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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
第二章~強豪の剣士~
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第十七話  盗賊討伐依頼


 生徒会室にやって来たユーキたちは部屋の真ん中で横一列に並んで前を向く。ユーキたちの前には生徒会長であるカムネスが立っており、その左には目を閉じたロギュンが立っている。

 いったいどんな用事で自分たちを呼び出したのだろう、とユーキたちは疑問に思いながら無言でカムネスを見つめている。すると、カムネスはユーキたちを見ながら静かに口を開いた。


「突然呼び出してすまなかったな?」

「まったくだぜ。こっちはルナパレスと楽しく手合わせしてたのにいいところで邪魔が入ったんだからな」

「フ、フレード先輩……」


 不機嫌な態度で文句を言うフレードを見ながらアイカは困ったような表情を浮かべる。生徒会長であるカムネスと副会長のロギュンを前に文句を口にし、二人の機嫌を悪くしてしまったらどうするのだとアイカは小さな不安を感じていた。実際、ロギュンは気分を悪くしたのか、片目を開けて文句を言うフレードを軽く睨んでいる。

 ロギュンが睨んでいることに気付いたアイカは「あちゃ~」と言いたそうな顔をし、ユーキも緊迫した雰囲気に少し表情を歪める。パーシュはと言うと、空気を読まないフレードに呆れており、小さく俯きながら首を横に軽く振った。


「それでカムネス、あたしらに何の用なんだい? ただお喋りをするために呼んだんじゃないんだろう?」

「勿論だ」


 頷くカムネスをパーシュは真剣な表情で見つめ、カムネスが本題に入ろうとするのを見たフレードは小さく舌打ちをしながらとりあえず耳を貸す。フレードが落ち着いたのを見たユーキとアイカもホッとしてカムネスの方を向いた。


「実は先程、バウダリーの南東にあるモルキンという町を管理する貴族から我が学園に依頼が来た。最近、その町の近辺に盗賊と思われる一団が出没し、町の外に出ている住民や町の近くを通りがかった旅人や荷馬車を襲っているそうだ」


 ユーキたちが自分に注目しているのを確認したカムネスは話を始め、四人は無言でカムネスの話を聞く。

 何か重要な内容ではないかと予想していたため、貴族からの依頼だと聞かされたユーキたちは「やっぱり」と言いたそうにカムネスを見つめる。そして、自分たちが呼び出された理由がその依頼に関係していると確信した。


「既に大勢の住民や旅人が被害に遭っており、貴族は我々にその盗賊団と討伐を依頼した。しかも確実に盗賊を倒すため、上級生など学園でも上位の実力を持った生徒を数人派遣してほしいと言ってきている」

「それで、貴方がたにその依頼を引き受けていただきたいのです」

「はあぁっ!?」


 カムネスの後を引く継ぐように語るロギュンを見て言葉にフレードは信じられないような表情を浮かべながら声を上げる。その声に驚き、ユーキとアイカは目を軽く見開きながらフレードの方を向いた。


「冗談じゃねぇぞ! 俺は昨日依頼を終えて戻ってきたばっかなんだぞ。それなのにまた別の依頼を受けろっていうのか? それもコイツと一緒に?」


 フレードはカムネスを睨みながらパーシュを指差し、パーシュも嫌がるフレードを睨み付ける。

 犬猿の仲であるパーシュと共に依頼を受けるなど、フレードにとって納得のできないことだった。そして、それはパーシュにとっても同じことだ。


「ルナパレスやサンロードは分かるが、コイツと一緒に依頼を受けるなんて御免だからな!」

「あたしだってヤダよ。コイツと一緒じゃ成功する依頼も失敗するに決まってるからね」

「ああぁ!?」


 不満を口にするパーシュをフレードは険しい顔で睨み、パーシュも目を鋭くして睨み返す。

 今にも暴れ出しそうな二人を見てユーキとアイカは焦りを見せ始め、カムネスは表情を変えずに黙ってパーシュとフレードを見ている。ロギュンは喧嘩する二人を見慣れているのか、呆れ顔で溜め息を付いた。


「お二人とも、いい加減にしてください。今はまだ説明の最中ですよ?」

「うっせぇ! 大体お前ら生徒会も何考えてんだ。俺らの仲が悪いってことを知っていながら同じ依頼を受けさせるなんて」

「そこはあたしも同感だよ。何であたしらに同じ依頼を受けさせるのか、説明してもらおうじゃないか?」


 フレードとパーシュは鋭い目でカムネスとロギュンを見つめ、不仲な自分たちを同行させる理由を尋ねる。二人の鋭い視線に怯むことなく、カムネスとロギュンは二人を見ていた。

 ユーキとアイカは落ち着いた様子でパーシュとフレードを見ているカムネスとロギュンを見て、流石は会長と副会長と感心した。


「私たちも貴方がたが不仲で、同じ依頼を受けるのを嫌がっているのは知っています。ですが、今回は貴族からの依頼で上級生や実力のある生徒を派遣してほしいと言われているので仕方がないのです」

「それなら他の上級生に依頼すればいいじゃないか」

「他に動ける上級生がいなかったんです。貴方がた以外の上級生は全員依頼で外に出ています」

「……アンタとカムネスは?」

「私と会長は色々と忙しい身です」


 目を閉じながら自分とカムネスは依頼に参加できないとロギュンは語り、パーシュは納得のいかない答えを聞いて目を僅かに細くする。フレードも小さく舌打ちをして不満を露わにしていた。

 他の依頼を受けられる上級生がいないのなら、学園に残っている者が受けるしかないと普通の生徒なら納得する。しかし、パーシュとフレードは納得できず、なんとか一緒に依頼を受けずに済む方法はないか考えた。


「……上級生がいないのなら、中級生の中でも強い奴を集めて依頼を受けさせればいいじゃねぇか」

「ですからユーキ君とアイカさんを呼んだのです」


 ロギュンはチラッとユーキとアイカに視線を向ける。アイカはロギュンと目が合って一瞬驚くが、心の中では生徒会が自分を推薦したことに小さな嬉しさを感じていた。

 一方、ユーキは実力を持った中級生に依頼を受けさせるというロギュンの言葉を聞き、なぜ下級生である自分が呼ばれたのか疑問に思い、小首を傾げながら考えた。


「コイツらを参加させるのなら、他にも中級生を集めればいいだろう? ドールストのような奴らを……」

「残念ですが、在学中の中級生の中で今回の依頼に参加させられる生徒は全員依頼に出ています。フィランさんも依頼で学園の外です」

「中級生もかよ!」


 上級生だけでなく、中級生も依頼を受けて学園にいないと知ったフレードは再び声を上げて驚き、パーシュも目を大きく見開く。メルディエズ学園には大勢の生徒がいるのに、依頼を受けられるほどの実力を持った生徒が全員動けなくなっていると聞かされれば驚くのは当然だった。

 ユーキとアイカも実力を持った生徒が全員学園にいないことを知って驚く。まるでパーシュとフレードに今回の依頼を受けさせようとしているような現状に、二人は生徒会が仕組まれているのではと感じていた。


「中級生がいないからと言って経験の浅い下級生に依頼を受けさせるわけにはいきません。ですから、学園に残っている貴方たち二人に今回の依頼を受けてもらうことにしたのです」


 ロギュンの説明を聞き、言い返すことができなくなったフレードは黙り込む、パーシュも不満そうな表情を浮かべる。他に参加させられる生徒がいないのであれば、不仲であることに関係無く自分たちに依頼が回ってくるのは仕方がない感じた。

 パーシュとフレードは俯きながら黙り込み、カムネスとロギュンは二人を無言で見つめる。ユーキとアイカは他に任せられる生徒がいない以上、パーシュとフレードが共に依頼を受けてもらうしかないと思いながら二人を見ていた。


「上級生は実力が高く、難易度の高い依頼を受けさせられる代わりに学園内でそれなりの影響力と高い報酬を与えられ、喧嘩と言った多少の問題行動は大目に見られます。ですが、自分たちしか受けられない依頼を個人的な理由で断る場合は、上級生と言えど処罰を受けてもらうことになります」

「おいおい、それって脅しか?」

「いいえ、断りたいのであれば断ってくださっても結構です」


 ロギュンは目を細くしながらフレードを見つめ、「依頼を受けるか処罰を受けるかはそっちが決めていい」と遠回しに伝える。フレードはロギュンの考えていることを悟ると面白くなさそうな表情を浮かべた。

 上級生と言えど、下手にメルディエズ学園で強い力を持つ生徒会に逆らえばただでは済まない。フレードとパーシュは生徒会に逆らってもいいことなど何も無いと分かっているため、すぐに依頼を断ることができなかった。


「……チッ、わ~ったよ。受けりゃいいんだろ」

「確かに自分たちしか受けられない依頼を個人的な理由で拒否しても損するだけだからね、大人しく受けるのが一番賢明だろうね」


 観念したのかフレードはパーシュと共に依頼を受けることを決め、パーシュも仕方がなさそうな顔をしながら引き受ける。ロギュンは若干不満そうな顔をする二人を見ながら小さく笑い、笑うロギュンに気付いたアイカは「恐るべし副会長」と心の中で感じた。

 依頼を引き受けたパーシュとフレードをカムネスはしばらく無言で見つめ、そのまま視線をユーキとアイカに向けた。


「サンロード、ルナパレス、既に理解していると思うが、他に動ける生徒がいない以上、君たちもパーシュやフレードと共に依頼を受けてもらうぞ?」

「ハイ、分かりました」

「了解です」


 アイカとユーキは最初から依頼を受けるつもりでいたのか、不満そうな顔は一切見せずに依頼を引き受ける。そんな二人を見たカムネスは表情を変えずに小さく頷いた。


「……あの、質問があるんですけど、いいですか?」

「何だ?」


 カムネスがユーキの方を向くと、ユーキは自分の頬を指で掻きながら小さく俯く。


「さっき、経験の浅い下級生には今回の依頼を受けさせられないって副会長は言ってましたけど、どうして俺は依頼を受けられるんですか?」


 下級生である自分がアイカたちと共に貴族の依頼できる理由が分からないユーキはカムネスに問いかけ、それを聞いたアイカ、パーシュ、フレードの三人も不思議に思ってカムネスとロギュンの方を向いた。


「理由は簡単だ。君が今回の依頼を受けられるほどの実力を持っていると僕らが判断したからだ」


 カムネスの言葉にユーキは不思議そうな表情を浮かべ、そんなユーキを見ながらロギュンが口を開く。


「貴方は下級生でありながら優れた剣の腕を持っている上に混沌士カオティッカーです。既に中級生と同等の実力を持っています。ですから下級生である貴方を推薦しました」

「でも、実際は下級生ですし……」

「外側より中身が重要だ」


 下級生と言うのは階級よりも実力が重要だとカムネスは語り、ユーキは生徒会は下級生である自分のこともしっかりと評価してくれていると知って意外に思う。アイカたちも生徒会のユーキに対する評価は正しいと感じながら三人の会話を聞いていた。

 生徒会がちゃんと実力を評価してくれるのなら、その期待に応えるためにもしっかり働かなくてはならない、そう感じたユーキは今度の依頼もしっかり熟そうと考えた。


「もう一つ訊いてもいいですか?」

「どうぞ」

「なぜ依頼主の貴族は上級生や実力のある生徒ばかりを派遣するよう依頼してきたんです? 盗賊程度なら先輩たちが行かなくても普通の中級生で問題無く討伐できると思いますが……」


 たかが盗賊相手にメルディエズ学園でも上位の実力者を指名する理由が分からないユーキはカムネスとロギュンに尋ねる。アイカたちも盗賊相手に大袈裟すぎるのではと疑問を抱いた。

 ユーキたちが不思議に思う中、カムネスは腕を組みながら僅かに目を鋭くした。


「……依頼主の話によると、盗賊の中に混沌士カオティッカーがいるそうだ」


 カムネスの言葉にユーキとアイカは目を見開き、パーシュとフレードは目を鋭くする。強大な力を持つ混沌士カオティッカーが盗賊の中にいると聞けば驚くのは当然だ。


「盗賊の中に私たちと同じ混沌士カオティッカーが?」

「ああ」

「確かなのですか?」


 信じられないアイカは再度カムネスに尋ねると、カムネスは小さく頷く。


「直接その混沌士カオティッカーと戦って生き残った者から得た情報だそうだ。間違い無いだろう」

「生き残った者? どういうことですか?」


 アイカはカムネスの言葉が引っ掛かり、詳しく説明することを求める。すると、カムネスの代わりにロギュンがアイカの問いに答えた。


「何でも依頼主の貴族は我が校に依頼する前にモルキンの町の冒険者ギルドにその盗賊と討伐を依頼したそうです」

「俺らに依頼する前に冒険者どもに依頼したのかぁ?」


 メルディエズ学園と不仲である冒険者ギルドに先に依頼していたことを知ったフレードは不愉快になったのか表情を僅かに険しくする。パーシュも不満そうな表情を浮かべながらロギュンの話を聞いていた。


「依頼を受けた冒険者たちは盗賊たちの討伐に向かったのですが、混沌士カオティッカーがいるとは思わなかったため、まともに戦えずに返り討ちに遭い、大勢の冒険者が命を落としたそうです。その中で運よく逃げ延びた冒険者から混沌士カオティッカーの情報を得たのでしょう」

「まぁ、敵に混沌士カオティッカーがいるなら、並の冒険者じゃ敵わねぇわな」


 フレードは冒険者たちが敗北したことに納得しながら腕を組む。いくら不仲とは言え、冒険者が戦死したことを喜ぶほどフレードは冷たい性格ではないため、笑ったりせずに落ち着いた態度を取っている。だが、それでも冒険者が失敗したことで少しだけスッとしたのか、先程と比べてフレードの表情は少しだけ柔らかくなっていた。

 ユーキたちは盗賊相手にメルディエズ学園の実力者を派遣する理由を知って納得し、真剣な表情を浮かべながらカムネスとロギュンの話に耳を傾け、ロギュンも説明を続ける。


「その後も貴族は実力のある冒険者たちを何人も送り込んだそうなのですが失敗し、情報を持ち帰った冒険者以外全員殺されたそうです」

「自分の管理する町の冒険者ではどうすることもできないと考え、バウダリーの町で依頼を出したわけですか。……でも、バウダリーまで来たのなら何でそこの冒険者ギルドじゃなくて、学園に依頼したんですか?」


 今まで冒険者ギルドに依頼を出していたのにバウダリーの町ではメルディエズ学園に依頼を出したことが理解できず、ユーキは小首を傾げる。アイカたちも依頼主の考えが理解できずに不思議に思っていた。


「恐らく、混沌士カオティッカーの盗賊を確実に倒すために混沌士カオティッカーが存在する我が校に依頼を出したのでしょう」

「冒険者の中にも混沌士カオティッカーがいるはずでしょう? なのにどうして……」

「冒険者が信用できなくなり、こちらに依頼を出したのかもしれません……」

「成る程ね。つまり、あたしらは冒険者たちの尻拭いを任されたってわけだ」


 冒険者ギルドではなくメルディエズ学園に依頼を出したことは嬉しいが、後から依頼された上に失敗した冒険者たちの代わりをさせられているように感じたパーシュは再び不満そうな顔をする。

 フレードも不快に思っているのか小さく舌打ちをし、ユーキとアイカは心変わりをした依頼主に対して呆れたような表情を浮かべている。

 だが、先に依頼した組織が何度も失敗すれば別の組織に依頼を出そうと考えるのは人として不思議なことではなかった。


「冒険者ギルドの後に依頼されたことを少々不快に思っていたが、報酬の額が高く、冒険者でも完遂できなかった依頼を完遂すれば貴族たちの信頼も高まり、依頼量が増えると考えて討伐依頼を引き受けることにした」

「成功すれば冒険者ギルド以上に人々から信頼されるようになります。必ず成功させてください」

「ハイハイ、分かったよ。だけど、これまでに大勢の冒険者がやられてるんだ。簡単にはいかないかもね……」


 パーシュはこれまでの情報からその混沌士カオティッカーがかなりの手練れであると感じる。しかも、混沌士カオティッカーであることから、その盗賊が嘗てメルディエズ学園か冒険者ギルド、もしくは軍に所属していた可能性が高いと考えていた。

 

「何だよ、ビビってんのか?」


 敵の混沌士カオティッカーを警戒するパーシュをフレードは笑いながらからかう。それを聞いたパーシュは視線だけを動かしてフレードを睨み、ユーキとアイカはまた喧嘩が始まると感じて困り顔になる。


「別にそんなんじゃないよ。混沌士カオティッカーである以上、気を付けて戦った方がいいと思っただけさ。そういうアンタこそ、調子に乗って油断していると足元をすくわれるよ?」

「ほおぉ? 言うじゃねぇか」


 笑いながらフレードはパーシュに敵意を向け、パーシュも無言でフレードを睨み続ける。そんな二人のやりとりを見たロギュンは溜め息をつき、強く手を叩いて注目を集めた。


「とにかく、敵は普通の盗賊とは違って手強い相手です。決して油断しないでください?」


 ロギュンの忠告を聞いてユーキとアイカは真剣な表情を浮かべ、パーシュとフレードは目を細くしながらお互いを睨みあってロギュンの話を聞く。


「できるだけ早く生徒を派遣してほしいとのことなので、皆さんには明日の朝一番に学園を出てモルキンの町に向かってもらいます。それまでに準備を済ませておいてください」

「分かりました」

「それと、もしかしたら私たちが聞かされていない情報があるかもしれませんので、モルキンの町に着いたら依頼主である貴族から詳しく話を聞いてください」

「ハイ」


 上級生のパーシュとフレードが睨み合っているため、アイカが代わりにロギュンの話をしっかり聞いている。勿論、ユーキも真面目にロギュンの話に耳を傾けていた。

 ロギュンは視線をユーキとアイカから睨み合っているパーシュとフレードに向け、二人を見た後に再び溜め息を付き、小声で二人に話しかけた。


「……あの二人がもし依頼中に喧嘩を始めたら仲裁をお願いします。犬猿の仲である二人が喧嘩して依頼を失敗した、などということになったら学園の恥さらしになってしまいますから……」

「りょ、了解です……」


 パーシュとフレードのお目付け役を任され、ユーキは苦笑いを浮かべながら頷き、アイカも同じように苦笑いを浮かべた。

 その後、依頼の話を聞いたユーキたちは依頼の準備をするために生徒会室を後にした。生徒会室を出た後もパーシュとフレードは口喧嘩をしながら歩いて行き、そんな二人の後ろ姿を見ながらユーキとアイカは複雑そうな表情を浮かべていた。


「……何とか、引き受けてくれましたね」


 ロギュンは生徒会室の出入口である扉を見つめながら呟き、同じように扉を見ていたカムネスは無言で自分の机に移動し、席について机の上の羊皮紙に目をやる。ロギュンはカムネスの方を向くと少し不安そうな表情を浮かべた。


「大丈夫でしょうか? いくら動ける生徒かいないからと言って、パーシュさんとフレードさんに同じ依頼を受けせてしまって?」

「今更何を言うんだ。お前も現状からあの二人にやらせるしかないと納得したじゃないか?」

「そ、それはそうですが……」

「あの二人は確かに仲が悪い。だが、任務中に下らないことで喧嘩をし、依頼を失敗する何て愚かなことはしない」


 パーシュとフレードなら問題無いと語るカムネスを見て、ロギュンは複雑そうな表情を浮かべる。

 ロギュン自身、二人がしっかり仕事をしてくれるかどうか心配だが、会長であるカムネスが信じているのなら、自分も信じようと思っていた。


――――――

 

 翌日の早朝、まだ太陽が顔を出さず、薄っすらと日の光が空を照らしている。メルディエズ学園もまだ生徒たちは学生寮で眠っており、教職員も早朝に仕事がある者以外はおらず、とても静かだった。

 そんな静かな学園の正門前にユーキたちの姿があった。制服姿で腰に支給品の入ったポーチを付け、それぞれ愛用の刀と剣を佩している。四人の近くには移動に使う荷馬車が停まっており、荷車を引く馬は小さく鳴きながら大人しくしていた。


「……ふぁ~、こんなに早く起きたのは久しぶりだ」


 ユーキは欠伸をしながら後頭部を掻く。転生前でも夜明け前に起きることは滅多に無かったのでまだ眠気が覚めていなかった。一方でアイカたちは早起きに慣れているのか、欠伸などせずに清々しい顔をしている。


「ユーキは今までこんなに早く起きたことが無かったの?」

「ああ、剣の合宿の時には早く起こされたけど、頻繁に合宿をすることが無かったから慣れてないんだ」


 眠そうな顔のまま語るユーキを見て、アイカは「へぇ~」と意外そうな顔をする。パーシュは幼いのに剣の合宿に参加していたというユーキを少し驚いた顔で見ており、フレードは早起きに慣れていないことから、子供だなと言いたそうに笑っていた。

 ユーキは眠気を覚ますために自分の頬を両手で叩く。既に仕事は始まっており、これから依頼主がいるモルキンの町へ向かうため、いつまでもだらしなくしているわけにはいかなかった。

 眠気が覚めたユーキは真剣な表情を浮かべ、ユーキの様子を見たパーシュは前に出て三人の方を向いた。


「それじゃあ、依頼の話を始めるよ? 今回の依頼はカムネスの指示であたしが代表をすることになった。だから今回の依頼中、アンタたちはあたしの指示に従ってもらうよ」

『ハイ』


 ユーキとアイカはパーシュを見ながら頷く。階級が上の生徒に従うのは当然のことであるため、二人は一切不満を感じていなかった。生徒会長であるカムネスが推薦したのであれば尚更反対するつもりなのだない。

 パーシュは返事をした二人を見て小さく笑みを浮かべていると、視界に不満そうな顔をするフレードの顔が入る。フレードにとって不仲であるパーシュが代表でその指揮下に入ることにやはり納得できないようだ。


「……フレード、聞こえてるかい?」

「うっせぇな、ちゃんと聞いてるっての」

「だったらちゃんと返事しな。ユーキとアイカの前で見っともないよ」

「かぁ~本当にうるせぇな。カムネスに任されたからって調子に乗ってんじゃねぇぞ」

「調子に乗ってるのはアンタだろう」


 静かな学園の中でパーシュとフレードの声は響き、アイカは早速口論を始める二人を見て思わずあたふたしてしまう。


「お、お二人とも、やめてください。これから大切な仕事があるのですよ? なのにいきなり喧嘩なんて……」


 アイカに宥められ、睨み合うパーシュとフレードは落ち着きを取り戻す。まだ目的地に着いてもいないのにいきなり口論を始める二人を見て、ユーキは大丈夫なのかと不安を感じる。

 冷静になったフレードは腕を組みながらそっぽを向き、パーシュは小さく舌打ちをしてからユーキとアイカの方を向いて本題に入った。


「あたしらはこれから盗賊を討伐するためにモルキンの町へ向かう。でも盗賊の人数や何時、何処に現れるのかなどは分かってない。だからロギュンに言われたとおり、町に着いたら最初に依頼主である貴族に会って詳しい情報を聞く」

「その後は俺たちだけで盗賊を倒すってことですね?」

「まあね。ただ、貴族が町の警備兵や冒険者と協力して戦えと言ってきた場合は一緒に戦うことになるかもしれない」


 不仲な冒険者と共に盗賊と戦うことになるかもしれないと聞かされたユーキとアイカは反応し、同時に小さな不安を感じる。

 今まで盗賊の討伐に失敗し続けてきた冒険者たちが仲の悪いメルディエズ学園の生徒に討伐を任されたと知り、共闘することになったらユーキたちに対して不満や嫉妬心などを懐くはずだ。

 もし冒険者たちと共闘することになり、その際に冒険者たちが不満などをぶつけてきたら盗賊討伐に支障が出るかもしれない。そう感じたユーキとアイカは問題無く依頼を完遂できるのかと感じていた。


「さて、それじゃあ出発するよ。全員乗りな」


 パーシュは御者席に乗ってユーキたちに乗るよう指示を出し、ユーキたちは言われたとおり荷車に乗り込む。

 全員が荷車に乗るとパーシュは前を向いて手綱を軽く引く。すると馬は顔を上げ、正門を潜ってバウダリーの町の西門に向かって歩き出した。


「パーシュ先輩、町には何時頃到着するんですか?」

「この時間から出発するとなると……昼頃には到着すると思うよ」

「結構かかるんですね」

「もし眠たいんなら、到着するまで眠っててもいいよ?」


 パーシュは微笑みながらユーキの方を向くと、ユーキは軽く首を横に振った。


「あっ、いえ、大丈夫です。もう眠気は冷めましたから……」

「そうかい? くれぐれも無茶はするんじゃないよ?」

「ハ、ハイ」


 優しくしてくれるパーシュにユーキは少し照れくさそうな反応を見せる。そんなユーキの顔を見ていたアイカはどこか不機嫌そうな表情を浮かべていた。


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