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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第四章 設定・小話まとめ 【第三章の時期のおはなし】
87/132

87.改造計画

77直前と85直前の時系列。



 紫音がメーヴに来たことで、高校時代みたいに毎日顔を合わせることになった。

 とは言っても、大浴場に一緒に入るとかそんなベッタリではない。マークと話ができなくて自主勤務に近い私と積もる話をしたり、ご飯を一緒に食べたり、そんなもの。

 で、真面目な話以外、つまり世間話は、勤務時間後に食堂兼酒場で夕食食べつつお喋りになるんだよね。

 普段の定期飲み会では『近況』『職場や仕事の愚痴』『恋愛話』が主な話題。

 今はそれ以外の話題が多い。いや、恋愛話はしてるか。シヴァと紫音の馴れ初めを聞いたり。それ以外は、メーヴ城のあれこれとか、少しだけ見た城の外とか、知り合った人たちとか、そんな四方山話。

 そう、人間関係。大きな変化がありましたよね。ええ。


「紫音に報告があります。彼氏ができました」

「マジで!?」

「マジで」


 私の片思い遍歴を知っている紫音だから驚くよね。


「え、あたしにも紹介してもらえる感じ?」

「紹介も何も、もう会ってるよ」

「マジで!?」

「マジで」


 ビール最後の一口を飲んでからジョッキお代わりを控えて、私へと身を乗り出してくる。


「で、誰」


 ……いざとなって自分から打ち明けるのって、何か照れるね。

 頬に手を当てて視線を彷徨わせていると、


「久々に恋する乙女が見られた」


 とか笑われた。何さ乙女って。そんな歳じゃないでしょうに。




 とりあえずロイとの話をつらつらしていく。


「美和ちゃんのノロケ話を聞けるなんて感無量だわ」

「惚気てた?」

「うんうん、ワイルドなのにジェントルだってよーく分かった」

「あ、まさにそれ。懐広いの」

「しかもカッコいいしね。あたしのタイプではないけど。

 だって大き過ぎるよー、並んだら捕らえられた宇宙人みたいになる!」


 そこまでじゃないと思う。

 でも、小さいなら小さいなりに、大きいなら大きいなりに、私たちそれぞれ悩みがあったもんね。

 小さくて可愛い子だったらすっぽり抱き締められちゃうだろうな、って、そればっかり気にしてたけど。それは双方が「そういう相手がいいな」って思った時じゃないと実現しない話。

 幸いにもロイは私がいいって言ってくれて、私もロイとの体格差が丁度いいなって感じていて。襟ぐりに顔が当たったことを嬉しく思うのは、きっとそういうことだよね。


「うんうん、その調子でたっぷりノロケてね。たくさん聞いたげる。

 でもさ美和ちゃん、あたし、ちょーっと気になるんだよねぇ」


 ふーむ、と腕を組んだ紫音が、


「よし、ノロケタイムは一旦終了。次からは美和ちゃんの改造計画へ移ります!」


 と、ビールのお代わりを取りに席を立った。

 何です、改造計画って。




 ******




 数日後の夕方、私の部屋――格好良く言うと私室、分かりやすく言うと独身寮の一部屋――へと集合した。もし缶ビールや缶チューハイにおつまみ持参していたら、完全に元の世界の家飲みだよね。さすがにそれはなかった。

 元々住んでいた1DKマンションと同等かそれ以上の部屋。ざっと眺めて大雑把に確認した紫音は、迷わずクローゼットへと足を向ける。


「開けるよ?」

「どうぞ」


 見られて困る物はないし、何がしたいか何となく感付いたこともあって、素直に頷く。

 私の予想通り、紫音は私の持っている服を次々と広げていく。更に脱衣所の洗面台を覗いて化粧品一式を持ち出してきた。


「ふむ」


 腕を組んで頷きながら、いくつかの服を横に除けていく。ロイに買ってもらった服だ。


「ふむ、ふむふむ……美和ちゃんにいくつか質問でーす」

「はい、何でしょうか師匠」

「メイクアップ用品がほとんどないのは何で? 会社に行ってた時はメイクしてたよね?」


 数の少ない化粧品を指差しながら、紫音がむぅっと口を尖らせる。

 理由はあるとも。


「最初はキッチンの仕事してたって言ったでしょ? 汗と蒸気でドロドロになるんだよね。下手すると目に入って痛い」

「なるほど。でも、キッチン辞めたんだからもうメイクしてもいいよね?」

「そうなんだけどさ。残念ながらコック見習いやってた時に、大抵の人とはノーメイクで会ってるんだよね」


 紫音が「あちゃー」と言いつつ両手で顔を覆う。


「つまり、今更だからもういいやって感じ?」

「イエス」

「すっぴん見せても平気なの?」

「だから今更というか……そもそもここの人たち皆が皆美人過ぎるから開き直ったというか」


 ロイやマーク、レオナルド様やキャスパー王子に至っては、初見がドロドロ血塗れで化粧剥げした状態だったしね。それに比べればすっぴんでも上等な気がする。


「とりあえずメイクに関する現状は分かった。じゃあ次ね。

 聞いた話からすると、こっちの服がロイさんにプレゼントされた物ね?」

「イエス」

「他のデート服は?」

「ない。いい加減自分で買いに行こうかなって思ってはいたけど」


 そう、会談の前に自前で買わなきゃとは思ってたんだよ。思ってはいたんだよ。機会がなかった……っていうのは言い訳だよね。


「そっかー。じゃ、最後の質問。

 今自分が使えるお小遣いはどれだけある?」


 あ、はい。買いに行くんだね。

 ちょっと笑ってから、財布を取り出した。




「よしよし。お店が遅くまで開いてて良かったよ」


 紫音の納得いく買い物ができたらしく、両手に荷物を抱えて満足そうな顔をしている。


「明日の朝、神様とか聖女とかの話を聞きたいって言ってたよね。で、明後日がユタル神殿へ行く日。

 よーし、じゃあ明後日、今買ったのを使おう! 明日の夜に一緒に練習ね!」

「練習ですか師匠」


 練習がいるの? 一通りは使えるはずだよ?


「当然でしょ? 色の乗せ方とか組み合わせ方とか教えてあげるから。パックも買ったし、コンディションばっちりもちもち肌にしておかなきゃ。あとは例のオイルでマッサージして進ぜよう」


 聖女が本業以外で張り切ってる……。


「せっかくロイさんとお出掛けなんだし、神様にも会うんだし、綺麗にして行こうよ」

「いやお出掛けっていうか仕事……」

「普段着で外に出るより気分アガるって。きちっとした正装じゃなくても、オシャレするだけで移動もプチ旅行に変わると思うなー」


 どこかで聞いた話だよ?

 やっぱり、ロイと紫音ってちょっと似てる。それを嬉しく思う自分がいる。

 どっちも大切な人だからね。




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