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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
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97.トリップした理由

改稿前のデータを誤って投稿していたので、19/9/24に差し替えています。



 過去の契約者や聖女が邪神討伐に失敗してきた理由。

 前回は契約者がいなかったからだろうけれど、さて、その前は?


「さっき言った通り、失敗の原因は基本的に神様にある。神様の準備不足。敵が強すぎた。

 例えば、聖女に与えられた『浄化』の威力が足らなかった。

 例えば、契約者の剣術の腕が足らなかった。

 例えば、聖女が回復魔術に特化していなかったせいで上手く『浄化』が使えなかった。

 例えば、共に戦う人間の力が足らなかった」


 紫音が具体例を挙げていく。問題は色々あったってことか。


「その中でも大きな原因になっていたのは、聖女の力が上手く作用しなかったこと。しかもこれって神様が匙加減できる部分だし……ま、だから神様の準備不足ってことなのね」


 紫音はパラパラと書類を捲り、「あぁこれこれ」と呟いて何枚かを抜き出す。


「とりあえず、徐々に準備が整ってきた前々回の反省点から。

 さっきチラッと言ったけど、この時は聖女が回復魔術専門になっていなくて、色々攻撃魔術を使っちゃった結果、『浄化』の威力が足らなかったんだって。

 そのせいでコアまで王杖が届かなくて、活動停止まで持っていくのが精一杯だった」


 外殻削るだけで力尽きちゃったのか。


「次、前回。

 異世界人ならいけるんじゃないか、って、あたしたちの世界から適性者を呼んできたんだって」

「は?」


 過去の聖女は同じようにトリップしてきた人だったの?


「何故、わざわざ異世界から人を呼び寄せた?」


 マークが難しい顔をしている。そう、それも気になるところ。


「この世界とあたしたちの世界は近い場所にあって、双方の情報が滲み出る。

 この世界の過去を客観的に知っていて、そこから邪神の対策を自分でも立てられるような人を選んだってことみたい。

 あとね、世界を越えてくることで神様との会話もより簡単になるとか何とか……実際あたしとしては効果がよく分かんないけど」


 紫音がこちらを見る。


「前の聖女さん、あたしたちの何十年か前に日本に住んでいた人だって」

「え? 現代人?」


 前回は300年前、だよね?


「うん、えーっと……近い場所にある二つの世界だけど、その時の聖女さんから見たこちらの世界は過去の話になっていて、でも聖女さんは何十年か前の人で……あー、もう、この辺はあたしもよく分からなかったからパス」


 私もこんがらがる。

 マークやシヴァは納得顔をしているから、まぁ何かしら理解したんでしょう。後で聞こう。


「とにかく、彼女は300年前の、更にその前の聖女たちの戦いを夢という形で見た。だから彼女は今から300年前のこの世界に呼ばれた」


 私が前回の戦いをゲームを通じて知っているように、彼女もまた自分の前の戦いを夢で見た。それで過去にトリップした……。


「ところがね、前回の聖女さんは、それまでの聖女さんにない役割まで求められて、パンクしちゃったらしいの。

 神様と会話して、更に夢で見た朧気な情報を整理して、そんでもって回復魔術や『浄化』を使えるように訓練して」


 そもそも聖女は邪神復活が近くならないとこの世界に現れることができない。

 時間がない中で全てをこなそうとしてまごついていた。


「だから当時の王家は、少しでも彼女の負担を減らそうと外部との接触を減らした。つまり、聖女の存在を隠した」


 紫音が少し眉を下げてシヴァを見る。


「クーデターが起こって、直後に邪神が復活して、その騒動で王家の人間が次々亡くなって、聖女はパニックになったらしいの。

 シャイン様が聖女を助けたけれど、彼は王杖を使えない。コア破壊には至らなかった上に二つに分かれてしまった」


 不幸が重なった。


「だから神様は、思い切った行動に出た。聖女の役割を三つに……ううん、聖女の本来の役割を二つに分けて、異世界人の役割も二つに分けて。つまり、情報を担当する異世界人を聖女とは別に選んだ」


 皆の視線が私に刺さる。今の話の流れならそうなるよね。


「滲み出た情報を元に作られたゲームを熟知している美和ちゃんが、その担当ってワケ」




 ******




 魔術のあるこの世界の人間の中から適性者を選び、回復魔術担当にする。

 神との接触がより容易な異世界から適性者を呼び、交信担当にする。

 異世界やこの世界の情報を持っている人間を、情報担当にする。


 エマちゃん。

 紫音。

 私。


 えええええ。何だそれ。頭が追いついてこない。


「エマちゃんは魔術師の家系でしょ?」

「えぇ、と、母方のお祖母様の家が、魔術の大家だそうです」

「ふむふむ。で、エマちゃん自身は攻撃魔術がなくても多少は戦えるんだよね」

「はい、これでも辺境伯の娘なので」

「……ということで、適性者の中でも回復魔術に特化させられる子が見つかりました、と」


 攻撃魔術がなくても邪神の前に出られるかどうか、か。共闘メンバーが守ってくれるだろうけれど、自衛手段がない子よりはある子の方がいいよね。


「で、あたしと美和ちゃんはセットで摘まみ上げられたんだって。仲良しで協力体制の敷きやすい二人組。

 あたしは聖女適性者。魔術適性も多少はあったから、神様との会話能力と水と土の魔術、識字能力がもらえた。

 そんでもって横にいた、情報を持つ美和ちゃん。ただし美和ちゃんはパラメーターを情報全振り? にしたんだって」

「お、おぅん?」


 変な相槌が出た。可哀想な目で見ないでください、フェイファーの皆さん。


「ゲームの情報、さすがに細かく覚えすぎだと思わない? これね、記憶定着がされたらしいよ。

 ただ誤算がいくつかあった。

 一つは、情報特化させたことで思った場所に上手く呼び出せなかったこと。草原で寝てたのはそのせい。最悪だよねー」


 ホントだよ、死ぬところだったよ。呼ぶなら呼ぶでその辺のフォローはきっちりしてもらいたかった。


「で、二つ目は、文字の読み書きは情報としてカウントされなかったこと。というか、情報あるんだから普通に読めるでしょ、って」


 読めないんだよ! 英語できないから!

 紫音に識字能力あげるなら私にもちょうだいよ!


「三つ目の問題が……えぇと、タイムパラドックス? で? 悩ませた? こと?」


 メモを見ながら紫音が混乱している。とりあえずメモした通りに読み上げろ、とシヴァが促す。

 本格的に混み合った話題になりそうで、私も頭がオーバーヒートしてきた。自分のことなのに。

 横のロイを見ても、やっぱり難しい顔をしている。だよね。

 不意にこちらを見たロイが、ほんの少し苦笑いして私の手に何かを滑り込ませた。

 飴玉だ。

 今日の装備品は飴だったみたい。会議中だけどそっと口の中に入れた。

 甘いミルクティー味で少しだけ疲れが取れた気がした。




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