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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
第十一章~髑髏の徘徊者~
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第百八十九話  家族の絆


 墓地を出たユーキたちは来る時の通ってきた道を戻ってグロズリアの村へ向かう。墓地を出て数分が経ち、ユーキたちはコリーとルタを護衛しながら墓地と村の中間辺りまでやって来た。

 コリーはユーキたちに囲まれながら歩き、ルタはグラトンの背中に乗って移動している。墓地を出てからスケルトンや他のモンスターには遭遇していないがグロズリアの村に着くまでは安心できないため、ユーキたちは臨戦態勢を取ったまま移動していた。


「もうすぐ村に着くからあと少し頑張ってくれ」

「ハ、ハイ」


 前を歩くユーキを見ながらコリーは頷く。やはりいつモンスターに遭遇するか分からない状況であるため、コリーは緊張した様子を見せていた。

 ルタを探しに墓地へ向かっている時、コリーは護衛も付けずに一人でグロズリアの村に出てたため、今更緊張することは無いだろうと思われるが、この時のコリーは行方不明になったルタが心配でモンスターのことを警戒する余裕が無かった。だから一人で外を移動していても緊張したり、恐怖心を感じることは無かったのだ。

 しかし今回はルタが見つかり、一緒に行動しているためルタの安否を心配をする必要が無い。そのため、コリーはモンスターのことを考えられるようになり、移動中に襲撃されることを警戒して緊張していた。

 コリーはグロズリアの村から墓地に移動していた時のことを思い出すと歩きながら周囲を見回す。モンスターと遭遇することなく墓地に辿り着けたことをコリーは幸運に思い、それと同時にルタのことばかり考えてモンスターの襲撃を警戒していなかった自分を哀れに思い反省した。


「モフモフしてて気持ちぃ~」


 グラトンの背中に乗るルタは笑顔でグラトンの背中を撫でる。

 墓地を出て今いる場所まで来る間、ずっとグラトンに乗っていたルタはすっかりグラトンが気に入ってしまい、その乗り心地の良さにも満足していた。

 グラトン自身もルタに興味が湧いたのか、歩きながら何度も背中に乗っているルタを見ていた。

 モンスターであるグラトンに心を許すルタを見たコリーは意外そうな表情を浮かべている。妹が笑いながら背中に乗っているため、グラトンは自分が思っているよりも危険な存在ではないと感じ始め、グラトンとの接し方を変えた方がいいかもと思っていた。

 ユーキは歩きながら後ろを向いてグラトンを警戒せずに接しているルタを見ながら小さく笑っている。墓地で助けた時、ルタはスケルトンに怯えて涙を流していたが、今はその時の怯えた様子は見られず、ユーキはルタが元気になってよかったと思っていた。


「先生、村に戻ったらどうするんですか? やっぱりすぐに墓地へ戻ります?」


 ユーキの左側を歩いているウェンフがコリーとルタをグロズリアの村に連れて行った後のことを尋ねると、ユーキはチラッとウェンフの方を向いた。


「そうだな。時間に余裕があるならスケルトンの討伐に戻るつもりだけど、余裕が無かったら今日は終わりにして明日続きをやろう」

「分かりました」


 ウェンフはユーキから予定を聞くと返事をしながら頷く。オルビィンとアトニイもユーキとウェンフの会話を黙って聞いていた。

 グロズリアの村に着いた頃にもし夕方になっていれば、墓地に戻った時には既に周囲は薄暗くなっている。そうなればスケルトンの討伐は難しくなるので墓地に向かうことはできない。

 夕方でなかったとしても、微妙な時間だった場合はスケルトンの討伐が済んで村に戻る頃に夜になってしまう可能性があるため、ユーキは村に戻った時の時間で墓地に戻るかどうか決めようと思っていた。

 スケルトンの討伐に戻るかどうかを考えるのも大切だが、今はコリーとルタを無事にグロズリアの村に連れて帰ることが重要なため、ユーキたちは二人を護衛することに気持ちを切り替えた。


「そう言えばずっと気になっていたんですけど、どうして突然スケルトンが現れたんでしょうか?」


 ウェンフは歩きながら疑問に思っていたことを呟き、その場にいるルタ以外の全員がウェンフに視線を向けた。

 確かに突然グロズリアの村が管理する墓地や村の周辺にスケルトンが現れたのは不思議と言える。ユーキたちメルディエズ学園の生徒は勿論、村の住人であるコリーもウェンフと同じようにずっとスケルトンが現れたことを疑問に思っていた。


「……スケルトンが出現する原因は幾つもあるが、最もあり得ると思われる原因が二つある」


 ユーキたちが考えているとアトニイが口を開き、アトニイの言葉を聞いたユーキたちは一斉にアトニイの方を向く。


「一つは自然発生だ。墓地や生き物が死んだ場所には怨念や死んだ生物の霊が漂っていると言われている。白骨化した死体が怨念によって汚されてたり、霊が死体に乗り移ってモンスター化したりすると言われている」

「お、怨念に霊……」


 説明を聞いていたオルビィンは思わず反応する。オルビィンは暗い場所でのアンデッドを苦手としているため、心霊関係の話題が出たことで僅かに表情を曇らせた。


「もう一つは人の手によって意図的に生み出されたと言う可能性だ。私としては自然発生よりもこっちの方があり得ると思っている」


 誰かが何かしらの方法で死体をスケルトンに変えているかもしれないと聞かされてユーキは小さく反応し、ウェンフとオルビィン、コリーは驚きの表情を浮かべていた。


「そう言えば前にスローネ先生やコーリア先生から聞いたことがあるな。十年くらい前にローフェン東国の魔導士たちが死者をアンデッドとして蘇らせる禁術の開発を行っていたことがあるって」


 ユーキがメルディエズ学園で教師たちから聞かされたことを思い出してウェンフたちに話すとウェンフとオルビィンは目を軽く見開きながらユーキを見る。

 死者をアンデッドに変えてしまう方法があると聞かされて驚かされたが、それ以上にウェンフとオルビィンは死者をアンデッドに変えて利用しようと考える存在がいることに驚かされていた。

 コリーもユーキたちの話を聞いて驚愕している。ただ、メルディエズ学園の生徒であるウェンフとオルビィンが知らなかったのだから、村娘であるコリーが知らなくても不思議ではなかった。


「その話なら私も噂で聞いたことがあります。死体をアンデッドに作り変えると言う死者への冒涜とも言える行動を取ったため、禁術の開発に関わった魔導士たちは全員東国を追われたとか……」

「ああ……まぁ、死体をアンデッドに作り変えるなんてとんでもないことを考えれば追放されるのは当然だよな」


 呆れたような顔をしながらユーキは肩を竦める。魔導士たちのやったことを考えれば国を追放されたとしても同情することなどできなかった。


「じゃあ、もしかして今回私たちが遭遇したスケルトンって、その魔導士が蘇らせたとか……」


 ウェンフの口から出た言葉にコリーは再び驚いたような反応を見せ、ユーキとアトニイもウェンフに視線を向ける。

 普通ならスケルトンが現れただけで禁術を開発しようとしていた魔導士が関わっているかもとは考えないだろうが、魔導士の話を聞いたウェンフは自分たちが戦ったスケルトンが魔導士と繋がっているかもしれないと感じていた。


「ウェンフ、それはいくらなんでも考え過ぎよ。その東国を追放された魔導士が今回の一件に関わっている根拠なんて無いんだから」


 オルビィンは困ったような顔をしながらウェンフに声を掛ける。オルビィンの言うとおり、今回ユーキたちが遭遇したスケルトンに禁術を開発しようとしていた魔導士が関わっていると言う根拠は無い。現状だけで魔導士が関わっていると疑うのはあまりにも単純な考え方だとオルビィンは思っていた。

 ウェンフはオルビィンの話を聞くと俯きながら考え込む。魔導士たちが関わっている根拠は無いが、可能性がゼロだとも言い切れないため、ウェンフはオルビィンの考えにすぐに納得することができなかった。

 考え込んだウェンフは顔を上げるとユーキの方を向き、ユーキはどう思っているか目で尋ねる。ウェンフと目が合ったユーキはウェンフが自分の考えを聞きたがっていることを悟り、前を向いて口を開いた。


「オルビィン様の言うとおり、グロズリアの近くに現れたスケルトンが追放された魔導士と繋がっているという根拠は無い。今の段階では魔導士が関係している可能性は低いと考えるべきだろうな」


 ユーキもオルビィンと同じ考えだと知ったウェンフは意外に思ったのか軽く目を見開く。


「ただ、少しでも可能性があるのなら、念のために頭に入れておいた方がいい。そうすれば予想外の事態になったとしても慌てることなく対処することができるからな」


 例え可能性が低くても覚えておけば焦らずに行動することができるとユーキは語り、ユーキの言葉を聞いたウェンフはフッと反応する。

 てっきり追放された魔導士が関わっていると考えているのは自分だけだと思っていたが、ユーキも自分と同じように考えていたと知ってウェンフは少し気が楽になった。

 アトニイは可能性が低くてもそのことも警戒しようと考えるユーキを見て用心深い児童だと感心する。オルビィンはユーキの話を聞いて一理あると感じたのか、一応魔導士のことも忘れないようにしようと思った。

 黙ってユーキたちの会話を聞いていたコリーは無言でユーキたちを見ている。会話の内容はイマイチ理解できなかったが、グロズリアの村の近くに現れたスケルトンが人の手によって生み出された可能性があると言うことは分かったため、もし村の近くに怪しい人物が現れたらそれらにも警戒しようと思っていた。


「ところで、その追放された魔導士はどうなったんですか?」


 オルビィンが魔導士たちについてユーキに声を掛ける。禁術を開発するような危険な魔導士たちが今も何処かで生きているかもしれないので、念のために魔導士たちの情報を聞いておこうと思っていた。


「分からない。魔導士たちが今どうしているのか、禁術がどうなったのか先生たちも分からないって言ってたよ」


 魔導士たちについてユーキやメルディエズ学園の教師たちも知らないと聞かされたオルビィンは少し残念そうな表情を浮かべ、ウェンフも同じような顔をしながらユーキを見ていた。


「さあ、魔導士の話は一旦終わりにして、今やるべきことに集中しよう」


 ユーキは手をパンと強く叩いてコリーとルタの護衛に集中することをウェンフたちに伝えた。

 ウェンフたちはユーキに言われて自分たちのやることを思い出したのか、周囲を見回してスケルトンやモンスターが近くにいないか警戒する。グラトンも背中のルタを落とさないように注意しながら視線を動かして周りを確認した。

 それからユーキたちは周囲を警戒しながら移動し、グロズリアの村を目で確認できる所までやって来た。ユーキたちがいる場所からグロズリアの村までは300mほどで村を見たコリーとルタは安心したのか笑みを浮かべる。

 ユーキたちはグロズリアの村を囲む丸太の壁がハッキリ見える所まで近づいた。すると、村から少し離れた場所に数人の人影があるのが見え、ユーキたちは目を凝らして人影を確認する。それは鍬やピッチフォークを持った村の男たちで何かを必死に探しているように見えた。


「あれは、グロズリアの人たちか?」


 村人たちの姿を見たユーキは不思議そうな顔をするが、現状からコリーとルタを探しているのだとすぐに気付く。

 コリーとルタも遠くにいる村人たちを見て自分たちを探していることに気付き、村人たちに迷惑を掛けてしまったと気まずそうな表情を浮かべた。

 このままグロズリアの村に戻れば両親や村の仲間たちに叱られるのは間違い無い。それを考えるとコリーとルタは村に戻ることに抵抗を感じ始める。

 だが、全ては自分たちが勝手に行動したのが原因なため、叱られるのは仕方が無いと考えるコリーは覚悟を決めて歩いて行き、ルタもグラトンの背中に乗りながらグロズリアの村を見つめる。

 ユーキたちはコリーとルタの心情を察し、苦笑いを浮かべながら二人に同情した。


「ん? あれは……」


 周囲を見回していた村の男が南の方を見て何かに気付く。遠くから近づいて来る複数の人影を目にし、男は目を凝らして人影の正体を確かめる。するとスケルトンの討伐に向かったはずのユーキたちと村から姿を消したコリーとルタの姿が目に入り、男は大きく目を見開いた。


「お、おい! コリーとルタだ。コリーとルタが戻って来たぞぉ!」


 男が周りにいる他の村人たちに大きな声で呼びかけると声を聞いた村人たちは一斉に男の方を向く。その中には村長であるヘクターとコリーとルタの父親であるウォルクスの姿もあった。

 村人たちは男の周りに集まって南を確認し、ユーキたちと共に近づいて来るコリーとルタを見て驚きの反応を見せる。だがすぐに二人が無事なことを知って安心の笑みを浮かべた。


「コリー! ルタァ!」


 娘たちの姿を見たウォルクスは走ってユーキたちの下へ向かい、ヘクターや他の村人たちもその後に続く。

 コリーは走ってくる村人が父親だと気付くとフッと反応し、走ってウォルクスの下へ向かう。ルタもグラトンの背中から降りるとコリーの後を追うように走り出した。

 ウォルクスとコリーの距離は徐々に縮まり、やがてウォルクスとコリーは強く抱きしめ合う。遅れてルタもやって来てウォルクスに抱きつき、ウォルクスはルタも抱き寄せた。


「二人とも、無事だったんだな!」


 娘たちを抱きしめながらウォルクスは安心し、コリーとルタも父親と無事に再会できたことを心の底から喜んだ。ユーキたちやコリーとルタを捜索していたヘクターたちは少し離れた所で三人を見守っている。

 しばらくコリーとルタを抱きしめていたウォルクスはゆっくりと離れ、僅かに目を鋭くしながら二人の顔を見た。


「何処に行ってたんだ! 心配したんだぞ!?」

「ごめんなさい……」


 力の入った声で怒るウォルクスにコリーは謝罪し、ルタも暗い顔をしながら俯いて黙り込む。

 コリーと違ってルタには今回の騒動を起こした原因があるため、ルタはコリーのようにウォルクスと向かい合って話すことに抵抗を感じていた。

 ウォルクスは申し訳なさそうにするコリーを見た後に俯くルタに視線を向ける。コリーとルタが一緒にいることからコリーがルタを探しに行っていたことを知り、更にスケルトンの討伐に向かっていたメルディエズ学園の生徒と一緒にいたことから、スケルトンが出現する場所にいたのだと知った。


「二人とも、色々訊きたいことはあるが、まずは村へ戻ろう。母さんも心配している」

「うん……」


 コリーが返事をするとウォルクスはコリーとルタの背中を軽く押してヘクターと村人たちの下へ向かうよう指示する。二人は素直にヘクターたちの下へ歩いて行き、ヘクターたちは無事だったコリーとルタを見て安心や心配していたことを伝える。

 コリーとルタは自分たちを探してくれていたヘクターたちにも勝手に行動したことを謝罪をした。

 謝罪が済むとコリーとルタはヘクターたちと共にグロズリアの村の方へ歩いて行く。コリーたちが村へ向かったのを確認したウォルクスはユーキたちに駆け寄り、ユーキたちに向かって深く頭を下げた。


「娘たちを救っていただき、ありがとうごさいます!」

「い、いえ、お気になさらないでください」

「いや、皆さんは本来スケルトンを討伐することが仕事です。それなのに私たちの言いつけを破り、村の外に出てしまった娘たちを助け、此処まで送って来てくださったのです。礼を言うのは当然のことです」


 顔を上げたウォルクスはユーキたちに迷惑を掛けてしまったことを申し訳なく思いながら感謝の気持ちを伝える。

 若干興奮した様子で語るウォルクスを見るユーキは軽く苦笑いを浮かべた。


「依頼を受けてくださっている時にこんなことを言うのは気が引けるのですが、一度村に戻って娘たちと何処で会ったのか、娘たちに何が起きたのか詳しく聞かせていただけませんか?」


 コリーとルタから詳しく話を聞くためにもユーキたちに一緒に来てほしいと頼むウォルクスをユーキはジッと見つめる。

 できることならすぐに墓地へ戻ってスケルトンの捜索と討伐を行いたいのだが、コリーとルタがどうして墓地にいたのかを説明するためにもユーキは一度グロズリアの村に戻った方がいいと思っていた。


「分かりました、行きましょう」


 ウォルクスたちと共にグロズリアの村に戻ることを決めたユーキをウェンフたちは意外そうな顔で見た。


「ルナパレス先輩、いいんですか?」


 グロズリアの村に戻って説明をすればスケルトンを討伐する時間が少なくなると考えたオルビィンはユーキに声を掛ける。ユーキはオルビィンの方を向くと小さく笑みを浮かべた。


「いいさ、時間は十分ある。それにコリーとルタちゃんじゃ説明できないこともあると思うし、そう言うところは俺たちが説明すればご両親も理解しやすいだろう?」


 ユーキの顔を見たオルビィンは若干納得できないような顔をし、生徒の代表であるウェンフの方を向いて「いいの?」と目で確認する。

 オルビィンと目が合ったウェンフはオルビィンが思っていることに気付き、ニッと笑いながら「大丈夫」と目で伝えた。

 ウェンフの反応を見たオルビィンはウェンフが最初から師匠であるユーキの考えに賛成する気だったと知り、ジト目でウェンフを見つめる。

 代表であるウェンフがユーキの考えに賛同している以上、何を言っても無駄だと悟ったオルビィンは深く溜め息をつく。そんなオルビィンを見ていたアトニイは小さく笑っている。

 話がまとまるとユーキたちはウォルクスと共にグロズリアの村に向かって歩き出す。村は目と鼻の先だったため、ユーキたちは五分ほどで村に着いた。


――――――


 ユーキたちがグロズリアの村に入ると村の中でルタを探していたライアナやソフィア、村人たちがコリーとルタの姿を見て一斉に駆け寄ってきた。全員が行方不明になっていたルタとコリーが無事だったことに安心し、特に母親であるソフィアは安堵の表情を浮かべている。

 ソフィアはコリーとルタに近づくと涙目になりながら二人を抱きしめ、コリーとルタもソフィアを抱き返した。

 しばらくの間、ソフィアは娘たちを抱きしめて無事を喜んでいたが、二人から離れるとウォルクスと同じように勝手に村の外に出たことを怒り、外に出た理由を尋ねる。

 コリーとルタが申し訳なさそうな顔をしながらソフィアに謝罪し、ウォルクスはこれから理由を聞くことをソフィアに話して宥めた。

 ソフィアはコリーとルタから詳しい話を聞くために自宅へ向かい、コリーとルタ、ウォルクスもソフィアの後をついて行く。ユーキたちもウォルクスとソフィアに説明するためにコリーたちと後をついて行き、ヘクターやライアナたちは歩いて行くユーキたちを黙って見つめていた。

 自宅に着くとコリーとルタは椅子に座り、机を挟んで向かいに座るウォルクスとソフィアと向かい合う。

 真剣な表情を浮かべるウォルクスとソフィアをコリーとルタは気まずそうな顔で見ている。コリーとルタの後ろではユーキ、ウェンフ、オルビィン、アトニイの四人が横一列に並んで立っていた。


「……それじゃあ、話してくれる? どうして勝手に村を出て、危険な墓地に行ったんか」

「うん……」


 小さく俯いて返事をするコリーをソフィアはジッと見つめる。

 自宅に向かうまでの間、ソフィアはウォルクスからユーキたちと同行していたことやユーキたちと墓地にいたことを聞かされ、娘たちが予想していた以上に危険な目に遭っていたことを知ったソフィアは衝撃を受けた。

 ウォルクスとソフィアが見ている中、コリーは何をしていたのか説明し始める。ソフィアの誕生日プレゼントとしてシューレインの花を墓地に摘みに行くことを計画していたこと、スケルトンが出現したことで墓地に向かうことをやめようとしたが、ルタが花を摘みたくて一人で墓地へ行ってしまったこと、ウォルクスたちを心配させたくなくて一人でルタを探しに行ったことなど、コリーは全てを正直に両親に伝えた。

 コリーの説明を聞いていたソフィアは自分のために娘たちが墓地へ向かったと知って僅かに表情を変え、ウォルクスもコリーとルタを黙って見つめる。

 ウォルクスは黙って話を聞いていたユーキに声を掛けてコリーの言っていることが真実か確認し、ユーキは嘘ではないことを伝える。

 その後もコリーはルタを見つけてからユーキたちと共にグロズリアの村に戻るまでの経緯を語り、ウォルクスとソフィアは静かにコリーの静かに話を聞いた。


「成る程、理由は分かった」


 説明を聞き終えたウォルクスは納得し、コリーは無言でウォルクスを見つめている。理由を聞いたことでウォルクスとソフィアは怒る気が無くなったのか、顔からは帰ってきたコリーとルタに向けて険しさが消えていた。

 コリーはウォルクスとソフィアを見ると申し訳なさそうな顔で小さく俯き、ルタも暗い顔をしている。ソフィアのためを思ってやったこととは言え、両親や村の者たちに心配を掛けてしまったのは事実であるため、二人は罪悪感からウォルクスとソフィアの顔を見ることができなかった。

 家の中にいる全員が黙り込み、部屋は気まずい空気に包まれる。そんな中、ユーキとウェンフはこの場の空気を変えるべきかどうか悩んでいた。すると黙って座っていたソフィアが立ち上がり、ルタの隣までやって来ると姿勢を低くしてルタと目線を合わせる。


「ルタ、貴女が私のためを思ってシューレインを摘もうと思っていたことは嬉しいわ。でもね、私にとってはプレゼントを貰うよりも貴女やコリーが元気でいてくれることの方が嬉しいの」


 ルタは優しい口調で喋るソフィアの方を向き、コリーやウォルクス、ユーキたちは向かい合う二人の黙って見つめた。


「私にとっては貴女たち二人が最も大切な宝物なの。そんな貴女たちがモンスターに襲われて命を落としたら、私は生きる目的を失って立ち直れなくなってしまうかもしれないわ」

「お母さん……」

「プレゼントを用意することよりも、貴女たち自身のことをもっと大切にして? 貴女とコリーが元気でいてくれることこそが、私にとって一番のプレゼントだから」


 そう言ってソフィアはルタの頭を優しく撫でる。ルタは自分の行動がソフィアを傷つける結果を招いていたかもしれないと気付いて表情を曇らせた。コリーも親不孝なことをしていたと改めて自覚して暗い表情を浮かべる。

 ルタとコリーの反応を見たソフィアは自分の気持ちが伝わったと感じ、微笑みを浮かべながら二人を見た。


「これからは今回のように危険なことはしないでね?」

「うん、ごめんなさい」


 涙目になりながらルタはも謝罪し、ソフィアはルタをそっと抱き寄せる。コリーもルタとソフィアを見て気持ちが楽になったのか小さく笑った。


「コリーも、もし同じようなことが起きても一人で村を出たりしないで」

「うん、分かった」


 二度と危険な状況で勝手な行動を取らないと約束するコリーを見てソフィアは微笑みを浮かべた。

 コリーが笑うソフィアを見ているとウォルクスがコリーと隣にやって来てそってコリーの肩に手を置く。

 コリーがウォルクスの方を向くとウォルクスも小さく笑いながらコリーを見つめており、ウォルクスの顔を見たコリーはもう勝手に村を出たことを許してくれたと知って小さく笑った。

 それからルタは墓地で摘んできたシューレインの花をソフィアに渡し、ソフィアは喜んで花を受け取る。墓地からグロズリアの村に来るまでの間、ルタはずっとシューレインの花を握っていたため、花は少ししおれていたがソフィアは気にすることなくシューレインの花を見つめていた。

 ユーキは笑顔のコリーたちを見て無意識に笑う。家族の大切さをよく知っているユーキにとって今のコリーたちの姿はとても微笑ましいものだった。

 ウェンフやオルビィンもユーキと同じように微笑んでおり、アトニイも黙ってコリーたちを見ていた。

 ユーキたちが見守っているとウォルクスがユーキたちの前までやって来て軽く頭を下げた。


「皆さん、改めてお礼を言わせていただきます。娘たちを助けてくださってありがとうございます」

「頭を上げてください。俺たちはグロズリアの村から依頼を受けて此処に来たんです。依頼してくれた村の人を助けるのは当然のことです」

「だとしても、娘たちが助けられたのは事実です。何かお礼をさせてください」


 顔を上げたウォルクスを見てユーキは若干複雑そうな顔をする。スケルトンの討伐を依頼され、討伐が完了すれば報酬を貰うことになっているのに村人から更に何かをしてもらうのは気が引けた。


「い、いえ、本当に気になさらないでください。……そ、それじゃあ、俺たちはスケルトンの討伐に戻りますので……」

「討伐? 今からですか?」

「ええ、明るいうちに少しでも多くのスケルトンを倒しておきたいので」


 ユーキがウェンフたちの方を向くと三人はやる気のある表情を浮かべおり、ユーキも小さく笑いながらウェンフたちを見ている。

 やる気を見せているユーキたちをウォルクスはキョトンとしながら見つめていた。

 

「え~っと、既に夕方になりかかっていますが、大丈夫ですか?」

「……え?」


 ウォルクスの口から出た言葉にユーキは反応してウォルクスの方を向き、ウェンフたちもウォルクスに視線を向ける。

 ユーキはもしやと思い、近くの窓から外を確認する。すると薄っすらとオレンジ色に染まっている空が視界に入り、ユーキは目を丸くして驚いた。ウェンフたちともユーキと一緒に外を見て同じような反応をしている。

 コリーたちと共に自宅へ向かい、ウォルクスとソフィアに事情を説明している間に時間が進んで既に暗くなり始めていたのだ。

 ユーキたちは思っていた以上に時間が経過していたことを知って軽い衝撃を受ける。今からスケルトンの討伐に向かえば、墓地に着く頃には辺りは暗くなってしまう。そうなればスケルトンと戦い辛くなり、討伐を済ませた後も暗くてグロズリアの村に戻るのが難しくなる。

 現状でスケルトンの討伐に向かうのは危険だと感じたユーキは目を細くしながら空を見上げ、ユーキの反応を見たウォルクスは数回まばたきをしてからユーキたちに近づいた。


「え~……もう暗くなる頃ですし、討伐は明日になさった方がいいと思いますが……」

「そ、そうですね。そうします……」


 ユーキはウォルクスの方を向くと苦笑いを浮かべ、ウォルクスもユーキを見つめながら苦笑いを返した。

 それからユーキたちは話し合ってスケルトンの討伐の続きは明日行うことを決め、自分たちが休む場所をヘクターに用意してもらうためにコリーたちの家を出ようとする。そんな時、コリーが玄関に向かおうとするユーキたちに声を掛けた。


「あの、よかったら今日の夕食、ご一緒にいかがですか?」


 コリーの言葉を聞いてユーキたちは足を止めてコリーの方を向く。ウォルクスたちもコリーの言葉を聞いて意外そうな顔をしながらコリーを見た。


「いや、俺たちは自分たちが用意した食料があるから……」

「でも、私とルタを助けてもらったお礼もしたいですし、ご迷惑じゃなければ是非……」


 どうしても助けてもらった恩を返したいコリーはユーキたちを夕食に誘おうとする。

 ウォルクスたちも謝礼のために食事に招待するのなら喜んで歓迎しようと思っており、ユーキたちの方を向いて「お願いします」と目で伝えた。


「……じゃあ、お言葉に甘えて」


 しばらく考えたユーキは夕食をご馳走になることにし、コリーたちはユーキの返事を聞くと笑みを浮かべる。ウォルクスとソフィアは早速夕食の準備に取り掛かり、コリーとルタも手伝うために動き出した。


「ルナパレス先輩、よかったのですか? 学園から食料を持ってきているのにご馳走になっちゃって?」


 オルビィンが小声でユーキに声を掛けるとユーキはチラッとオルビィンの方を向いた。


「あっちがご馳走してくれるって言ってるのに無下に断るのは逆に失礼だろう? こういう時は素直にご馳走になった方がいいんだよ」

「それはまぁ……」


 ユーキの考えも一理あると感じているオルビィンは難しい顔をする。メルディエズ学園の生徒として人々から信頼されたり、良い印象を持ってもらうためにも依頼して来た村の住人とは友好的に接するのがいいのかもしれないとこの時のオルビィンは感じていた。

 この後、ユーキたちはコリーたちが夕食を作っている間にヘクターの下へ向かい、墓地でスケルトンを討伐したことや墓の一部を破壊したことなどを報告し、明日の予定を話し合った。


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