第百九十四話 骨の竜
ユーキたちに気付いた骨のドラゴンは三人を見下ろしながらゆっくりと一歩前に出る。動き出した骨のドラゴンを見てユーキたちは思わず身構えた。
「な、ななな、何コイツ!?」
目の前の巨大なアンデッドモンスターを目にしたウェンフは動揺を見せながら尋ねる。今まで戦ってきたスケルトンとは明らかに雰囲気が違うため、ウェンフは驚きを隠せずにいた。
「コイツはスカルドラゴン、中級アンデッドでスケルトンなどとは比べ物にならないくらい強い」
アトニイが剣を構えながら骨のドラゴンの名前を語り、名前を聞いたウェンフは予想どおり強力なアンデッドだと知って剣を構えた。
「ヤバいな……コイツは中級のアンデッドの中では強い方で俺も戦ったことが無い。勝てるかどうか分からないぞ」
ユーキは厄介そうな表情を浮かべながら月下と月影を構え、ユーキの言葉を聞いたウェンフは目を見開き、アトニイも少し驚いたような反応を見せる。
メルディエズ学園の図書室でモンスターのことが書かれた本は殆ど読んでいるユーキは大抵のモンスターのことは知っている。しかし情報を知っていると言うだけで本に書かれてあったモンスターの大半とは戦ったことが無い。スカルドラゴンのことも知っているが実際に戦ったことは一度も無かった。
ユーキは中級生の中でも上位の実力を持ち、過去に中級モンスターや同等の力を持つ中位ベーゼ、それ以上の上位ベーゼと戦い、勝利したことがある。つまりユーキは中級モンスターとは問題無く戦える強さを持っているということだ。
だが、中級モンスターを倒した経験のあるユーキでも一度も戦ったことが無いモンスターとはどのように戦えばいいのか分からない。そのため、中級アンデッドのスカルドラゴンが相手でも勝てるかどうか分からないのだ。
「ルナパレス先輩、どうしますか?」
「どうするもこうするも、戦うしかないだろう。このまま放っておいたからコイツは確実にグロズリアの村を襲う。そうなったらコリーや村長たちが危ない」
スカルドラゴンを見上げながらユーキは迷わずに戦うことを告げる。いくら相手が戦ったことの無い相手で勝てるか分からないとしても逃げ出すことはできない。増してや今グロズリアの村を護れる存在は自分たちだけなのだから、尚更逃げることなどできなった。
「アトニイ、コイツは俺が相手をする。君は村まで下がるんだ。優秀な君でも今の実力じゃあコイツには勝てない」
ユーキはスカルドラゴンを警戒しながらアトニイに後退するよう指示する。
いくら注目されている下級生のアトニイでもスカルドラゴンには敵わないと感じたユーキはアトニイとウェンフを安全な場所へ移動させようと考えた。何よりユーキはまだ戦闘経験が浅い後輩を危険な目に遭わせたくないと思っている。
「分かりました、お願いします」
自分の実力を理解しているのか、アトニイはユーキの指示を素直に聞き入れ、スカルドラゴンを見ながら後退を始める。ユーキも距離と取ってくれた方がスカルドラゴンと戦いやすいと思っていたため、素直に言うことを聞いてくれたアトニイに内心感謝していた。
アトニイが後退するのを確認したユーキは次にウェンフの方を向いて後退させようとする。するとウェンフは後退せず、ユーキの右隣までやって来て剣を構え直した。
「ウェンフ、何やってるんだ。お前も下がるんだ」
「先生、私も一緒に戦います」
「はあ?」
ウェンフの口から出た言葉にユーキは思わず訊き返す。ウェンフは真剣な表情を浮かべながらスカルドラゴンを見つめていた。
「何を言ってるんだ! 相手は俺でも勝てるか分からないモンスターなんだぞ」
「それなら尚更一緒に戦った方がいいじゃないですか。私は下級生ですけど混沌術が使えますから中級モンスターとも戦えます。それに強いベーゼと戦ったこともありますし」
「馬鹿! 混沌士でも戦ったことの無いモンスターが相手じゃあ勝てるかどうか分からないんだぞ」
「それは先生も同じでしょう?」
「ぬぅっ……」
痛いところを突かれたユーキは僅かに表情を歪ませる。後退していたアトニイはユーキとウェンフが言い合う姿を見て足を止め、「何をやっているんだ?」と不思議そうに見ていた。
ユーキがウェンフを説得している間もスカルドラゴンはゆっくりと二人の方へ歩いて来る。しかし二人はスカルドラゴンが近づいて来ても向かい合って話し続けていた。
「とにかく、アイツは手強いから下がれ。後は俺が何とかする」
「嫌です。私も一緒に戦います」
「下がれ!」
「嫌ぁ!」
一歩も引かずにユーキとウェンフは互いに睨み合う。そんな時、二人の前までやって来たスカルドラゴンが鳴き声を上げながら右腕を勢いよく振り下ろして攻撃してきた。
ユーキとウェンフを見ていたいアトニイは話し合っている最中に攻撃されたため、二人がスカルドラゴンの攻撃をまともに受けてしまうと感じた。
しかしユーキとウェンフはスカルドラゴンが腕を振り下ろすと同時にスカルドラゴンがいる方角と正反対の方へ跳んで攻撃を回避する。二人は言い合いをしている時もスカルドラゴンを警戒していたのだ。
スカルドラゴンの攻撃をかわしたユーキとウェンフはスカルドラゴンの方を向き、真剣な表情を浮かべながら自分たちの得物を構え直す。
「まったく、初めて会った時も俺に弟子にしてくれって頼んで来て一歩も引かなかったよな。あの時も思ったけど、お前って意外と頑固だな?」
「知ってます。小さい頃から一度決めたことは曲げない子だってリーファンお姉ちゃんから聞きました」
構えながらユーキとウェンフは先程の会話の続きをする。スカルドラゴンは距離を取ったユーキをウェンフを見ながら再び二人に向かって歩き出す。
スカルドラゴンを見つめながらユーキはウェンフをどうするか考える。このまま後退するよう説得し続けても、恐らくウェンフは言うことを聞いてくれないとユーキは思っていた。
ユーキとしては弟子であり、後輩であるウェンフを勝てるかどうか分からないモンスターとの戦闘に参加させるのは避けたい。だがウェンフは雷電の能力を使えるため、共に戦えば心強い戦力になるのも事実。ユーキはどうするべきかスカルドラゴンを見ながら考えた。
「……仕方ないな。村に被害を出さないためにも、二人でちゃっちゃと片付けちまうぞ」
頑固なウェンフを納得させるには状況が悪く、時間が掛かってしまうと感じたユーキはウェンフを共に戦わせることにした。
ウェンフは折れて一緒に戦わせてくれるユーキを見ながら笑みを浮かべる。
「ありがとう、先生!」
「ただし、危険な状況になったらすぐに後退するんだぞ?」
「ハイ!」
元気よく返事をしたウェンフは剣を強く握りながらスカルドラゴンの方を向く。スカルドラゴンを見つめる目は真剣なものだが、口元はユーキと共闘できて嬉しいのか僅かに緩んでいた。
ウェンフがユーキの傍を離れずにスカルドラゴンと向かい合っている姿を見たアトニイはウェンフがユーキと共にスカルドラゴンと戦うのだと悟る。
普通の生徒なら、自分と同じ下級生が中級生と共に戦うのだから自分も一緒に戦わせてほしいと思うだろう。だがアトニイはウェンフがユーキの弟子で混沌士であることから、自分よりも力があるのでユーキと共闘できると理解している。そのため、ウェンフだけがユーキと共に戦うことになっても嫉妬心や対抗心を懐いたりしなかった。
自分はスカルドラゴンとの戦いに参加できないと考えるアトニイは再びグロズリアの村まで後退する。
グロズリアの村の西門前ではオルビィンが遠くにいるスカルドラゴンを見て目を見開いている。突然大きな骨のドラゴンが現れたため、オルビィンは軽い衝撃を受けていた。オルビィンの隣ではグラトンが座りながらスカルドラゴンを見つめている。
オルビィンとグラトンがスカルドラゴンを見ていると後退したアトニイが西門に戻ってきた。アトニイに気付いたオルビィンは表情を変えずにアトニイの方を向く。
「ちょ、ちょっと、何なのあの骨のドラゴンは!?」
「スカルドラゴンですよ。私たちが倒したスケルトンの残骸が集まって生まれたアンデッドです」
「残骸が集まって……それじゃあ、さっき勝手に動いたスケルトンの骨があれになったってこと?」
数分前の出来事を思い出したオルビィンは俯きながら呟く。自分の知らない所で何が起きたのか考えながらオルビィンは顔を上げる。そんな時、オルビィンは西門に戻って来たのがアトニイだけだと言うことに気付いた。
「そう言えば、ルナパレス先輩とウェンフは?」
「二人はあのスカルドラゴンと戦っています。私はルナパレス先輩から後退するよう言われて戻ってきました」
「ええっ!? アンタは一緒に戦わないの?」
「ええ、スカルドラゴンは中級モンスターで今の私では敵わないらしく、ルナパレス先輩が相手をするそうです」
「じゃあ、ウェンフは?」
「彼女はルナパレス先輩の弟子で雷電を使えます。多分先輩は混沌士であるウェンフなら共に戦っても大丈夫だと考えて、一緒に戦おうと判断したのでしょう」
アトニイの説明を聞いたオルビィンは納得した様子を見せながらショヴスリを右肩に乗せる。
普段のオルビィンなら、自分も混沌士なのだからユーキに加勢しようと思うのだが、今は夜中で相手がアンデッドだというオルビィンにとって都合の悪い状況だった。そのため、自分から戦いに参加しようとは思わず、ユーキから加勢の要請が無くてよかったと思っている。
「……それで、ルナパレス先輩とウェンフは勝てそうなの?」
「分かりません。ユーキ先輩もスカルドラゴンとは戦ったことが無いそうなので……」
戦闘経験の無い相手に勝てるのかと不安を感じるオルビィンは遠くにいるスカルドラゴンを見つめ、アトニイも同じようにスカルドラゴンがいる方角を見ていた。
二人がスカルドラゴンを見ている中、グラトンがゆっくりと立ち上がって一歩前に出る。それに気付いたオルビィンは目を細くしながらグラトンを見た。
「ちょっと、ルナパレス先輩にこの門を護るよう言われたの忘れたの? まだ何処かにスケルトンが隠れてるかもしれないんだから、此処を離れないでよね?」
「ブォ~」
グラトンはオルビィンの方を向いて低い鳴き声を出した。その鳴き声から西門から離れられないグラトンのつまらないという気持ちが感じられる。
オルビィンがグラトンを止めたのはユーキに言われた西門を護ると言う役目を全うするためでもあるだが、それ以外にもスケルトンが現れた際に自分に加勢してくれる仲間を近くに置いておきたいという理由もあった。
地面に座り込むグラトンは腹を掻き、グラトンが座るのを見たオルビィンは視線をスカルドラゴンに戻した。
(二人とも、そんな骨の化け物に負けないでよ? もし二人が負けちゃったらグロズリアを護ることはできないんだからね)
最悪の結果にならないことを心の中で祈りながらオルビィンはユーキとウェンフが勝ってくれることを願う。
――――――
迫って来るスカルドラゴンを前にユーキとウェンフは身構える。スカルドラゴンがどのような攻撃を仕掛けて来てもすぐに対応できる体勢を取った。
「それで先生、どう戦います?」
「そうだな……まずは距離を取りながらアイツの動きを観察する。その後は隙を窺いながら攻撃するんだ」
「分かりました」
「分かってると思うけど無理はせず、雷電もどんどん使って行くんだぞ?」
「ハイ!」
忠告を聞いたウェンフは返事をしながらスカルドラゴンを鋭い目で見つめる。その直後、スカルドラゴンはユーキとウェンフに向かって左腕を振り下ろして攻撃してきた。
ユーキは左に跳び、ウェンフは右に跳んでスカルドラゴンの攻撃を回避し、かわした直後に素早く構え直してスカルドラゴンの次の攻撃を警戒する。
スカルドラゴンは赤く光る目を動かしてユーキとウェンフの位置を確認するとユーキの方を向いて大きく口を開け、口から青白い火球をユーキに向けて放った。
正面から飛んでくる火球を見たユーキは目を大きく見開いて一瞬驚きの反応を見せるが、すぐに左に走って火球をかわす。地面に命中した火球は周りの草や花を呑み込んであっという間に灰に変えた。
「おいおいおい、アイツ、アンデッドのくせに炎を吐くのかよ!?」
炎を苦手とするアンデッドモンスターが火球を吐いたことに驚きながらユーキは態勢を整えて双月の構えを取る。だが構えた直後、スカルドラゴンは再び青白い火球を吐いて攻撃してきた。
ユーキは咄嗟に強化を発動させて脚力を強化し、大きく後ろに跳んで火球をギリギリで回避する。その後もスカルドラゴンはユーキに何度も火球を放って攻撃し、ユーキは走ったり跳んだりしながら火球をかわし続けた。
反対側にいるウェンフはスカルドラゴンがユーキに連続で火球を放つのを見るとユーキを助けるために雷電を発動させ、スカルドラゴンの背後に向かって左手を伸ばして電撃を放とうとする。だがウェンフが攻撃しようとした瞬間、スカルドラゴンの骨の尻尾が右から迫って来た。
尻尾に気付いたウェンフは攻撃を中断し、後ろに大きく跳んで尻尾による攻撃を回避する。
「あ、危なかったぁ。思っていたよりも攻撃が速い」
尻尾をかわしたウェンフはスカルドラゴンの攻撃速度に驚きながら態勢を整え、尻尾が届かない所まで来たのを確認すると剣を構える。
ウェンフが剣を構えた直後、背を向けていたスカルドラゴンがウェンフの方を向いて口から火球を放ってきた。尻尾による攻撃の直後に火球を吐き出したスカルドラゴンを見てウェンフは「いいっ!」と驚きの反応を見せ、慌てて右に跳んで火球をかわす。
火球をかわしてウェンフは地面に倒れ込んだ。倒れている今の状態で攻撃されれば回避できないと感じたウェンフは急いで立ち上がろうとする。
しかし、ウェンフの行動を読んでいたのかスカルドラゴンが先に動いた。スカルドラゴンは体を右に回りながら尻尾を振り、再びウェンフに尻尾で攻撃を仕掛けてきたのだ。
ウェンフは前から迫って来るスカルドラゴンの尻尾に驚愕して急いで立ち上り、尻尾をかわそうとするが間に合わずに尻尾を体に受けてしまった。
「うああああぁっ!!」
攻撃を受けたウェンフは大きく飛ばされて地面に叩きつけられ、そのまま地面を転がっていく。しばらく転がったウェンフは俯せの状態で止まり、体中の痛みに表情を歪ませた。
「ウェンフ!」
スカルドラゴンの攻撃を受けたウェンフを見てユーキは思わず叫ぶ。するとユーキの方を向いていたスカルドラゴンが大きく口を開け、ユーキに向かって火球を放った。
火球を見たユーキは舌打ちをしながら右へ走って火球をかわすが、かわした直後にスカルドラゴンが左足を上げ、ユーキを踏みつぶそうと勢いよく足を下ろしてきた。
頭上から迫って来るスカルドラゴンの足を見てユーキは再び強化を発動させて両腕の筋力を強化し、頭上で月下と月影を交差させてスカルドラゴンの踏み付けを防いだ。
スカルドラゴンの足を防いだ瞬間に強い衝撃が襲い、ユーキは軽く奥歯を噛みしめる。幸い腕力を強化していたため、問題無く踏みつけを止められた。更に脚力も強化し続けているので体勢を崩すことなく耐えることができている。
「炎を避けた後に踏みつけて攻撃してくるなんて……コイツ、アンデッドのくせに意外と頭がいいな」
並のアンデッドよりも知能があるスカルドラゴンを見上げながらユーキは呟き、改めて今まで戦ってきたアンデッドとは強さが違うことを知った。
ユーキは両腕に力を入れ、月下と月影を使ってスカルドラゴンの足を押し上げる。その隙に後ろに跳んでスカルドラゴンから距離を取った。
離れて構え直したユーキはスカルドラゴンを睨みながら次の攻撃を警戒する。だがそれよりもにスカルドラゴンの攻撃を受けてしまったウェンフのことを心配していた。
「う、うう……」
スカルドラゴンの攻撃を受けて倒れていたウェンフはゆっくりと上半身を起こす。まだ体のあちこちが痛むが、メルディエズ学園に入学してから体力を上げたり、打たれ強くなる訓練を受けていたため、立ち上げれないほど酷い状態ではなかった。
顔を上げたウェンフがスカルドラゴンの方を向くと遠くでユーキがスカルドラゴンと向かい合っている姿が目に入る。
「せ、先生!」
ウェンフはユーキを援護するために立ち上がろうとするが、体を大きく動かした瞬間に強い痛みが走り、ウェンフは表情を歪ませた。
加勢するためにもまずはこの痛みを何とかしなくてはいけないと考えたウェンフは腰のポーチに手を入れて回復用のポーションを取り出そうとする。ところがポーチの中身はスカルドラゴンの攻撃を受けた時に地面に叩きつけられたからか滅茶苦茶になっていた。ポーションの瓶は割れ、他の道具も壊れて使えなくなっている。
ウェンフはポーチの中を見て驚き、無事な道具が無いか確認する。すると運よく割れずに残っていた回復用のポーションを見つけ、ウェンフは安堵の表情を浮かべながらポーションの瓶を取って中身を飲んだ。
ポーションを飲んだことで体中の痛みが引いて動けるようになり、ウェンフは安心する。しかしまだ戦闘の最中であるため、すぐに真剣な表情を浮かべて立ち上がった。
「急いで先生の所に行かないと! ……でも、もうポーションは無いから次に攻撃を受けたら回復できない。気を付けなくちゃ」
もう攻撃を受けることは許されないと自分に言い聞かせながらウェンフは落ちている剣を拾い、スカルドラゴンに向かって走り出した。
ウェンフがスカルドラゴンに向かって走っている時、ユーキはスカルドラゴンの攻撃を避けながら反撃する隙を窺っている。スカルドラゴンの攻撃パターンを把握するため、ユーキは接近や後退を繰り返しながらスカルドラゴンを観察していた。
スカルドラゴンはユーキが近づけば腕や尻尾を振り回したりして攻撃し、距離を取ったら火球を放って攻撃する。ユーキはスカルドラゴンの猛攻を顔色を変えずに避け続けていた。
最初はどんな攻撃を仕掛けてくるか分からなかったので回避に専念していたが、今ではスカルドラゴンの動きや攻撃の速さにも慣れ、余裕でかわすことができるようになっていた。
しかしスカルドラゴンの攻撃はスケルトンや並のモンスターより速いため、念のために強化で脚力を強化して速く移動できるようにしている。
「だんだんアイツの攻撃パターンが分かってきた。そろそろ攻撃に移ってもいいかもしれないな」
スカルドラゴンから距離を取ったユーキは双月の構えを取り、強化で両腕の腕力を強化して攻撃の準備をする。スカルドラゴンはユーキを見つめながら鳴き声を上げ、ゆっくりとユーキに向かって歩き出した。
(ウェンフはスカルドラゴンの攻撃で深手を負っている可能性がある。早くコイツを倒してウェンフの所に行ってやらないと!)
ウェンフの安否を気にしながらユーキはスカルドラゴンに攻撃しようと両足の膝を曲げて走る体勢を取る。スカルドラゴンは少しずつユーキとの距離を詰め、ユーキが間合いに入った瞬間に攻撃しようと右腕をゆっくりと振り上げた。
ユーキはスカルゴンが攻撃しようとしていることに気付き、攻撃される前に仕掛けようと考えて走り出そうとする。そんな時、スカルドラゴンの攻撃を受けて倒れていたはずのウェンフがスカルドラゴンの背後に回り込む姿がユーキの目に入った。
ウェンフが走る姿を見てユーキは軽く目を見開いて驚く。ウェンフはユーキが見ている中、スカルドラゴンとの距離を詰め、真後ろに移動すると雷電を発動させて左手に青白い電気を纏わせた。
「電撃砲!」
ウェンフは電気を纏った左手を前に突き出し、スカルドラゴンに電撃を放つ。電撃はスカルドラゴンの大きな背骨に命中し、スカルドラゴンの全身は電気によって青白く光る。
電気を受けたにもかかわらず、スカルドラゴンは鳴き声を上げることも苦痛を感じる様子も見せない。やはりアンデッドは痛みや恐怖を感じ無いため、電撃の直撃を受けても怯まないようだ。
ユーキは青白く体を光らせるスカルドラゴンを見ながら雷電の技を受けても怯まないと知って厄介に思う。
だが、例え怯まなくてもダメージは受けているはずなので攻撃を続ければいつかは倒せるとユーキは考え、焦らずに双月の構えを取った。
やがて電撃が治まり、スカルドラゴンの体から光が消える。スカルドラゴンの体からは僅かに煙が上がっているが骨が焦げることはなかった。
スカルドラゴンはゆっくりと振り向いて後ろに立っているウェンフを見ると骨の尻尾を振り上げ、ウェンフの頭上から勢いよく振り下ろした。
ウェンフは頭上の尻尾を見ると急いだ左に走って尻尾をかわす。そして再び雷電の技を使うため、左手に電気を纏わせた。
スカルドラゴンはウェンフが技を使うのを阻止しようと考えたのか、ウェンフの方を向きながら口を開けて火球を放とうとする。
火球を撃とうとするスカルドラゴンを見てウェンフは驚き、攻撃を中断して回避行動を取ろうとする。そんな時、ユーキが走ってスカルドラゴンの足元に移動した。
スカルドラゴンの意識がウェンフに向けられたため、ユーキは気付かれずにスカルドラゴンの足元まで近づくことができたのだ。
「ルナパレス新陰流、雪月!」
ユーキは月下と月影を右に倒すと腰に力を入れて勢いよく左に振り、スカルドラゴンの左足に峰打ちを打ち込んだ。
強化で腕力を強化していたため、峰打ちの威力は増しておりスカルドラゴンの太い骨に罅が入る。だが、足の骨を折ることはできず、スカルドラゴンが体勢を崩すこともなかった。
「クソォ! 少し腕力を強化しただけじゃあ、こんなデカい骨を折ることはできないか」
悔しそうな顔をしながらユーキはスカルドラゴンの左足を見た。すると左足がゆっくりと上がり、左足が動くとユーキは咄嗟に後ろに大きく跳んだ。その直後、スカルドラゴンはユーキが立っていた場所に左足を勢いよく下ろす。
ユーキは自分が立っていた場所を見つめ、あと少し離れるのが遅かったら踏みつぶされていたと僅かに表情を歪ませる。ユーキはスカルドラゴンの追撃を警戒し、走ってその場を離れるとウェンフの隣まで移動した。
「先生、大丈夫ですか?」
「ああ、俺は大丈夫だ。お前は平気なのか? スカルドラゴンの尻尾をまともに受けてたけど……」
「ハイ、ポーチに入ってたポーションを使いましたから。でも無事なのは一本だけで、他のは全部割れちゃってました」
ウェンフの言葉を聞いてユーキはチラッとウェンフのポーチを見た。ポーチの底や側面は濡れており、ユーキはウェンフの持っていたポーションは使えないことを知る。
ユーキは月影の刀身を口で加え、左手が空くと自分のポーチに手を入れてポーションを一つ取り出してウェンフに差し出す。
ポーションが差し出されたのを見たウェンフは少し驚いたような顔をしてユーキを見た。
月影を咥えるユーキはウェンフを見ながら小さく頷き、ウェンフは「受け取れ」と言うユーキの意思を感じ取り、左手でポーションを取る。ウェンフがポーションを取るとユーキは左手で咥えていた月影を握った。
「もしまた攻撃を受けたらそれを飲むんだぞ?」
「ハイ」
頷いたウェンフは受け取ったポーションをポーチに仕舞う。ポーションを仕舞ったウェンフはスカルドラゴンを見ながら両手で剣を握り、ユーキも構え直した。
「この後はどう戦いますか? 電撃砲や先生の攻撃でも倒せないなんて、かなり強いってことですよね?」
「そう言うことになるな……」
スカルドラゴンを睨みながらユーキはどう戦うか考える。目の前のスカルドラゴンはトウジュンの禁術で作られた通常のスカルドラゴンよりも強い存在で並の攻撃では倒すのは難しい。ユーキはスカルドラゴンを倒すには弱点である頭部に強い攻撃を連続で打ち込んで倒すしかないと思った。
「ウェンフ、お前の雷電の技で一番強い技をスカルドラゴンの頭部を攻撃してくれ」
「頭をですか?」
「ああ、お前の技でスカルドラゴンがダメージを受け、骨が脆くなったところを俺が攻撃して頭部を破壊する」
スカルドラゴンを倒す作戦をユーキは分かりやすく説明し、ウェンフもスカルドラゴンを警戒しながら作戦を聞いた。
「アイツもアンデッドだ、頭部を破壊すれば流石に動けないはずだ」
「……分かりました」
ウェンフが返事をするとユーキは視線をスカルドラゴンに向けて両膝を曲げ、動きやすい体勢を取る。ウェンフも右手で剣を握り、混沌紋を光らせて左手に電気を纏わせた。
スカルドラゴンはユーキとウェンフを見つめながら二人に向かって歩き出す。敵を恐れないスカルドラゴンはユーキとウェンフを警戒することなく二人に近づいていく。
「それじゃあ、行くぞ」
「ハイ!」
ユーキは地面を蹴り、スカルドラゴンに向かって走っていく。脚力を強化しているユーキはあっという間にスカルドラゴンの足元まで近づいた。
足元まで近づいてきたユーキを見下ろすスカルドラゴンは右足でユーキを踏みつぶそうとするがユーキは素早く左に跳んで踏みつけを回避する。
スカルドラゴンは攻撃をかわしたユーキの方を向くと今度は火球を吐いて攻撃するが、ユーキはこの攻撃も走って回避する。
長い時間、スカルドラゴンの動きや攻撃を観察していたユーキは既にスカルドラゴンの攻撃を難なくかわすことができるようになっていた。
それからユーキはスカルドラゴンの気を引くように大きく動きながら攻撃をかわし、スカルドラゴンもユーキを仕留めるために攻撃を続ける。その間、ウェンフはスカルドラゴンに大きなダメージを与えるため、今の自分が使える最高の技を放つ準備をした。
「この技ならスカルドラゴンを怯ませることができるかもしれない。……上手く当たってくれるといいんだけど」
ウェンフは少し不安そうな顔をしながら呟く。実は今ウェンフが使える最高の技と言うのは高威力だが命中させるのが難しい技で現在ウェンフはその技を上手く命中させられるよう練習している最中だった。
普通は重要な戦いで命中させるのが難しい技を使おうとは考えないが、今ウェンフが使いこなせる雷電の技で命中率が高く、スカルドラゴンに決定的なダメージを与える技は無い。
スカルドラゴンを倒すためには練習中の技を使うしかないため、ウェンフは仕方なく使うことにしたのだ。
(……先生は私を信じてスカルドラゴンヘの攻撃を任せてくれたんだ。信じてくれた先生のためにも、必ず当てなくちゃ!)
ユーキの期待に応えるため、そしてグロズリアの村の人たちを護るためにも技を命中させる。そう思いながらウェンフは右手に持っている剣を捨て、右手にも電気を纏わせた。
ウェンフは電気を纏った両手を胸の前に持ってきて手の中に雷球を作り出す。雷球は大きな音を立てながら強く発光しており、今までウェンフが作り出したどの電気よりも威力が大きいことを物語っている。
雷球を作ったウェンフはスカルドラゴンの方を向いた。スカルドラゴンはユーキに攻撃し続けており、ユーキは全ての攻撃を回避している。
ウェンフは手の中に雷球を作ったままスカルドラゴンに攻撃するチャンスが来るのを待った。
スカルドラゴンは腕や尻尾を使ってユーキに連続攻撃を放つが、回避に専念しているユーキは全ての攻撃をかわしている。
全ての攻撃をかわされれば普通は苛ついてくるものだが、アンデッドモンスターであるスカルドラゴンは感情が無いため、攻撃をかわされても苛ついたりせず、ユーキに攻撃し続けた。
ユーキはある程度スカルドラゴンの攻撃を回避すると後ろに三回跳んでスカルドラゴンから距離を取る。脚力を強化しているため、ユーキは三回跳んだだけど10m近く離れることができた。
距離を取ったユーキを見てスカルドラゴンは顔を上げ、大きく口を開けて火球を放とうとする。スカルドラゴンが火球を放とうとするのを見たウェンフは頭部を狙いやすい状況だと感じて目を見開く。
「今だっ!」
ウェンフは両手を上げ、手の中にある雷球を投げるようにスカルドラゴンの頭部に向けて飛ばした。
飛ばされた雷球は速度を上げてスカルドラゴンに向かって行く。雷球は移動しながら激しい音を立てて形を変えていき、やがて大きな電気の鳥に姿を変えた。
「雷鳥の飛翔!」
ウェンフが叫んだ瞬間、電気の鳥はスカルドラゴンの頭部に命中する。電気は轟音を上げながらスカルドラゴンの頭部を呑み込んだ。




