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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
第九章~学園の新戦士~
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第百五十話  新しい教師


 リーファンがメルディエズ学園にいるという言葉にユーキとアイカは驚いたが、同時にある疑問を懐いていた。


「どうしてリーファンさんがメルディエズ学園にいるんだ? ……まさか、リーファンさんも入学したのか?」


 ユーキは疑問に思っていることを尋ね、アイカも驚きの表情を浮かべたままウェンフを見る。そう、二人が懐いていた疑問とはリーファンがメルディエズ学園に入学したのかということだった。

 メルディエズ学園に入学できるのは未成年で二十歳を超えた成人は入学できない。出会った頃のリーファンは明らかに二十代だったため、ユーキとアイカはもしリーファンが入学していたのなら、条件が合わないためおかしいと思っていた。


「違いますよ。お姉ちゃんは此処の先生として学園に来たんです」


 驚くユーキとアイカを見たウェンフは笑いながら首を横に振り、ウェンフの答えを聞いたユーキとアイカをリーファンが入学したわけではないと知って意外そうな顔をする。リーファンがメルディエズ学園の教師となっていたことも予想していなかったため驚いていた。

 メルディエズ学園では新任教師が入った場合、授業などが行われる際に授業を担当する教師によって生徒たちに紹介されることになっている。

 そのため、生徒たちは紹介されるまでは新しい教師が学園に来たことを知らず、授業以外で新任教師の情報を得られることは殆ど無い。だからユーキとアイカもウェンフから聞かされるまでリーファンのことを知らなかった。


「私がメルディエズ学園に入学することを決めた時、お姉ちゃんも一緒に学園に行かないか相談したんです。でも、お姉ちゃんは今二十歳で学園の生徒になることはできません」


 ウェンフからリーファンの年齢を聞いたユーキは「やっぱりな」と言いたそうな反応をしてウェンフを見つめる。


「入学試験に合格して生徒になれば私は寮で暮らすことになるから、お姉ちゃんとは離ればなれにります。だけど、私はもうお姉ちゃんと離れないことを決めましたし、お姉ちゃんも私の傍にいたいって言ってくれました。何とか一緒にいられる方法が無いか二人で考えたんです」

「それで学園の先生になることにしたってわけか」

「ハイ、入学試験が行われる時に新しく先生になる人も募集されていたんです。それを知ったお姉ちゃんは生徒じゃなくって先生として学園に入ることにしたんです」


 ユーキとアイカはウェンフの話を聞いて納得の表情を浮かべる。

 メルディエズ学園では入学試験と同時に新任教師の募集も行うことになっている。ただ、入学試験と違って教師の募集は一年に一度しか行わない。これは生徒と違って教師が依頼を受けて怪我をしたり、命を落とすと言った状況になる可能性が低いからだ。

 命を落としたり、怪我をして活動することができなくなると言ったことにならなければ人員が減ることもない。

 人が足りている状態で入学試験のように一年に二度募集を行えば教師の数が増え過ぎてメルディエズ学園の活動や職務に支障が出てしまう。だから新任教師の募集は一年に一度だけ行うことになっているのだ。

 生徒の方が教師よりも死傷して人数が減りやすいというのは教育機関として問題があるのではと思われるが、入学する少年少女たちも命を落とすかもしれないと言うことを承知して入学している。教師たちも生徒たちと違って安全な場所にいる分、生徒たちが死傷しないよう真面目に、そして全力で生徒たちを戦士や魔導士に育てなくてはならなかった。


「お姉ちゃんは孤児院で私と別れた後、魔導士になるための勉強をして中級魔法を使えるようになりました。しかもフォクシルトだから学園の人たちもお姉ちゃんを魔法担当の先生として採用したみたいです」

「確かにリーファンさんはフォクシルトで魔力も高いし、独学で中級魔法を覚えるほど魔法の才能がある。学園側もそんな存在を不採用にするなんて勿体ないことはしないよな」


 リーファンの種族と魔法に関する知識や才能を考えれば採用されても不思議じゃないとユーキは感じ、アイカも同じ気持ちなのかユーキを見ながら頷く。


「それにリーファンさんは優しいから、生徒たちに教えられる立場になったら丁寧に魔法を教えてくれるはずだし、生徒たちや他の先生たちからも慕われるようになるはずよ」

「ああ、俺もそう思う」


 ユーキはアイカを見ながら頷く。リーファンとはローフェン東国の依頼を受けた時に会っただけだが、それでも彼女が優しい性格をしているとユーキとアイカは理解していた。

 リーファンが新任教師となってことでメルディエズ学園に何か変化が出るのではないか、ユーキたちはそう思いながら学園がどうなるのか想像する。


「ウェンフー!」


 校舎がある方角からウェンフを呼ぶ声が聞こえ、三人は同時に反応する。ユーキとアイカにはその声に聞き覚えがあり、もしやと思って声が聞こえた方を向いた。

 ユーキたちの視線の先には空色の目、銀色の長髪に同じ色の狐耳と尻尾を生やし、メルディエズ学園の教師の制服を着たリーファンが歩いて来る姿があり、その右隣にはフィランがリーファンと同じ速度で歩いていた。

 リーファンの美しい顔立ちと容姿から彼女の周りにいる生徒たちはリーファンに注目しており、特に男子生徒は頬を染めて見惚れていた。


「お姉ちゃん!」


 ウェンフはリーファンを見ると笑顔で立ち上がり、ユーキとアイカもリーファンの姿を見て思わず笑みを浮かべた。グラトンは大きな反応を見せたりせず、座ったままリーファンの方を向いている。

 ユーキたちの所までやって来たリーファンは笑っているウェンフを見ながら笑みを返す。そんな中、ウェンフの隣に座るユーキとアイカに気付くと軽く目を見開いた。


「ユーキさんにアイカさん?」

「ハイ、お久しぶりです」


 驚くリーファンにユーキは挨拶をし、アイカも軽く頭を下げる。前に会った時と姿が変わっていないリーファンを見て、ユーキとアイカは改めてリーファンは綺麗な人だと感じていた。


「ウェンフから聞きました。学園の先生なったって」

「もう知ってるんですか? だったら説明の必要はありませんね」


 リーファンはユーキとアイカの方を向くと軽く頭を下げた。


「今日からメルディエズ学園の新任教師になりました。顧問は魔法でしばらくはマジストラー先生に付いて教師の勉強をしていくので、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 立ち上がったアイカは改めてリーファンに挨拶をし、ユーキもアイカに続くように立ち上がる。

 ウェンフはお互いに再会できたことを喜ぶユーキたちを見て自分のことのように嬉しい気持ちになっていた。フィランは無表情で挨拶をする三人を見つめている。


「またリーファンさんに会えて嬉しいです」

「私もです。メルディエズ学園の教師になったので貴方たちに会えると思っていましたけど、まさか初日に会えるとは思っていませんでした」


 リーファンは再会できた喜びを素直に伝える。リーファンにとってユーキたちは自分を救い、ウェンフと再会させてくれた恩人であるため、メルディエズ学園に入ったらもう一度会って礼を言いたいと思っていた。


「あの時は本当にありがとうございました。ユーキさんたちがいなかったら、私はウェンフと再会できずにベーゼの餌になっていました」

「いえ、俺たちは当然のことやっただけです」

「そうですよ。それにお礼ならローフェン東国でちゃんと受けましたし、あの時は私たちよりもウェンフちゃんの方が活躍しましたから」


 アイカはそう言ってウェンフの方を向き、アイカと目が合ったウェンフは照れくさそうにしながら自分の頬を指で掻いた。


「俺たちはリーファンさんを助けたいと思ったから助けたんです。ですから気にしないでください」

「……ありがとうございます」


 リーファンはユーキを見ながら心の広い児童だと感じて感服する。ウェンフもユーキを見て強く、優しい師匠だと感じていた。


「改めてよろしくお願いします。ユーキさん、アイカさん」

「ええ。……あ、それとリーファンさんは教師で俺たちは生徒ですから、敬語はやめた方がいいですよ?」

「えっ? でも……」

「此処は学園で俺たちは教師と生徒と言う上下関係にあります。過去に色々あったとしても教師は生徒の前では堂々としているべきだと思います」


 ユーキの言葉にリーファンは若干複雑そうな顔をしながら考え込む。そんな中、リーファンは少し前に先輩である教師たちから言われた言葉を思い出す。

 入学式が終了した直後、新しくメルディエズ学園にやって来た教師たちは学園長であるガロデスや一部の教師たちに挨拶していた。

 今回の募集で学園に来た新任の教師はリーファンを含めて三人で、リーファンたちは挨拶の時に先輩の教師たちから教師をやっていくために幾つかアドバイスを受けていた。

 教師は生徒から慕われ、彼らを護らなくてはいけない。だが、決して生徒から見下されてはいけない。慕われるように努力しながらも、時には厳しくして間違った言動を指摘する必要もある。そして、教師としての威厳を失うような言動を取ってはいけない。教師たちは真剣な表情を浮かべながらリーファンたち新任教師たちにそう言った。

 先輩の言葉を思い出したリーファンは威厳を守るためにも教師らしく堂々とするべきだと感じ、顔を上げるとユーキの方を向いた。


「……分かったわ。少しずつだけど、教師らしくするように頑張るわ」


 吹っ切れた様子のリーファンを見てユーキは小さく笑みを浮かべる。ユーキ自身、ウェンフの義姉とは言え、教師であるリーファンから敬語を使われるのは調子が狂ってしまう。だから敬語など使わずに接してほしいと思っていた。

 ユーキとリーファンの会話を聞いていたアイカもリーファンには教師らしく接してほしいと思っていたため、リーファンの返事を聞いて納得した様子を見せていた。

 アイカがリーファンを見ていると彼女の隣でずっと黙っているフィランが目に入る。フィランのことをスッカリ忘れていたアイカは一瞬軽く目を見開いた後にフィランの方を見た。


「そう言えば、フィランはどうしてリーファン、先生と一緒にいたの?」


 小さな苦笑いを浮かべながらアイカはフィランに声を掛ける。ユーキたちもフィランのことを忘れていたため、アイカの言葉を聞いてフィランがいたことを思い出し、同じように苦笑いを浮かべてフィランを見た。


「……校舎の中で偶然会ってウェンフを探しているって言ってたから、学園を案内しながら一緒に探していた」

「そ、そう。フィランさ……フィランちゃんにもベンロン村で会ってたのを思い出して声を掛けたの。一緒に探してもらうなら初めて会う人よりも知り合いの方がいいと思ったから……」


 リーファンもフィランのことを忘れていたらしく、再会した時のことを苦笑いを浮かべたまま説明する。そんなリーファンをフィランは無表情で見つめていた。フィランの様子から自分を忘れていたことに対して機嫌を悪くしてはいないようだ。

 フィランの表情を見たリーファンは怒っていないと感じて安心したような反応を見せる。フィランもローフェン東国で自分とウェンフを助けてくれた存在であるため、リーファンは改めてフィランに挨拶をしようと思った。


「フィランちゃん、ベンロン村ではありがとう。今日からは教師として貴女たちと接していくから、よろしくね?」

「……ん」


 表情を変えずにフィランは小さく頷く。表情を変えないフィランを見てリーファンは何を考えているのか分からず複雑そうな表情を浮かべる。


「フィランは感情を殆ど出さない子なんです。ですから表情が変わらなくても気にしないでください」

「そ、そうなのね」


 ユーキの言葉を聞いてリーファンはフィランと接するのは難しそうと感じる。その近くでリーファンとフィランのやり取りを見ていたウェンフは小さく笑っていた。

 ウェンフは短い間だがベンロン村でフィランやユーキたちと過ごしていた。そのため、フィランが感情を表に出さず、表情にも変化が出ない子であることを知っているため、リーファンのように驚いたりすることはなかった。

 リーファンが無表情なフィランを見ていると、大人しくしていたグラトンがゆっくりとリーファンに近づいて彼女の体の匂いを嗅ぎ始めた。


「わぁ! こ、この子は……」


 突然近づいてきたグラトンに驚いたリーファンは思わず声を上げた。

 普通ならモンスターが近づけば驚いてその場から逃げ出したりするものだが、リーファンは慌てずにグラトンを観察する。

 しばらく観察しているとリーファンは目の前にいるグラトンが以前ベンロン村でユーキたちが連れていたヒポラングと同じ存在であることに気付く。


「えっと、もしかして……あの時のヒポラング?」

「ブォ~~」


 グラトンは返事をするように鳴き声を出すと再びリーファンの匂いを嗅ぐ。襲い掛かることなく、大人しく匂い嗅いでいるグラトンを見たリーファンは警戒する必要は無いと感じたのか左手でそっとグラトンに触れた。

 ユーキとアイカはグラトンを受け入れたリーファンを見ながら微笑んだ。通常のヒポラングよりも知能の高いグラトンならリーファンのことをちゃんと覚えており、再会すればすぐに打ち解け合うと二人か確信していた。

 ウェンフはリーファンがグラトンと触れ合っているのを見て楽しそうに思ったのか、グラトンに近づくと黄茶色の体毛に覆われた体に抱きついた。


「グラトンの奴、スッカリ二人に懐いちゃったな」

「ええ、ウェンフちゃんとリーファン先生もグラトンと仲良くなってくれたみたい」


 グラトンたちが仲良くする光景を見てユーキとアイカは嬉しそうな顔をする。グラトンもメルディエズ学園の仲間であるため、新しく学園に来たウェンフとリーファンがグラトンを受け入れたことを二人は喜んでいた。


「よぉ、何やってんだ?」


 ユーキとアイカがウェンフたちを見ていると声が聞こえ、二人が声の聞こえた方を向くとそこには笑いながら歩いて来るフレードの姿が目に入った。

 フィランもフレードの声を聞くと無表情で彼に視線を向ける。


「新入生と新しい先生に挨拶してたんですよ」


 そう言ってユーキはウェンフとリーファンの方を向き、フレードもつられるように二人の方を見た。

 グラトンと触れ合っていたウェンフとリーファンはユーキたちの視線に気付き、不思議そうな表情を浮かべる。


「ユーキ君、その人は?」

「上級生で神刀剣の使い手の一人、フレード・ディープス先輩です」


 ユーキはまだメルディエズ学園や在学生のことを詳しく知らないウェンフとリーファンにフレードを紹介する。フレードは目の前にいる二人の亜人を見て興味のありそうな表情を浮かべた。

 リーファンはフレードに近づくと微笑みながら軽く頭を下げる。


「今日からこの学園の教師になったリーファンよ。よろしくね?」

「おう、よろしくな。……しかし、こんな美人が新任の教師になっていたとは驚いたぜ」

「まぁ、上手ね」


 二ッと笑うフレードを見たリーファンはフレードがお世辞を言ってると思いクスクスと笑う。

 リーファンはお世辞を言っていると思っているようだが、フレード自身はお世辞を言ったり媚びを売ったりする気は無く、本当にリーファンが美人だと思ったため、素直に本音を口にした。

 フレードとリーファンが向かい合っていると、今度はウェンフがリーファンの隣に来て、頭を下げてフレードに挨拶をする。


「初めまして、ウェンフです。ユーキ先生や先輩みたいになれるよう頑張るので、よろしくお願いします」

「へっ、俺やルナパレスみたいになるか。なかなか見所があるじゃねぇか……ん? ユーキ先生?」


 ウェンフが気になる言葉を口にしたことでフレードは小首を傾げる。ウェンフは顔を上げると笑いながら頷いた。


「ハイ、私はユーキ先生の弟子です!」

「弟子ぃ? どういうことだよ?」


 フレードはユーキの方を向いて詳しい説明を求める。ユーキは驚くフレードを見ると苦笑いを浮かべながら頬を指で掻いた。

 それからユーキはなぜウェンフが自分を先生と呼ぶのかフレードに説明する。アイカも事情を知っているため、ユーキが説明できなかったところを分かりやすく話した。フィランも事情を知っているのだが、自分から説明する気は無いらしく、ウェンフとリーファンの二人と共にユーキたちの会話を聞いている。

 一通りの説明が終わるとフレードは腕を組んで納得した表情を浮かべた。


「……つまりその新入生、ウェンフはそっちに姉ちゃんであるリーファン先生を助けるためにルナパレスに剣術を教えてもらった。それからルナパレスを先生と呼ぶようになったってわけか」

「ハイ」

「そして今回、冒険者ギルドに不満を感じて学園に入ったってことだな?」

「そうです」


 理解したフレードを見ながらユーキは小さく頷く。

 ユーキはウェンフが剣を教わった理由や当時リーファンが上位ベーゼの生贄になりかかっていたこと、ウェンフが上位ベーゼとの戦いで混沌術カオスペルを開花させたことを細かく話した。そしてウェンフとリーファンが元冒険者であることも説明していた。

 商売敵の冒険者ギルドに所属していた者が自分たちの組織に入ったと聞けば普通は不服に思ったり、嫌悪感を懐く者もいるだろう。だが、メルディエズ学園は生徒として活動する意思があれば元冒険者でも歓迎する考えを持っている。

 生徒や教師の殆どは元冒険者だからと言って毛嫌いするようなことはせず、普通に接しようと考えており、フレードもウェンフやリーファンが元冒険者だと知っても不快に思ったりしていなかった。

 ただ、メルディエズ学園はハリーナの一件で冒険者ギルドから来た者たちに対する警戒を少し強めているため、元冒険者だった者の身元などを細かく調べることにしていた。

 ウェンフとリーファンも細かく身分を調べられたが、潜入の疑いなどは掛けられることなく普通に学園に入ることができた。


「血が繋がってないとは言え、たった一人の姉ちゃんを助けるために剣を教わり、ベーゼに真っ向から立ち向かったとは、大した根性だな」

「あ、ありがとうございます」


 上級生であるフレードの褒められたことでウェンフは少し緊張した様子を見せており、その反応を見たフィラン以外の三人はクスクスと笑っていた。


「ルナパレスの剣術を教わって更に混沌術カオスペルまで開花させてるとなりゃあ、下級生でも相当の実力を持ってるはずだ」

「い、いえ、そんなこと無いです」


 予想以上に自分を高く評価するフレードにウェンフは思わず首を横に振る。フレードはそんなウェンフの反応を見て謙遜していると感じたのかニッと笑った。


「正直、お前がどれ程の実力を持ってるのか興味がある。どうだ、これから俺と手合わせしねぇか?」

「先輩!?」


 突然手合わを提案するフレードにユーキは思わず驚きの声を出す。アイカも目を見開いてフレードを見ており、ウェンフとリーファンは現状が上手く理解できていないのか目を丸くしていた。


「せ、先輩、流石に入学したばかりのウェンフと手合わせをすると言うのはちょっと……」

「そ、そうですよ。ウェンフちゃんはまだ授業や訓練を受けていませんし、せめて学園生活に慣れてからの方がいいのではないでしょうか?」


 ユーキとアイカはウェンフにはまだ上級生と手合わせするのは早いと考えてフレードを説得する。しかし、フレードは問題無いと感じているのか笑いながら二人を見た。


「大丈夫だろう? コイツはルナパレスから剣術を教わってるんだからな」

「俺はまだ基礎と簡単な技しか教えていません。今のウェンフには先輩と戦えるほどの実力はありません」

「だったら、手合わせも兼ねて簡単な稽古をつけてやるさ」


 手合わせを諦めようとしないフレードにユーキは困り顔になり、どうすればフレードを納得させられるか頭を悩ませる。


「いい加減にしな! 入学式が終わったばかりなのに何騒ぎを起こそうとしてるんだい」


 突如フレードの背後から女性の声が聞こえ、ユーキとアイカ、ウェンフとリーファンは一斉に反応する。フィランは無表情のままで、フレードは声を聞いて僅かに表情を険しくした。

 その場にいる全員がフレードの背後を見ると、そこには腕を組んでフレードを睨むパーシュの姿があった。


「チッ、口やかましい奴が来たか」

「誰が口やかましいだって?」

「お前以外誰がいるんだよ」


 フレードの言葉にパーシュは目を更に鋭くし、フレードも振り返ってパーシュを睨み返した。


「俺はユーキの弟子で混沌士カオティッカーであるその嬢ちゃんの実力を確かめてぇだけだ。大事にする気なんてねぇよ」

「それがダメだって言ってるんだよ。入学式の日に上級生が新入生と手合わせなんてしたらそれこそ大騒ぎになるだろう?」

「大げさなんだよ、手合わせしたくらいで騒ぎなんて起きたりしねぇ。俺がルナパレスと手合わせした時もそうだったじゃねぇか」

「あぁ~もう! ほんっとうに分かってないねぇ」


 徐々に熱くなっていくパーシュとフレードを見てユーキとアイカは僅かに表情を歪ませる。

 ユーキたちから少し離れた所では数人の在学生や新入生たちが口論するパーシュとフレードを見ている。周囲の様子を見たユーキとアイカはパーシュとフレードが既にちょっとした騒ぎを起こしていると心の中で呆れていた。


「あ、あのぉ……あの先輩たちって仲悪いんですか?」


 ウェンフは隣にいるフィランを見ると少し驚いた様子で尋ねる。既にウェンフはメルディエズ学園の生徒になったため、歳が近くても先輩であるフィランには敬語で話そうと心掛けていた。

 フィランはチラッとウェンフを見ると視線をパーシュとフレードに戻す。


「……傍から見れば仲が悪いと思われてもおかしくない。普段から顔を合わせると喧嘩ばかりしてるから」

「そ、そうなんですね……」


 パーシュとフレードの関係を聞かされたウェンフは呟く。


「……ただ、喧嘩ばかりしてるけど、それはお互いに相手にことをよく知っているからだと言う生徒もいる」

「相手のことをよく知っている?」


 意外な答えを聞いてウェンフはフィランを見ながらまばたきをする。フィランはパーシュとフレードの方を向いたまま口を動かす。


「……喧嘩ばかりしてるけど、本当は仲が良い。ユーキやアイカ、カムネスはそう考えてると思う」

「そうなんですか」

「……もっとも、当の本人たちは仲は良くないと否定してる。自分たちでは気付いていないのか、本当に仲が悪いのか、それは分からない」


 感情を表に出さず、何考えているか分からないフィランだが、実際な仲間たちにことをよく見ている。ウェンフはフィランの言葉を聞いてそう感じた。

 ウェンフも今日からメルディエズ学園の生徒になったため、色々な生徒や教師と触れ合う機会が増えてくる。これから生徒として上手くやっていくためにも周囲の者たちのことをよく見て、どんな人物なのか理解しようとウェンフは思った。

 フィランとウェンフが話している間、パーシュとフレードは口喧嘩を続けている。二人の喧嘩は少しずつ激しくなっていき、ユーキとアイカは困り顔になっていた。


「ユーキ、そろそろ止めた方がいいかしら?」

「そうだな。周りに人が集まって来てるし、このまま放っておくと面倒なことになりそうだ」


 状況から止めた方がいいと感じたユーキとアイカはパーシュとフレードに近づいて二人を宥めようとする。そんな時、一人の生徒がユーキたちに近づいてきた。


「お取込み中、失礼します」


 声を掛けられたユーキとアイカは反応して生徒の方を向き、フィランたちや喧嘩をしていたパーシュとフレードも口を閉じて声が聞こえた方を見る。

 ユーキたちの視線の先には十六歳くらいで身長170cm程、紫黒しこく色の短髪に僅かに鋭い黄色の目をした男子生徒が立っている。

 男子生徒は両手を背中に回し、ユーキたちを見ながら小さく笑った。


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