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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
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93.馬車の中の作戦タイム



 馬車の中では簡易女子会が開かれている。

 簡易というか、まあ普通に女の子のお喋りだね。私と紫音はもう女の子という歳じゃないけど勘弁して。


 馬車の周囲は魔物除けの香がふんだんに焚かれ、外にはラルドやロイにシヴァというゲーム主力陣、更にはクルスト軍やフェイファー軍から選りすぐられた護衛さん。

 まず間違いなく魔物は寄ってこない。低レアエンカウントのエリアボスは出てくる可能性があるけれど、この地区のエリアボスはそんなに強くない。

 安心な中での移動だから、気分も緩むってもの。

 そうなるとお喋りに花が咲くのも必然。

 紫音とエマちゃんはとっくに仲良くなっていて、私たち三人は何の遠慮もなくきゃいきゃいと話している。

 紫音とシヴァの馴れ初め話に、エマちゃんとラルドの現状、そして何故か私まで惚気させられた。

 一通り恋バナをして満足したらしい二人に、ユタル神殿の情報を伝える。正しくは、ユタル神殿で起こるイベントについて、かな。


「門を入ったところに石造りの広場があって、そこで中ボス戦。広場を根城に門から手前の森までを縄張りにしていた大型の虎が、森から奥へ進んでくる気配を感じて殺気立っていたんだね。で、これを倒すと神殿の中には敵はいない」


 現実の中ボス戦では、三つの確認事項がある。

 ひとつ、本当にイベント通りに虎の魔物がいるのか。

 ふたつ、メインパーティー以外の人間でもキーになる魔物は倒せるのか。

 みっつ、私の情報から弾き出される敵の強さは予想通りなのか。

 先遣隊の動向によっては、メインキャラのラルドたちが戦わなきゃいけない。エマちゃんは既に聞いていると思うけど、紫音のためにおさらいだ。無事なまま待っていてもらわないといけないからね。


「虎を倒したら安全ってこと?」

「森は普通にエンカウントがあるから、完璧に安全なのは門の中だけだけどね。

 見た目は結構ボロいけど曲がりなりにも神様の縄張りなんだなぁと思ってた」


 もちろん、これも要確認事項。ただ、これに関してはだいぶ楽観視している。違ったら神様に「聖地じゃないのか」って文句言ってやりたい。


「で、奥へ奥へと進むと……実際には廊下の分岐先に宝箱があるんだけど、まぁまずないと思うから、私たちは一直線に祭壇のある大部屋まで進む予定」


 宝箱の有無も念の為確認。これは先遣隊の皆さんでやってもらうから、私たちには関係なし。


「祭壇前まで行くとイベント開始。一旦部屋を出たエマちゃんがティアラと聖女服へ着替えて再登場」

「ここからが本番ですね」

「えー、ゲームでお着替えタイムあったんだったら、実際にもそうしてくれれば良かったのに」


 やっぱり乗馬したかったらしい紫音が再度文句を言っている。その辺のゲームと違う動きは敢えて組み入れたみたいだから、考えたマークとかハーミッドに文句を言ってくれ。


「続けるよ。

 エマちゃんは祭壇前で黙って跪いてお祈り開始。暫くしてエマちゃんの周囲が光り輝いて、その光がエマちゃんに吸い込まれていくように収まる。で、さっきの中ボス戦で怪我をした四人に回復魔術をかけてみる」

「そうすると、より強い効果が出た、でしたね」

「そうそう。大回復とか復活とか、使える術が増える」


 紫音がはーいと手を挙げる。


「復活って、死んだ人を生き返らせるの?」

「さすがにそれは無理だと思う。ブルフィアシリーズ内の描写とか他のゲームとの共通点から考えると、戦闘不能っていうのは体力が尽きて意識不明で寝ているって感じかな。

 エマちゃんがいなくても戦闘終了後に回復薬を使えば体力を戻して『復活』できる。それが薬なしでできる、あるいは戦闘中でも戦闘不能から回復させられるのが今回得られる術」


 戦闘中はHP0表示で行動不能、ただし終了後はHP1で動ける。戦闘中に復活するためにはエマちゃんの魔術か特殊な回復薬が必要なんだ。


「そういう術が使えるって確認する方法は?」

「そこなんだよね。ゲームではステータスで確認できたり、実際の戦闘画面で選択肢が増えて分かったりするんだけど……現実でわざとHP0にするのも問題だし」

「片っ端から術をかけて調べるとしても、限度があるってことですね」


 その辺はブレーンの皆々様に丸投げ中。


「とりあえず続きにいこう。

 力が増したことが分かって、ケインがシャイニー様のところへ行こうと言い出す」

「ラルドの記憶とケインの魔力を戻してもらいに行くんですよね。それで二人は喧嘩を始める」

「そうだね。皆に最初から全部説明してあるから、ラルドとケインのいざこざは……」

「はい、解消されています。ラルドは、ケインが最初から打ち明けてくれなかったことがやっぱり残念だったみたいです。でも二人でしっかり話し合っていました」


 そっかそっか、ゲームのストーリーとしては物足りなくなるんだろうけど、人間関係はスムーズな方がいいよ。ゲームでは仲違いがあったからケインが過去の話を公表したんだけど、既に私が全部話しちゃってるからね。すれ違う必要はないんだ。

 お姉さんは少年たちが喧嘩するところはあまり見たくない。こっちが苦しくなるからさ。ゲームとは違う流れだけど、そこは変わって良かったと思う。

 エマちゃんの報告に頷いてから話を続ける。


「ティアライベントとしてはここで終わり。

 現実では、紫音にもティアラを着けてお祈りをしてもらうことになるね」

「で、回復魔術が使えるようになるかどうかと、ゲームには出てこなかった神様との話し合いができるかを調べる」


 紫音がうんうんと軽く頷く。


「まずはゲーム通りエマちゃんにやってもらって、確認してる間にあたしかな。うん、脳内リハーサルばっちり」


 サムズアップしてから、


「それじゃ、次の話題へ移ろうね。それはー、アロマオイルの新しい聖女セレクションでーす! ソニア様から頼まれてきました、やっふーぃ」

「わぁ、いいですね! 最初にお話聞いた時からずっと気になっていたんです!」


 再びはしゃぎ出す二人。

 私のもう一つの仕事だ。ありがたい。ありがたいけど……うう、三人くらいに分身したい。ゲーム担当と、オイル担当と、休む担当に!




 ******




 ソニア様から「ここから選んで」と渡されたという小瓶を、荷物の一角から取り出す紫音。

 この前トニーさんたちが報告したサンプルの中からいくつかを厳選したらしい。


「あたし、ハンドクリームは断然フローラル派だったんだよねー。だから好きなのはこの辺かな」

「あ、いい香り。でも私はこれが気になります」


 紫音がピックアップしたのはフランジパニ。あれだ、南国の香りだ。

 エマちゃんはバニラ。王道だね。私が最初に思い付いたきっかけだし、ちょっと感慨深い。

 一緒に荷物に入っていたソニア様の書類を読みながら、二人が選択した品の該当箇所にチェックを入れていく。多少原価が高くても香りを控えめにする等で対処云々と指示が出ている。ふむふむ。

 選んでからも何度も香りを嗅ぎ比べては楽しんでいる二人を横目に、まだ少し慣れない文字を追う。乗り物酔いしにくい体質で良かった。




 一通り書類を読み終えてから、今後のことを考える。

 原料エッセンスごとの作用確認や調剤手順はトニーさんとサッシュさんが担当してくれている。実売までの仕事、主にマーケティングはソニア様。実働は薬師室やエルフの皆さん。

 さて、それじゃあ私は何の仕事を任されているのだろうか。

 和平交渉の前は、種類を決める仕事を明示された。今回は「オイルの仕事から降りてくれるな」と言われてはいるけれど、実際の作業は何も言われていない。情報官に着任してからは忙しさからオイル仕事が進まなかったけれど、改めて考えると私が残る意味が見えてこない。


 一体、どんな仕事を行えばいいのか。

 馬車の揺れは眠気を誘う。少し気が抜けた状態の方が、アイデアは浮かびやすい。

 半分目を閉じて、思考の広がりに乗ってみよう。




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