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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
85/132

85.神と聖女

今回長めです。



 ユタル神殿訪問を明日に控え、私は……というかロイとエリオ君が、書類と格闘している。少なくとも今日の昼には一通り纏めて提出しないとね。遅れれば遅れるほどレオナルド様とマークの残業が増えるもの。

 ゲームの情報は一通り文章にした――もとい、してもらった。だから次は紫音を招いて話を聞くことにしたんだ。

 先日ロイにこの世界の話を教えてもらって、もう少し詳しく知りたいと思ったこと。それがこの世界の宗教について。そして神と関係する聖女についても話を聞きたい。


 真新しい執務室を興味深そうに見回しながら、朝イチで紫音がやってきた。一緒に来たのはシヴァではなくハーミッド。

 ロイがひょいっと手を挙げて挨拶するのに、ハーミッドが珍しく頬を緩めた。……え、いつの間に仲良くなってたのあなたたち。そういえばロイって、ゲームでも割と誰とでも仲良くなるタイプだったか。


「お茶にする? それともコーヒー?」


 エリオ君が初日に作ってくれたちょっとしたミーティングスペースへ二人を促す。ソファだと書類書くのに不便だよね。

 出向秘書官(その実、雑用係)のエリオ君は若いのに有能で、こんなのが欲しいと説明したものを初日のうちに全て準備してくれた。ありがたや。


「あたし水でいいよー。っていうか、水魔術の飲料水、やってみたかったの」

「なるほど。じゃ、水差しとコップだけだね」


 紫音がワクワクしながら魔術を操って全員分の飲み水を出してくれる。


「じゃ、これに関連した話からしようか。やっぱり紫音は回復魔術を使えないまま?」


 念の為、メーヴへ来てからエマちゃんに教えてもらい回復魔術を試したらしい。結果、やっぱり無理だったとのこと。

 会議場で話したように、聖女だからといって回復魔術を使えるとは限らない、ってことか。回復が使えるエマちゃんと条件が違うのは、ユタル神殿に近付いたかどうか。


「それなら、また明日神殿に行った時に試してみるといいよね。どうせなら神様に直接お願いしてもいいんだし」

「そう、ちょっとそこが気になるの。ゲームでは神と話していた描写がなかったんだよね」


 ハーミッドが握り拳を口元に当てる。


「我々は何の疑いもなく『聖女様は神と対話可能だ』と考えていたな。ティアラを着けていないシオン様は、神官と同等の能力だった」

「つまり、意思をボンヤリと感じられる程度?」


 紫音とハーミッドが揃って頷く。


「ティアラを着けた状態だと、神の意志は多少明確になったとのこと。であれば、ユタル神殿……つまり神との距離が近い場所であれば、会話できるはず」

「でもゲームの話を聞くと、本当に話せるのかあたしにも分かんなくなってきたなー」

「ティアラの力が解放された時にどう変わるかか」


 ロイの呟きに、ハーミッドが頷く。


「それも現地で確認か。で、ミワの聞きたいことは他にもあるんだろ?」

「うん。ゲームではほとんど語られていなかった、神の話について」

「でもそれって、話の大本じゃないの?」


 紫音が首を傾げる。


「神vs邪神っていうのは明確なんだよね。で、邪神は放っておくと世界を滅ぼすから斃そうね、っていう。

 ただね、神の言葉は一度として出てきていないの。そんでもって、邪神についても『強大な世界の敵』ってだけ。国同士の戦いだとか、国内でも対立し合う同士の戦いだとか、その間に過去の話が挟まりつつ、どんどん強くなっていく魔物へ立ち向かっていく……って流れなの。基本は人同士のドラマなんだよね。

 神と邪神については触りだけ」


 この世界はどうやら一神教らしい。少なくともビエスタやフェイファーは同じ神を信仰している。フェイファーの一部に狂信的な神官一派がいるとか、モブ市民が「神の思し召しだ」みたいな台詞を言うとか、そういう表現がある。

 邪神は、古くから何度も封印されてきた敵。神が邪神に使う魔術――『浄化』をエマちゃんに授けたことで、完全に対立していると推測できる。

 じゃあ、どうして神と邪神が対立しているのか。何故神は直接対決しないのか。

 聖女という存在が邪神と共に現れるのはどうしてか。

 滅多に現れないはずの聖女が民衆に普通に受け入れられているのは何故か。

 ゲームしている時には何気なくスルーしていた話が、聖女二人という齟齬が出てきたことで、何か重要なキーになっているんじゃないかと疑問が出てきたんだ。


「そもそも邪神封印の話を進めているのに、今更気付いたのか」

「まあまあ、そう言うなって。ミワには情報がある分、先入観も出てきちまうんだろ」


 ロイの言葉に呆れたような溜息を吐いて、


「仕方ない。私から一通りの説明をしよう」


 ハーミッドがコップの水を飲み干した。




 ******




 神はこの世界を作った。

 神を羨む邪神が現れた。

 邪神によって地は混乱に陥った。

 混乱を鎮めたいと神へ祈り、契約を交わした男がいた。

 そして神の使者として聖女が降臨した。

 二人は協力して邪神を封じた。

 世界は安寧を取り戻した。


 ――これがこの世界の神話の基本。

 天使とか預言者とかそういう存在はないらしい。その辺の役割が全部聖女という存在に纏められている、と。

 神話の真偽はさておき、実際に、契約者の血筋(つまりクルスト王家)と降臨する聖女の両者が共闘するという歴史が残っている。調べが付く限りでも千年以上前から。それが数百年ごとに繰り返されているらしい。……凄いな、文字で「前回」「前々回」って見るよりも衝撃を受ける。

 ただ、神話は広く根付いているけれど、これが事実だと知っているのは極一部の家系のみ。……だからレオナルド様は情報開示に慎重になっているんだよね。

 聖女のいない間は、神官が神の意志を感じ取る。普段は「もうすぐどこかで天災が起こる」「今年は安らかな年になる」といった、確かに助かるけれどそのものズバリではない事柄がほとんど。一番大きな役割が邪神復活と聖女降臨の予兆感知だけど、期間が長く空く分、眉唾物だとする神官もいるらしい。


「狂信派の存在は知っているな? 穏健派もいれば、単なる職業として割り切る奴等もいる。神職は意外と纏まりがない。ただし能力は本物だから、何らかの不正をする隙はない」

「フェイファー以外に神官がいるって表現がなかったけど、そこはどうなの?」

「能力あるものが集った結果のアルバーノだったからな。それ以外で生活しようにも、力が発揮できないのだろう。アルバーノから離れれば離れるほど神の意志が感じられなくなるという」


 で、その例外が聖地ユタル神殿なんだね。

 寂れた理由はそこにありそうだ。アルバーノと国境を挟んでしまったことで、大神殿と行き来することが難しくなる。重要な場所であっても、それを何百年も数少ない神官でやりくりするのは厳しかったんだろう。国としても、神官がいなくなった場所に先の見えない投資をし続けることができなかったんじゃなかろうか。結果、世話をする人は地元住民の有志のみ。

 聖地とはいえ、邪神の話さえなければ廃神殿。フェイファーもある程度捨て置いていたと。それが今回の復活騒動で重要度が高まった。


「ユタル神殿で何をするのか、具体的なことは伝わっていたの?」

「そも、フェイファー皇室としては、契約者抜きに聖女様のみで邪神封印を成していただくというのが方針だ。ユタル神殿で改めて神との契約を。それは過去例のないことだから、具体的な行動に関しては『ティアラと共に』程度だ」


 フェイファーとしても、ぶっちゃけ行ってみてから考えよっか! って感覚か。

 私がそう言ったらハーミッドの顰めっ面が復活した。ごめん。


「でもさ、実際シヴァはそんなこと承知してるの? 紫音溺愛状態でしょ? 聖女一人……紫音一人に邪神を何とかさせようなんて、シヴァが許すと思えないんだけど」

「だから造反したんだ」


 皇室は未だに聖女だけを犠牲にしようとしている。神との再契約が上手くいったら外交カードとしても使い始める。無理そうならビエスタの賢者シャインに通達して邪神対応に当たらせる。

 聖女を擁すべきは神聖国。だからこそ周辺国は皆、聖女のために、ひいてはフェイファーのために動かねばならない。

 ……それが皇室の意見。


「シオン様が戦闘回避してユタルを目指すと方針を固めた。であれば、クルストとの融和は絶対だ。それによって契約の可否がどうであれ賢者シャインとも連絡が容易になる。

 そして、少なくともビエスタに封じられた邪神に関しては、相当の戦力も期待できる」

「紫音の危険を相対的に下げようとした?」


 頷くハーミッド。


「一番良いのはシオン様……聖女様が参戦せずとも邪神封印を達成できること。シヴァと私はその情報もユタルで得られればと考えている」


 ペンを走らせていたロイが、頭の後ろで手を組んで反り返る。


「神殿で試したいことはだいたい纏まってるってことだな。

 で、邪神についてはどうなんだ。確かに神話は知ってるが、それ以上のことは?」


 ロイの言葉に、ハーミッドが静かに首を横に振る。


「神官や聖女様の繋がりで、神の存在は明確だ。だがミワの言った通り、神と邪神が対立している理由や、直接対決しない理由に関しては不明。

 実際に歴史書を持つのは皇帝陛下や皇太子殿下だから、そこで情報が止まっている可能性はある。が、伝わっていない可能性が高いと見ている。隠す必要性が見当たらない」

「聖女の威厳が減るからとか」

「だとしても、聖女様が神から遣わされたのは間違いない。神自身によって邪神封印が為され役割が減ったとて、神からの使者というその一点で神聖国は優位に立てる」


 ハーミッドのグラスにお代わりの水を注ぎながら、紫音が疲れた顔をする。


「政治云々も外国の現実も分からなかったから、お世話になった皇王様たちに恩返ししたいなーって思ってたけどさ。聞けば聞くほど面倒な話よね。

 あたしはシヴァに付いてくって決めたから余計に、こういう話は面倒の極みよ」


 紫音の頭を撫でくり回す。へにょんと笑った紫音に、私も少し眉を下げた笑みを返した。




 ******




 私たちは、ユタル神殿へと出発する。

 聖女の力を、ティアラの力を解放するため。

 邪神を封印して、世界の危機を防ぐため。

 全てはここから。


 でだ。


 私はそこで、びっくりする事実を伝えられたんだな。




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