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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第一章 ゲームの世界へ、こんにちは
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9.シリアスな気分は早めに振り払うよ



 食堂で、明日からお世話になる旨とまだ手持ちの金がない事実を打ち明けたところ、三食賄いありと言ってもらえた。まだ仕事を始めていないのに、今日の分も賄いを出そうと、ありがたい申し出まで。さっそく頂いて腹拵え。

 ゲーム内で見慣れた道を通りながら、ざっと周囲の様子を見てみると、気のいい人が多い印象。小競り合い程度とはいえ戦は始まっているのに、城全体の雰囲気もまだ明るい。

 急遽与えられたはずの独身寮の部屋は最低限の物が揃っていて、慌てて買い物に行かなくてもいいようだった。何着か服まで置いてある。レオナルド様の指示かな。

 大衆浴場でドロドロの身体をスッキリさせ、一気に疲れた身体を引きずるように部屋まで戻った。

 本当に本当に、ほんっっっっとうに大変な、怒涛の一日だった……。

 でも、ひとまずの命の危機は去った。それどころか快適に住む場所と職まで得て、衣食住の心配がない。これは現段階では最上の結果だろう。




 脚のマッサージをしてからベッドに転がり、馴染みのない天井を見上げながら、色んなことを考える。

 明日からの生活のこと、これからのストーリーのこと、元の世界への帰り方のこと、紫音のこと。

 そして、目を逸らしてはいけない事実について。


(私は。――――私は、これでいいのかな)


 自分が生き残るために。ストーリーを狂いなく進めるために。

 分かっている戦いを見て見ぬふりをする。

 それは、たくさんの人が命を落とすのを、見殺しにするということ。

 それでいいのか。それしかないのか。


 分かっている、戦争はもはや止められない。どうしたって犠牲は出る。

 だけど、自分が積極的に動くことで、救える命はきっとある。

 ストーリーに拘らなければ、悲しい思いをする人を減らせるかもしれない。




 親を亡くした時を思い返す。

 高速道路での玉突き事故。きっかけは、異常に飛ばしながら車の間を縫って走る、酷い運転の車だったらしい。

 危険運転をした車は難を逃れ、とばっちりを受けた両親は亡くなった。


 積み重なった数々の偶然に対する怨みも、一人残された悲しみも、その後の現実的な苦労も、私は知っている。

 それなのに、見殺しにできるのか。


 私が積極的に動くことで、戦局が乱され、当初のストーリー以上の犠牲が出るかもしれないから。だから仕方ない。

 そう言い聞かせるしかないのか。




 悩んだところで答えは出ない。

 決めるのは自分。




(ねぇ、わいわいキャイキャイ、好きなキャラクターや世界と戯れるだけじゃダメだったの? 全て夢の優しい世界じゃダメだったの?)


 これが夢であれば、どんなにいいだろう。

 両手で目を覆ったまま、私はいつの間にか眠りに落ちていた。




 ******




 そうだよねー夢じゃないよねー。薄々分かってたけど!




 一晩寝たら、気持ちが落ち着いた。やっぱり睡眠は大事だね。

 仰向けになったまま少し伸びをする。筋肉痛はとりあえず太腿と足の甲、背筋。これくらいなら許容範囲内の痛さ。

 そのままストレッチをしながら、昨日出会った人たちのゲーム内でのデータを、改めて思い出してみることにした。




 レオナルド・ウォーレン・コールマン。後ろへ撫でつけた栗毛とイエローブラウンの瞳を持つ紳士。

 54歳で辺境伯家現当主。主人公軍――クルスト軍の司令官。隠し武器を仕込んでいるが、普段は長剣使い。

 ヒロインを含む三人の子供と妻がいる。愛妻家。


 マーカス・ベルフォーム。通称マーク。

 コールマン家と同じように、他領の領主を務める貴族、ベルフォーム家の切れ者。顔つきと目がいい、とのことでレオナルド様直々に軍師職を要請された。軍師だが護身用に短剣も扱える。

 32歳、スッと伸びた背筋、青っぽいセミロングの黒髪に白い肌、切れ長なブルーの目をしたイケメン。

 

 ロイ・ファング。35歳。元孤児。

 軍の主戦力である傭兵隊を若くして纏める実力者。少し癖のある赤毛を刈り上げ、オリーブ色の眼をしている。日焼けした肌にがっしり筋肉。

 酒好きで陽気、弱い者に優しいが戦場では容赦ない。

 主人公――ラルドと、その幼馴染みでナビゲートキャラのケインをクルスト軍へ連れてきた。主人公パーティーに参加する時は戦士ポジションのステータス。




 うん、こうして改めてみると、初期プレイ当時すごく大人に見えたキャラが、だいぶ身近に感じられる歳になっちゃったんだなぁ。最近のプレイでもちょっと感じてたけど、目の当たりにするとなおさら。

 まーねぇ、10年も経てばね……。

 

 実際にこの世界に来て身に染みたことがもう一つ。

 そもそもがゲームだからか、基本的に皆顔がいいんだよね。髪の色や肌の色は現実世界と似た感じなのに、そりゃもう世界が華やか。

 食堂のコックさんや兵士さん、侍女さんたちは、ゲーム内のあちこちにいたはずのモブキャラだろう。それでも整った顔をしている人ばかり。

 あぁ目の保養。

 私もそこまで飛び抜けて不細工でもないから、周囲に馴染める程度だと思いたい。




 うん、ゲームを思い出すと、なんだか少しウキウキしてきた。この際開き直ろう。

 昨日は夢だと思っていたけど、それが異世界旅行に変わっただけ。

 ブルフィアの世界に来たなら、とことん楽しまないと損だよ!


 私はたくさんいる避難民の内の一人だけど。

 もし叶うのなら、ちょっとばかり大好きなキャラクターと仲良くしたっていいよね?

 ロイとは飲む約束(一方的だったけど一応あれは約束だよね)したし、機会があれば主人公ラルドやヒロインのエマちゃんとも会ってみたい。主人公パーティーで魔戦士キャラ担当だった美人騎士のセリアだって見てみたい。


 シリアスに沈むのはもうおしまい!




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