイカにも心当たりが無かった。
「あの、どうしてその人は私とユーキを指名すれば必ず参加するなどと仰ったのですか?」
「詳しくは聞いておりませんが、何でも以前お二人に貸しを作ったので指名すれば文句を言わずに参加するだろうと言っておりました」
「貸し?」
ワンショウの話を聞いてユーキとアイカは驚き、それと同時にますます意味が分からなくなった。
自分たちはローフェン東国で誰かに貸しを作った覚えはない。訳が分からないユーキはアイカを見ながら肩を竦め、アイカも小首を傾げる。
「あの、俺とアイカを指名するよう言った人って誰なんですか?」
いくら考えても分からないユーキはワンショウに尋ねる。アイカもどんな人物なのか気になってワンショウを見つめ、パーシュたちもワンショウに注目した。
「ウブリャイ・ブロックスです」
「ウブリャイ?」
ワンショウの口から出てきた名前を聞いてユーキは訊き返し、アイカも反応する。名前を聞いた後、二人は黙って考え込み、しばらくすると何かを思い出して大きく目を見開いた。
『あああぁっ!』
ユーキとアイカはお互いに顔を見合って声を上げ、突然大きな声を出した二人に学園長室にいたカムネス以外の全員が驚く。
「ど、どうしたんだよ二人とも。そのウブリャイって奴、知ってるのかい?」
パーシュが声を掛けるとユーキとアイカはパーシュたちの方を向く。
「……冒険者チーム、武闘牛のリーダーです」
アイカからウブリャイのことを聞かされたパーシュたちは反応する。商売敵である冒険者がユーキとアイカを知っていることを意外に思い、同時にどうして二人に貸しがあるのか疑問に思う。
パーシュたちが不思議に思っているとユーキは詳しく説明するためにパーシュたちを見ながら口を開く。
「武闘牛には以前世話になったことがあるんですよ。……俺とアイカが半ベーゼ化して学園から逃げ出した時です」
「……成る程、あの時ですか」
当時のことを思い出したロギュンは呟き、パーシュも「ああぁ」と反応した。ユーキとアイカも自分たちが半ベーゼ化した時のことを思い出す。
半ベーゼ化した時のユーキとアイカは体を元に戻すため、五聖英雄であるスラヴァ・ギクサーランに会いに無断でメルディエズ学園を出てガルゼム帝国へ向かった。その時、ユーキとアイカは帝国に来ていた武闘牛と再会し、荷馬車に乗せてもらったのだ。
「何か遭った時のための貸しを作っておいた方がいいってウブリャイのおっさんは言ってたけど、ここでその時の貸しを返させようとするとは思ってなかった」
「本当ね。……ん? でも、どうして学園の依頼にウブリャイさんが関わっているのかしら?」
アイカの言葉を聞いてユーキたちは一斉の反応する。確かにメルディエズ学園の依頼に商売敵である冒険者のウブリャイが関わっているのには違和感があった。
ユーキたちはワンショウの方を向いて理由を聞こうとする。するとユーキたちが尋ねる前にガロデスがユーキたちの疑問に答えた。
「レンツイを襲撃するベーゼの迎撃は我がメルディエズ学園とレンツイにいる冒険者たちで行います。ただ、ベーゼの数があまりにも多く、レンツイを拠点にして活動している冒険者だけでは数が足りません。そこで冒険者ギルドはベーゼを討伐するまでレンツイを訪れていた全ての冒険者にレンツイに留まるよう伝えたのです」
「他の町で活動している冒険者を拠点の町に帰らせず、ベーゼの討伐に参加させると言うことですね?」
「ええ、そうしなければとてもレンツイを護ることができない状況だそうです」
カムネスの問いに答えたガロデスはチラッとワンショウの方を向く。ガロデスと目が合ったワンショウは無言で頷き、「そのとおりです」と目で伝えた。
「それじゃあ、武闘牛もレンツイに来ていたから今回のベーゼの討伐に参加することになり、少しでも戦力を増やすために俺とアイカを指名するよう言ったってことですか?」
「恐らくそうだと思います」
ワンショウの返事を聞いてユーキとアイカは納得したような顔をする。都市を護るために少しでも人員を必要としているのなら、貸しのある存在に協力を要請するのは当然だし、おかしなことではないと二人は思っていた。
「私と主であるフォムロンがギルド長とベーゼの対抗策について話し合っていた時、ウブリャイ殿が我々の下へやって来て、メルディエズ学園に救援を要請することを話したらユーキ・ルナパレスさんとアイカ・サンロードさんを指名し、今回のベーゼ討伐に参加させるよう進言したのです」
「あのおっさんならやっても不思議じゃないな……」
ユーキは口を大きく開けて笑うウブリャイの顔を想像しながら呆れたような表情を浮かべる。
「メルディエズ学園とレンツイの冒険者ギルドが共闘することについて、冒険者たちは納得しているのでしょうか?」
ロギュンが冒険者たちがメルディエズ学園と共闘することに反対しているのではと考え、ワンショウに冒険者たちの反応について尋ねる。ユーキたちも冒険者たちが今回の討伐についてどう思っているのか気になり、ワンショウに注目した。
「その点は問題ありません。レンツイのギルド長はメルディエズ学園に対して友好的な人ですので共闘すること賛成しておられました。冒険者たちも一部は納得していないようですが、殆どの冒険者がギルド長の説得で共闘することに納得しています」
「そうですか……」
冒険者たちと問題無く共闘できると聞いたロギュンはどこか安心したような反応を見せた。
いくら商売敵同士で仲が悪いとは言え、ベーゼが都市に攻めて来ている時に争っていては何も護れず、自分たちの命も危うくなる。お互いが生き残るためにも争わず共にベーゼを迎え撃つべきだとロギュンは思っていた。
「冒険者側が共闘を受け入れるのなら、我々も冒険者と揉め事を起こさずに戦うようにしないといけないな」
「ハイ」
カムネスを見ながらロギュンは頷いて返事をした。
大勢のベーゼからレンツイを護るのなら、当然メルディエズ学園も大勢の生徒を派遣することになる。自分たち以外の生徒が冒険者たちと問題を起こさないよう、カムネスとロギュンは依頼に参加する生徒たちにしっかり説得しようと思っていた。
ユーキとアイカはカムネスとロギュンの会話を聞いて、生徒たちと冒険者たちが問題を起こす可能性は低くなったと考え、問題無くレンツイをベーゼから護れるだろうと思っていた。
「ユーキ、アイカ、アンタたちはどうするつもりだい?」
ユーキとアイカがカムネスとロギュンを見ているとパーシュが二人に近づき、今回の依頼に参加するかどうか尋ねる。パーシュだけでなく、ワンショウもユーキとアイカの返事が気になっているのか、無言で二人を見ていた。
パーシュに声を掛けられたユーキはパーシュを見た後にチラッとアイカを見る。アイカはユーキと目が合うと頷き、アイカの反応を見て彼女の答えを感じ取ったユーキはパーシュの方を向く。
「俺たちも参加しますよ」
ユーキの答えを聞いたパーシュはニッと笑い、ワンショウもユーキとアイカが依頼に参加してくれることを知って安心したような顔をする。
「それは当然、ウブリャイって奴に貸しを返すためってわけじゃないんだろう?」
「勿論です。俺とアイカはベーゼからレンツイの人たちを護るために参加します。貸し借りなんて関係ありません。そうだろう、アイカ?」
「ええ」
最初から依頼に参加するつもりだったアイカは迷うことなく返事をした。
「だったら、あたしも参加しないといけないね」
パーシュは笑いながら自分も依頼を受けることを二人を伝える。ユーキとアイカはパーシュが参加してくれれば心強いと思い、笑いながらパーシュを見つめた。
ユーキたちが会話する姿を見ていたガロデスも小さく笑う。目の前にいる五人なら必ずレンツイの依頼を参加してくれると信じていたようだ。
「では、この場にいる全員、レンツイの依頼を受けていただけると言うことでよろしいですね?」
「ハイ」
ガロデスが確認するとカムネスは静かに返事をする。ユーキたちもガロデスを見ながら真剣な表情を浮かべており、ガロデスはユーキたちの顔を見るとゆっくりと立ち上がった。
「では、早速依頼の準備に取り掛かってください。すぐに出発していただくことになるので、二時間以内に準備を済ませて正門前に集まってください。依頼に参加できる生徒の人数や依頼の詳しい内容はこちらに書いてあります」
そう言ってガロデスは自分の机の上に置いてある羊皮紙を差し出す。ロギュンはガロデスから羊皮紙を受け取るとカムネスに手渡し、カムネスは羊皮紙に書かれてある内容を確認する。
「カムネス君、今回の依頼に参加する生徒たちの指揮は貴方が執ってください。依頼に参加する生徒も貴方が選んでくださっても構いません」
「分かりました。すぐに取り掛かります」
カムネスは軽く頭を下げると学園長室を出ていき、ロギュンもその後に続く。残ったユーキたちも依頼の準備をするために退室する。
学園長室に残ったガロデスはワンショウと依頼内容や依頼の期間などについて確認を行った。




