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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
第十一章~髑髏の徘徊者~
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第百八十七話  スケルトン部隊との戦い


 広場の隅に移動したコリーは大きめの石に座り、オルビィンはコリーに自分の水筒を渡す。喉が渇いていたのかコリーは水筒を受け取ると勢いよく水を飲んだ。

 コリーは既にグロズリアの村の村長であるヘクターからメルディエズ学園の生徒がスケルトンを討伐するためにやって来ると聞いていたため、ユーキたちが自分の前にいることを不思議に思わなかった。

 しばらく水を飲んでいたコリーは水筒を口から離して静かに息を吐く。


「大丈夫?」

「ハイ……大分落ち着きました」


 オルビィンに声を掛けられたコリーは小さな声で返事をしながら頷き、持っていた水筒をオルビィンに差し出した。


「あの、すみません。お水、殆ど飲んでしまいました」

「いいわよ、お水くらい」


 水筒を受け取ったオルビィンが微笑むとコリーはオルビィンが怒っていないと知って安心した様子を見せる。周りにいるユーキたちもコリーの様子を見ながら小さく笑みを浮かべていた。

 ユーキたちがいる広場は少し前までスケルトンが徘徊していたことで緊迫した空気が漂っていたが、コリーと会話をしたことで場の空気が僅かに和んでいた。しかし、またスケルトンが現れる可能性があったため、ユーキたちは最低限の警戒だけは続けている。


「さて、落ち着いた直後で悪いんだけど、幾つか質問してもいいかな?」

「ハ、ハイ」


 コリーはユーキの方を向いて頷き、二人の近くにいるウェンフたちも一斉にユーキに視線を向けた。

 今ユーキたちはグロズリアの村の依頼で、スケルトンを討伐するために墓地へ来ている。スケルトンが出現する危険な墓地に村の住人であるコリーが一人でいたため、ユーキたちには幾つか疑問を懐いていた。


「まず、君はどうしてこの墓地にいるんだ?」


 ユーキが最も気になっている疑問についてコリーに尋ねる。ウェンフたちもグロズリアの村の村娘がどうして墓地にいるのか気になっており、視線をユーキからコリーに向けた。

 コリーはユーキたちが見つめる中、複雑そうな顔をしながら小さく俯き、しばらくすると静かに口を開く。


「……私、妹を探しに来たんです」

「妹?」


 意外そうな顔をするユーキが訊き返すとコリーは顔を上げて頷いた。実はユーキたちが広場に入る少し前、コリーは広場で妹を探していたのだが、探している最中にスケルトンが広場に現れたため、怖くなったコリーは茂みの中に身を隠していたのだ。


「少し前に妹が村で姿を消してしまい、両親と一緒に探していたんです。ですが何処にもいなくて、もしかするとこの墓地にいるのかもしれないと思って……」

「だけど、今この墓地は多くのスケルトンが徘徊していて危険な状態だ。そんな場所に妹さんが一人で来るとは思えないし、村の人間なら危険なことも分かっているはずだろう?」

「ハイ、村長や両親からも墓地へは近づくなと言われました。ですが妹はまだ幼く、やんちゃなところもあるので一人で墓地に行ってもおかしくなかったんです。あと。小さいからスケルトンの恐ろしさが分からないんだと思います」

「スケルトンの怖さが分からないから、墓地に行くなと言われても納得できずに一人で墓地に行ったのかもしれないってことだな?」


 コリーは暗い顔をしながら無言で頷く。ユーキはコリーの反応を見て難しそうな表情を浮かべた。

 幼い子供は好奇心が旺盛で自分が興味を持つ物や生物には進んで近づいたり、触ってみようと考えたりすることがある。コリーの妹もスケルトンの怖さを知らないため、実物を見てみようと思って墓地に行ったのではとユーキは予想していた。


「因みに、君の両親は君が墓地へ行くことを知っているのか?」

「い、いいえ、心配させてはいけないと思って何も言わず一人で来ました」

「それは良くない判断だな。いくら心配や迷惑を掛けたくないからと言ってモンスターが出る場所に一人で、しかも丸腰で来るなんて危険すぎる。せめて村の誰かに事情を話して大人たちに同行してもらうべきだった」

「すみません……」


 間違いを指摘されたコリーは謝罪し、ユーキはコリーを見ながら軽く息を吐く。間違った判断をしたとは言え、コリーが妹を心配していたのは間違い無いため、ユーキはこれ以上済んでしまったことでコリーを注意しようとは思っていなかった。


「それで、君の妹は間違い無くこの墓地にいるのか?」

「分かりません。ただ、あの子の性格なら可能性はあると思います。……それに、この墓地には……」


 コリーはボソボソと何かを言おうとしており、ユーキはそんなコリーを見ながら不思議そうに小首を傾げる。


「先生、これからどうしますか?」


 ウェンフは今後どのように行動するかユーキの方を向いて尋ねる。ユーキはウェンフを見た後、再びコリーに方を向いて口を開いた。


「俺たちはスケルトンを討伐するために墓地に来た。そしてその墓地にコリーの妹がいるかもしれない。だったらスケルトンを討伐しながらコリーの妹を探せばいいさ」


 ユーキだったら必ずコリーの妹を助けようとすると思っていたのか、ウェンフはユーキを見ながら小さく笑みを浮かべる。

 コリーは妹の捜索に協力してくれるユーキを見ながら驚いたような表情を浮かべた。


「ルナパレス先輩、彼女の妹を探すにしてもスケルトンがいる墓地の中を一緒に行動するのは危険だと思います。彼女だけは村に帰した方がいいんじゃないですか?」


 戦闘経験の無い村娘のコリーをこのまま墓地の奥へ進ませるのは危険だと感じたオルビィンはコリーをグロズリアの村へ戻すことを提案する。

 ユーキたちが同行するため、もしスケルトンや他のモンスターと遭遇してもコリーを護ることはできる。だがコリーを護りながらだと少々戦い難くなるため、オルビィンは自分たちが無事にスケルトンを討伐するためにもコリーを同行させるべきではないと考えているようだ。


「いや、スケルトンが徘徊しているからこそ一緒に行動するべきだ」


 オルビィンの方を向いたユーキは軽く首を横に振り、ユーキの答えを聞いたオルビィンは理解できないような顔をしながら小首を傾げた。


「スケルトンは墓地だけじゃなく墓地の外も徘徊する。いつ何処でスケルトンと遭遇するか分からない状況で彼女だけを村へ帰すのは危険だ」

「ですが、私たちが墓地に来る時にはスケルトンと遭遇しませんでしたよ?」

「だからと言って、帰る時も遭遇しないとは限らないだろう? もしかすると帰り道でスケルトンと鉢合わせするかもしれない」


 行きが大丈夫だったからと言って帰りも同じようになるとは断言できない、ユーキにそう言われたオルビィンは納得した反応を見せる。

 スケルトンと遭遇する可能性があるのならユーキたちもグロズリアの村に帰るコリーに同行して彼女の護衛をすると言う手もある。だがそれだとコリーを村に送った後に再び墓地に戻ってこないといけない。

 二度手間になって時間を無駄にするくらいなら、同行させて妹を見つけた後にグロズリアの村に戻る方が効率が良いと言える。


「それに彼女の妹を探すにも顔が分からないんじゃ探しようがない。見つけるためにもコリーには同行してもらった方がいい」

「た、確かに……」


 コリーの身の安全を保障するだけでなく、妹を探すためにも一緒に行動するべきだと話すユーキにオルビィンは再び納得する。

 ウェンフとアトニイも同行させた方がいいと思っているのかオルビィンと同じように納得した反応を見せる。ユーキはウェンフたちの顔を見た後、再びコリーの方を向いた。


「と言うわけで、俺たちも妹さんを探すのを手伝う」

「ありがとうございます」


 立ち上がったコリーは深く頭を下げてユーキに礼を言う。彼女自身、スケルトンが徘徊する墓地の中を一人で探すのは難しいと思っていたため、ユーキたちが一緒に探してくれることになったのはコリーにとってまさに幸運だった。

 コリーの妹を捜索することが決まるとユーキたちは今いる広場を調べた。だが広場には妹の姿は無く、ユーキたちは別の場所を探すために広場の奥へ向かう。

 細長い林道をユーキたちはコリーを囲みながら移動する。ユーキとウェンフはコリーの前、オルビィンは右側、アトニイは左側、グラトンは後ろを歩いており、もしスケルトンたちが奇襲を仕掛けて来てもコリーを護れる陣形を取っていた。

 コリーもメルディエズ学園の生徒たちに囲まれていることで安心している。ただ、背後にいるグラトンに対しては小さな不安を感じているのか何度か振り向いて確認した。


「あ、あの、このモンスターは……」


 コリーは前を歩くユーキにグラトンについて尋ねようとする。茂みに隠れている時にグラトンが隠れている自分の匂いを嗅いでいたため、その時の衝撃が大きかったのかグラトンに小さな恐怖心を懐いているようだ。

 振り向いたユーキは不安そうな顔をするコリーを見た後、グラトンに視線を向けながら苦笑いを浮かべた。


「大丈夫だよ。コイツはモンスターですけど、俺の言うことはちゃんと聞くから暴れたり人を傷つけるようなことはしない」

「そ、そうなんですか……」


 ユーキが大丈夫だと言ってもやはり不安なのか、コリーは表情を曇らせながら再び後ろを向いてグラトンを見る。グラトンはコリーが自分を見ていることに気付くとコリーを見つめながらまばたきをした。

 コリーはグラトンと目が合うと思わず前を向き、コリーの反応を見たユーキは苦笑いを続けた。


「ま、まぁ、俺の傍にいる内は勝手なことはしないから安心してくれ」

「ハ、ハイ……」


 暗い声で返事をするコリーを見たユーキは場の空気が重くなったことを感じ取り、前を向きながら場の空気を変えられないか考える。

 ウェンフも重苦しい空気を感じ取ると複雑そうな顔でユーキを見つめ、オルビィンとアトニイは俯きながら歩くコリーを黙って見つめた。


「そ、そう言えば、さっき聞きそびれたんだけど、妹さんはこの墓地に来てるかもしれないって言ったよな?」

「えっ? ……あ、ハイ」


 場の空気を変えるためにユーキがコリーの妹に関する話題を出すと、コリーはフッと顔を上げて返事をする。

 コリーの意思がグラトンから妹に移ったことで僅かに空気が変わったように感じたユーキはそのままコリーの妹に関する話を続けた。


「君は妹がこの墓地に来ている可能性があるって話したけど、どうしてこの墓地にいると思ったんだ?」


 何を根拠に妹が墓地にいると推測したのか気になっていたユーキはコリーに尋ね、ウェンフたちも一斉にコリーに視線を向ける。実はウェンフたちもユーキと同じでなぜ妹が墓地にいると考えたのか気になっていた。

 広場でコリーから話を聞いた時、ユーキたちはコリーの妹がスケルトンの怖さを知らないと聞かされていた。その点から妹はスケルトンに興味を懐き、スケルトンを見るために墓地へ向かったのでは考えられる。

 だが、いくらスケルトンの怖さを知らないからと言って子供が自分からモンスターを見に行こうとするはずがない。

 ユーキたちはもし本当にコリーの妹が墓地に向かったのだとしたら、何か特別な事情があって墓地に来たのではと予想していた。

 コリーはユーキたちが見つめる中、視線を動かしてユーキたちを見た後、静かに口を開いた。


「この台地に咲いている花を摘みに来たのかもしれないと思ったからです」

「花?」


 墓地がある場所に花を摘みに来た、と予想外の言葉にユーキたちは意外そうな反応を見せる。コリーは前を歩くユーキを見た後に小さく頷いた。


「ハイ、この台地にはシューレインと呼ばれる花が咲いていて、村の近くではこの台地にしか咲いていないんです」

「花を摘みにか……でも、どうして?」


 ユーキが不思議そうに尋ねるとコリーはどこか複雑そうな表情を浮かべる。


「実は、今日は私の母の――」

「キャアアアア!!」


 コリーが説明しようとした時、何処からか少女の悲鳴が聞こえ、ユーキたちは一斉に反応する。


「今の声……ルタ!?」


 声の持ち主に気付いたコリーは大きく目を見開き、ユーキたちは驚くコリーに方を向いた。


「知ってるのか?」

「ハイ、妹です!」


 悲鳴を上げたのがコリーの妹だと知ったユーキは顔に緊張を走らせる。コリーの妹が墓地にいたことで他の場所を探す必要は無くなったが、悲鳴が聞こえたことからコリーの妹の身に何か良からぬことが起きているとユーキは確信していた。

 和んでいた空気から緊迫した空気へ変わり、ユーキたちは悲鳴が聞こえた方を向く。ユーキたちは表情を鋭くする中、コリーは顔色を悪くしながら小さく震えていた。


「悲鳴の大きさからそんなに遠くじゃないはずだ。……皆、行くぞ!」


 ユーキはウェンフたちに声を掛けた直後に走り出し、ウェンフたちもユーキの後を追うように走る。コリーは素早く動いたユーキたちに少し驚いたのか、少し遅れてユーキたちの後を追う。

 林道を全速力で走ったユーキたちは大きめの広場に出る。そこはコリーと出会った場所よりも広く、多くの墓があった。ただ墓の半分以上は古い物なのか、墓石はボロボロで刻まれている文字などもすり減って読めなくなっている。

 墓地の状態を簡単に確認したユーキは周囲を見回す。すると広場の奥に大量のスケルトンが集まっており、その中央で一人の幼女が怯えた様子でスケルトンたちを見ている光景が目に入った。

 幼女は八歳ぐらいで身長は130cm前後、黄色い目に紺色のカジュアルボブヘアーをしており、コリーと同じようにワンピースのような服を着ている。更に幼女の手には白が入った紫色の花が数本握られており、ユーキたちは幼女の外見からコリーの妹、ルタだと確信する。


「来ないで、あっち行ってぇ!」


 ルタはその場に座り込みながらスケルトンたちに向かって叫ぶ。しかしスケルトンたちは離れようとせず、ゆっくりルタとの距離を縮めていく。

 近づいて来るスケルトンを見てルタは涙目になりながら逃げようと思っているが、スケルトンたちは自分を取り囲んでおり、背後には墓があるため逃げることができない。しかもルタは恐怖のあまり座り込んだまま立ち上がることすらできなかった。


「ルタ!」


 妹が襲われているのを見たコリーは驚愕し、ウェンフたちも緊迫した表情を浮かべる。そんな中、ユーキだけは僅かに表情を険しくしながらルタの下に向かって走り出し、走りながら混沌紋を光らせて強化ブーストを発動させた。

 逃げられないルタは震えながら俯き、そんなルタに一体のスケルトンが近づいてルタの目の前に立つ。そして、持っている錆びた剣を振り上げて座り込むルタを斬ろうとする。

 だが次の瞬間、スケルトンの頭上からユーキが勢いよく下りてきて、月下をスケルトンに向かって勢いよく振り下ろした。

 月下はスケルトンの頭蓋骨を粉々に砕き、頭部を失ったスケルトンが崩れるように倒れて動かなくなる。スケルトンが倒れるとユーキもスケルトンが立っていた場所に着地して素早く体勢を整えた。

 ユーキは強化ブーストを発動させて自身の脚力を強化し、一気にルタを囲むスケルトンの群れに近づいた。距離を詰めると脚力を強化した状態のままジャンプし、ルタの目の前にスケルトンの頭上まで移動するとそのまま落下してスケルトンを攻撃したのだ。

 怯えていたルタはスケルトンが倒されたことに気付くと顔を上げ、目の前に立っているユーキを呆然と見つめる。最初は何が起きたのか分からなかったが、気持ちが落ち着くと目の前の男の子が自分を助けてくれたのだと知った。


「大丈夫かい?」


 ユーキが安否を確認するとルタはユーキを見ながら無言で頷く。ユーキはルタの全身を確認し、怪我などをしていないと知ると安心して微笑む。

 だがユーキはすぐに真剣な表情を浮かべ、ルタに背を向けて周りにいるスケルトンたちを睨みながら月下と月影を構えた。

 スケルトンたちは突然目の前に現れたユーキを見ながら持っている武器を構える。やはりアンデッドであるため、ユーキがいきなり現れたとしても驚きや戸惑いは感じないようだ。

 広場にいるスケルトンは全部で十体おり、その中の八体は柄の長い草切り鎌や錆び付いた剣を持った普通のスケルトンだった。しかし残りの二体は杖を持ち、ボロボロのフードを被ったスケルトンメイジで、戦力だけで考えるとコリーと出会った広場で遭遇したスケルトンたちよりも手強いと言える。

 ユーキはゆっくりと距離を詰めて来るスケルトンを警戒しながらどう戦うか考える。するとスケルトンたちの背後から水球と風の刃が飛んで来てそれぞれ最後尾にいるスケルトンの二体に命中し、水球と風の刃を受けたスケルトンたちは粉々になって動かなくなった。

 スケルトンたちは背後からの騒音に気付いて一斉に振り返り、走ってくるウェンフとオルビィン、それに続くアトニイとグラトン、コリーの姿を目にする。

 ユーキも走ってくるウェンフたちを見て、先程の水球と風の刃がウェンフとオルビィンの魔法だと知って小さく笑った。

 

「先生! 先生はルタちゃんを護ってください。スケルトンたちは私たちが倒します」


 ウェンフはユーキにルタのことを頼むと走る速度を上げてスケルトンたちに向かって行く。

 ユーキはやる気を見せながら走るウェンフを見て頼もしさを感じる。だが同時に張り切りすぎて何か失敗するのではと小さな不安を懐いていた。

 オルビィンはウェンフが走るのを見ると遅れまいと後を追い、グラトンもそれに続いて走る速度を上げる。アトニイはコリーの警護をしようと思っているのか、ウェンフたちと違ってコリーに合わせるように走っていた。

 スケルトンたちはウェンフたちを見ると武器を振り上げながらウェンフたちに向かって走り出す。ただ、全てのスケルトンがウェンフたちの対処に向かったわけではなく、数体はユーキとルタを襲うつもりらしく、ユーキとルタの周りに集まった。

 ユーキの前には四体のスケルトンがおり、その全てが錆びた剣を握っていた。ユーキはスケルトンの立ち位置を確認するとルタを護れるよう彼女に近づき、月下と月影を握る手に力を入れる。

 ルタは先程と比べると少し落ち着いた様子だったが、やはりスケルトンが怖いのか震えていた。


(ちゃっちゃとスケルトンを倒したいところだが、この状況でルタちゃんの傍を離れたら彼女がスケルトンに襲われる可能性がある。ルタちゃんを護りながらスケルトンを倒すなら、カウンター攻撃で戦うしかないな)


 心の中で戦い方を決めたユーキは構えたまま深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、目の前にいる四体のスケルトンに意識を集中させる。

 スケルトンは構えたまま動こうとしないユーキを見ると一斉に剣を振り上げながら前に踏み込んだ。ユーキの後ろにいるルタは襲い掛かってくるスケルトンに恐怖し、大きく目を見開く。


「ルナパレス新陰流、月待つきまち!」


 スケルトンが間合いに入った瞬間、ユーキは月下と月影を素早く四回振ってスケルトンたちに一度ずつ峰打ちを打ち込む。ユーキの攻撃は三体の首の骨、一体の脊椎骨に命中し、峰打ちを受けた箇所の骨は砕けるように折れた。

 峰打ちを受けたスケルトンたちは全てその場に倒れ、首を折られたスケルトンたちは動かなくなり、脊椎骨を折られたスケルトンは上半身だけの状態で這いずりながらユーキに近づこうとする。

 ユーキは動いているスケルトンを見ると月影を振り下ろして頭蓋骨を砕く。頭蓋骨を破壊されたことでスケルトンは動かなくなった。

 四体のスケルトンが動かなくなったのを見てからユーキは月下と月影を軽く振る。しかし首を折られたスケルトンはまだ頭蓋骨が残っているため、動き出すことを警戒したユーキは首が折れたスケルトンの頭蓋骨も念のために破壊した。


「よし、これで動き出すことは無いはずだ」


 全ての頭蓋骨を砕いてスケルトンを完全に倒したユーキは肩の力を抜いた。

 自分の近くにスケルトンが一体もいないことを確認したユーキはルタに視線を向ける。ルタは座り込んだままだが、近くにスケルトンがいないことで安心したのか震えることなくユーキを見つめていた。

 ルタの無事を確認したユーキはウェンフたちがいる方を向く。ウェンフたちは自分と違って多くのスケルトンの相手をしているため、ユーキはウェンフたちが無事かどうか気になっていた。


――――――


 ユーキとルタから少し離れた所ではウェンフたちが四体のスケルトン、二体のスケルトンメイズと交戦している。ウェンフは剣を鞘に納めた状態で中段構えを取り、オルビィンもショヴスリを構えながらスケルトンたちと向かい合っており、グラトンも二人の後ろでスケルトンたちを見つめていた。

 アトニイはウェンフたちから少し離れた所でコリーの護衛をしている。スケルトンが自分やコリーに近づいて来ても応戦できるよう、アトニイもウェンフと同じように鞘に納めた状態の剣を構えていた。


「普通のスケルトンだけじゃなくて、杖を持ったスケルトンもいるわ。きっとあれがスケルトンメイジって奴ね」

「どうする、オルビィン様?」


 ウェンフがどう戦うか尋ねるとオルビィンはチラッとウェンフを見た後にスケルトンたちの後方にいる二体のスケルトンメイジに視線を向ける。


「まずは魔法を使うアイツらを倒した方がいいわね。魔法を使われる前にこっちも魔法を撃ってさっさと倒しちゃいましょう」

「それなら私に任せて」


 微笑みながらそう言うウェンフは後ろにいるグラトンによじ登り、グラトンの背中に立ってスケルトンたちを見下ろす。

 突然グラトンの背中に乗ったウェンフをオルビィンは不思議そうに見つめる。するとウェンフは剣を左手に持ち、混沌紋を光らせて雷電サンダーボルトを発動させ、右手に青白く光り電気を纏わせた。


雷撃砲レイ・ホォン・ヂェー!」


 ウェンフは右手を後方にいるスケルトンメイジたちに向けて強く突き出し、右手から電撃をスケルトンメイジたちに向けて放った。

 スケルトンメイジたちは迫ってくる電撃を見ると杖を前に出して迎撃のための魔法を発動させる。二体のスケルトンメイジはそれぞれ闇の射撃ダークショット石の弾丸ストーンバレットを発動させ、杖の先から紫色の闇の弾丸、拳ほどの大きさの石を放って電撃を相殺しようとする。だが、ウェンフの放った電撃は威力が大きく、闇の弾丸と石を簡単に掻き消した。

 闇の弾丸と石を掻き消した電撃はそのままスケルトンメイジたちに命中し、骨でできたスケルトンメイジの体を粉々にする。電撃が消えた後、スケルトンメイジが立っていた場所にはすすの山だけが残っていた。


「よし! これで魔法を使われることは無くなった」


 ウェンフは満面の笑みを浮かべながらグラトンの上から跳び下りてオルビィンの隣に着地する。

 オルビィンはアッサリとスケルトンメイジを倒したウェンフを目を丸くしながら見ており、後方にいるアトニイも「おおぉ」という顔をしながら見ていた。ただ、コリーだけは突然の出来事に理解が追いつかず呆然としている。


「あとはスケルトンたちを倒すだけ。オルビィン様、頑張ろう」

「え、ええ……そうね」


 笑いながらやる気を見せるウェンフにオルビィンは少し困惑した様子を見せながら頷いた。

 ウェンフは剣を構え直し、オルビィンもウェンフを見た後にスケルトンたちの方を向いて構え直す。その直後、四体のスケルトンが一斉にウェンフたちに襲い掛かった。

 近づいて来るスケルトンたちをウェンフとオルビィンは構えを崩さずに見つめる。スケルトンたちは柄の長い草刈り鎌を振り上げながら走り、ウェンフたちとの距離を徐々に縮めていく。そしてウェンフとオルビィンが間合いに入った瞬間、二体のスケルトンが草切り鎌を振り下ろして攻撃した。

 ウェンフは振り下ろされた草刈り鎌を見ると素早くスケルトンの左側面に回り込んで攻撃をかわし、かわした直後に鞘に納められた剣を右上から斜めに振り下ろしてスケルトンの胴体を殴打する。

 攻撃を受けたスケルトンの左側の肋骨は砕け、スケルトンは僅かによろめくがすぐにウェンフの方を向いて反撃しようとする。

 だがウェンフはスケルトンが動くよりも先に剣を振り上げ、スケルトンの頭部を殴る。ウェンフの攻撃で頭蓋骨は砕け、スケルトンはその場に倒れて動かなくなった。

 スケルトンを倒したウェンフは軽く息を吐き、残りのスケルトンを倒そうとする。だがその時、別のスケルトンが草刈り鎌を振り上げながらウェンフの背後に回り込み、ウェンフに襲い掛かろうとした。

 ウェンフはスケルトンの存在に気付くと驚きながら振り返る。背後を取られたことで回避が難しいと感じたウェンフは攻撃を受けると感じた。

 するとウェンフの右側からグラトンが腕を振り下ろしてウェンフを狙っていたスケルトンを叩き潰し、頭部と上半身を粉々にする。頭部を破壊されたスケルトンは倒れたまま動かなくなった。


「ありがとう、グラトン」

「ブォ~」


 下半身だけとなったスケルトンを見たウェンフは自分を助けてくれたグラトンを見ながら笑って礼を言い、グラトンもウェンフを見ながら大きく口を開け、返事をするように鳴いた。

 ウェンフがグラトンに礼を言っている時、オルビィンは二体のスケルトンと戦っていた。スケルトンたちは草刈り鎌を振り回しながらオルビィンを連続で攻撃し、オルビィンはショヴスリの柄の部分でスケルトンたちの攻撃を全て防いだ。

 スケルトンの攻撃自体は大したことないが、スケルトンたちから何度も攻撃され、自分がなかなか攻撃できない状況にオルビィンは少し苛ついてきている。


「連続で攻撃して私に反撃させないようにするなんて、下級アンデッドのくせに生意気ね」


 自分が下級モンスター相手に防戦一方な状況と反撃できないことに腹を立てるオルビィンはスケルトンを睨みながら双児ツインズを発動させた。

 双児ツインズが発動したことでオルビィンの体は薄っすらと紫色に光り、オルビィンの体からもう一人にオルビィンが現れる。もう一人のオルビィンはスケルトンたちが本物の自分を攻撃している間に素早く背後に回り込んだ。


「調子に乗るなぁ!」


 苛立ちを吐き出しながら分身のオルビィンはショヴスリを右から大きく横に振る。スケルトンたちはショヴスリの柄で横から殴打されて粉々になり、無薄の骨が地面に散らばった。

 だが二体とも頭部が残っていたため、二人のオルビィンは素早くショヴスリで頭蓋骨を破壊してスケルトンを完全に倒した。

 スケルトンを倒すとオルビィンは双児ツインズを解除し、作り出していたもう一人の自分を消すと周囲を見回す。広場には他にスケルトンの姿は無く、危険が無いと感じたオルビィンはショヴスリを下ろしながらウェンフの方を向く。


「とりあえず、広場にいたスケルトンは全て倒せたわね」

「うん」


 オルビィンの方を見ながらウェンフは笑って頷き、ウェンフの笑顔を見たオルビィンも小さく笑みを浮かべた。

 ウェンフたちの戦いを見ていたユーキはスケルトンを全て倒したことで広場の安全が確保されたと感じて少しだけ警戒を緩める。月下と月影を鞘に納めてルタの方を向くとルタは泣き止んでおり、花を持ったまま立ち上がっていた。


「大丈夫かい?」

「う、うん……ありがとう」


 まだ若干涙声だが、笑みを浮かべるルタを見てユーキも安心したのか微笑みを浮かべる。ただ今回のスケルトンの一件がルタにとってトラウマになるのではとユーキは少し心配していた。


「ルター!」


 ウェンフたちがいる方から声が聞こえ、ユーキとルタがウェンフたちがいる方を向くとコリーが慌てた様子で走ってくる姿が目に入った。


「お姉ちゃん?」


 墓地に姉がいることに驚いたルタは大きく目を見開く。だが、現状からすぐに自分を探しに来たのだと気付き、怒られると思って暗い表情を浮かべた。


「とりあえず、お姉ちゃんのところに行こうか?」


 ユーキはルタの背中にそっと手を当てながら声をかけ、ルタはユーキを見ると頷いてコリーの下へ歩き出す。

 暗い顔をするルタを見たユーキは怒られることを怖がっていると気付き、小さく苦笑いを浮かべながらルタの後をついて行った。


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