表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
第十一章~髑髏の徘徊者~
186/270

第百八十五話  グロズリアの村


 日付が変わり、空が明るくなった頃にユーキたちは目を覚ます。少しでも早くグロズリアの村に辿り着きたいユーキたちは早めに起床して出発の準備をすることにしたのだ。

 簡単に朝食を済ませ、荷物を確認した後、ユーキたちは荷馬車に乗り込んで移動する。道を間違えたりしないよう、昨日と同じようにこまめに地図を見ながらグロズリアの村を目指した。

 出発してからしばらく経ち、ユーキたちが乗る荷馬車は平原の中にある一本道を走り、その後ろをグラトンがゆっくりとついて行く。

 ユーキたちはここまで道を間違えておらず、モンスターの襲撃も受けていなかったため、順調にグロズリアの村に向かって移動できていた。


「この調子なら予定より少し早く村に着けるはずだ。村に着いたらすぐにスケルトンの討伐に行くことになるだろうから、今の内に準備をしておいた方がいいぞ?」

「分かりました」


 御者席に座るユーキの指示を聞いてオルビィンは自分の荷物やショヴスリの確認をし、アトニイも同じように討伐依頼の準備に取り掛かる。

 荷台で準備をするオルビィンとアトニイを見たユーキは前を向いて荷馬車を走らせることに集中した。


「先生、ちょっといいですか?」


 ユーキが前を向いた直後、ウェンフがユーキに近づいて声を掛けてきた。話しかけられたユーキは前を向いたままウェンフに視線を向ける。


「どうした?」

「昨日の夜、聞き忘れちゃったことがあるんですけど、スケルトンって魔法とかは効くんですか?」


 ウェンフが複雑そうな顔をしながらスケルトンとの戦い方についてユーキに尋ね、依頼の準備をしていたオルビィンとアトニイはウェンフの言葉を聞いて彼女に視線を向ける。

 ユーキは昨晩、スケルトンの情報や接近戦での戦い方などをウェンフたちに話したが、魔法による戦い方などは話さなかった。そのため、ウェンフは魔法がスケルトンに効果があるのか気になり、グロズリアの村に着く前にユーキに訊いておこうと思い声を掛けたのだ。


「ああ、魔法も問題無く効くよ。スケルトンなら下級魔法でも一撃で倒せるはずだ」

「そっかぁ」


 魔法でも戦えると聞いたウェンフはどこか安心したような反応を見せる。

 もし剣などの武器が使えない状態になったらメルディエズ学園の生徒が使える攻撃手段は魔法しかない。ウェンフはユーキから魔法でもスケルトンを倒せると知り、対抗できなくなると言う最悪の状況にはならずに済むと考えて微笑みを浮かべた。


「じゃあ、魔法で攻撃する場合、属性が一番効果があるんですか?」

「アンデッドの大半は炎属性と光属性に弱い。その二つの属性魔法で戦うのかいいかもな」

「炎と光?」


 アンデッドに効果がある属性を聞いてウェンフは軽く目を見開いて驚く。なぜならウェンフの得意属性は水で彼女は水属性の魔法しか使えないからだ。

 水属性の魔法ではスケルトンに決定的なダメージを与えられないのではと考えるウェンフは再び不安を感じ始める。


「……先生、私、水属性の魔法しか覚えてないんですけど、どうすればいいですか?」


 若干表情を曇らせながらウェンフはユーキに声を掛ける。するとユーキはウェンフの方を向いて小さく笑った。


「別に弱点の属性魔法が使えなくても問題無いよ。あくまでも一番効くのが炎と光ってだけで、他の属性の魔法が効かないわけじゃない。普通に魔法で攻撃すれば問題無く倒せるはずだ」

「えっ、そうなの?」


 ユーキの言葉を聞いたウェンフは意外そうな反応を見せて訊き返し、ユーキは無言で頷く。自分の水属性魔法でもスケルトンに効果があると聞かされたウェンフは安心したのか深く息を吐いた。


「それにもし水属性の魔法が効かなかったとしても、お前には雷電サンダーボルトって切り札があるだろう? それを使えば大丈夫なはずだ」


 混沌術カオスペルがあるのだから最悪の状況にはならないとユーキは話し、それをウェンフは再び笑みを浮かべた。

 実際、ウェンフの雷電サンダーボルトは並の魔法より強力で瞬時に使用することが可能なため、魔法を使うよりも効率よく敵を倒すことができる。ユーキはウェンフの場合、魔法よりも雷電サンダーボルトを使って戦った方が良いのではと思っていた。

 武器が使えない状態になっても戦えること、弱点の属性魔法が使えなくても問題無いことを知ったウェンフは不安が無くなり、静かに腰を下ろす。

 オルビィンもユーキとウェンフの会話を聞いてスケルトンと戦いやすくなると考えたのか荷物と武器の確認を再開する。


「あっ、因みに六つの属性の中で闇属性だけはアンデッドには効果が無いから使わない方がいいぞ?」


 ユーキは魔法の属性について言い忘れていたことをウェンフたちに伝え、ユーキの言葉を聞いたウェンフたちは一斉に顔を上げる。


「闇属性だけが効かない……オルビィン様、オルビィン様の得意属性は何?」


 ウェンフは目の前にいるオルビィンに得意属性について尋ねる。メルディエズ学園では生徒の得意属性によって使える魔法が変わるため、ウェンフは一緒に依頼を受けるオルビィンがどの属性の魔法を使えるのか気になっていた。


「私の得意属性は風、だから使える魔法は風刃ウインドカッターよ」

「そっかぁ……」


 オルビィンの得意属性が闇属性でないことを知ったウェンフはオルビィンがスケルトンと戦う際に問題無く魔法を使えると知ってホッとする。


「アトニイの得意属性は何?」


 ウェンフは続いてアトニイの方を向いて得意属性が何なのか尋ねる。声を掛けられたアトニイは準備する手を止め、ウェンフの方を見ると苦笑いを浮かべた。


「私の得意属性は闇属性だ。だから魔法も闇属性の闇の射撃ダークショットしか使えない」


 使える魔法がアンデッドに唯一効果が無い闇属性の魔法だと聞かされたウェンフは目を見開き、オルビィンもチラッとアトニイに視線を向ける。

 自分と違ってアトニイが魔法でスケルトンを攻撃できないと知ったウェンフは自分たちよりも戦い難い状態だと考えて内心気の毒に思っていた。


「でも大丈夫だ。魔法が使えないなら武器で戦えばいいだけのことだからな。それに余程運が悪くない限り、武器が使えない状況になんてならない」

「そ、それはそうかもしれないけど……」


 余裕を見せるアトニイを見たウェンフは複雑そうな表情を浮かべ、振り返って御者席に座るユーキを見ながら「大丈夫かな?」と目で尋ねる。

 ウェンフが見ていることに気付いたユーキはウェンフが何を言いたのか察し、チラッとウェンフの方を向いて口を開いた。


「大丈夫だ。アトニイの実力なら魔法が使えなくても問題無くスケルトンを倒せる。それにアトニイの言うとおり、武器が使えなくなる状況には滅多にならない」


 ユーキが問題無いと語るとウェンフは小さく俯く。師匠であり、自分よりも戦闘経験が豊富なユーキが大丈夫と言うのなら問題無いと感じたのかウェンフは納得した。

 闇属性が得意属性なのはアトニイだけでなく、ユーキも闇属性が得意属性なので今回の討伐依頼ではユーキも魔法は使えない。だがユーキは魔法無しでも勝つ自信があったため焦っていなかった。

 アトニイに関しても現在メルディエズ学園で多くの生徒に注目されるほどの実力を持った彼なら魔法が使えなくても問題無いとユーキは考えていた。

 話が終わるとユーキは前を向いて自分たちが進む先を確認する。すると、数百m先に村があるのを目にし、ユーキは地図を取り出して見つけた村を確認した。

 地図を見ながらユーキは自分たちの大体の位置とその近くにどんな村があるのか調べる。その結果、見つけた村がグロズリアの村であることが判明し、ユーキは振り向いて荷台に乗っているウェンフたちを見た。


「グロズリアの村が見えた。あと少しで着くから準備をしておいてくれ」


 ウェンフたちはユーキの言葉に一斉に反応し、荷台の御者席側に集まって荷馬車が進む先を確認する。遠くには確かに小さく村が見え、ウェンフたちはもうすぐスケルトンの討伐が始まるのだと感じながら村を見つめた。


「三人とも、少し速度を上げるからしっかり掴まってろ」


 ユーキが前を覗くウェンフたちに声を掛けると三人は座って倒れないように荷台に掴まった。

 ウェンフたちが掴まったのを確認したユーキは次に荷馬車の後ろをついて来ているグラトンに視線を向ける。


「グラトン、速度を上げるからしっかりついて来いよぉ?」

「ブォ~」


 力の入った声で呼びかけるユーキにグラトンは大きく口を開けて返事をする。

 グラトンが返事をするとユーキは前を向いて手綱を強く握って馬に指示を出す。馬は走る速度を上げ、真っすぐグロズリアの村へ向かった。


――――――


 速度を上げてから十数分後、ユーキたちは目的地であるグロズリアの村に到着し、村の西にある門の前に荷馬車を停めた。

 グロズリアの村は西と東に門が一つずつあり、丸太で作られた高い壁が村全体を囲んでいた。壁の内側、西東の門の近くには見張り台が建てられている。

 西門前の見張り台には青年が立っており、西門前に停まったユーキたちに荷馬車を気付くと目を細くしてユーキたちを見つめた。


「アンタたち、何モンだぁ?」


 見張り台の青年は大きな声でユーキたちに声を掛け、声を聞いたユーキたちは一斉に顔を上げて見張り台を見上げた。


「メルディエズ学園から派遣された者です。この村からの依頼を受けて来ました」


 ユーキが自分たちの身分と訪ねた理由は話すと青年は軽く目を見開き、改めてユーキたちを確認する。

 荷馬車に乗っている四人は確かにメルディエズ学園の制服を着ており、メルディエズ学園の生徒であることは間違い無いと青年は感じる。だが、荷馬車の左隣にいるヒポラングを見て、どうしてモンスターが生徒と一緒にいるのか疑問に思っていた。

 ユーキは見張り台の青年が警戒するような表情を浮かべていることに気付くと青年の視線の先を確認し、グラトンを見つめていることを知る。

 現状と過去にグラトンと共に受けた依頼を思い出したユーキは青年がモンスターであるグラトンを警戒しているのだと悟った。


「このヒポラングは学園で面倒を見ているモンスターで今回の依頼のために同行させました。人に危害は加えませんので安心してください」


 青年にハッキリ聞こえるようユーキは力の入った声でグラトンのことを説明した。

 グラトンを連れて依頼を受けた時、ユーキは町や村に入る際に必ずと言っていいくらい町の警備兵や村人にグラトンは無害であることを伝えている。そのため、今のような状況には既に慣れてしまっていた。

 ユーキの説明を聞いた青年はしばらくユーキたちを見た後に見張り台を下りて何処かへ行った。ユーキたちは青年が他の村人たちに自分たちのことを知らせに行ったのだと考え、青年が戻ってくるのを待つ。

 それからしばらく経った頃、グロズリアの村の西門がゆっくりと開き、ユーキたちは開く門を見つめる。

 西門が開くとグロズリアの村の中から五人の村人が出てくる。五人の内、一人は先程見張り台にいた青年で三人は四十代半ばか後半ぐらいの男たちだった。そして最後の一人は六十代半ばくらいで身長170cm弱、薄い茶色の短髪に茶色の目、長袖長ズボン姿の小太りの男性でユーキたちの馬車にゆっくりと近づいて来る。

 小太りの男性は荷馬車の右隣までやって来ると御者席に座るユーキを見上げ、ユーキも男性の方を向いた。


「貴方がたがメルディエズ学園から派遣された生徒なのですね?」

「ハイ」


 ユーキは小太りの男性の問いに頷いて答える。返事を聞いた男性は荷台に乗ったウェンフたち、荷馬車の反対側にいるグラトンを見た後にもう一度ユーキを見て軽く頭を下げた。


「お待ちしておりました。このグロズリアの村長を務めているヘクターと申します。この度、メルディエズ学園にモンスターの討伐を依頼した者です」

「貴方が村長さんでしたか」


 目の前にいるヘクターと名乗った小太りの男性が村長だと知ったユーキは納得したような反応をする。目の前にいるヘクターは他の村人と比べて少し雰囲気が違ったため、村長ではないかとユーキは薄々感じていた。

 自己紹介を済ませたヘクターは後ろに下がって荷馬車から離れると村の方を向いた。


「早速依頼の詳しいお話をさせていただくますので、どうぞお入りください」


 そう言ってヘクターはグロズリアの村に入っていき、許可を得たユーキも荷馬車を動かしてヘクターをの後をついて行った。

 荷馬車が動くと同時に西門の前に立っていた村人たちも左右に移動してユーキたちに道を開ける。ユーキたちは荷馬車に乗りながら門を潜ってグロズリアの村に入り、グラトンもゆっくりと村に入っていく。

 村人たちは目の前を通過するグラトンの後ろ姿を見ながら不安そうな顔をしていた。


「……おい、大丈夫かよあれ? 四人の内、一人はまだ十歳ぐらいの子供だぞ。しかもモンスターまで引き連れてやがるしよう」


 村人の一人が隣にいる別の村人に小声で声を掛ける。やはり幼いユーキとヒポラングであるグラトンが派遣されたことに多少の不満を感じているようだ。


「そんなの俺にだって分からねぇよ……ただ依頼したのは下級モンスターの討伐だからな、メルディエズ学園もメチャクチャ強い生徒は派遣しないと思うぜ?」

「だからって児童とモンスターをよこすかよ」


 村人たちは小声で話しながら離れているユーキたちを見つめる。

 派遣された生徒がどれほどの実力者かは分からないが、せめて依頼を熟してくれるだけの実力と信用のある生徒であってほしいと村人たちは願っていた。

 グロズリアの村に入ったユーキたちはヘクターに案内されながら村の奥へ移動する。村はそれなりに広く、羊やヤギを飼育するための小屋や広場などがあった。広場では大量の羊の姿があり、羊を見たユーキたちはヤギの数に驚きの反応を見せる。

 移動している間、村人たちはユーキたちについて行くグラトンに注目しており、村人の中には興味のありそうな顔をしている者もいれば、警戒している様子の者もいた。

 荷台に乗っているウェンフとオルビィンは村人たちの視線に気付いて村人たちを見回す。以前グラトンと共に依頼のあった村を訪れた時も似たような経験をしていたため、村人たちの反応を見た二人はやはりモンスターはすぐに受け入れてもらえないのだろうと感じていた。

 ユーキもウェンフやオルビィンと同じことを考えていたが、ユーキは二人以上に何度もグラトンを警戒する村人たちの視線が気にならなくなっていた。

 しばらく村の中を移動するとユーキたちはヘクターの家に到着する。荷馬車を停めるとユーキたちは一斉に降り、それを見たヘクターは玄関を開けてユーキたちを家に招いた。

 ユーキたちは一人ずつヘクターの家に入っていく。グラトンはいつものように家に入れず、荷馬車の近くで待機させることにした。

 ヘクターの家に入ると中にはヘクターと歳の近い身長165cmぐらいで肩の辺りまである薄い茶色の髪と橙色の目をした女性が立っており、女性を見たユーキは軽く頭を下げて挨拶をする。


「こちらは私の妻でライアナと言います」

「ようこそいらっしゃいました」


 紹介されたライアナは頭を下げ、ユーキもライアナを見てもう一度頭を下げた。


「ユーキ・ルナパレスです。今回、下級生たちの付き添いとして同行しました」


 自己紹介を済ませたユーキはゆっくりと頭を上げ、右側に並んで立っているウェンフたちに視線を向ける。

 ユーキと目が合ったウェンフは一歩前に出てるとユーキと同じようにヘクターとライアナに頭を下げた。


「今回、依頼を受けた生徒の代表を任されたウェンフです。よろしくお願いします」


 礼儀正しく挨拶をするウェンフを見てヘクターとライアナは優しく微笑み、ユーキも弟子であるウェンフがメルディエズ学園の生徒として役目を全うしようとする姿を見て嬉しそうに笑った。


「こっちの二人はオルビィンとアトニイです」


 頭を上げたウェンフは自分の右隣に並んでいるオルビィンとアトニイを見ながら二人を紹介する。

 オルビィンがラステクト王国の王女であることを知られるのは色んな意味でマズいため、ウェンフは敢えてオルビィンの名字は言わないようにした。


「よろしくお願いします」

「よろしく」


 ヘクターとライアナを見ながらオルビィンとアトニイは簡単な挨拶をし、ヘクターも挨拶をする二人を見て無言で頭を下げた。

 依頼主との挨拶が無事に終わるとウェンフは少し緊張が解けたのか静かに息を吐く。ウェンフが依頼を受けた生徒たちの代表を務めたのは今回が初めてだったため、上手く挨拶できるかどうか少し不安だったようだ。

 ユーキはウェンフが息を吐く姿を見て彼女が緊張していたことに気付き、ウェンフに気付かれないようにクスクスと笑う。


「早速ですが、皆さんに依頼するお仕事についてお話させていただきます」


 挨拶を済ませたヘクターは真面目な顔をして近くにある椅子に腰を掛け、ユーキたちに机を挟んだ向かいの席に座るよう促す。依頼主と向かい合って依頼の話を聞くのは代表の生徒であるため、ユーキはウェンフに席に付くよう目で伝える。

 ユーキの指示を悟ったウェンフは再び緊張した様子を見せながら椅子に座ってヘクターと向かい合う。ユーキたちはウェンフの後ろに立ち、ライアナはヘクターの斜め後ろに待機した。


「既にご存じだと思いますが、皆さんに依頼するのはスケルトンの討伐です」


 依頼の説明が始まるとユーキたちは黙ってヘクターの話に耳を傾ける。依頼を完遂させるためにも少しでも依頼の詳しい情報を頭に入れておく必要があった。

 ヘクターはユーキたちが説明を聞く状態になったのを見ると説明を続ける。


「今から一週間前、村の者が村の近くを徘徊しているスケルトンを発見しました。その時はスケルトンも一体だけだったらしいので我々も放っておこうと思っていました。ですが、その二日後に新たにスケルトンが目撃されました。しかも今度は一度に数体現れたのです」

「そうだったんですね……スケルトンは村の近くに現れたそうですが、何処に現れたんですか?」

「墓地です」


 スケルトンの出現場所を聞いたウェンフは軽く反応し、墓地ならスケルトンが現れても何の不自然も無いと感じていた。


「村から南に1kmほど行った所に村が管理する墓地があります。村で亡くなった者たちを埋葬する場所です」

「その墓地で目撃されたスケルトンが村に近づいて来たということですか?」

「ハイ、三日ほど前から村のすぐ近くに現れるようになりました。明るい時には墓地や村から少し離れた所に現れるのですが、夜になると村の前まで近づいて村を囲む壁や門を叩いたりしてきます。おかげで村の者たちは怯え切ってしまい、村の外に出ることも少なくなってしまいました」


 俯くヘクターは暗い顔でグロズリアの村の現状を語り、後ろで控えているライアナも同じように暗い顔をしていた。

 実際、グロズリアの村の村人たちはスケルトンが村に近づいてからは明るい時間でも村の外には滅多に出ず、外に出る時はくわやピッチフォークと言った農具を護身用の武器として持ち出していた。

 村長夫婦の落ち込む姿を見たユーキたちは村人たちがスケルトンのせいで強い恐怖を感じ、精神的に追い詰められていると悟る。

 グロズリアの村の村人たちのためにも自分たちの力で必ずスケルトンを倒そうとユーキたちは改めて決意した。


「……分かりました。必ず全てのスケルトンを倒します」

「ありがとうございます」


 ウェンフの言葉にヘクターは顔を上げ、小さく笑いながら頭を下げる。これでスケルトンに怯えながら暮らす生活が終わる、ヘクターとライアナはユーキたちを見ながらそう思った。


「因みに村の中でスケルトンに襲われた人はいるんですか?」


 黙ってウェンフとヘクターの会話を聞いていたユーキが村人の中に被害者が出ているのか尋ねる。ヘクターやウェンフたちはユーキの言葉を聞いて一斉に彼にの方を向いた。

 スケルトンが現れてからグロズリアの村の村人たちは何度か村の外に出ていたようなので、ユーキは念のために村人たちの中に被害者が出ていないか確認しておこうと思っていた。


「いいえ、スケルトンによる犠牲者は出ておりません。先程もお話ししたようにスケルトンが現れてから村の外に出る者は少なくなりましたから」

「そうですか……」

「何人か村の外に出た者はいますが、スケルトンに襲われたことは無かったようです。ただ、中にはスケルトンを目撃した者もいたそうで、その時は遠くから目撃しており、見つかることも無かったので怪我もしなかったようです」


 グロズリアの村に被害者が出ていないことを知ったユーキは心の中で「よかった」と思う。ウェンフも自分たちが来るまでの間に村人たちがスケルトンに襲われることは無かったと知って安心した。


「他に何かご質問はございますか?」


 ヘクターが他に訊きたいことはあるかユーキたちを見ながら確認すると、ウェンフは軽く首を横に振った。


「いいえ、もう大じょ――」

「もう一ついいですか?」


 ウェンフが質問が無いことを伝えようとした時、ユーキが割って入るようにヘクターに声を掛ける。

 突然のユーキの言葉にウェンフは驚き、軽く目を見開きながらユーキの方を向いた。オルビィンとアトニイも意外そうな反応をしながらユーキを見ている。


「スケルトンの数やどんな外見をしていたか分かりますか?」

「外見ですか?」


 ユーキの問いを聞いたヘクターは難しい顔をしながら俯く。

 スケルトンを目撃した村人たちはグロズリアの村がスケルトンに襲撃された時に何かしらの対策ができるよう村長であるヘクターや他の村人たちに目撃したスケルトンの情報を細かく伝えておいた。

 村人たちからスケルトンの外見や数などの聞いていたヘクターはスケルトンの情報を思い出そうとし、ユーキたちはそんなヘクターを黙って見つめる。

 しばらくするとヘクターは顔を上げてユーキの方を向いた。


「そう言えば……目撃した者によると、スケルトンの中に杖を持ったスケルトンが何体かいたそうです」

「杖を持ったスケルトン、つまりスケルトンメイジがいるかもしれないってことか……他にどんなスケルトンがいるが分かりますか?」

「私も詳しくは分かりませんが、剣や鎌、弓矢を持ったスケルトンも多くいたと聞いています。何体いたかは私たちにも分かりません……」

「そうですか、ありがとうございます」


 情報を聞いたユーキは小さく笑いながら礼を言い、ヘクターも自分の情報が役に立ったと知って笑みを返す。

 この時のヘクターは幼いのにスケルトンの情報を細かく訊いたユーキを見てしっかりした児童だと感心していた。

 ウェンフはヘクターから話を聞いたユーキをまばたきしながら見ており、それに気付いたユーキはウェンフに近づいて小声で語り掛けた。


「依頼主やその身近な人がモンスターを目撃しているならモンスターのことを聞いておいた方がいい。後で戦う時にモンスターの情報を持っていれば戦いやすくなるかもしれないからな」

「あぁ、そうか……」


 ユーキの言葉にウェンフは納得の反応を見せた。

 討伐依頼を受けた際は討伐するモンスターを目撃したり、情報を持っている人物からモンスターのことを聞いているかいないかで戦闘の難易度が変わってくる。少しでも楽に倒せるようにするためにも討伐対象の情報を得るのは常識と言えるだろう。

 今回の依頼ではウェンフが依頼を受けた生徒たちの代表であるため、戦いやすくなるようスケルトンの情報を細かく聞いておくべきなのだが、ウェンフはスケルトンの居場所やグロズリアの村の状況を聞いて討伐に向かおうとした。ユーキはウェンフがモンスターの情報を尋ねなかったことに気付いたため、ウェンフの代わりにスケルトンの情報をヘクターから聞いたのだ。

 ウェンフはユーキに言われたことで派遣された生徒の代表としてやるべきことをやらなかったことに気付き、次からは同じ失敗をしないようしようと心の中で反省した。

 ヘクターからスケルトンの情報を聞き、ユーキたちは改めて討伐に向かう準備が整った。あとはスケルトンが目撃された場所に向かってスケルトンを討伐するだけだった。


「それじゃあ、早速スケルトンの討伐に向かいます。えっと……スケルトンを目撃した墓地はどの辺りにあるんでしょうか?」

「ああぁ、失礼。今地図をお持ちします」


 立ち上がったヘクターは近くの棚の方へ歩き、そこに置かれてある地図を手に取る。机に戻るとヘクターはグロズリアの村の周辺が描かれた地図を広げ、ユーキたちは机を囲んで地図を覗き見た。


「墓地は村を出て南に行った所にあります。周りに森や林のような場所は少ないのですぐに分かるはずです」


 ヘクターは地図を指差しながら説明し、ユーキたちもヘクターが指差す場所を確認する。

 確かに地図には墓地らしい場所が描かれてあり、その周りに森などは少ない無い。地図を見たユーキたちは迷ったりすることなく墓地に辿り着けると考えていた。

 墓地の場所を確認するとユーキは真剣な表情を浮かべてウェンフたちを向いた。


「墓地の場所も分かったし、あとはスケルトンを倒すだけだ。皆、準備はいいか?」

「ハイ」

「大丈夫です」

「問題ありません」


 ユーキの確認にウェンフ、オルビィン、アトニイは返事をし、三人を見たユーキも小さく頷いた。


「此処から墓地まで幾つか分かれ道があります。道を間違えるかもしれませんので、この地図をお持ちください」

「ありがとうございます」


 ユーキはヘクターからさっきまで見ていた地図を受け取り、丸めて代表であるウェンフに手渡した。


「よし、出発しよう!」


 少し力の入った声を出しながらユーキはヘクターの家の玄関に向かって歩き出し、ウェンフたちもそれについて行く。

 スケルトンの討伐に向かおうとするユーキたちの後ろ姿をヘクターとライアナは黙って見つめ、少しでも早く全てのスケルトンを倒して村の平和を取り戻してくれることを心の中で願うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ