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【完結】「先輩の妹じゃありません!」  作者: さき
第九章:――春――
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02:旅行当日、バスの中

 


 迎えた卒業旅行当日。

 自由登校になって会う日数こそ減ったものの、クラスメイトと顔を合わせてもさすがに久しいという感覚はない。とりわけ制服指定という事もあり、見慣れた顔触れの見慣れた格好、夏休み明けに再会するのと同じだ。

 一応「久しぶり」と言葉こそ交わすがさして報告し合うこともなく、かといって話題が途絶えるわけでもない。

 最近どうだったかと近況を確認しても殆どが家でぐうたらと過ごしていたようだ。俺も同様、聞かれれば家でのんびりしていたと話すだけである。


 そんな緩み切った空気の中、点呼やら報告やらと忙しくしていた委員長が痺れを切らしてパン!と手を叩いた。

 その音を聞くや誰もが雑談を止め、委員長へと視線を向ける。三年間続けていただけあってこれはもう条件反射に近い。


「うちのクラスは揃ったのね。それなら全員バスに乗って。なにも今ここで語り合うこともないでしょ」


 てきぱきとした動きで委員長が手近に居た者をバスへと押し込んでいく。

 相変わらずの手腕だ。そう感心した矢先、


「あと三分以内に乗らなかった人は、バスの中で一曲披露してもらうからね!」


 そんな恐ろしいことを言いだした。冗談ではないことは彼女の瞳を見れば分かる。

 これには俺も友人達も、そして今の今までバスの席がどうのと話をしていたクラスメイト達も、慌ててバスへと駆け込んだ。バスの中で一曲なんて冗談じゃない。カラオケは嫌いではないが、強制的に見せ物として歌わされるのはごめんだ。

 だがそんな俺達に反して、一部のクラスメイトは未だバスの傍らに立ち続けていた。どことなく得意気に三分経過を待っている。

 これはもしや歌いたいということなのだろうか……。そんな彼等に委員長が近付き、


「歌いたい人は好きに歌っていいから、とにかく乗って!」


 そう叱咤すると共に、纏めてバスに押し込んだ。



 そうして乗りこんだバスで、特に考えもなく適当な席に腰を下ろす。

 隣には……宗佐。どうやら宗佐も考えなしに座ったらしく、鞄を置き、隣を見て、俺だと分かると目を丸くさせた。


「なんだよ、バスの中でも健吾と一緒か」

「その言葉、そっくりそのまま返してやる」


 ホテルの部屋も宗佐と二人部屋だし、多分観光も同じグループで行動するだろう。

 ならば何もここまで一緒に居なくても。そう互いに顔を見合わせて話せば、クスクスと笑い声が聞こえてきた。

 見れば、通路を挟んだ席で月見と西園が笑っている。

 きっとどこまでも一緒な俺達の会話を面白がっているのだろう。現に、彼女達はこちらの視線に気付くと更に笑みを強めた。


「弥生ちゃん、そこに座ってたんだ」

「うん。麗ちゃんと眺めてたんだけど、宗佐君と敷島君、一緒に乗ってきて自然な流れで一緒に座ってて、笑っちゃった」


 楽しそうに月見が笑う。それに惹かれ、窓際に座っていた宗佐がグイとこちらに身を寄せた。

 狭いと文句を言ってやりたいが、宗佐の気持ちは分からなくもない。宗佐は俺に身を寄せたわけではない、俺の先に居る月見に身を寄せたのだ。

 彼女が通路側に座っていることを考えれば、俺が窓側に行けばよかったと後悔が湧く。そうすれば通路こそ挟むが宗佐と月見が隣になれたのに。


 もっとも、俺が後悔しているのは友人を想ってだの気遣ってだのといった優しいものではない。ただ挟まれると非常に鬱陶しいからだ。

 現に月見はソワソワと宗佐を見つめているし、宗佐も同様。それどころか、西園までもが時折チラと切なげな瞳で宗佐の様子を窺っている。


 俺を挟んで。

 俺抜きで勝手にやってくれと思わなくもないが、無意識とはいえここに座ったのは俺だ。そう己に言い聞かせる。


 そんな俺の何とも言えない気分に更に拍車をかけるのが……、


「よし、敷島ナイスブロック!」

「そのまま壁になれ!」

「二人を見つめ合わせるな! 西園の視線も遮れ! 敷島、お前のその体躯の活かしどころだ!」


 そう小声でエールを送ってくる男達……。

 どうやらこの卒業旅行においても彼等の嫉妬は揺るがないようだ。なんともご苦労な話である。

 四方八方すべてに対して呆れの溜息を吐き、聞こえる雑念に耳を貸すまいと目を瞑った。



 しばらく目を瞑り、うつらうつらと船を漕ぎ……、ふと意識を戻した。

 少し眠っていたようで窓の外の景色が変わっている。高速道路に乗ったのだろう。

 チラと横目で隣を見れば月見と西園は二人で何やら話をしている。ならばと宗佐の様子を窺うと、窓辺に頭を預けて携帯電話を弄っていた。どうやら宗佐も眠いらしく、少し操作をすると携帯電話を鞄に戻して目を瞑った。

 そんな宗佐を眺め、ふと考えを巡らせた。


 宗佐はまだ月見に告白をしていない。

 ……多分、だけど。

 宗佐の性格を考えれば、告白をすれば結果がどうあれ俺に報告をしてくるはずだ。

 応じて貰えたなら浮かれまくって、断られたなら――そんな事は有り得ないだろうが――落ち込んで鬱々としながら、俺に一部始終を話してくるだろう。

 だが今日までそのどちらも無かった。


 受験が終わるまではと考え告白を控えていたのは、去年の冬に聞いた。

 だが今はもうその枷は無い。宗佐も月見も希望校に合格した。互いの進路は確定し、気を使って機会を待つ必要はなくなったのだ。


 だからもしかしたら、この卒業旅行で何かが変わるかもしれない。

 だけどもし本当に変わってしまったら、珊瑚はどう思うだろうか……。


 卒業生の旅行に当然だが二年生の彼女は居ない。誰より先に宗佐に恋をして、誰より長く近くで宗佐を想っていたのに、結末の場に蚊帳の外とはあんまりな話ではないか。

 そんなことを考えながら、俺は完全に寝の体勢に入る宗佐を横目に、溜息を吐きつつ倣うように目を瞑った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 卒業式かと思ったけど、ここでなのかあ。 どこにいくのだろう。そして、二人になる機会があるのかな。
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