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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
第十一章~髑髏の徘徊者~
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第百九十二話  歪んだ正義感


 ユーキとアトニイは目を鋭くしてトウジュンを睨みつける。一方でトウジュンもこれから二人の少年を殺めることを楽しみにしているのか、笑みを浮かべたまま杖を構えた。


「生憎だが俺たちはこんな所で死ぬつもりも、アンタの研究のための素材になる気もない」

「お前たちの意思など関係無い。私が素材にすると決めた以上、お前たちは素材になるしかないのだ」


 自分の考えが全てだと言うような態度を取るトウジュンを見ながらユーキは軽く眉間にしわを寄せる。目の前にいる男には何を言っても無駄、そう感じながらユーキは月下と月影を握る手に力を入れた。


「……一つお前に訊きたいことがある」


 双方が睨み合う中、アトニイが低い声でトウジュンに問い掛け、ユーキは構えを崩さずにアトニイに視線を向ける。

 トウジュンはアトニイがどんな質問をするのか興味あるのか、質問に答えるのを拒否することなく黙ってアトニイを見つめていた。


「お前は東国で死者の体をアンデッドに変える禁術を開発していたそうだが、何の目的で禁術を開発していたのだ?」


 アトニイの質問を聞いたユーキは小さく反応する。目の前にいるトウジュンがローフェン東国で禁術を開発していたというのは知っているが、禁術を開発していた動機は分かっていない。

 なぜ死者をアンデッドに作り変えると言う人の道を踏み外すような行動を取ったのか、理由が気になるユーキは視線をトウジュンに向ける。

 ユーキとアトニイが見つめる中、トウジュンは鼻を鳴らしながら小さく笑った。


「私たちが禁術を開発した理由か……そんなの決まっているだろう。東国、いや、この大陸に存在する全ての国のためだ」

「全ての国のため?」


 トウジュンの言葉にユーキは目を細くしながら訊き返す。禁術を開発した動機がちゃんとあることは分かったが、トウジュンの言葉の意味は全く理解できなかった。

 ユーキとアトニイはトウジュンを見つめながら言葉の意味を考える。するとトウジュンは構えていた杖をゆっくりと下ろしながら両手を広げた。


「お前たちも知っているだろう? この大陸には忌まわしい侵略者であるベーゼどもが今でも棲みついており、多くの人間や亜人を苦しめている」


 突然ベーゼの話を始めたトウジュンにユーキは意外そうな表情を浮かべ、アトニイは僅かに目を鋭くする。トウジュンの言葉を聞き、二人は禁術を開発した動機がベーゼにあるのではと予想した。


「ベーゼどもは人間や亜人を襲い、捕らえた者たちを食料や奴隷にして利用している。人間や亜人だけではない、モンスターすらもベーゼどもによって利用されているのだ」


 まるで演説するかのようにトウジュンは大陸に住む生き物たちの現状を語り、ユーキとアトニイは黙ってトウジュンの話を聞き続けた。


「各国の軍や冒険者ギルド、そしてお前たちメルディエズ学園もベーゼを倒すために奮闘しているようだが、ベーゼどもは強く、これまで多くの者がベーゼどもと戦って命を落としている。このままでは何時か大陸に住む生物はベーゼどもに滅ぼされてしまう。そう考えた私は生物が命を落とすことなく、ベーゼどもに対抗する方法を考えた」

「それがお前たちの開発した禁術と関係があるのか?」


 アトニイが大陸の現状と禁術の繋がりについて尋ねるとトウジュンはアトニイを見つめながら頷いた。


「あるとも! ベーゼどもと戦って多くの人間や亜人が命を落としてしまうのなら、命を落としても問題無い存在をベーゼと戦わせればいいのだ」

「命を落としても問題無い存在? ……ッ!」


 何かに気付いたユーキは軽く目を見開いて驚いたような顔をする。ユーキの反応を見たトウジュンは小さく不敵な笑みを浮かべた。


「気付いたようだな、小僧? ……そうだ、既に命を落としている死者をアンデッドに作り変え、ソイツらをベーゼどもと戦わせるのだ。そうすれば生きている者たちがベーゼどもと戦って命を落とすことは無くなる。大陸に住む生物たちが死なずに済むのだ!」


 トウジュンの説明を聞いてユーキとアトニイはトウジュンや仲間の魔導士たちが禁術を開発しようとした動機を理解した。

 生きている存在がベーゼと戦って命を落とせば各国の人口が減り、何時かは大陸の生物がベーゼによって滅ぼされてしまう。そう考えたトウジュンと仲間の魔導士たちは既に命を失っている死者をアンデッドとして蘇らせ、命を持つ者たちの代わりにベーゼと戦わせようと考えた。つまりトウジュンたちはアンデッドモンスターを戦いに利用するために禁術を開発しようとしていたのだ。


「アンタたちは大陸に住む人たちをベーゼから護るため、死体をアンデッドに作り変える禁術を開発したってことか」

「そうだ。……それなのに東国の貴族どもは私たちの考えを真っ向から否定した。東国や他国の民を護るために禁術を開発していたのに、奴らは私たちを国外追放したのだ」


 自分や仲間の考えを理解しようとしなかった貴族たちに対する怒りを思い出したトウジュンは表情を険しくする。


「命ある者を護るために既に命を失っている死者を戦力としようという考えが理解できないなんて、奴らは愚かすぎる」

「アンタ、それ本気で言ってるのか?」

「当然だ。生きている者を護るために取った行動なのだからな。それに死んだ者たちも生きている者たちのために使われるとなれば喜ぶはずだ」


 自分の考えは間違っていないと発言するトウジュンをユーキは呆れたような顔で見つめている。アトニイは何処か苛ついているような表情を浮かべてトウジュンを見ていた。


「命ある者を護るために死んだ者の体をアンデッドモンスターとして蘇らせ、ベーゼと戦わせる。これは大陸に住む生物を護るため、そして侵略者であるベーゼどもを倒すための最善の手段なのだ。お前たちもそう思うだろう?」


 誇らしげに笑うトウジュンはユーキとアトニイに同意を求めるかのように尋ねる。するとアトニイはくだらない物を見るかのような顔をしながら鼻を鳴らした。


「くだらないな」

「何っ?」


 アトニイの返事を聞いたトウジュンは笑みを消して訊き返した。


「ベーゼを滅ぼすために死者を利用するなど、くだらないと言ったのだ」

「な、何だとぉ!?」


 大陸に住む者たちのために禁術を開発しようとしていた自分たちの考えを否定するだけでなく、くだらないと考えるアトニイにトウジュンは表情を険しくする。

 アトニイの考え方はトウジュンたちをローフェン東国から追放した貴族たちと同じだったため、トウジュンが怒りを感じるのは当然と言えた。


「俺もアトニイと同じだ」


 ユーキもアトニイに続いてトウジュンの考えを否定し、トウジュンは険しい表情のままユーキの方を向いた。

 禁術を開発しようとしていたトウジュンと仲間の魔導士たちの行動は傍から見れば大陸に住む人間や亜人を護るための行動だと思われる。だが、単純に考えれば死んでしまった者たちの体をモンスターに変えて戦いに利用しているだけだ。

 生きている者たちのためと言って、死んだ者たちの体を戦いに使うことが許されるわけではない。ユーキもアトニイやローフェン東国の貴族たちと同じようにトウジュンたちの考え方は大間違いだと思っていた。


「アンタやアンタの仲間たちが東国や大陸に住む人たちを護ろうって思っていたのは嘘じゃないだろう。だけど、そのために死んだ人たちの体を利用するのは間違ってる。増してやスケルトンのようなアンデッドに作り変えるなんて、死んだ人たちを汚しているとしか言えない」

「汚すだと? 死んだ後に生きている者たちのために侵略者どもと戦う機会を与えているのだ。汚すどころか名誉を与えていると言うべきだろう」

「違う!」


 ユーキは力の入った声でトウジュンの言葉を否定し、隣にいるアトニイはユーキに視線を向けた。


「人は生きている間に色んなことをする。必死に働いたり、家庭を作ったり、アンタの言うとおりベーゼやモンスターと戦ったり、その人ができることを精一杯やって生きた証を残す。そして死ぬ時、その人は生きていた時の疲れを癒すように墓の中で安らかに眠るんだ。そんな人たちの遺体をアンデッドに作り変えてベーゼと戦わせるなんて、汚していると言わずに何と言うんだ?」


 必死に生きて人生を終わらせた者の死体を自分勝手な理由でアンデッドに変え、戦いに利用することに怒りを感じるユーキは自分が思っていることをトウジュンにぶつける。

 アトニイは幼いのに死者を思う気持ちを持つユーキを見ながら意外そうな反応を見せている。だが、トウジュンはユーキの考え方が気に入らないのか不満そうな顔でユーキを睨んでいた。


「フン、何を言い出すかと思えば、ただの綺麗事ではないか。世の中はお前が思っているほど甘いものではないのだ」

「確かに俺の言っていることは綺麗事かもしれない。だけどな、例えどんなに苦しくて、辛い状況だったとしても俺は死んだ人たちをアンデッドに作り変えるような選択はしない。それじゃあベーゼと同じになっちまうからな」


 毅然とした態度で語るユーキを見ながらトウジュンは奥歯を強く噛みしめる。

 トウジュンはベーゼから人々を護るために禁術を開発しようと考えていた。先程のユーキの発言はトウジュンの考えを否定するだけでなく、トウジュンがベーゼと同じと言っているようなものだったため、トウジュンはユーキに対して強い怒りを感じていた。


「私がベーゼと同じだと言いたいわけか……この青二才め、人々を護ろうとする私の意志を否定するだけでなく、私をあの侵略者どもと一緒にするとは! お前たちも東国の貴族どもと同類だったというわけか!」


 ユーキとアトニイを睨みながらトウジュンは杖を夜空に向かって高く掲げた。


「私の意志を理解しようとしないお前たちにもはや情けなどかけん。どの道、私のスケルトンを倒したお前たちは此処で死ぬのだがな!」


 改めてユーキとアトニイの殺害を宣言したトウジュンは掲げている杖を見上げながらブツブツと呪文のような言葉を呟き始めた。その直後、トウジュンの杖が黒い靄のような物を纏い出し、不気味な雰囲気を漂わせ始める。

 杖を見たユーキとアトニイはトウジュンが何かの魔法を仕掛けてくると予想する。魔法を使われる前に攻撃しようと考えた二人は先制攻撃を仕掛けるためにトウジュンに向かって走ろうとした。だがその時、二人の足元に転がっている無数のスケルトンの残骸が独りでに動き出し、トウジュンの方へ転がっていく。


「何だ?」

「これは……」


 動き出すスケルトンの残骸に驚きながらユーキとアトニイは残骸が集まる場所に視線を向ける。

 残骸はトウジュンの前に集まると一斉に宙に浮いて別の残骸と繋がり始め、徐々にスケルトンの各部位に戻っていく。やがてスケルトンの残骸は六体のスケルトンに姿を変えた。

 無数の残骸が集まってスケルトンになったのを目にしたユーキは目を見開き、アトニイは目を鋭くする。二人の反応を見たトウジュンは愉快そうに笑い出した。


「ハハハハ、驚いたか? これが私と仲間たちが長い時間を掛けて開発した禁術の力だ!」

「これが禁術……だけど、禁術は死体をアンデッドに作り変える魔法のはずだ。どうして死体も無いのにスケルトンを作り出せるんだ」


 ユーキは情報に無かった禁術の力に驚きながらトウジュンを見つめる。ユーキの知る限りではトウジュンたちが開発していた禁術は死体をアンデッドに作り変えて自由に操ることができると言うものだった。

 しかしトウジュンは死体ではなくユーキとアトニイが倒したスケルトンの残骸を使って新たなスケルトンを生み出すというユーキの知らない能力を見せたのでユーキは少し驚いていた。


「フフフ、それは禁術の能力の一部にすぎん。私と仲間たちは“死体をアンデッドに作り変える”だけでなく“破壊されたアンデッドの残骸を使った新しいアンデッドを作り出せる”魔法を目指して禁術を開発していた。未完成の時は死体を作り変えることしかできなかったが、完成したことで残骸から新たなアンデッドを作り出せるようになったのだ!」


 驚いているユーキにトウジュンは自慢するように禁術の能力を話し、説明を聞いたユーキは納得すると同時に厄介な能力だと感じる。


「この禁術があれば敵を恐れない死の軍隊を自由に作り出すことができる。禁術さえあれば私は侵略者であるベーゼどもを叩きのめし、国から追放した貴族どもも見返すことができるのだ」


 自分に背を向けて横一列に並んでいるスケルトンたちを見ながらトウジュンは両手を広げる。その姿は欲しがっていた物を手に入れて機嫌を良くする子供のようだった。

 笑っているトウジュンをユーキは目を鋭くしながら見つめた。


「ところで気になっていたのだが、その禁術はお前とお前の仲間たちが開発したのだったな?」


 ユーキが笑うトウジュンを睨んでいるとアトニイがトウジュンに声を掛け、トウジュンは笑うのをやめてアトニイに視線を向ける。


「ああ、そのとおりだ。……それがどうした?」

「お前と共に禁術を開発していた仲間たちはどうした?」


 アトニイの質問を聞いたトウジュンは小さく反応し、ユーキもアトニイを見ながら軽く目を見開いた。

 情報ではトウジュンは仲間の魔導士たちと共に禁術を開発し、その仲間たちと共にローフェン東国を追放された。しかし、ユーキとアトニイの前にはトウジュンしかおらず、禁術の開発に関わった仲間はいない。

 ユーキとアトニイはトウジュンと共にローフェン東国を追放された魔導士たちがどうなったのか気になってトウジュンを見つめる。二人が見つめる中、トウジュンは静かに口を開く。


「……彼らはもういない。禁術が完成した時に命を落とした」


 落ち着いた態度で語るトウジュンを見てユーキは目元をピクリと動かし、アトニイは「ほぉ」と興味のありそうな反応を見せていた。


「私たちは東国を追われた後、あちこちを放浪しながら禁術の開発を進めていった。ある程度まで開発が進んだ頃、何処かで私たちの噂を聞いた東国の連中が私たちを捕らえるために追手を差し向けたと言う情報を聞いてな。それからは東国の追手を警戒しながら開発を続けたのだ」


 トウジュンの話を聞いたユーキは先程トウジュンが自分たちをローフェン東国の追手と勘違いしていた理由を知って納得し、同時に東国がトウジュンたちを捕縛するために動いていたことを知った。


「その後、私たちは幾つもの拠点を作りながら開発を進め、完成の一歩手前まで来た。だが、禁術を完成させるには面倒な条件があった」

「条件?」

 

 ユーキがトウジュンの言葉に反応し、アトニイも無言でトウジュンを見つめる。


「禁術は発動させるためには魔力だけでなく、生命力も使う必要がある。禁術を発動させると生命力を消費し、消費した生命力の分だけ強力、もしくは大量のアンデッドを作り出すことができるのだ。そして、この禁術を完成させる際にも大量の魔力と生命力を使う必要があった」

「完成させる際……まさか!」


 何かに気付いたユーキは目を見開き、トウジュンはユーキに視線を向けた。


「そうだ、禁術を完成させる時に私は仲間たちの生命力を使った。結果、大量の生命力を失ったことで仲間たちは衰弱し、そのまま命を落とした」

「何だと……」


 禁術を完成させるためにトウジュンが執った行動を知ってユーキは愕然とする。禁術を使うために生命力を消費することにも驚いたが、それ以上に禁術を完成させるために仲間の命を使ったトウジュンに驚いていた。


「禁術が完成したのは二週間ほど前だ。私たちはグロズリアの村の近くにある墓地に拠点を作り、そこで開発を進めていた。そして、禁術を完成させるために私は目の前にいた仲間たちの魔力と生命力を使ったのだ」

「何でそんなことを……仲間たちが自分の魔力と生命力を使ってくれって言ったのか?」

「いいや、私の独断だ」

「なっ!?」


 トウジュンの口から出た言葉にユーキは耳を疑う。仲間を犠牲にして禁術を完成させたと聞けば驚くのは当然だった。


「さっきも言っただろう? 禁術を完成させる際には大量の魔力と生命力が必要なのだ。生命力なら普通の人間から得られるが、大量の魔力は魔法を使える存在、つまり魔導士などからしか得られない。かと言って何処かの町で魔導士を捕らえるのも難しい」

「……だから身近にいた仲間たちを犠牲にしたのか?」


 ユーキは僅かに表情を険しくしながらトウジュンを見つめる。目的のために仲間たちの命を奪ったトウジュンの行動はユーキにとって非常に腹立たしいことだった。


「犠牲とは人聞きが悪い。これは禁術を完成させるために必要なことだったのだ」

「仲間たちの命を使って、アンタは何も感じないのか?」

「彼らも自分たちの命で禁術が開発するのなら本望だろう。……まぁ、生命力を使う時に彼らも一瞬驚きと戸惑いを見せていたが、完成させるには仕方の無いことだ」

「アンタ、最低だよ」


 後ろめたさを感じていない様子のトウジュンを睨みながらユーキは低い声を出す。同時にユーキはトウジュンの本質を知った。

 トウジュンのベーゼから大陸に住む人たちを護るために禁術を開発したと言う考えに嘘はない。だが、腹の底には禁術を完成させるために仲間を利用し、自分を追放したローフェン東国の貴族たちを見返してやろうと言う歪んだ意思があった。

 ユーキは月下と月影を強く握りながらトウジュンを睨む。目の前にいる男はベーゼと戦うために禁術を開発したが、目的のためなら平気で他人を犠牲にしようと考えるとんでもない男だった。

 このままトウジュンを放っておいたら何時かアンデッドを利用した事件を起こすかもしれない。そう感じたユーキは今此処でトウジュンをなんとかしようと考えた。

 

「アンタは危険な男だ。野放しにしたら何を仕出かすか分からない。大陸に住む人たちのためにも此処でアンタを捕まえる」

「捕まえる? 私はベーゼから人々を護るために禁術を完成させたのだぞ。その私を捕らえると言うのか?」

「俺からして見れば、アンタはベーゼと同じくらいヤバいんだよ」


 ユーキはトウジュンを睨みながら思ったことを伝える。ユーキにはトウジュンは自分勝手な正義感を振りかざす小悪党にしか見えなかった。

 トウジュンは自分を危険な存在と語るユーキを見て険しい表情を浮かべる。トウジュンもユーキのことを自分の考えを理解しない愚かな児童としか思っておらず、何としても始末しようと思っていた。


「所詮、お前のような子供には私の考えなど理解できないと言うことか……ならば、もう会話は必要ないな。予定どおりお前たちを始末し、アンデッドに作り変えてベーゼと戦う戦力にしてやる!」


 改めて抹殺を宣言したトウジュンは杖をユーキとアトニイに向ける。するとスケルトンたちは一斉に走り出し、三体ずつに分かれて二人に向かって行く。ユーキとアトニイは走って来る六体のスケルトンを見ると迎撃する体勢を取った。

 ユーキに迫るスケルトンたちは横一列に並びながら持っている手斧を振り上げながら距離を詰めていき、ユーキの前まで来ると一斉に手斧を振り下ろした。

 頭上から振り下ろされる手斧を見たユーキは軽く後ろに跳んで攻撃をかわし、回避した直後に強化ブーストを発動させて右腕の腕力を強化する。そして、前に踏み込みながら月下を右から勢いよく横に振って並んでいるスケルトンたちの首を一気に砕いた。

 首の骨を砕かれたことでスケルトンたちの頭部は足元に落ち、頭部を失ったスケルトンの体は崩れるようにその場に倒れ、周囲に大量の骨が散らばった。

 ユーキの近くではアトニイも三体のスケルトンと交戦している。アトニイの前にいるスケルトンたちは剣を握りながらアトニイを見つめており、アトニイも鞘に納めた状態の剣を両手で握って左脇構えを取ってスケルトンたちを警戒していた。

 アトニイがスケルトンの動きを窺っていると、アトニイの正面にいるスケルトンが剣を振り上げてアトニイに襲い掛かろうとする。アトニイはスケルトンの動きに気付くと剣を素早く右斜め上に振り上げてスケルトンの胴体を破壊した。

 胴体を破壊されたスケルトンは仰向けに倒れる。スケルトンが倒れるのを確認したアトニイは続けて左斜め前にいるスケルトンに向けて剣を振り下ろし、頭部を粉々に破壊した。

 頭部を失ったスケルトンは糸の切れた人形のように倒れてそのまま動かなくなる。

 二体目のスケルトンを倒したアトニイは残っているスケルトンの方を向く。だがアトニイが振り向いた瞬間、スケルトンが剣を振り下ろして襲い掛かって来た。

 しかしアトニイは慌てずに剣でスケルトンの振り下ろしを防ぎ、防御に成功すると素早く剣を払い上げてスケルトンに首に向かって剣を右から横に振り、首の骨を破壊する。

 首を破壊されたスケルトンは持っている剣を落としながら倒れてバラバラになり、スケルトンを全て倒したアトニイは足元にあるスケルトンの残骸を見ながら軽く剣を振った。


「チッ、流石にあれだけのスケルトンを倒した小僧どもが僅か六体のスケルトンに負けるはずがないか」


 戦いを見物していたトウジュンは低い声で呟く。トウジュンもユーキとアトニイが数体のスケルトンに負けるとは思っていなかったようだが、実際は今の戦いで決着を付けたいと思っていたらしく、声からは不満や苛立ちが感じられた。


「だが、次は同じようにはいかんぞ!」


 トウジュンは険しい表情を浮かべながら再び杖を高く掲げ、杖に黒い靄を纏わせて禁術を発動させる。

 杖が靄を纏った直後、トウジュンの体も薄っすらと黒い靄に包まれ、同時にトウジュンの顔が僅かに歪む。禁術を使ったことで魔力と生命力を消費し、トウジュンは軽い息苦しさや倦怠感を感じていた。

 禁術が発動したことでユーキとアトニイが倒したスケルトンの残骸は再びトウジュンの下へ集まり、残骸を見た二人は再びスケルトンが襲ってくると予想して身構えた。

 スケルトンの残骸はトウジュンの目の前に集まると最初と同じように独りでに動いてスケルトンへ変わっていく。ただ、今回は先程のスケルトンとは若干違うスケルトンが作られた。

 新たに作られたスケルトンは二体で、先程のスケルトンの倍近くの身長で胴体や足、腕は長い。数体のスケルトンの残骸が使われたことで、体の大きなスケルトンが二体作られたのだ。

 スケルトンたちの両手には剣が握られており、体の構成が済むとスケルトンたちはゆっくりとユーキとアトニイに向かって歩き出す。

 

「ハハハハッ、今度は先程のスケルトンとは訳が違うぞ? ソイツら相手にどこまで耐えられるだろうな」


 禁術を使い終えたトウジュンは笑いながらユーキとアトニイを挑発した。笑みを浮かべてはいるが、その額には僅かに汗が流れており、禁術によって体力を消耗しているのが分かる。

 ユーキは近づいて来る二体の大きなスケルトンを見ながら小さく舌打ちをし、アトニイも鬱陶しそうな表情を浮かべた。


「ジャイアントスカルか、ちょっと面倒だな」

「スケルトンと同じ下級モンスターですが、下級モンスターの中でもそれなりに力の強い種類ですからね」


 足の位置を変えながらユーキとアトニイはジャイアントスカルを見上げる。スケルトンと見た目は殆ど変わらないが、大きさと力はジャイアントスカルの方が上なので侮ることはできなかった。

 ジャイアントスカルたちはユーキとアトニイに近づくと右手に持っている剣で同時に二人に斬りかかる。ユーキは左に跳んで攻撃をかわし、アトニイは右に跳んで回避した。

 攻撃を避けたユーキはジャイアントスカルの右側面に回り込むとジャイアントスカルの足元に向かって走り、ジャイアントスカルの右足に月下と月影で同時に峰打ちを打ち込んだ。月下と月影は右足の骨に命中するが、骨には僅かにひびが入っただけで砕くことはできなかった。


「クゥッ、やっぱり今までのスケルトンと比べて防御力は高いか」


 ジャイアントスカルに決定的なダメージを与えられなかったことを悔しく思いながらユーキは大きく後ろに跳んで離れた。

 ジャイアントスカルはユーキの方を向くとゆっくりと近づき、ユーキはジャイアントスカルを見上げながら双月の構えを取る。


「コイツを短時間で倒すなら、やっぱり強化ブーストを使わないといけないよな」


 ユーキは強化ブーストを発動させて両腕両足の筋力を強化する。強化が完了すると地面を強く蹴って近づいて来るジャイアントスカルに向かって走り出した。

 脚力を強化したことでユーキは先程よりも素早くジャイアントスカルに近づくことができ、目の前までジャンプしてジャイアントスカルの胸の部分と同じ高さまで跳び上がる。そして、ジャイアントスカルの右腕を見ながら月下と月影を握る手に力を入れた。

 ユーキはジャイアントスカルの右腕に向けて月下と月影を振り下ろし、ジャイアントスカルの右上腕骨を砕く。強化ブーストで腕力を強化たため、今回はジャイアントスカルの骨を難なく破壊することができた。

 上腕骨が砕けたことでジャイアントスカルの右腕は地面に落ちる。右腕を破壊したユーキは続けて月下と月影を左から横に振ってジャイアントスカルの首を攻撃し、首の骨をを粉々に砕いた。

 首の骨を砕かれたジャイアントスカルは両膝を地面に付ける。膝が付くと同時に体は崩れて骨の山となり、頭部も地面に落ちて砕け散った。

 地面に着地したユーキはジャイアントスカルを倒したのを確認するともう一体を確認する。残りのジャイアントスカルはアトニイと向かい合い、両手の剣を交互に振ってアトニイを攻撃していた。

 アトニイはジャイアントスカルに少し手を焼いているのか回避に専念している。


「苦戦してるな。いくらアトニイでも魔法が使えない状態でジャイアントスカルの相手にするのは流石にキツイか」


 メルディエズ学園で注目されている下級生でもジャイアントスカルが相手では辛いと感じたユーキはアトニイと向かい合うジャイアントスカルを見つめながら月影を鞘に納める。そして月下を両手で握ると上段構えを取り、強化ブーストで両腕の筋力と肩の力を強化した。

 強化を済ませたユーキはジャイアントスカルを鋭い目で見つめながらジャイアントスカルの立ち位置と距離を確認し、月下を握る手に力を入れた。


「ルナパレス新陰流、湾月わんげつ!」


 ユーキは力を強化した状態で月下を勢いよく振り下ろし、刀身から月白げっぱく色の斬撃を放つ。斬撃はジャイアントスカルに向かって飛んで行き、勢いを落とすことなくジャイアントスカルの右側から体を通過した。

 斬撃を受けたジャイアントスカルは首の骨と両腕の上腕骨、肋骨の前の方を両断する。切られたことで頭部や腕、肋骨は地面に落下し、ジャイアントスカルは大きな音を立てながら倒れた。


「これは……」


 アトニイは突然横から飛んできた斬撃とその斬撃によって両断されたジャイアントスカルを見て目を見開く。驚きながら斬撃が飛んで来た方を向き、視線の先にユーキがいるのを見て斬撃がユーキの攻撃だと知った。

 メルディエズ学園でも優秀な生徒と言われているユーキが斬撃を放つ技を使えると言う話はアトニイも噂で聞いている。だが実際に目撃したことは無かったため、斬撃を見て軽い衝撃を受けていた。


「アトニイ、大丈夫かぁ!?」


 ユーキが大きな声で離れた所にいるアトニイに呼びかけるとアトニイはユーキを見ながら小さく笑って手を振り、無事なことを伝える。

 アトニイに怪我がないことを知ったユーキも笑みを浮かべてホッとする。だが、すぐに目を鋭くしてトウジュンの方を向いた。


「そ、そんな馬鹿な、下級のアンデッドとは言え、ジャイアントスカルが小僧一人に倒されるなんて……」


 禁術で作り出したジャイアントスカルがあっという間に倒されたことが信じられないトウジュンは驚愕する。

 トウジュンは禁術を使った時にそれなりの量の魔力と生命力を使用した。そのため、作り出したジャイアントスカルは通常のジャイアントスカルよりも戦闘能力が高くなっていたのだ。

 しかしジャイアントスカルは強化ブーストで力を増したユーキに倒され、禁術を開発したトウジュンはプライドを傷つけられた。

 ユーキは驚愕するトウジュンを睨み、離れていたアトニイもユーキの隣までやって来てトウジュンを見つめる。


「ガキだからって舐めるなよ?」


 月下の切っ先をトウジュンに向けながらユーキは言い放ち、トウジュンは自分を睨むユーキを見ながら悔しそうな表情を浮かべた。


少し遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。


今年も頑張っていこうと思いますので、よろしくお願いいたします。

予定では今年中に児童剣士のカオティッカーを完結させるつもりです。

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