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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
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92.ユタルへ向けて出発



 ユタル神殿へ出発する日の朝、ロイと職場で待ち合わせ。

 すぐに出ると言いつつ何枚かの書類を纏めてクリップで留めてから、ロイが席を立つ。


「仕事、昨日中に終わらなかった?」

「いや、そうじゃない。これは別口だ」


 私の情報の筆記以外ということは、護衛の仕事の方か。


「今回は俺も一緒に行くから問題ない。ただ、今後別行動をとる時のことは考えとかなきゃならんからな」

「え、別行動するの?」


 もしかして護衛を外される?

 その疑問は即座に否定された。けれど、ロイの顔は微妙に曇ったまま。


「お前がなるべく安全な場所にいられるよう、頼んどく。……不安だよな、悪ぃ」

「ううん、違う。いや、違わない、不安はあるけど」


 それは勿論、不安はある。

 でも、最初に森へ行く時にはあんなに心配していたロイが、こう言ってくれることが嬉しいとも思ってしまう。

 生まれたての乳児を守るかのようにただ単に深く匿って過度な心配をするのではなく、一緒に手を繋いで歩く時に車道側に立ってくれるような守り方だ。同じ方向へ向かって歩きながら、こちらを気遣ってくれる。たまに手を繋いでくれる。自転車が来たら引き寄せてくれる。

 いくら甘える相手がいても、私はやっぱり自分の両足で立つのを止められない。だからこれくらいが丁度良いのかもしれない。我ながら面倒臭い願望だと思う。


「つまり、私の護衛よりも重要な任務が出てきたってことでしょ?

 ロイは強い。こんなに強い人をいつまでも私が独占するなんて駄目だって分かってる。レオナルド様が戦局を見て指示するのであれば、私もそれに従って仕事をするだけだよ」


 物わかりのいい私の言葉に何を思ったのか、ロイは口を尖らせてから私の頬を突いて、部屋を出て行く。

 慌てて後を追うと、すぐにレオナルド様の執務室から二人が揃って出てきた。


「さあ、行っておいで、ミワ。神殿の様子もしっかり観察してくるんだよ?

 ……それにしても、こうして見るとなかなか様になっているね」

「褒められていますか?」

「勿論だとも」


 顎髭を撫でながら微笑むレオナルド様が指摘したのは、今日の私の服装だ。

 ゲーム中の五人は普段通りの服装で神殿へ行ったけれど(服装差分なんて実装されていなかったから当然だね)、今回エマちゃんと紫音は聖女のドレスで向かうそうな。

 ちなみにエマちゃんの分のドレスは戻ってからすぐ急ピッチで作られたらしい。お針子さんたちお疲れ様です。


 で、私の服装。今日は私も少し気合いを入れてきました。


 一昨日、紫音と二人で服やメイク用品を揃えた。もとい、揃えてもらった。

 元々デート着を買うつもりだったけど、きちんとした仕事用の服も一緒に一式揃えた。今日はそれを着てきたというわけ。

 ここに来た時のオフィスカジュアル風に、堅苦しくなりすぎず、ラフになりすぎず。変に目立たないよう、適度に控えめに。カットソーに一つ釦のテーラードジャケット、クロップドパンツ。ジャケットはグレー、カットソーは薄いラベンダー、パンツは濃紺。黒いパンプス。

 まさしく会議の日の出勤コーデだね。


 さすがに普段のファストファッションじゃどうなのかなって思ったのもあるし、外に出る時は多少なりとも格好を整えるのがポリシーでもあるし、それに。

 チラリとロイの服へ目をやる。

 護衛として動く前提だからか動きやすそうな服ではあるけれど、襟付きのジャケットを羽織っているから多少フォーマル感が出ている。

 私が気にしていたのは色でしてね。ロイの服は前に森へ行った時と同じような感じだった。暗めの配色、臙脂や茶色がメイン。

 ……良かった、被ってない。ここでペアコーデとか恥ずかしすぎて死ぬ。


 ロイとは別々に自分で買うのなら、よっぽどのことがなければ揃わないはず。その予想は当たった。

 こうね、ペアコーデが嫌とかそういうのではなくてね、単に仕事場に持ち込みたくないというかね、うん。

 私の変なこだわりなんて知らないだろうロイが、レオナルド様と一緒にうんうん頷いている。


「ミワは正装がないもんなぁ。レオ様、その辺どうなんだ?」

「あったところで着ない奴もいるからね。目の前の誰かさんのように」


 ロイには護衛としての正装が与えられているらしい。嫌そうな顔をしているのは、動きにくいからか、ファッションとして気に入らないからなのか。


「ここは王宮でもないから緩いものだよ。ドレスコードなどないに等しいし、必要な時に必要なものを仕立てればいい。そうだね、例えば国王陛下への謁見にはドレスが必要だろう」

「謁見? 私がですか?」

「例えだよ、例え」


 心臓に悪いのでそういう例え話はよしてください。


「今回も、メインは聖女二人。それ以外は重視していない」


 スッと目を細めたレオナルド様が、手元の書類に視線を落とす。


「ゲームの情報通りなら、あの場には魔物が巣くっているのだろう? 先遣隊をやって駆除に当たらせているが、どうしてもとなれば君たちで対処してもらう必要がある。

 服装を気にして身を危険に晒すのは本末転倒だ」


 そうだ。神殿は中ボスに相当する魔物がいる。

 あらかじめ分かっているから準備をしてあるし、おそらくは問題なくやっつけているとは思うけれど……。

 足元を見る。

 ローヒールでベルト付きにしたから、ここに来た時に履いていたパンプスより多少は動きやすいはず。いざという時でも、多分、大丈夫。


「大丈夫だ、非戦闘員を守るために護衛がいる」


 私の考えが分かったらしい二人が、安心させるように笑ってくれる。


「そもそも俺は何があってもお前を守るから」


 ロイの言葉に、レオナルド様が堪らずといった風に吹き出す。

 堂々といちゃつくねぇ、という言葉に、私は耳が赤くなったのを自覚した。




 ******




 白いドレスを着ているのに馬に乗りたいとぶーぶー言う聖女二人。


「何でよー、あたし従軍してた時ちゃんと馬に乗ってたでしょ?」

「私も乗れますよ?」


 シヴァが溜息を吐いて馬車のドアを開ける。


「シオン、あなたが乗馬していた時はその服装ではなかっただろう?」

「だったら今回も向こうで着替えようよー、あたし馬乗りたいよー」

「私も乗りたいです! 風が気持ちいいし、外の様子が見やすいし、機動力があるから馬車で身動き取れなくなるよりむしろ安全じゃないかな?」


 どこかで見たな、これと同じようなやりとり。あー、これソニア様が国境会議場に行く時に見たやつだー。……と私は遠い目をする。この三人ホントに似てるわ。

 オロオロしている護衛さんたち、笑って見ているロイ、本気で馬を探しに行きそうなラルド、困った顔をしているシヴァ。馬車のドアから手を離して……あれ、これ、シヴァが折れそうな雰囲気?

 つかつかと紫音の元へやってきて、


「うわぁっ!? ちょっ、シヴァ、待って待って!」


 紫音を横抱きに抱き上げた。そのまま馬車の中へと強制連行。

 それを見たラルドがすかさず真似てエマちゃんを馬車送りに。

 その手際をほわーと呆けて見ていた私だったけれど、急に視界がぐるんと変わって、紫音と同じような叫び声を上げてしまった。何事!?


「じゃ、これで三人押し込んで出発だな」


 ロイに横抱きにされたんだと理解した直後に、シートへと下ろされる。


「おかしいよね、私は馬車乗るの抵抗してなかったよね!?」

「対抗心が芽生えた」

「おかしいよねー!?」


 すぐさま動き出す馬車の外で、呆れ顔のハーミッドが手を振っていた。

 ペアコーデじゃなくても恥ずかしさで死ねる。




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