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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
第十一章~髑髏の徘徊者~
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第百九十話  闇夜の亡者


 日が沈み、グロズリアの村の住人たちは村の外を見張る数人を残して自宅へ戻る。帰宅した村人たちは夕食の準備に取り掛かり、料理ができると家族と会話をしながら食事を取った。今日はいつもと違って色んなことが起きたため、村人の中には疲労の露わにする者も何人かいる。

 村人たちが夕食を取る中、ユーキたちもコリーたちの自宅で出された料理を食べている。干し肉などの保存食とは違う手料理が食べられるため、ユーキは夕食に招待してくれたコリーたちに感謝しながら出された料理を口にした。

 グラトンは流石に家に入ることはできないため、コリーの自宅前でユーキたちがメルディエズ学園から持って来た野菜などを食べている。

 食事中、ユーキたちはコリーたちからメルディエズ学園のことや過去にどのような依頼を受けたかなど色々訊かれ、ユーキたちは一つずつ問いに答えた。コリーたちは自分たちの知らないメルディエズ学園の話を聞いて興味のありそうな表情を浮かべる。

 夕食が終わるとユーキたちはコリーたちに礼を言って家を後にし、自分たちの寝床がある小屋へ向かう。

 ヘクターに今日の成果を報告した時にユーキたちは明日もスケルトンの討伐をするために墓地へ向かうことを伝えた。それを聞いたヘクターはユーキたちが問題無く休めるよう来客用の小屋を貸してくれたのだ。

 小屋に着くとユーキたちは明日の予定を再確認し、それが済むと今夜の見張りについて話し合う。

 スケルトンは夜になるとグロズリアの村に近づき、門などを叩いたりして村人たちを怖がらせている。もしもスケルトンが村に近づいて来たら討伐するため、ユーキたちは交代で二時間ずつ眠りながら村の周囲を見張ることにした。

 見張りをすることが決まるとユーキたちは次に誰と誰が一緒に見張りをするか話し合う。話し合った結果、最初にユーキとアトニイ、その次にウェンフとオルビィンが見張りをすることになり、何か問題が発生したら休んでいる二人を起こして対処することになった。

 ユーキは寝ずに見張りをすることに慣れているが、ウェンフたち下級生は初めて経験することだ。寝ずの見張りをすることに対してウェンフは少し緊張しており、アトニイは問題無いのか落ち着いた様子を見せている。だがオリヴィアは夜中にスケルトンが現れることに小さな不安を感じているのか、曇った表情を浮かべていた。

 オルビィンが暗い場所ではスケルトンと全力で戦えないことを知っているユーキとウェンフはオルビィンの反応を見て苦笑いを浮かべ、無理をしないよう声を掛ける。

 気遣われていることを悟ったオルビィンは自分を情けなく思い、夜中にスケルトンが現れないことを願った。

 周囲を暗闇に包まれ、グロズリアの村の村人たちは眠りにつく。ユーキとアトニイは予定どおり村の外の見張りに就き、村の男たちもユーキたちと同じように交代しながら数人でスケルトンが近づいて来ていないか村の周囲を見張った。


「静かな夜だなぁ」

「ハイ、このまま何事も無く朝になってくれるといいんですが」


 グロズリアの村を西門の近くに建てられた見張り台の上ではユーキとアトニイは周囲を見張っていた。

 ユーキとアトニイが村人たちに自分たちも見張りに加わりたいと話すと村人たちは嫌な顔一つせずに歓迎してくれた。昼間にコリーとルタを助け、多くのスケルトンを倒したことを知った村人たちはユーキたちを信用し、一緒に見張りをしようと思ったのだ。

 村人たちと相談した結果、ユーキとアトニイはこの数日でスケルトンが目撃された回数が多い村の西側の見張りを任され、ユーキとアトニイは見張り台の上からスケルトンが近づいて来ていないか見張ることになった。

 ただ、メルディエズ学園の生徒とは言え、ユーキとアトニイだけに見張りを任せるわけにはいかないため、見張り台の近くでは二人の村人が何か起きた時にすぐ動けるよう待機している。


「やはり、この暗さですから遠くは見難いですね」

「ああ、しかも月が雲に隠れているからいつも以上に暗い」


 ユーキとアトニイは見張り台の天井からぶら下がっているランタンの灯りを頼りに周囲を見回す。ランタンの灯りでは遠くを照らすことができないが無いよりはマシなので使っている。

 今の状態ではもしスケルトンが現れても灯りが届く所まで来ないと気付けないと感じたユーキは難しい顔で遠くを見つめる。

 しばらくするとユーキはアトニイの右隣まで来た彼の腕をそっと掴んだ。


「ルナパレス先輩?」

「そのまま遠くを見張っていてくれ」


 そう言うとユーキは混沌紋を光らせて強化ブーストを発動させる。アトニイはユーキの行動を不思議に思いながら言われたとおり遠くを見た。すると先程まで暗くて見え難かった数百m先の林がハッキリと見えるようになり、視界に変化に驚いたアトニイは目を見開く。


「これは……」

「今、俺の強化ブーストで君の視覚を強化した。今なら夜目が利いて暗い場所もよく見えるはずだ」


 ユーキは驚いているアトニイに何が起きたのか説明しながら別の方角を見張る。

 強化ブーストはユーキ以外を強化する場合はその対象に触れないといけない。ユーキはアトニイの視力を強化するためにアトニイの腕に触れて強化ブーストの能力を使った。

 アトニイの視力を強化しながらユーキは自身の視力も強化している。そのため、ユーキも夜目が利くようになり、暗い遠くを確認することができた。


「ルナパレス先輩の混沌術カオスペルは筋力を強化するだけでなく、こんなことにも使えるのですね」

「まあね。ただ、強化にも限界があるから素手で城壁を破壊したりすることはできないけど」


 遠くを見張りながらユーキは苦笑いを浮かべる。アトニイは強化ブーストが万能ではないことを知ると少し意外そうな顔をし、しばらくユーキを見てから見張りを再開した。

 ユーキとアトニイは視力を強化しながらグロズリアの村から遠く離れた平原や林などを見張る。時々村の西側だけでなく北側や南側も見てスケルトンの姿が無いか確かめた。

 二人は見張り台の上で無駄話などせず、静寂に包まれた状態で見張りを続ける。すると、その静寂を壊すかのようにアトニイがユーキに声を掛けた。


「ルナパレス先輩、先輩はどうしてメルディエズ学園に入学したのですか?」

「え?」


 突然の質問にユーキはアトニイの方を向きながら思わず声を出した。


「ルナパレス先輩は優れた剣術と知識、行動力を持っています。貴方は間違い無く学園でも上位の実力を持った生徒と言えるでしょう」

「そ、そうか?」


 突然質問してきたかと思えば今度は高く評価してくるアトニイをユーキはポカンとしながら見つめる。


「ですが、ルナパレス先輩はまだ十歳の子供、本来なら家族と共に暮らし、自分の生き方を考える歳です。なのにどうしてメルディエズ学園に入学したのですか?」


 アトニイの言葉を聞いたユーキは質問の意味を理解してフッと反応する。

 優れた剣士とは言え、傍から見れば幼い十歳児のユーキがメルディエズ学園の生徒として活動するのはおかしなことなので、アトニイはユーキに学園にいる理由を尋ねたのだ。

 ユーキはアトニイの質問にすぐには答えず黙り込み、しばらくすると遠くを見ながら口を開いた。


「多くの人を助けるため、かな。爺ちゃんから教わったこの剣術でベーゼやモンスターに苦しんでいる人を一人でも助けてあげたい、そう思ってメルディエズ学園に入学したんだ」


 昔を懐かしむかのような表情を浮かべながらユーキはアトニイの問いに答え、そんなユーキをアトニイは無言で見つめる。

 ユーキは異世界に転生した直後、自分の持つ才能や知識を利用して生きていくことだけを考えていたが、ガロデスと出会った時にベーゼによって多くの人が苦しんでいると聞かされ、ユーキは自分の月宮ルナパレス新陰流で人々をベーゼから護りたいと考え、メルディエズ学園に入学することを決意した。

 ただ、自分が別の世界から転生した高校生だとは言えないため、ユーキはアトニイが納得しそうな答えを言った。


「しかし、ベーゼと戦うためだとしても、もう少し成長してから入学しても良かったのではないでしょうか?」

「俺、家族がいないんだ。入学できる歳になるまで待つ余裕も無かったし、一人で生きていくためにも入学するしかなかったんだ」

「そうだったのですか……失礼しました」


 真剣な表情を受けべながら謝罪するアトニイを見たユーキは小さく笑いながら「気にしなくていい」と首を横に振る。

 ユーキの反応を見たアトニイはこれ以上入学した理由について質問しない方がいいと思ったのか、なにも言わずに見張りを続けた。

 

「アトニイ、君はなぜメルディエズ学園に入ったんだ?」


 自分の入学理由を話したユーキは今度はアトニイにメルディエズ学園に入学した理由を尋ねる。ユーキも今学園内で注目を集めているアトニイがどんな理由で入学したのか気になっていた。

 アトニイはユーキをチラッと見た後、教えてもらったのだから自分も話すのが筋だと感じ、前を見てから口を開いた。


「夢のためです」

「夢?」


 ユーキが訊き返すとアトニイは前を向いたまま小さく頷いた。


「昔、叶えることができなかった夢を叶えるため、そのためにメルディエズ学園に入学したのです」

「その夢って、どんな夢なんだ?」

「すみません、それはお話しできないんです。色々と事情があるので」

「……そうか」


 目を閉じながら語るアトニイを見てユーキは納得する。アトニイが叶えたかった夢が何なのか気になるが、アトニイが話せないと言うのなら無理に聞き出すこともできないため、ユーキは理由についてそれ以上触れなかった。


「ただ、その夢も近々叶うかもしれないのです」

「えっ、そうなのか?」

「ハイ、その時が待ち遠しいです」


 そう言ってアトニイは笑みを浮かべ、ユーキは笑うアトニイの横顔を見て意外そうな顔をする。目の前の笑顔は今まで見たアトニイのどの笑顔よりも活き活きとしたものに見えた。


「……まあ、色々あるみたいだけど、お互いに夢や目的のために頑張っていこう?」

「ええ」


 アトニイがユーキの方を向いて頷くとユーキもアトニイを見ながら小さく笑い、グロズリアの村の西側を見ながら見張りを続ける。すると、前を見ていたユーキは何かに気付き、笑みを消して軽く目を見開いた。


「……どうしました?」


 ユーキの反応を見たアトニイも笑みを消して声を掛ける。ユーキは前を向いたまま目を僅かに鋭くし、ゆっくりと自分が見ている方向を指差した。

 アトニイは不思議に思いながらユーキが指差す方を確認すると、正門から西に700mほど離れた所にある平原の中をグロズリアの村に向かって近づいて来るスケルトンの群れが目に入った。


「スケルトンの群れ?」

「ああ、最近村の近くに現れるって言われてる奴らに間違い無い」


 予想していたとおりスケルトンが現れたことでユーキとアトニイは表情を鋭くする。ただ、この時の二人は少し嫌な予感がしていた。

 墓地から戻ってヘクターに報告をした時、ユーキたちは夜中にグロズリアの村に近づいて来るスケルトンのことを聞かされた。ヘクターの話では今まで夜中に村に近づいて来たスケルトンは十体ほどだったそうだ。

 しかし、今ユーキとアトニイが見たスケルトンは数十体おり、二人は今回のスケルトンたちは脅かそうとしているのではなく、グロズリアの村を襲おうとしている可能性が高いと感じていた。


「アトニイ、君はこのままスケルトンたちを警戒していてくれ。俺はウェンフとオルビィン様を呼んでくる」

「分かりました」


 返事を聞いたユーキがアトニイの腕から手を離すと強化ブーストの能力を視力から脚力の強化に回した。

 視力の強化が無くなったことでユーキとアトニイの視力は元に戻り、夜目も利かなくなったが、スケルトンを確認した以上、視力を強化する必要は無い。

 ユーキは脚力を強化したまま見張り台から飛び下りて地面に着地する。脚力を強化していたため、数mの高さから飛び下りても痛みや痺れは感じなかった。

 突然見張り台から飛び下りたユーキに近くにいた村人たちは驚きながらユーキを見つめる。ユーキは村人たちに駆け寄るとスケルトンの群れが近づいて来ていることを伝え、それを聞いた村人たちは驚きの表情を浮かべた。

 ユーキは驚く村人たちにスケルトンの群れの位置と村に侵入してくる可能性があることを伝え、村人たちを避難させた方がいいと助言する。

 話を聞いた村人たちは走って他の村人たちに報告へ向かい、ユーキとウェンフたちを呼びに走った。


――――――


 スケルトンの接近に気付いてから数分後、ユーキたちは西門の前に集まった。

 ウェンフとオルビィンは眠っていたところを起こされたため、まだ眠たそうにしており、グラトンも大きく口を開けて欠伸をしている。アトニイも見張り台から下りてきてユーキたちと合流した。

 ユーキたちの周りにはヘクターやウォルクス、二十数人の村の男が鍬などの農具を握りながら立っている。もしもスケルトンが村の中に侵入した際はスケルトンと戦えるよう農具を武器として持ち出していた。

 男は他にも大勢いるが、全員をスケルトンの迎撃に就かせるわけにはいかず、西門前にはいない他の男たちが避難した女や子供、老人たちの護衛に就いている。

 戦えない女たちはスケルトンが村に侵入した際に襲われないよう村の奥にある倉庫に移動しており、今も倉庫へ向かっている。静かだったグロズリアの村の中には村人たちの騒ぐ声が響いていた。


「予想どおり、スケルトンが現れた。それも凄い数だ」


 ユーキはウェンフたちの方を向いて真剣な表情を浮かべ、ウェンフとアトニイも黙ってユーキの話を聞いている。オルビィンだけは夜中にスケルトンと戦うことになってしまったため、複雑そうな表情を浮かべていた。


「今回のスケルトンはこれまでに村に近づいて来たスケルトンの群れよりも数が多い。もしかすると村に侵入して村の人たちを襲う可能性もある。そして、この村でスケルトンとまともに戦えるのは俺たちだけだ。全力で迎撃するぞ」

「ハイ!」


 ウェンフは両手を強く握りながら力強く返事をし、アトニイも頷いた。

 二人の反応を見たユーキはチラッとオルビィンに視線を向ける。オルビィンの暗い顔を見たユーキはオルビィンの前まで移動し、軽く彼女の腕を叩いた。

 腕を叩かれたオルビィンはハッとした後に目の前に立っているユーキの顔を見る。


「オルビィン様、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です」


 オルビィンはショヴスリを強く握りながら返事をするが、夜にスケルトンと戦うのはやはり抵抗があるのか、緊張と不安が混ざったような顔をしていた。

 ユーキはオルビィンの顔を見ると一歩前に出てオルビィンの顔を覗き込む。


「オルビィン様、スケルトンたちは俺たちで相手をします。貴女は門を護りながら俺たちが倒し損ねたスケルトンを倒してください」

「い、いえ、私は大丈夫です。一緒に前線で……」

「いいえ、今のオルビィン様では無理です」


 真剣な顔で首を横に振るユーキを見てオルビィンは口を閉じる。ウェンフとアトニイはユーキが何を考えているのか察したのか、何も言わずに会話を聞いていた。


「オルビィン様は夜のスケルトンとはギリギリ戦える状態です。昼間なら大勢の敵に囲まれても問題無く対処できるでしょうけど、今のオルビィン様が囲まれたら対処できないと思います」

「そ、それは……」


 オルビィンはユーキの言っていることが間違いではないと感じて俯く。オルビィン自身も暗い中で不気味さを増したスケルトンの群れに囲まれたら勝てるかどうか分からないと感じているため、ユーキに言い返すことができなかった。

 ユーキもオルビィンが夜では戦えないわけではないと言うことは理解している。例え夜にスケルトンと戦うことになったとしても、全力が出せないと言うだけであって一対一なら問題無いと思っていた。

 だが今回はスケルトンの数が多いため、全力で戦えないオルビィンを前に出すのは危険だと感じ、後方で西門の防衛についてもらうおうとユーキは思っていた。


「今のオルビィン様はまだ暗い場所でアンデッドと戦うことに慣れていません。ですから、今回は俺たちに前線を任せ、門を護ることに集中してください」

「……分かりました」


 オルビィンは若干悔しそうな顔をしながら返事をする。そんなオルビィンを見たユーキは微笑みながら再びオルビィンの腕を軽く叩く。


「焦ることはありません。時間は掛かるかもしれませんが、少しずつ慣れていけばいいんです。戦わなくちゃいけないからと言って無理に前に出て戦う必要は無い、オルビィン様はオルビィン様に出来ることをやってください」

「……ハイ!」


 しばらく暗い顔で俯いた後、オルビィンは顔を上げて頷く。ユーキはオルビィンの反応を見て大丈夫だと感じるとウェンフとアトニイの方を向いた。


「俺たちは前に出てスケルトンを迎え撃つ。かなりの数だから、絶対に自分から敵の中に突っ込むようなことはするなよ?」


 ウェンフとアトニイはユーキの忠告を聞いて無言で頷く。二人も夜で視界が悪い上に敵の正確な数が分からない状況で敵に突撃しようとは考えていない。


「グラトン、お前はオルビィン様と一緒に門を護れ。門から離れず、近づいて来たスケルトンだけを攻撃するんだ」

「ブォ~」


 グラトンは鳴き声を上げて返事をし、そんなグラトンをオルビィンは目を細くしながら見ている。墓地でスケルトンと戦った時にグラトンはユーキの命令を聞かずに墓石を投げていたため、今回も命令を無視して勝手に行動するのではと小さな不安を懐いていた。

 ユーキはウェンフたちへの指示を済ませると待機していたヘクターたちの方を向く。ユーキと目が合ったヘクターやウォルクス、村の男たちは少し緊張した様子を見せている。


「俺たちは村の外に出てスケルトンたちを迎撃しますので、皆さんは村の中で待機していてください。スケルトンを村に入れさせないつもりで戦いますが、万が一スケルトンが村に侵入したらお願いします」

「わ、分かりました」


 返事をしたヘクターは周りにいるウォルクスたちの方を向き、戦う覚悟をするよう目で伝える。ウォルクスは持っている鍬を強く握り、他の村人たちも農具を持ちながら息を飲む。

 スケルトンの討伐はメルディエズ学園の生徒であるユーキたちに依頼しているため、スケルトンとの戦いはユーキたちに任せればいいと思われる。だが、村人たちも自分たちの村が襲撃されたのなら流石に何かしなくてはいけないと考え、グロズリアの村と家族を護るために男たちはユーキたちと共に戦いことを決意したのだ。

 ユーキたちが作戦を決めた直後、見張り台に上っていた若い男が地上にいるユーキたちを見下ろしながら声を掛けた。


「スケルトンたちだぁ! もうすぐ門に辿り着くぞ!」


 見張り台の男の言葉に地上にいたユーキたちは一斉に反応する。これ以上スケルトンをグロズリアの村に近づけると不利な状況になるため、ユーキはすぐに迎撃に向かわなくてはいけないと思った。


「村長、門を開けてください。外に出たら俺たちは戦いを始めますので、すぐに扉を閉めてしっかり施錠してください」

「ハ、ハイ!」


 ヘクターは近くにいる男たちに門を開けるよう指示する。指示を受けた二人の男は門に近づくと同時に強く引いて門を開けた。

 開門されるとユーキたちは走って外に出て行き、ユーキたちが外に出ると男たちは再び門を閉じ、かんぬきをかけて施錠する。

 門が閉じたのを確認したユーキたちは前を向き、近づいて来ているスケルトンの群れを確認した。

 スケルトンの群れは西門から西に200mほど離れた所まで近づいて来ており、全てのスケルトンが同じ速度で歩いている。

 数十体のスケルトンの内、殆どは錆びた剣や手斧、柄の長い草刈り鎌と言った近接武器を持った通常のスケルトンだが、中にはボロボロの杖を持ったスケルトンメイジもいた。軍で例えるのなら一個小隊ほどの戦力と言える。

 近づいて来るスケルトンの群れを見たユーキは面倒そうな顔をしながら小さく舌打ちをする。


「ざっと見ても五十体はいるな。こりゃあ、ちょっと手こずるかもしれないぞ」

「どうしますか、先生?」


 ウェンフが声を掛けるとユーキはスケルトンの群れを見つめながら月下と月影を抜いた。


「さっきも言ったようにオルビィン様とグラトンが門を護り、俺たち三人はスケルトンたちを門に近づかせないように戦う。今更言うまでも無いけど、スケルトンだからって油断するんじゃないぞ?」

『ハイ!』


 声を揃えて返事をしたウェンフとアトニイは鞘に納めた状態に剣を握って構え、ユーキも月下と月影の峰の部分を外側に向け、峰打ちを打てる態勢を取る。オルビィンも若干不安そうな顔をしながらショヴスリを構えた。

 ユーキ、ウェンフ、アトニイの三人は近づいて来るスケルトンに群れに向かって歩き始め、オルビィンはグラトンと共に西門の前で待機する。オルビィンは離れているユーキたちの後ろ姿を見ながら心の中で頑張るよう応援し、それと同時に自分だけ後方で門を護ることを申し訳なく思った。

 横一列に並びながら歩くユーキたちは真剣な表情を浮かべてスケルトンの群れを見つめる。スケルトンの群れまでは約100mほどでいつでも戦いを始められる状態だった。

 ユーキたちがスケルトンたちとの距離を少しずつ縮めていくと、群れの前列、ユーキたちから最も近い位置にいる数体のスケルトンが三人に気付き、武器を掲げながら一斉にユーキたちに向かって走り出した。


「来やがったな」


 ユーキは立ち止まって月下と月影を構え、左隣にいるアトニイも剣を両手で握って中段構えを取った。


「ルナパレス先輩、どうしますか?」

「こっちに気付いたのは数体だけだから問題無く戦える。だけど、すぐの他のスケルトンたちも気付いて一斉に襲い掛かってくるはずだ。そうなる前に俺たちに気付いたスケルトンを倒してスケルトンの数を減らすんだ」


 アトニイはユーキの話を聞くとスケルトンたちの方を向いて剣を強く握り、ユーキも両足を軽く曲げて戦える体勢を取った。


「なら、私に任せてください」


 ユーキとアトニイが構えるとウェンフが前に出て左手を前に伸ばす。前に出たウェンフを見たユーキとアトニイはすぐに彼女が何かをやろうとしていると気付いた。

 ウェンフはユーキとアトニイが見守る中、雷電サンダーボルトを発動させて左手に青白い電気を纏わせる。

 電気が発生したことでウェンフの周りは明るくなり、近くにいるユーキやアトニイ、遠くにいるスケルトンの群れはその明かりで照らされて見やすくなった。

 スケルトンたちはウェンフが電気を発生させても走る速度を落とさず、警戒もせずにユーキたちに向かっていく。ウェンフは走ってくるスケルトンを見ると左手に纏われている電気の勢いを強くした。


薙ぎ払う電刃ヂーフー・レイダオレン!」


 スケルトンたちが2mほど前まで近づいた瞬間、ウェンフは左腕を右から勢いよく横に振る。するとウェンフの電気を纏った左手から大きな刃状の電気が伸びるように飛び出して近づいて来た六体のスケルトンを呑み込んだ。

 電気の刃に呑まれたスケルトンたちは青白く光りながら骨の体を電気で焼かれ、やがて電気が治まるとスケルトンたちは黒焦げの状態で崩れるように倒れて粉々になった。

 ウェンフは六体のスケルトンを倒すとニッと笑みを浮かべ、ウェンフの攻撃を見ていたユーキとアトニイは少し驚いたような反応を見せる。西門の前で待機していたオルビィンにもウェンフの攻撃が見えており、軽く目を見開きながら驚いていた。


「先生、やっつけました」

「お、おう」


 笑顔を見せるウェンフを見てユーキは返事をする。ユーキはこれまでに何度もウェンフの雷電サンダーボルトの力を見てきたが、間近で見る時はいつもその迫力に驚かされていた。

 ウェンフの攻撃に驚いていたユーキは深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、もう一度スケルトンたちを確認する。

 スケルトンたちはウェンフの攻撃を目にしてユーキたちに敵意があると感じ取ったのか、次々とユーキたちに向かって走り出す。

 走って来るスケルトンたちを見たユーキは月下と月影を強く握った。


「慌てずに近づいて来たスケルトンを一体ずつ倒していけ! 油断せず、状況によっては後退して態勢を整えながら戦うんだ」


 ユーキの言葉を聞いて先程まで笑みを浮かべていたウェンフは目を鋭くしてスケルトンを睨み、アトニイも目を動かしてスケルトンの位置を確認する。

 三人が構えながらスケルトンの数や位置を確認していると、剣を持った数体のスケルトンが距離を詰める。そのうちの二体がユーキに真正面から迫り、一体が剣を振り下ろしてユーキに攻撃した。

 ユーキは月下を器用に動かし、振り下ろされた剣を左へ払って攻撃を防いだ。剣を払った瞬間、ユーキは素早く月下を右に振ってスケルトンの首に峰打ちを打ち込む。

 重い一撃を受けたスケルトンは首の骨が折れ、頭部が地面に落ちて転がっていき、頭部を失った胴体はその場に崩れるように倒れた。

 一体目のスケルトンを倒したユーキはもう一体に視線を向ける。その直後、スケルトンはユーキに向かって袈裟切りを放って攻撃してきた。しかしユーキは慌てることなく、月影で剣を防ぐと月下を横から振って反撃し、先程のスケルトンと同様首の骨を砕いて倒した。

 襲ってきたスケルトンを倒したユーキは素早く周囲を確認する。少し離れた所ではウェンフが剣や雷電サンダーボルトの力を使ってスケルトンと戦っており、アトニイは一体ずつ正確にスケルトンを倒していた。二人とも無傷で既に足元には倒したスケルトンの残骸が散らばっていた。


「流石だな。多くのスケルトンを前にしても動揺を見せずに戦ってる。……二人はもう立派なメルディエズ学園の生徒ってことか」


 後輩であるウェンフとアトニイの勇士を見たユーキは頼もしく思う。あの二人が一緒に戦ってくれるのなら例え五十体近くのスケルトンが相手でも問題なく勝てる、ユーキはそう思っていた。

 ユーキがウェンフとアトニイの戦う姿を見ていると、錆びた手斧と柄の長い草刈り鎌を持った四体のスケルトンがユーキに襲い掛かろうとした。ユーキはスケルトンたちの攻撃に気付くと視線だけを動かしてスケルトンを睨み、素早く月下と月影を構え直す。


「ルナパレス新陰流、上弦じょうげん!」


 スケルトンたちが攻撃するよりも早くユーキは月下と月影を振ってスケルトンたちを攻撃する。四体のスケルトンに二発ずつ峰打ちを打ち込み、確実にダメージを与えた。

 四体の内、二体のスケルトンは頭部と首の骨を砕かれてその場に倒れ、残り二体は脊椎骨と右腕の骨を砕かれただけで、頭部は無事なのでまだ動いている。

 右腕を砕かれたスケルトンは無事な左腕を伸ばしてユーキの顔面を掴もうとするが、ユーキは掴まれる前に月影でスケルトンの頭部に峰打ちを打ち込んで破壊する。頭部を砕かれたことで三体目のスケルトンも倒れ、無数の骨が地面に散らばった。

 三体目のスケルトンを倒したユーキは残っているスケルトンに目をやった。脊椎骨を砕かれ、上半身だけで動くスケルトンは地面を這いながらユーキの足元まで近づき、持っている手斧でユーキを攻撃しようとする。

 ユーキは攻撃されそうになっていても慌てず、落ち着いて強化ブーストで自身の脚力を強化し、スケルトンの頭部を勢いよく蹴る。

 蹴られたことでスケルトンの頭部はサッカーボールのように遠くへ転がっていき、頭部を無くしたスケルトンはそのまま俯せになるように倒れて動かなくなった。


「よし、次だ」


 目の前の四体を倒したユーキは次のスケルトンを倒すために辺りを見回す。すると、正面から新たに四体のスケルトンが剣を持って近づいて来る姿が目に入り、ユーキはスケルトンたちを見ながら軽く息を吐く。


「こりゃあ、思っていた以上に時間が掛かるかもな」


 面倒くさそうな声で呟きながらユーキは双月の構えを取り、スケルトンたちと戦う体勢を取った。


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