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004話:カメリア・ロックハート07歳・その3

 それから礼儀作法の家庭教師と教育系の家庭教師が増え、さらに魔法の基礎を教える家庭教師、錬金術の家庭教師も増えて、勉強漬けの生活が始まってしまった。中にはお兄様も一緒に受けるものもあれば、わたしだけが受けるものもある。特に男女で作法が異なる礼儀作法は別だ。


 今日は魔法の基礎を教える家庭教師が来ている。この世界の魔法について、「たちとぶ」やビジュアルファンブックでの説明を踏まえると、おおよその基礎知識はあるはずだけど、7歳まで魔法が禁じられていたはずの子供が基礎知識ばっちりというのもおかしい。


 まず7歳までは魔法の知識も大したものが与えられないように徹底されている。下手に興味を持たせて使わせてしまうことを防ぐためだ。


 だから、わたしもつい先日までは魔法について、属性の種類とか神が祈りに応えてくれた結果とか、そうしたこと以上のことは知らないはずなのだ。

 もっとも、この世界の魔法は難しいものではない。わたしの前世の知識で知る限り、魔法には儀式が必要だったり、呪文の詠唱が必要だったり、とにかくまあ小難しい印象を持っているけど、この世界ではそういったものはない。


 前に像の前で言っていた「火の神メラク様。わたくしの信仰にお応えくださるなら、その御力をお示しください」のような言葉は、あくまで神が応えてくださるかを問いかけるもの。つまり、自分の使える属性を確かめるための問いかけに過ぎない。つまり、呪文のような類ではない。


「魔法とは魔力を対価に、神々が貸してくださる力を行使するものであり、神々の贈り物とでも言いましょうか。これらを扱うには魔力を感じ、どれだけを対価にしたらどのような結果が訪れるのかということを知ることが大事なのです」


 家庭教師がそのように言う。隣に座っているお兄様にとってはすでに去年にも同じ説明を受けているはずなので退屈な時間だろう。


「しかし、これを一様に説明することはできません。その理由、ベゴニア様にお答えいただいてもよろしいでしょうか?」


 あてられたお兄様は答えが分かっているのだろう。普通に答える。


「神々が応えてくださる対価が人により異なるから、ですね」


 少なくとも、そのように考えられているらしい。全員が1の魔力を使って1の結果を得るかと言えば違う。1の魔力で10の結果が出る人もいれば、10の魔力を使ってようやく1の結果を得られる人もいる。それがなぜかというと「神々が応えてくださる対価が人によって異なるから」と考えられている、という話。


「その通りです。なので、魔法は基本的に、ご自身で感覚を掴んでいただくほか上達の手段はありません」


 個人差の大きい魔法を本格的に教えられる人材などほとんどいない。結果的には、基礎の知識だけを教えて、自主的に伸ばしていく以外に方法はないのだ。


「そのため、人が魔法について教えられることは、魔力の感じ方や魔力の扱い方まで。それ以上はご自身で形にしていくものなのです」


 魔力の感じ方や魔力の扱い方。ビジュアルファンブックの説明によると、「魔力」とは世界の根源にある魔力の塊から放出されて、世界中に舞っているものであり、それと同時に、それによって生まれた生命が体内に生み出すことができる力ということらしい。つまり、その辺にいっぱいあるし、人間はその体内に魔力を生み出しているってことだ。


 魔法を使うには、それらを集めて、まとめて、対価とする分として払わなくてはならない。そのために魔力を扱うことが必要になってくる。


 試しに目をつむり、魔力を感じられるように意識をとがらせてみる。まるで空気中のあらゆるところにあるかのように感じるそれをほんの少し指先に集めて、手品でもするみたいにパチンと指を鳴らしてみる。

 すると、集めた魔力は少ないにも関わらず、ボッと拳ほどの大きさの火の玉が出来上がる。


 実を言えば、この魔力1に対してどのくらいの発動割合なのかというのはビジュアルファンブックのキャラクター紹介に「魔力値」の下の項目「魔力変換」という欄に載っていたもののことを指しているんだと思う。


 カメリアの魔力変換は100。つまり、1の魔力を使って100の結果を出せる魔法使い。お兄様は魔力変換23だったはずなので、お兄様が使うのと同じ魔力を込めたら4倍以上の威力になってしまうっていうわけ。

 ちなみにスタッフインタビューいわく「攻略対象の中では1人だけ年上で、カメリアの兄という事実もあるから数値はできるだけ23(にーさん)にしたかった」というしょうもない理由でお兄様の数値は決まったらしい。攻略対象の中で魔力変換が最低数値の理由がそんなしょうもないことなのだから、お兄様はスタッフを恨んでいいと思う。


「カメリア様、魔法を使うときはできればあらかじめ教えていただきたいのですが。それにできれば室内での使用は避けていただかないと」


 まだ魔法に不慣れな時は、どのくらいの効果があるかも分からずに魔法を使うことになるから、人前で、屋外で、そういったことがあるのだろう。まあ、「たちとぶ」内だと割と普通に学校舎内で使っていたけど、魔法学校だからいいって判断なのかな?


「申し訳ありません。少し試してみたくなってしまって」


 一歩間違えば大事故だ、家庭教師が慎重になるのもうなずける。今度から気を付けよう。


「お兄様は確か風属性でしたよね」


 お兄様が使える魔法は風。校舎の2階から落ちそうになった主人公を助けるために魔法を使ったシーンが印象的で、主人公をお姫様抱っこしているあそこのイベントスチルはお兄様ルートでの一番記憶に残っている場面。


「ああ、その通りだよ」


 お父様やお母様のキャラクター紹介では、お父様が風、お母様が土だったので、お兄様はまっとうにお父様の洗脳……もとい教育を一身に受け止めた結果、風の信仰に応えてもらえたのだろうか。

 お父様やお母様、というより、主人公や攻略対象、ライバルキャラクターを除いた、いわゆるサブキャラクターはビジュアルファンブックでもキャラクター紹介はそれほど濃く書かれていないからわたしも持っている情報が薄い。そもそもお父様やお母様なんて立ち絵なしだし。


「それにしてもカメリアはすぐに魔法が使えるくらいには魔力量が多いのか、それともそれだけ応えていただけているのか」


 お兄様が感心していたけど、どちらもカメリアは主要キャラクターの中ではずば抜けているはず。魔力量が「魔力値」のことならカメリアの「魔力値」は主人公と同じ80。他の攻略対象たちが最大50くらいなのを考えれば破格の数値だと思う。「魔力変換」も王子や主人公と同じ100で、その上、「五属性」。なんでライバルキャラクターにしたのか……。


「どうなのでしょう。比較する対象が少ないので何とも言えません」


 いや、まあ、比較する対象で言えば、お兄様以外にも「攻略対象」の数値は分かっているから十分に比較できるんだけれども。


「そうだね。でも、そのうち、同年代の子たちの魔法を見る機会もあるよ」


 王立魔法学園に入るから、そこでたっぷり見ることができるとは思う。それよりも前になるとほとんど魔法を使う機会も見る機会もないだろう。こうした魔法に関する教えを受けているときくらいしか、魔法の出番はないはず。


「家庭教師として今まで様々な方を見てきましたが、カメリア様は感覚的に魔法が使えるご様子ですし、恐らく魔法量が多いのだと思います」


 魔力量が多いと内からあふれ出す力が形になりやすいとかなんとか。だから、感覚的に魔法を使う人間は魔力量が多いことが多いらしい。わたしの場合はどうなのだろうか。魔法がどういうものなのかあらかじめゲームをプレイして知っているという部分もあるし、一概に魔力量が多いからというわけでもない気がするけど、でも魔力量が多いことも事実だし。


「疲労感はどうだい。急に魔法を使うと疲労してしまう子もいるそうだけど」


 お兄様が心配してくださっているのか、そのように声をかけてきた。でも、わたしは全く疲れていない。


「いえ、ご心配なく。疲労感は全くありませんから」


 魔力量も魔力変換もビジュアルファンブック上の数値ではトップクラスのカメリア、もといわたしがこの程度の魔法で疲れるはずもない。


「ということは、神々がカメリアに対して応えてくださっている対価は相当なもののようだね」


 自身の魔力量が多くても、魔力変換が少なければ、少しの魔法を使っただけで疲れてしまうのだろう。それこそ、お兄様と同じだけの結果を出そうとするなら、わたしは4分の1の魔力で十分なのだから、お兄様とわたしでは魔法に対する感覚が全く異なるのかもしれない。


「その辺りはやはり比較する対象がいなくてはどうなのか……。それこそ、王立魔法学園にでも入れば、そういった経験もするのでしょうか」


 いつまでも魔力量や魔力変換について話していると、うっかりボロが出てしまいそうなので、話を魔法関連の別のところへと持っていく。


「そうだね、王立魔法学園に行けば、きっと他の人がどのように魔法を使うのかをじっくりと見ることはできると思うよ。それにカメリアと同い年には公爵家や王家の子息が集まっている。彼らと共に学べるのは、きっとすごい研鑽になるんじゃないかな」


 公爵家や王家の子息、つまり「攻略対象」たちのこと。まあ、お兄様も本来どこに含まれるべきなんだろうけど、1学年上だから共に過ごす時間はどうしても減ってしまう。


「あら、お兄様、魔法の質が家柄に依存するわけではありませんわ。もしかすると、そういったところ以外から凄い魔法の才を持ったものが現れるかもしれませんよ?」


 わたしは知っている。確かに「攻略対象」たちの魔法使いとしての資質の高さは「たちとぶ」本編でもビジュアルファンブック上の数値でも保障されている。だけど、もう1人、其れに並ぶ魔法使いが存在する。それも平民として生まれた家柄もない少女。そして、あるルートではわたしに破滅をもたらし、王子と結ばれた存在、そう「主人公」である。


「うーん、どうだろうね、やっぱり信仰と教育が魔法には欠かせないから家が豊かじゃないと……」


 家が豊かで、教育や信仰を熱心にするほど魔法は強くなりやすい。あくまでそういうことが多いというだけ。むしろ家が貧しいから宗教に系統するなんて言うのは前世でもあった話。家柄だけで決まるものじゃない。


「教育に必要なのは熱意です。信仰に必要なのも豊かさではなく、思う力。確かに豊かで余裕があるほど信仰に割く思いは増えるかもしれませんが、そういった人たちだけではないのです。例え苦しくとも、神々に日々の感謝をささげ、祈る。そういう思いの力を持つ人たちもいるはずですよ」


 豊かだから魔法に長け公爵の位を賜ったのか、公爵の位を賜り豊かになったから魔法に長けるのか。卵が先か鶏が先か。その辺りが分かるものは誰もいないだろうけど、わたしは、「主人公」の存在を知っているからか、そう思わずにはいられなかった。

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