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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
第一章~異世界の転生児童~
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第十二話  カメジン村


 バウダリーの町を出発したユーキたちはカメジン村ヘ向かうために南西へ向かう。荷馬車の御者席にはアイカが座り、ユーキと他の二人は荷車に乗って移動する。

 目的地に向かう間、ユーキたちは全員座りながら黙り込んでいた。これと言って会話することが無いというのもあるが、これからゴブリンと戦いに行くため、緊張から話をする気になれないという点もある。特にアーロリアは落ち着かない様子で空を見上げたり、周囲を見たりしていた。


「大丈夫か?」


 オロオロしているアーロリアにユーキが声を掛けるとアーロリアはハッとしながらユーキの方を向いてに苦笑いを浮かべた。


「う、うん、大丈夫。ちょっと緊張してるだけだから……」

「そうか……アーロリア、だったな。君は討伐依頼に参加するのは今回で何度目?」


 ユーキは討伐依頼の経験はどれ程なのかアーロリアに尋ねる。すると、アーロリアは軽く目を見開いた後、複雑そうな顔をしながら口を開いた。


「と、討伐依頼は、今回が初めてなの……」

「えっ、初めて?」


 アーロリアの予想外の答えにユーキは驚き、ユーキを見たアーロリアは恥ずかしさを感じたのか、目を逸らしながら少しだけ頬を赤くする。先に入学しているアーロリアは討伐依頼は多く経験しているとユーキは思っていたため、自分と同じで初めて参加すると知ってユーキは意外に思っていた。

 黙って座っていたバドバンはユーキとアーロリアの会話を聞いて小さくそっぽを向く。児童のユーキだけでなく、討伐依頼が初めてであるアーロリアと一緒にゴブリンを討伐するため、不愉快になったようだ。


「討伐依頼が初めてって……じゃあ、今まで依頼は受けて来なかったの?」

「い、いいえ、薬草採取や掃除と言った簡単で危険のない依頼は何度も受けたことがあります」


 少しおどおどしながら語るアーロリアをユーキはまばたきをしながら見つめた。


「アーロリアさんはユーキより少し前に入学したのだけど、モンスターとの戦いを怖がって、討伐依頼を受けず、授業や訓練、危険度の低い依頼ばかりを受けていたそうなの。でも、下級生として受けないといけない授業は全て受け終わり、残るは実戦経験を積むだけだと先生方に言われ、今回の討伐依頼に参加したそうよ」


 手綱を引いているアイカが前を向きながらアーロリアが討伐依頼を受けた理由を話し、それを聞いたユーキはアイカの方を見ながら再び意外そうな顔をする。アイカの話を聞いたユーキは、アーロリアは半強制的に今回の依頼に参加させられたのだと知った。

 ユーキが転生前に通っていた高校でも、やりたくないことをやらないために別のことに集中したり、取り組んだりしていた生徒が大勢いた。そのため、実戦を怖がるアーロリアが討伐依頼を受けなかったことを責めるつもりも、悪いことだとも思っていない。しかし、メルディエズ学園の生徒である以上、実戦は避けられないことだとは思っていた。

 暗い顔をするアーロリアを見ていたユーキは静かにアーロリアに顔を近づける。アーロリアは自分の顔の前に児童の顔があることに気付き、驚きながら上半身を後ろに反らした。


「そんなに緊張することはないさ。別に一人でゴブリンたちと戦うわけじゃないんだから、もっと気を楽にしなよ?」

「えっ、で、でも……」

「初めての実戦だから、怖いと思う気持ちは分かるぜ? でも、怖がって何もせずにいたら、いつまで経っても実戦に慣れることはできない。恐怖や緊張に耐えながら自分の力や技術を使うんだ。そうすれば上手くいく」


 ユーキは小さく笑いながらアーロリアを元気づけ、アーロリアは自分を励まそうとするユーキに目を丸くする。アイカも前を向いたままユーキの話を聞いており、その児童とは思えない発言に驚いていた。


「大丈夫、一度でも経験すれば次からは殆ど緊張を感じなくなるし、戦いも怖くなくなる。俺も初めて剣を使って戦った時は怖かったからな」

「そ、そうなの……」


 まるで大昔のことを話すかのような口調のユーキを見て、アーロリアはまばたきをしながら力の抜けたような声を出す。ユーキはニッと笑いながら頷き、「心配ない」と言いたそうな目でアーロリアを見た。

 ユーキの顔を見ていたアーロリアは小さく俯く。不思議なことに先程まで感じられた緊張や恐怖が少しだけ和らぎ、アーロリアは小さく笑みを浮かべながら顔を上げてユーキを見た。


「……ありがとう、少しだけ気分が楽になったわ」

「それはよかった」


 笑うアーロリアを見てユーキは微笑み、アーロリアの声を聞いたアイカは気持ちが落ち着いたのだろうと感じ、前を見ながら安心の笑みを浮かべた。


「……ケッ、ガキのくせに大人びたこと言いやがって、何様のつもりなんだよ」


 ユーキたちが笑っていると、黙っていたバドバンが不満そうな声を出す。折角温かい雰囲気になっていたのにバドバンの言葉で雰囲気は一変してしまい、ユーキとアーロリアは笑顔を消してバドバンの方を向く。アイカも視線だけを動かして空気の読めないバドバンを見つめる。


「実戦が怖くて今まで討伐依頼を受けなかった? そんなんでよくメルディエズ学園に入学しようと思えたぜ。怖いんなら入学なんかせずに実家の手伝いをしてろっつんだよ。と言うか、そんなガキに励まされるようじゃお終いだな」


 わざと雰囲気を壊すような言い方をするバドバンをユーキとアイカはジッと見つめる。アーロリアはバドバンの言葉を気にしているのか、再び暗い表情を浮かべて俯いてしまう。


「ちっこいガキに実戦経験の無いお嬢ちゃん、これじゃあ俺とサンロードさんだけで依頼を受けてるのと変わらねぇな」

「バドバンさん、いい加減に……」


 アイカが態度の悪いバドバン注意しようとすると、ユーキがバドバンの前に移動してバドバンの顔を見つめる。バドバンは目の前にやって来たユーキを見るとジッと睨み付けた。


「……それだけ自信満々に言うからには、ゴブリンとの戦いが始まった時に俺やアーロリア以上に活躍する姿を見せてくれるってことだな?」

「はあ? 当たり前じゃねぇか。俺はお前らと違って依頼の経験数も剣の腕も上なんだよ」


 自分は優秀だから何の問題も無い、と言いたそうな口調で語るバドバンをユーキは無言で見つめる。やがて小さく笑いながら自分が座っていた場所に戻った。


「そうか。なら、戦いの時にアンタのお手並み、拝見させてもらうよ」


 ユーキは腕を組みながら楽しみにするような笑みを浮かべ、その様子を見たアイカやアーロリアは少し驚いたような顔をする。てっきり出発前の時のように忠告するのかと思っていたのに、ただバドバンの自信を確かめただけで終わってしまったので意外に思ったようだ。

 バドバンは挑発も忠告もしてこず、ただ笑っているだけのユーキを鋭い目で見つめる。馬鹿にされたわけでもないのに、なぜかバドバンは小さな苛立ちを感じていた。


「アイカ、早く村に着けるよう、もう少し急いでくれ」

「え? ……え、ええ、分かったわ」


 急かすユーキに返事をし、アイカを手綱を引いて馬の走る速度を上げる。アイカとしてもできるだけ早くカメジン村に着きたいと思っていたため、素直に荷馬車を走らせた。


――――――


 日が傾き、空がオレンジ色に染まる頃、目的地であるカメジン村に見えてきた。アイカが予想したとおり夕方に着くことになってしまったが、思っていたよりも早く到着できたため、誰も不満そうな顔はしていない。ユーキたちは更に荷馬車の速度を上げて村へと向かう。

 カメジン村の近くまでやって来ると、村の様子がハッキリと見えるようになった。村は外部の者が侵入されないよう木製の柵で囲ってあり、入口には門などは付いておらず、代わりに木製のバリケードが置かれてある。

 ユーキたちの荷馬車が村の入口前までやって来ると、村の中から村人と思われる男性が二人現れた。手には農具の熊手やピッチフォークが握られており、近づいて来るユーキたちを睨んでいる。ゴブリンの襲撃を受けたせいか、村人たちは険しい表情を浮かべていた。アイカは村人たちを確認すると入口前で荷馬車を停止させる。


「この村の方々ですか? 私たちは依頼を受けてやって来たメルディエズ学園の者です。村長を呼んでいただけますか?」


 アイカは自分たちが何者なのか名乗り、村長を呼ぶよう村人たちに頼む。アイカの話を聞いた二人の村人はお互いに顔を見合った後、一人がその場に残り、もう一人は村長を呼ぶために村の奥へ走っていく。残されたユーキたちは村長が出て来るのを入口前で黙って待った。

 しばらくすると、村の奥から見張りをしていた村人と腰の曲がった六十代半ばぐらいの老人がやって来た。どうやらカメジン村の村長のようだ。

 村長は村人に付き添われながらユーキたちの荷馬車に近づく。御者席のアイカは荷馬車を降りると村長の隣に移動して村長と向かい合った。


「よくおいでくださいました。私がこの村の村長を任されている者です」

「始めました。私が今回依頼を受けた生徒たちの代表を任されたアイカ・サンロードです」


 アイカは村長に軽く頭を下げて挨拶をし、村長もアイカを見ながら深く頭を下げる。村長の様子から、ユーキたちが来てくれたことを本当に感謝しており、心から待ちわびていたことがよく分かった。


「早速ですが、現状をお聞かせいただけますか?」

「勿論です。私に家でお話ししますので、お入りください」


 村長は村人たちの方を向いてバリケードを退かすように指示を出す。村人たちは入口前に置いてあるバリケードを横に移動させて道を開け、アイカは御者席に乗ると荷馬車が村に入れる。荷馬車が入ると村人たちは再びバリケードを移動させて入口を閉じた。

 カメジン村は人口八十人ほどで広い平原の中に存在している村だ。主に麦や野菜などを育て、それをバウダリーの町で売って貨幣を稼ぎ、その稼ぎで衣服や日用雑貨などを購入している。村人たちは貧困や不自由などせず普通に暮らせていた。

 村に入ったユーキたちは荷馬車から降り、村長に案内されて村長の家へと向かう。その間、村の中を移動するユーキたちは村人たちから注目されていた。

 ユーキたちを見ている村人の中には「これでもう大丈夫だ」と安心の表情を浮かべる者が大勢いるが、ようやく来てくれたのが未成年だけだということに不満を感じている者もいる。しかもその中に他の生徒と比べて体の小さいユーキがいるため、不満を感じる村人たちはユーキを見ながら目を鋭くしていた。

 村人たちに視線を気にしながらユーキは先頭を歩くアイカの後をついて行き、バドバンとアーロリアもその後に続く。そして、ようやく村長の村に辿り着き、ユーキたちは中に入る。

 家に入ると部屋の真ん中に机と複数の椅子が置かれてあり、その椅子の一つに代表のアイカが座る。向かいの席には村長が座り、アイカの後ろにはユーキたちが一緒に話を聞くために待機した。


「では改めまして、この村の状態とゴブリンたちの細かい情報をお話しいただけますか?」

「ハイ……まず現状ですが、あまり良いものではありません」


 深刻な表情を浮かべながら村長は村の状態や襲って来るゴブリンたちの情報を話し始めた。

 カメジン村の北と南西にはそれぞれ小さな林があり、ゴブリンたちは南西の林から現れて村を襲い、食料などを奪っているそうだ。村長の話では少し前まで林にはゴブリンはいなかったのだが、数日前にゴブリンたちが棲みつき、頻繁に村の近くに現れるようになったらしい。

 村に近づいてきたゴブリンは村の男性たちが追い払おうとしたが、戦いに慣れていない村人たちはまともに戦うことができず、既に大勢が負傷している。それでも何とかゴブリンたちを追い払うことはできたが、毎回食糧は奪われており、ホブゴブリンと思われる体の大きなゴブリンが現れた場合は勝ち目が無いと考え、村人たちは抵抗せずに家の中に隠れることにしたようだ。

 このままでは食料どころか、村に住む若い女性までもがさらわれてしまうかもしれないと考えた村長は村人たちと相談し、メルディエズ学園にゴブリンの討伐を依頼したのだ。

 冒険者ギルドに依頼するという案も出たが、金銭に余裕が無いため、メルディエズ学園に依頼を出すことにしたらしい。

 村の現状とゴブリンたちの居場所を聞いたアイカは真剣な表情を浮かべる。ゴブリンの行動や体の大きなゴブリンがいることなどが依頼書に書かれてあったとおりの内容だったため、情報に間違いなどは無いと考え、間違いが無ければ準備しておいた道具や人数でも対処できるとアイカは思った。


「これ以上は我々だけではどうすることもできません。かと言ってゴブリンたちを野放しにすれば何時かこの村は滅びてしまうでしょう。どうか、よろしくお願いします」


 アイカを見ながら村長は頭を下げ、改めてゴブリンの討伐を頼む。アイカは頭を下げる村長を見ると小さく笑いながら立ち上がった。


「ご安心ください。私たちが来た以上はゴブリンたちの好きにはさせません。必ず全てのゴブリンを倒します」

「おおぉ、ありがとうございます」


 村長は顔を上げて笑顔のアイカに礼を言う。アイカの後ろで話を聞いていたユーキは喜ぶ村長を見て小さく笑った。

 話が終わるとアイカはカメジン村の防衛に就く村人たちを村長の家に集め、ゴブリンたちが現れたらどう行動するか作戦会議を行う。様々な提案が出る中、ユーキたちは時間を掛けて話し合い、話し合いの結果、ゴブリンが現れるまでは今までどおりに生活して男性たちは交代で見張りをし、ユーキたちも同じように村の見張りに就くことになった。

 そして、ゴブリンが現れたら女性や子供、老人は家の中に隠れ、ユーキたちと動ける男性たちはゴブリンを迎撃することが決まり、作戦会議が終わると村人たちは解散して防衛の準備などに取り掛かった。

 準備をしている間に日が沈み、気付けば夕食の時間となっていた。村人たちは自分の家に戻って食事を取り、ユーキたちも村長の家で夕食を取る。依頼中、ユーキたちは村長の家で生活することになり、食事や寝床も村長に用意してもらうことになった。


――――――


 夕食が済むと村人たちは作戦会議で決めたとおり、交代でゴブリンが近づいて来ていないか見張りをする。ユーキたちも村人たちと共に見張りに就いて村の周りにゴブリンたちがいないか警戒した。

 村の北西側ではユーキが村の外にゴブリンがいないか見張っていた。ゴブリンの棲みついている林は南西にあるが、ゴブリンが回り込んで攻めてくる可能性があったため、念のために南西以外の方角もしっかり見張ることにしたのだ。

 既に時刻は午前零時を回っており、見張りをする村人以外は全員眠っているので村の中はとても静かで若干不気味さが感じられた。しかし、静かな方が村に近づいて来るゴブリンの気配を感じ取ったり、物音を聞き取りやすいためユーキにとっては都合の状況だ。ユーキは月下と月影に手を掛けながら耳を澄ませる。


「異常はない?」


 目を閉じて音を聞いていると、背後からアイカが近づいて来てユーキに声を掛ける。ユーキは目を開けてアイカの方を向いた。


「今のところは大丈夫だ。だけど、ゴブリンたちにとって皆が寝静まってる今が最も襲撃されやすい時間だ。注意して見張った方がいいと思う」

「そうね……」


 何時襲ってくるか分からない以上、気を抜くことができない。アイカもユーキの隣にいて村の外を見張り、ユーキも周囲を見回して見張りを再開する。


「アーロリアとバドバンは?」

「村長の家よ。見張りの番が来るまで寝かせているわ」

「それがいい。例え少しの睡眠時間でも寝てるのと寝てないのとでは全然違うからな」


 村の外を眺めながらユーキは寝かせて正解だと語る。見張りやゴブリンが襲撃してきた時にしっかり動けるよう、空いている時間は休息に使うべきだとユーキは考えていた。

 アイカは仲間の体力のことをしっかり考えるユーキを見て感心と驚きを感じる。ユーキが普通の十歳児ではないことは分かっているが、大人のような考え方や行動力を持っているのを見て、今日までどんな風に生きてきたのだろうとアイカは疑問に思っていた。

 ユーキの生い立ちを気にしながら、アイカはユーキと共に見張りを続ける。静かな夜の中で男女が二人っきりでいると言うのは年頃のアイカにとっては少々緊張する状況だった。

 普通なら十六歳の少女が十歳の児童と二人っきりになっても緊張することは無いと思われそうだが、ユーキのこれまでの言動や剣の腕から、アイカはユーキを十歳の児童とは思えなかった。


「……アイカ、訊きたいことがあるんだけど、いいか?」


 静かな中、ユーキが突然アイカに声を掛けてきた。話しかけられたアイカは一瞬驚くが、すぐに落ち着いてユーキの方を向く。


「な、何?」

「入学式の時、副会長がパーシュ先輩とフレード先輩のことを神刀剣に選ばれた者って言ってたけど、その神刀剣って何なの?」


 ユーキはずっと疑問に思っていたことをアイカに尋ね、アイカはユーキの質問を聞いて目元を僅かに動かす。だが、すぐに真面目な顔になり、村の外を見ながら静かに口を開いた。


「神刀剣と言うのはメルディエズ学園に代々受け継がれてきた、選ばれた生徒だけが持つことを許される四本の刀剣のことよ。三十年前のベーゼ大戦の後、度々出現するベーゼに対抗するための武器を作ろうと考え、有名なドワーフの鍛冶師に打たせたって聞いたわ」

「対ベーゼ用の武器か……その武器を先輩たちが持ってるってわけか」

「そう。神刀剣は二剣二刀、つまり二本の剣と二本の刀の総称で四本全てが違う名前と力を持っているの。パーシュ先輩が持っているのが“炎闘剣えんとうけんヴォルカニック”、フレード先輩が持っているのが“海刃剣かいじんけんリヴァイクス”と言ってそれぞれ炎と水の力を宿しているの」


 アイカの説明を聞いたユーキはパーシュが持っていた赤い鞘に納められた剣とフレードが持っていた青い鞘に納められた剣のことを思い出す。二人が持っていた剣がメルディエズ学園に伝わる業物だと知って驚いた。


「残りの二本の刀は会長が持つ“嵐界刀らんかいとうフウガ”、そしてフィランさんが持つ“岩斬刀がんざんとうコクヨ”。フウガは風、コクヨは土の力を秘めた刀らしいわ」

「会長も神刀剣に選ばれた生徒だったのか。まぁ、生徒会長なら選ばれてもおかしくないな……だけど、あのフィランまでも神刀剣の使い手だったとは……」


 カムネスが神刀剣を持っていることには納得できたが、フィランまでもが神刀剣を持っていたことには流石に驚いてユーキは意外そうな表情を浮かべる。

 てっきり上級生だけが神刀剣を持てると思っていたので、中級生のフィランが持っていた刀が神刀剣だとはユーキも予想していなかった。同時に神刀剣を所持する資格は階級だけではないと知る。


「神刀剣は意思を持つ武器と言われ、自分で持ち主を選ぶって聞いたわ。神刀剣が認めない生徒では鞘から抜くことができず、刀剣が持つ能力も使えないって」

「会長たちは神刀剣に選ばれた生徒だから使うことができるってわけか」

「そう、しかも神刀剣は特殊な鉱石を使って作られた魔法の武器で簡単には折れたりしないの。そして、持ち主の体に合わせて長さも変わるみたいよ」


 神刀剣が魔法の武器だと聞いたユーキは更に驚きの反応を見せる。特殊な能力が備わっており、簡単には折れず、長さも持ち主に合わせて変わるという、月下と月影と似た特性を持つ武器がメルディエズ学園に四本もあったと知り、メルディエズ学園は自分が思っていた以上に強い力を持っている組織なのだとユーキは感じた。


「因みに神刀剣はメルディエズ学園の生徒だけが持ち主に選ばれるから、所持する生徒がメルディエズ学園を出ていく場合は学園に返却され、神刀剣は持ち主を選びなおすそうよ」

「成る程、凄い武器なんだな」


 ユーキは神刀剣がどんな武器なのか教えてもらって納得の表情を浮かべる。普通では考えられないくらい強力な武器を扱うパーシュ、フレード、カムネス、フィランの四人は間違い無く学園でも最高クラスの実力者であるとユーキは確信し、同時に自分よりもずっと強いかもしれないと感じていた。

 神刀剣のことが分かり、ユーキは気持ちを切り替えて村の外の見張りに戻る。アイカは話が終わるとすぐに見張りを再開するユーキを見て真面目な性格をしていると思う。だが、同時に知りたいことを知るとすぐに仕事に戻る一方的なところもあると感じた。


「……ねえ、ユーキ。私も訊きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

「ん? 何?」


 ユーキがアイカの方を見ながら尋ねると、アイカは真剣な表情を浮かべながらユーキの顔を見た。


「貴方のご両親はどんな人なの?」

「俺の両親?」


 アイカを見ながらユーキは目を丸くする。てっきり今受けている依頼に関係することや自分の剣術について訊いてくるのかと思っていたのに、平和的な内容だったので少し意外に思っていた。


「ユーキは十歳とは思えないくらい強く、頭もいいし落ち着いて物事を判断するわ。学園を出る時や移動中の時もバドバンさんの挑発に乗らず、冷静に対応していたから」

「ん~、まあな……」

「あれほどの対応ができるということはユーキを育てたご両親はとても立派な人たちなんじゃないかなって思って……」


 ユーキが大人の考え方や態度を取ることから、ユーキの両親が凄い人だと考えたアイカは両親のことが気になり、教えてもらいたいと思ったようだ。

 アイカの顔を見ていたユーキは目を閉じ、前を向いて静かに口を開く。


「……両親がどんな人なのか、実のところ俺もよく知らないんだ」

「え? でも、初めて会った時に世界中を両親と旅していたって……」

「それはちょっと違う。俺の両親、物心つく前に死んじゃったんだ」

「え?」


 ユーキの口から出た言葉にアイカは目を見開く。てっきりユーキは両親と離れて生活していると思っていたため、ユーキの言葉を聞いてかなり驚いていた。


「物心つく前は両親と旅をしてたけど、その時のことは何も覚えてないんだ。両親が死んだ後、俺は父方の爺ちゃんに育ててもらいながら二人で旅をしてたんだ。剣とかも爺ちゃんから教えてもらったから、爺ちゃんが俺の親みたいなものなんだよ。もっとも、その爺ちゃんも病気で死んじゃったけどな」

「それじゃあ、ご両親がルナパレス新陰流の歴史や故郷のことを教えてくれなかったっていうのは……」

「死んじゃったから教えてもらえなかったって意味」


 真実を教えられたアイカは驚きながら衝撃を受ける。知らなかったとはいえ、ユーキに死んだ両親のことを思い出させ、それを話させてしまったことに対してアイカは罪悪感を感じた。


「……ごめんなさい、知らなかったとはいえ、失礼なことを……」

「気にしないでくれ、慣れてるから大丈夫だ」


 首を横に振りながら語るユーキをアイカは申し訳なさそうな顔で見つめる。死んだ家族のことを訊かれて嫌な顔一つしないユーキを見て、アイカは本当にユーキはしっかりしていると感じた。

 ユーキの両親が死んだこと知ったアイカは寂しそうな表情で夜空を見上げる。そんなアイカを見たユーキは両親のことを聞いてしまったことをまだ気にしているのかと感じ、少し困ったような表情を浮かべた。

 暗い顔をするアイカを元気づけようとユーキはアイカに声を掛けようとする。だが、ユーキよりも先にアイカが口を動かした。


「……ユーキも私と同じだったのね」

「……? 同じ?」

「私も親がいないの」


 アイカも両親がいないと聞かされたユーキは目を見開く。アイカも自分と同じ両親のいない人生を歩んできたと知り、ユーキは見張りを中断してアイカを見つめる。


「君も両親が……」

「ええ……子供の頃、ラステクト王国の東にある小さな村で両親と暮らしてたの。父さんはサンロード二刀流の師範で村でも一番強い剣士って言われていたわ」

「お父さんが剣の師範……じゃあ、君もそのサンロード二刀流って言う剣を使うのか?」


 ユーキの問いにアイカは無言で頷いた。


「父さんみたいな剣士になりたくて、必死で剣術を覚えたわ。父さんも私を強い剣士にするために色々教えてくれた。私にとって父さんは強くて憧れの存在で、母さんは優しく自慢の母だったわ。……でもあの日、私は二人を同時に失ってしまった」


 突然暗い声を出すアイカを見てユーキは目を僅かに鋭くする。アイカの様子から、何かとんでもない出来事が起きたのだと確信した。

 ユーキが見つめる中、アイカはゆっくりと顔を上げて前を見る。目は鋭くなっており、その表情からは小さな怒りが感じられた。


「……あの日、私たちは村で普通に暮らしていた。だけど、村がベーゼの集団に襲われ、村人たちは次々と殺されていったの。その殺された人たちの中には母さんもいたわ……」


 母親がベーゼに殺されたと語るアイカを見てユーキも無意識に表情を鋭くする。そして、母親が殺されたアイカは物心つく前に両親を失った自分よりもある意味で辛い思いをしていたのだと感じた。


「父さんは母さんの仇を討つためにベーゼたちに戦いを挑んでいったわ。だけど、ベーゼたちのリーダーと思われる四本腕の赤いベーゼに負けて、父さんも命を落としてしまった……」


 アイカは悔しそうな声で語り、無意識に奥歯を噛みしめる。辛そうなアイカを見ていたユーキは鋭い表情のままアイカを無言で見つめ、話を聞いていた。

 普通は相手が辛い過去を話しているのを見れば止めるべきだが、自分から辛い話をするアイカを途中でやめさせるのは彼女の覚悟を否定するような気がしたため、ユーキは敢えて止めずに黙って聞くことにしたのだ。


「赤いベーゼは生き残った私も殺そうと近づいて来た。だけど、どういう訳か殺すのをやめたの。代わりに……」


 アイカは俯いて右手を自分の左胸に持っていき、胸に手を当てながら握り拳を作る。途中で話を止めるアイカを見てユーキは目を僅かに細くした。


「どうした?」

「……ううん、何でもない。それで運良く生き延びた私は別の村に住んでいた親戚の人に引き取られて育ててもらったの。そして、メルディエズ学園に入学した……」

「……学園に入学したのは、力を付けて両親の仇を討つため?」

「それもあるけど、私のような人を増やさないために強くなって、ベーゼから人々を護りたいと思って入学したの」


 顔を上げ、空を見上げながらアイカは自分の意志を語り、それを聞いたユーキはアイカが復讐のためだけにメルディエズ学園に入学した訳ではないと知って少し安心した。

 復讐のために力を付ける者はいつか周囲の者たちを傷つけるだけの存在となるとユーキは祖父から教わっていたため、アイカの意思を聞いたユーキはアイカが他人を傷つける存在になる可能性は低いと考えていた。


「……どうして俺に辛い過去の話をしたんだ? 同情されたくて話したわけじゃないんだろう?」

「勿論違うわ。貴方は自分の両親が死んだことやお爺さんから剣を教わったことを教えてくれたわ。だから、私も自分の過去を貴方に教えようと思ったの。ただそれだけよ」

「……そうか」


 両親のことは気にしていないので教えてくれなくてもいいと思っていたユーキだったが、アイカがわざわざ自分の悲しい過去を話してくれたので何も言わずに俯く。話さなくてもよかったのに、などと言えば辛い過去を話したアイカに対して非常に失礼だとユーキは感じていた。

 自分の過去を離したことで少しスッキリしたのか、アイカは目を閉じて深く息を吐く。ユーキはお互いに両親の死を話したことで重苦しくなっていた空気を何とか変えなくてはと考える。


「自分のような人を増やさないために学園に入学した、か……君は優しいな」

「ど、どうしたの突然……」

「いや、同じ二刀流使いで優しく、しかも美人だからますます君に興味が湧いてきたんだよ」


 笑顔で語るユーキを見てアイカは薄っすらと頬を赤く染める。今まで面と向かって美人だと優しいなどと言われたことが無かったため、ユーキの言葉にときめきのようなものを感じたようだ。

 アイカは顔を見られないようそっぽを向き、アイカの反応を見たユーキは不思議そうにまばたきをする。


「どうした?」

「な、何でもないわ。そ、それより、もう一つ貴方に訊きたいことがあるの」

「何?」

「……ユーキ、貴方はいったい……」


 ユーキの顔を見てアイカは質問をしようとする。すると、村の南西の方から高い金属音が聞こえてきた。


「ゴブリンが出たぞぉーっ!」

『!!』


 静かな夜の村に村人である男性の声と警鐘の音が響き、それを聞いたユーキとアイカは同時に声が聞こえた方を向く。

 予想どおり夜中にゴブリンが現れ、村の中に緊迫した空気が漂い始める。遠くから微かに村人たちの騒ぐ声も聞こえてきた。


「遂に来たか。アイカ、話はゴブリンたちを片付けた後だ。いいな?」

「勿論!」


 先程まで昔話をしていたユーキとアイカは表情を鋭くしてゴブリンと戦うことに気持ちを切り替え、ゴブリンがいると思われる南西に向かって走り出した。


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