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アルストロメリアとの食事会兼お話会をした二日後に、王宮からフロウへの留学についての説明書のような手紙が寮に送られてきた。それには、二週間だけ王都にある実家に滞在したのち王家からの迎えの馬車に乗りフロウへ行く旨が書かれていた。
終業式を終えたリコリスは一目散に家に帰った。学園の誰よりも早く帰れた自信があるほどに。
「お嬢様、お早いお帰り、嬉しい限りです」
家に入るとすぐに父の執事に満遍の笑みで迎えられた。
「久しぶりね。お父様は執務室かしら?」
執事が「はい」と言い終わる前にリコリスはすぐに歩き出し、父親に帰宅の知らせを済ませた。そして足早に自室に入り、侍女たちに仮眠をとると嘘をつき部屋から追い出した。
リコリスは部屋に鍵をかけて対人魔法を展開し、部屋中にある仕掛けを順番に触るとベットの下に階段ができる。少し埃っぽかったため手で口を押さえながら階段を降り始めた。
階段を降り終わると壁にある仕掛けをいじり、階段が外から見えないように閉じさせる。この地下のような場所がリコリスとヒソップしか知らない書斎である。
『北に2と1、南に4と4、東に5と3、西に10と7』
リコリスは順番に本を抜いていき題名を見る。
北に2と1は【傷物令嬢は隣国の王子に連れ去られる〜婚約破棄編〜】
南に4と4は【俺は公爵に成り上がる】
東に5と3は【暗殺者の失敗談】
西に10と7は【死んでもあなたを想ってる〜悲恋はつらいよ〜】
内容と題名に呆れたと同時に怒りが湧き上がる。
【死んでもあなたを思ってる〜悲恋はつらいよ〜】とはどういうことだ、ふざけてるのかとヒソップの頬を打ちたい衝動に駆られる。しかし、死んでも想ってくれるのは嬉しいなとリコリスは少しにやける。
基本的に彼はのほほんとしている人間だが、記憶力と武の技術は格別良いので本に間違いはないだろう。
「声がしたってことは、死ぬ直前に寮部屋に魔法をかけたのかな…。録音魔法と付着魔法、時間発動魔法ってところかしら」
正直、誰もいない部屋から亡くなった人の声がするのは不気味すぎるし、乙女の心情として受け付けれない何かがある。
この【暗殺者の失敗談】がある意味は、自分が狙われているのは知っていたという事なのかと彼女は考える。
ああ、しんどいなぁ。
ねぇ、あなたのいない世界なんてつまらないのに、なんで置いて逝ってしまったの?
今すぐにでも死にたい。
けど、とリコリスは思い直し、その前に復讐…しようかなと考えた。