第百四十七話 受験者の噂
ラステクト王国の王女がメルディエズ学園の入学試験を受ける、つまりメルディエズ学園の生徒になるかもしれないという話にユーキは衝撃を受けた。
「王女様が試験を受けるって、それ本当なのか?」
「ハッキリとは分からないの、たまたま先生たちが廊下で話しているのを聞いただけだから。それにその時の先生たちの声も小さかったし……」
小さく首を横に振るアイカを見てユーキは難しそうな顔をしながら考え込む。根拠は無く、アイカもハッキリと話を聞いたわけではないので本当かどうかは分からない。だが、教師たちが話していたことから可能性はゼロではないかもしれないとユーキは思っていた。
「そのことについて先生には訊いてみたのか?」
「ううん、小声で話していたから人に知られたくないことだと思って訊かなかったわ」
「まぁ、確かにそうだよなぁ。……と言うか、人に聞かれたくない話を人がいるところです先生たちも問題だと思うが……」
教師たちの行動に問題があると感じるユーキは呆れ顔になり、そんなユーキを見てアイカも思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「ただ、先生には聞かなかったけど、パーシュ先輩には確認してみたの」
「先輩は何だって?」
「『そんな話は聞いてない』って言ってたわ」
神刀剣の使い手であり、上級生であるパーシュすらも知らないと聞いたユーキは再び難しい顔をした。
まだ王女が本当に入学試験を受けるかどうかは分からないが、もし本当に受けるのなら、教師たちが小声で話していたことやパーシュたちすら知らないことから王女が試験を受けるのは教師たちしか知らないことなのかもしれないとユーキは推測する。
「もし、本当に王女様が入学試験を受けるとして、どうして先生たちは隠そうとしてるのかしら?」
「多分、入学する前に王女様のことを知られれば、騒ぎになって入学試験の時に何かしらの問題が起こると思ったからじゃないか?」
「成る程……」
ユーキの推測を聞いてアイカは納得する。ただ、まだ王女が入学試験を受けると確信したわけではなく、ユーキの考えも予想に過ぎないため、ユーキとアイカは真実がハッキリするまで深く考えない方がいいかもしれないと思っていた。
「とりあえず、入学試験が終わるまでこのことは誰にも言わないようにしよう。本当に王女様が試験を受けるかどうか分からないし、先生たちが王女様の受験を隠そうとしているのに俺たちが他の生徒に話すのはマズい」
「そうね。……あっ、でもパーシュ先輩にはもう……」
「あの人なら大丈夫さ。何も考えずに噂を広げるようなことはしないはずだ」
パーシュを信用しているユーキはニッと笑みを浮かべ、アイカも「そうね」と言いたそうに微笑みを浮かべる。
話が終わるとユーキとアイカは気持ちを落ち着かせるため、目の前にある自分のティーカップを手に取り、それぞれコキ茶とリップルティーを一口飲んだ。
(王族が入学か……もし本当にそうなら、この先色々な意味で騒がしくなりそうだな)
「賑やかになっていいことじゃないの?」
突然聞こえてきた女性の声にユーキはフッと反応する。それと同時に鐘が鳴るような音が響いてユーキ以外の人間や風景が全て白黒になった。
驚いたユーキはティーカップから口を離して周囲を見回す。目の前にいるアイカはティーカップに口を付けたまま止まっており、周りにいる生徒たちも笑ったり食事をしたりしながら動きを止めていた。
突然の出来事にユーキは動揺していたが、しばらくすると以前に同じ現象が起きたことを思い出して落ち着きを取り戻す。
「……久しぶりですね、フェスティさん?」
ユーキがティーカップをテーブルに置きながら話しかけると、ユーキの背後に黒い外ハネのショートヘアに赤紫の目を持ち、水色の肩出しトップスと薄紫の長ズボンの姿をした美少女、女神フェスティが立っていた。
フェスティは右手で金色の小さなフォークが握られ、左手でショートケーキが乗った皿を持っている。フェスティはフォークと皿を持ったまま空いているユーキの右隣の席に座った。
「元気そうね、ユーキ君。調子はどう?」
「問題無くやっていけてますよ」
「それはよかったわ」
返事を聞いたフェスティは微笑みながらショートケーキを一口食べる。ユーキはいきなり現れて普通にケーキを食べるフェスティを呆れ顔で見つめた。
「それで、今回は何の用で来たんですか?」
「あら、つれないわねぇ。数ヶ月ぶりに会いに来たのに」
「会いに来たって、フェスティさんは常に自分の世界から俺の生活を観察してるからわざわざ会いに来る必要は無いでしょう?」
「細かいことは気にしちゃダメ♪ それに私だっていつも貴方を見守ってるわけじゃないし、遠くから見守るのと直接会うのは全然違うのよ?」
ニコニコしながらフェスティはショートケーキを食べ続け、ユーキも溜め息をつきながらコキ茶を飲む。不思議なことにアイカや周囲の動きは止まっているが、ユーキのコキ茶だけは時間が止まっておらず、普通に飲むことができた。
ショートケーキを食べ終えるとフェスティはフォークと皿を光の粒子に変え、その粒子を使って新たに紅茶の入ったティーカップを出現させる。フェスティはティーカップを取ると静かに紅茶を一口飲んだ。
「最近は色々あったわね。最上位ベーゼの出現に貴方とアイカちゃんのベーゼ化、大変だったわね?」
「ええ、面倒ごとが連続で起きてホント苦労しましたよ」
「でも、良いこともあったでしょう? アイカちゃんと両想いになれたっていう」
「ぬっ!?」
フェスティの言葉を聞いてユーキは思わず頬を赤く染める。女神であるフェスティは全てお見通しだと分かってはいたが、それでも指摘されるとやはり恥ずかしくなってしまう。
赤くなるユーキを見たフェスティはクスクスと笑い、ユーキはフェスティの反応を見ると恥ずかしがっているのを誤魔化すようにコキ茶を飲んだ。
「転生前のユーキ君は恋愛どころか、歳の近い女の子と親しくなることもなかったから、アイカちゃんから想いを伝えられた時は恥ずかしかったんじゃない?」
「そりゃあ、まあ……」
ユーキは目を閉じ、頬を染めたまま小さな声で返事をする。恥ずかしいのでこれ以上アイカとの関係について追求しないでほしいと心の中では思っていた。
「それで、アイカちゃんとの関係は進展したの?」
「ブッ!」
フェスティの意味深な問いにユーキは思わずコキ茶を噴き出した。
「い、いきなり何を言い出すんですか!?」
「だって二人とも半分ベーゼ化した後にお互いの気持ちを伝えて、一緒に苦難を乗り越えたんでしょう? それで関係に変化が無いはずないもの。だから、どこまで進展したのか気になっちゃって」
「ぬうぅぅ~」
遠慮せずにズバズバと質問してくるフェスティにユーキは俯きながら低い声を出す。頬だけでなく顔までも赤くなっており、ユーキはより恥ずかしがっていることが一目で分かった。
フェスティはユーキの反応を見て面白いと思ったのか、悪戯っぽい笑みを浮かべたまま顔をユーキに近づけた。
「ねぇ、どこまで進んだの? 貴方たちの世界でいうABCの内のどこまで行ったの?」
「~~ッ! フェスティさん、いい加減にしてください!」
我慢できなくなったユーキは顔を赤くしながら声を上げる。いくら女神でも、自分を転生させてくれた存在でもここまでデリカシーの無い発言をされればユーキでも文句を言いたくなるのは当然だった。
「フフフッ、ごめんなさい。少し調子に乗りすぎたわ」
興奮するユーキを見ながらフェスティは笑って謝罪し、ユーキはそんなフェスティを見ながら深く溜め息をついた。
「ここ最近貴方とお話しできなかったら、ちょっと貴方をからかってみたくなったのよ。それにアイカちゃんとの関係も気になってたし……で、その様子だとまだAにも行ってないみたいね?」
「グッ! ……フェスティさん」
図星を付かれたユーキは再び頬を染めてフェスティをジッと睨む。ユーキの反応を見たフェスティはティーカップを持っていない方の手を前に出し、「怖い怖い」と言いたそうに笑みを浮かべる。
フェスティの反応を見たユーキは若干不機嫌そうな顔をしながらコキ茶を飲み、フェスティも笑ったまま紅茶を飲む。時の止まった空間の中に静かにお茶を飲む音だけが聞こえた。
紅茶を飲んだフェスティはゆっくりとティーカップをテーブルの上に置いて微笑みを浮かべたままユーキの方を向く。
「さて、冗談はこれくらいにして……今回はちょっと面白い話をするために異世界に来たの」
「面白い話?」
本題に入るフェスティを見ながらユーキは訊き返す。フェスティが真面目に話をすると感じたユーキは表情こそ不機嫌そうだが真面目にフェスティの話に耳を傾けた。
「もうすぐメルディエズ学園の入学試験が始まるんでしょう?」
「ハイ、そのとおりです」
「今回の入学試験には面白い子が沢山参加するわ。その中には貴方たちが気に入りそうな優秀な子も沢山いる」
フェスティから入学試験に参加する受験生の情報を聞かされたユーキは小さく反応する。
ユーキも新しくメルディエズ学園の仲間になるかもしれない少年少女にどんな人物がいるのか気になっていたため、フェスティの話には興味があった。
「面白い子、ですか」
「ええ、人間だけじゃなくって亜人の中にも面白そうな子がいるわよ」
「……でもいいんですか、そんなこと教えちゃって? 確か神様は自分が管理する世界に手を出したり、その世界の住民の手助けをするのは禁止されているはずでしょう?」
「ええ、確かに。でも今の私は貴方を助けるためのアドバイスとかをしてるわけじゃないわ。ただ、入学試験に面白い子供が来るってことを教えているだけ。その世界の住人の人生や生死にかかわるような発言じゃなければ問題無いわ」
「成る程……」
フェスティが神の掟をちゃんと守っていることを知ったユーキは女神として仕事を真面目にやっていると感じた。これで軽い性格でなければ本当に心の底から尊敬できる女神なのにな、とユーキは少しだけ残念に思う。
「その子たちがメルディエズ学園に入学できれば、あのグラトンちゃんみたいに心強い仲間になるわ。入学したらちゃんと可愛がってあげてね。……あっ、可愛がるって言うのは必要以上に厳しくしたり、いじめるって意味じゃないからね?」
「分かってますよ」
フェスティが言いたいことの意味をちゃんと理解できていたユーキは、笑いながらわざとらしく訂正するフェスティを見ながら疲れたような表情を浮かべた。
「あ、それから一つ訊きたいんだけど、ユーキ君って剣術以外の武術の知識は持ってるの?」
「剣術以外の武術の? ……まぁ、剣を極めるのに役立つって爺ちゃんに言われて、一緒に色んな武術の道場を見学したり、稽古をつけてもらったりしてましたから一通りは……」
突然武術の話を持ち出されたことを不思議に思いながらユーキは質問に答える。
月宮新陰流は実戦的な剣術を目指して作られた剣術であるため、月宮新陰流の師範であるユーキの祖父は剣やそれに似た武器を使う者以外と対峙した時に問題無く戦えるよう剣以外の武器の知識を持っていた方がいいと考えた。
祖父は知識を得るためにユーキたち弟子を連れて剣術以外の武器を扱う流派の大会を見学に行ったり、道場に訪問して他流試合を申し込んだりした。そのため、ユーキは多少だが刀や剣以外の武器の知識や技術を持っている。
「そう、それなら大丈夫ね」
「……? どういうことですか?」
「それはすぐに分かるわ」
フェスティはユーキを見ると笑いながら左目でウインクした。ユーキはフェスティの質問の意味があるか分からずに小首を傾げる。
「さて、話も終わったし、私はそろそろ戻るわね」
用が済んだフェスティは立ち上がって自分の世界に戻ろうとする。ユーキはティーカップを置くと帰ろうとするフェスティを見つめた。
「それじゃあユーキ君、これからも頑張ってね。陰ながら応援してるから」
「ありがとうございます」
「それとアイカちゃんのこと、ちゃんと大切にしてあげてね?」
「ぬぅ……わ、分かってますよ」
再びからかってきたフェスティにユーキは頬を赤くする。そんなユーキの反応を見てフェスティはクスクスと笑った。
「フフフフ、それじゃあ、またね♪」
フェスティは手を振りながら笑顔で別れを告げ、その直後のフェスティは消えた。フェスティが消えると同時に停止していた時間が動き出して白黒だった風景も元の色に戻る。アイカも動き出してリップルティーを静かに飲んでいた。
周囲が動き出したのを確認したユーキは静かに息を吐きながら肩を下ろす。久しぶりにフェスティと会話したことで少し疲れを感じていた。
「……ん? ユーキ、どうしたの?」
ユーキを見たアイカはティーカップを机に置きながら声を掛ける。ユーキと違って時間が止まっていたアイカはユーキがフェスティと会っていたことに気付いていないため、ユーキの疲れたような顔を見て不思議に思った。
アイカに声を掛けられたユーキはふとアイカの方を向く。だが同時にアイカとの関係についてフェスティにからかわれたことを思い出し、僅かに頬を赤く染めた。
「い、いや、何でもない」
「?」
若干慌てているような反応をするユーキを見てアイカはまばたきをしながら不思議そうにする。
ユーキはコキ茶を飲みながら気持ちが落ち着かせようとする。そんな時、ユーキはあることに気付いて軽く目を見開いた。
(そうだ、折角フェスティさんに会ったんだから、今度の入学試験にラステクト王国の王女が参加するのかどうか聞いておけばよかったじゃないか)
先程アイカと話していたラステクト王国の王女の件についてフェスティに訊いておけばスッキリしていたかもしれない、そう考えたユーキは忘れていたことを悔しく思いながらガクッと俯く。
アイカは赤くなったと思ったら今度は悔しそうな顔をするユーキを見ながら小首を傾げた。
――――――
夕方になり、全ての授業が終わるとメルディエズ学園にいる生徒の殆どは寮へと戻っていく。校舎の中や外には僅かな生徒と教師の姿だけがあり、学園内は静かになっていた。
校舎に残っている生徒の中には神刀剣の使い手たちの姿があり、四人は生徒会室に集まっている。パーシュ、フレード、フィランの三人は生徒会室の中央で横一列に並んで立っており、三人の前にはカムネスが立ってパーシュたちと向かい合っていた。
カムネスたち以外にもロギュンの姿があり、彼女はカムネスの後ろで待機している。生徒会室にはカムネスたち五人以外は誰もいなかった。
「まもなく入学試験が行われる。現在、学園内では先生方が試験の準備を進めており、僕ら生徒会もその手伝いをすることになっている。場合によってはお前たちにも手伝ってもらうことになるかもしれない」
「ケッ、今回もかよ。毎回毎回メンドクセェな」
フレードは若干嫌そうな声を出しながら自身の頭を掻く。フレードの反応を見たパーシュは呆れ顔に、ロギュンはどこか不満そうな顔をしていた。フィランだけは無表情のまま前に立っているカムネスを見ている。
神刀剣の使い手が生徒会室に集まった理由、それは入学試験の準備状況や当日の流れなどを確認するためだ。入学試験が近づくと教師や生徒会などが筆記試験や実技試験の準備を行うことになっていた。
ただ、状況によっては教師と生徒会だけでは準備が間に合わないことがあるため、一般の生徒も準備の手伝いをさせられることがある。そして、手伝いをさせられる生徒の中には神刀剣の使い手も含まれていた。
「余程手間がかからない限りはお前たちに手伝いを頼むことは無い。だが万が一のこともあるため、入学試験が終わるまでは依頼を受けたり、学園から出たりするな?」
「ああ、分かったよ」
「りょ~かいだ」
「……ん」
パーシュ、フレード、フィランがそれぞれ返事をするとカムネスも「よし」と言いたそうに小さく頷く。三人の返事を聞いたロギュンは持っている羊皮紙を見て書かれている内容を確認する。
「入学試験は五日後です。試験を受ける人たちの中には既にバウダリーの町に到着し、宿屋に泊まりながら試験の勉強や準備をしている人もいます」
「確か今回は亜人の奴も試験を受けるんだよな?」
フレードが受験者について尋ねるとロギュンはフレードの方を見て小さく頷く。
「ええ、亜人だけではなく、貴族出身者や三大国家以外の国の人も多く受けます」
「貴族、か……前の試験では数人しか合格できなかったが、今回は何人合格できるんだろうなぁ」
半年前の入学試験で貴族出身の少年少女が殆ど合格できなかったことを思い出すフレードは気の抜けたような声を出した。その隣ではパーシュは小さく俯きながら何かを考えるように真剣な顔をしている。
「……カムネス、ちょっと訊きたいことがあるんだけど」
「何だ?」
「今度の入学試験にラステクト王国の王女様が参加するするって言うのは本当かい?」
パーシュの質問にカムネスは反応し、フレードとロギュンも軽く目を見開く。フィランは視線だけを動かしてパーシュを見つめる。
「おい、王女が参加するってどういうことだよ?」
「言ったとおりだよ。王女様が今度の入学試験を受けるって聞いたんだ」
「誰からだよ?」
「アイカさ。今日の昼間、先生たちが話しているのを偶然聞いて、本当に王女様が受けるのかあたしに訊いてきたんだ」
情報をどうやって得たのかパーシュが細かく説明すると話を聞いたフレードは軽く驚き、ロギュンは複雑そうな反応を見せる。状況から副会長であるロギュンは王女が入学試験を受けることを知っているようだ。
「パーシュさん、そのことを私たち以外の人に話しましたか?」
「いいや、誰にも言ってないよ。先生たちが小声で話してたってアイカから聞いて何か事情があるかもって思ったからね」
パーシュが誰にも話していないことを知ってロギュンは少し安心した表情を浮かべる。それを見たパーシュはより王女が入学試験を受けると言う話が本当かもしれないと感じるようになった。
フレードとフィランはカムネスの方を向き、パーシュもカムネスに視線を向ける。ロギュンはパーシュたちの様子から既に勘付いていると感じ、カムネスの方を向いて「どうしましょう?」と目で尋ねた。
カムネスはパーシュたちが返事を待っているの無言で確認し、やがて隠すのは無理だと感じたのかカムネスは静かに息を吐いてから口を開いた。
「確かに殿下は今度の入学試験を受けられる。このことは僕とロギュン、学園長、そして一部の教師しか知らないことだ」
「おいおい、マジだったのかよ」
本当にラステクト王国の王女が入学試験を受けるのだと知ってフレードやパーシュは驚きの反応を見せた。
「どうして隠してたんだい?」
「殿下が試験を受けられることが学園内に広がれば生徒たちが騒いで入学試験の準備に手間取ったり、色々な問題が起きる可能性があったからです」
カムネスの代わりにロギュンがパーシュの質問に答え、ロギュンの話を聞いたパーシュとフレードは可能性はあると感じたのか納得したような反応を見せた。
「……なぜ王女は今度の試験を受ける?」
パーシュたちの会話を聞いていたフィランが小さな声で問いかける。普段他人に興味を持たないフィランが自分から王女のことを訊いてきたため、パーシュとフレードはフィランを見ながら意外そうな顔をした。
ロギュンもパーシュやフレードと同じような反応をしており、カムネスは表情を変えることなくフィランを見ていた。
「今の大陸の状況から陛下が入学させることを決められたんだ」
「大陸の状況? どういうことだい?」
「もともと陛下は殿下をメルディエズ学園に入学させる気は無かった。だがこの数ヶ月の間に大陸にいるベーゼたちの動きが活発になってきり、最上位ベーゼの出現やベーゼ大帝の復活が近づいてるという大陸に住む人々にとって都合の悪い事態になっている」
カムネスはパーシュたちを見ながら静かに語り、パーシュたちは黙ってカムネスの話を聞いた。
「今の状況から、いつかベーゼがフォルリクトに攻め込んでくるかもしれないと陛下はお考えになられた。そうなった時にもし衛兵などが殿下の近くにいなかった場合、殿下は自分で身を護らなくてはならない」
「つまりベーゼと戦わなきゃいけない時に問題無くベーゼを倒せるよう、王女様を学園に入学させてベーゼとの戦い方や知識を学ばせようとしたってことだね?」
「そうだ。他にも王城から滅多に出られず、歳の近い友人が少ない殿下に一人でも多く友人を作らせたいと言う親心から殿下を入学させることにしたんだ」
娘のためにメルディエズ学園に入学させようという国王ジェームズの意思を知ったパーシュは感心し、ロギュンはジェームズの優しさに感動したのか微笑みを浮かべた。
「へっ、国を治める人間と言っても普通の父親と同じか。友達を作らせるために入学させるなんて王様も意外と子煩悩なんだな」
「フレードさん、口の利き方に気を付けてください? 今の発言、王族に対する不敬罪と見られるかもしれませんよ」
ロギュンはフレードを軽く睨みながら低い声で注意する。フレードはロギュンの方を見ると軽く鼻を鳴らしながらニッと笑う。
「へいへい、気を付けるよ。副会長様」
軽い謝罪をするフレードにロギュンは若干不愉快そうな顔で息を吐き、パーシュはフレードを見ながら呆れ顔で首を横に振った。
「ところで王女様は学園に入学することに納得してんのか? 王様が決めたこととは言え、入学する本人が嫌がってたら意味ねぇだろう」
「その点は問題無い。さっきも言ったように殿下は立場上、滅多に王城から出ることができない。学園に入学すれば狭苦しい王城生活から解放されると喜んで入学を受け入れたそうだ」
王女がメルディエズ学園に入学することに不満を感じていないことを聞いてフレードやパーシュは納得する。
本人にやる気が無い状態で入学しても上手く学園生活を送ることなどできない。何よりも依頼を受けても失敗し、最悪の場合命を落とすかもしれないため、やる気がないのなら入学しない方がいいとパーシュとフレードは思っていた。
「とにかく、王女様が入学試験を受けることは入学試験の結果が出るまでは口外しないでください? 学園内で騒ぎが起きるだけでなく、王女様を狙うおかしな輩が現れる可能性もありますから」
ロギュンが改めて王女のことを誰にも言わないよう忠告し、パーシュ、フレード、フィランの三人は無言で頷いた。
王女の話が終わるとカムネスたちは入学試験の内容や当日の流れ、合格できる人数など重要な点に問題が無いかを確認した。




