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「久しぶりね、リコリス。まずはお夕食を取ってからにしましょ」
時間は進み、ここはロメリアのサロン。全体的に白を基調とした装飾品が置かれており、華やかさが演出されている。
「お誘いありがとう。本当に驚いたわ。ね、聞きたいことが結構あるのだけど」
「あら、もしかして今日は夜まで話す事になるのかしら」
ふわりとロメリアは笑う。吊り目の彼女が笑うと可愛さが破壊力が半端じゃないんだよなぁとリコリスは場違いなことを考え、他愛もない話をしながら夕食を取った。
「まずは…そうね。リコリス、あなた隣国のフロウに交換留学生として行く気ない?」
「突然ね。フロウなら行ってみたわ。でもどうしたの?」
「本当はわたくしが行く予定だったのだけれど、王太子妃教育がまだ完璧ではないっていう理由で行けなくなってしまって…。あなたに代わりで行って欲しいの」
「そう。良いわ。丁度この国から離れたかったのよ。何か月?」
「それが…言いにくいのだけれど、卒業までらしいわ。向こうで卒業証明書を貰って、フロウの第二王子と共にこちらに来て、私たちの学園の卒業パーティーに出るっていう予定よ。行くのは次の休暇明けから」
「長いのね。たしかにそれはロメリア様は行けないわね。承知のお返事しておいてくれるかしら?両親には後で手紙を出すわ」
「ありがとう。それで、ここから本題なのだけれど……。ヒソップ様の噂を聞いたことない?」
急な‘ヒソップ’という単語にリコリスは手に持っていたカップを落としかけた。
「ないわ。どういう内容なの?」
「それがなんというか…。ヒソップ様が借りられていたお部屋から決まった時間に『北に2と1、南に4と4、東に5と3、西に10と7』っていうヒソップ様のお声が聞こえていたらしいの。でもある日突然止まったようよ」
「『北に2と1、南に4と4、東に5と3、西に10と7』……。何時ごろに?」
「確か午後の七時だと記憶してるわ」
「そう。ありがとう。気になるわね。同じ時間ってことは魔法でもかかっているのかしら」
リコリスは優雅に紅茶を飲むが、内心はとても焦っていた。
『北に2と1、南に4と4、東に5と3、西に10と7』
これは彼女とヒソップが誰にも分からないように独自で使っていた暗号だ。分かりにくすぎて学園に入ってからは使わなくなっていた。暗号を解くには、リコリスのみが入れる隠れた書斎に入らないと解読できないからだ。運良く、来週から長期休暇である。
「リコリスが聞きたいことって何?」
「茶色の髪の毛で、目がピンク色の女子生徒知ってる?」
「えぇ。ちょこまかと鬱陶しい子ね。確か名前は…シレネとか言ったかしら?彼女がどうかしたの?」
「女子生徒たちの評価、どうなってるのかなと思って」
「あなたの想像に任せるわ」
それって嫌われてるをオブラートに包んでいるつもりなのかしら?とリコリスは苦笑した。