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「お初にお目にかかります、ゼフィランサス様。私はラジアータ伯爵家の娘、リコリスと申します。留学の許可を出していただき、ありがとうございます」
「はじめまして、リコリス様。そしてようこそフロウ王国へ。私を知っているということは、王家から私の絵でも見せられたのかな?」
復讐を決意して3週間が経ち、リコリスは隣国の王太子、ゼフィランサス・カンジダの目の前でお茶を飲んでいる。
「お戯れを。‘大陸の薔薇君’と称されてる麗しいあなた様を存じ上げない方など居ないでしょうに」
「ふふ。ありがとう。それで?私に何の用件があるのか手短に教えてくれる?大国の君たちと同等までとは言わないけど、私も忙しい身だからね」
「では人払いをお願いできますか?」
ゼフィランサスは眉を訝しげに寄せるが、リコリスの目が真剣なのを受けて侍女頭と護衛を遠ざけた。
「ありがとうございます。ゼフィランサス様、公爵令嬢のアルストロメリア様と結婚できる可能性がある場合、あなた様は彼女を迎えに行きますか?」
「………そんなことはほとんどありえないけれど…そうだね。可能性がるなら迎えに行きたいね」
「今の言葉に偽りはないですよね?」
「君に嘘をついて私に何の利があるんだい?」
「ではこの書類を読んでいただきたいのですが…」
リコリスがパチンと両手を合わせて叩くと、王子とリコリスに挟まれているローテーブルの上に数枚の紙が突如現れた。
「リコリス嬢、君よく魔法の使い方間違えてるよって言われないかい?」
ゼフィランサスは口を痙攣らせながらそう呟いて、目の前の書類をざっと読む。
魔法は基本的に自分の身に何かあれば使う程度のものだが、ヒソップとリコリスは悪戯や遊びに心血注いでいた。
リコリスはそんな彼の呟きなんか聞こえてないかのように優雅に紅茶を飲む。
「へぇ。興味深い内容だね。でも本当に起こるかどうかは定かでないよね」
「ええ。ですから、可能性がるならと最初に申し上げました」
「分かった。君のその可能性がどれだけの確率で考えられてるのかは分からないが、退屈しのぎには丁度良い」
ゼフィランサス・カンジダはにやりと口を歪める。それを見たリコリスもまた、王子と同じように悪どい笑顔を作った。
次の日、リコリスは王子と共に王立学園に行きクラスでの自己紹介で、
『皆さま、はじめまして。リコリス・ラジアータと申します。しがない伯爵家の者ですので、短い間ですが仲良くしてくれると嬉しいです』
という普通の言葉に聞こえることを言ったが、あの大王国の者だからという理由で一線を引かれた。
それを的確に感じ取ったリコリスは、暇を紛らわすため人間観察を始めた。
そして数日後、リコリスはイベリス・センペルヴィレンス伯爵令嬢という風変わりな人間を見つける。一見、学園の何事にも興味を持って取り組みましょうという教訓に馴染んでるように見えるが、何事にも無関心を貫いている態度や雰囲気をごく稀に感じたのだ。
どんな人物なのか気になり自分で作り上げた影に調べさせると隠れて恋愛物語を書いているという情報を得て、さらに興味を持ち話しかける機会をずっと伺っていた。
今日、いつも一緒にいるアカシア・ビルバータ子爵令嬢が、授業が終わると同時に慌てたように帰っていったため、チャンスとばかりに話しかけた。
「イベリス様、少しお話ししたい事があるのですが、今お時間ありますか?」
「えぇ。……あの…こんな場所では人の目もありますし、サロンに行きましょう」
「そうですわね」
この王立学園のサロンは個別で持っているものではなく、共有式の個室というところにリコリスは驚いた。
一方で、イベリスはとても緊張していた。彼の国の貴族に目を付けられるような粗相を自分は知らぬ間にしてしまったのだろうかという不安に押し潰されそうで、手や足が震えによりまともに機能しそうにないのを悟りサロンに誘ったのだ。
ゼフィランサス・カンジダ殿下には王家のため苗字がありません。