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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
84/132

84.オイルプロジェクトという通称はどうなるのか



 奥の侍女さんと共に、ソニア様の執務室まで通された。こんなに奥深くまで来たのは初めて。

 この執務室は勿論ゲームで見たことがあるんだけど、表にあるレオナルド様の執務室よりも豪華な感じ。


「ここもレオの執務室よ? 今は私が間借りしているだけ」


 私が目を丸くしていたからか、ソニア様が笑いながら教えてくれる。

 ソファセットでいつものようにお茶を準備され、壁際に侍女さんが並んだところでスタート。


「ビエスタにも取引を持ちかけようと思っているのよ」


 国へ買い上げてもらうってことかな?


「フェイファーだけを特別扱いできないのよね。それならどちらにも特別な品を流してしまえば良いの」

「でもそれって、フェイファーとの約束を破ることになりませんか?」


 ソニア様は「ふっふっふー」と楽しそうに笑う。手で口元を隠してはいるけれど、完全に悪戯っ子の雰囲気ですよ?


「フェイファーへは、香り二品を自由にしてOK、と言ったのよ。つまり、それ以外ならビエスタへの優先販売も可能なのよねー」

「で、具体的に何を出すんだ?」


 ロイが紅茶のカップを戻しながら先を促す。やっぱり新しい香りかな?


「そこなのよ。ここ暫く私主導で市場調査をやっていたでしょ? その結果を受けて。

 ビエスタ国へは、ジェルタイプを優先販売するわ」


 単なる思い付きが重要な役割になったよ? 二度目だよ!?

 私の反応を見ながら、ソニア様は綺麗に目を細めた。




 ******




 そういえば元の世界でもあったなー、食べながら講義するランチョンセミナー。

 夕食だから、ディナーミーティングとか? そんな言葉あるかな?

 とにかく、今日は夕食の席でのオイルプロジェクト会議。

 トニーさんたちは普通にのんびり食べたいだろうに、付き合わせて申し訳ない。


「食べながらデスクワークしたり、なんなら食事抜くこともあるからさ、気にしなくていいよ」


 トニーさん、いくら仕事大好き研究者でも、それはさすがにおかしいと思うよ。

 分かる分かると、サッシュさんと何故かロイまで頷いているけれども。いや、うん、おかしいと思うよ! 皆、ご飯は大事だよ?




 食べてる最中に強い香りの物を出してくるのは周囲に迷惑だから、鼻先に近付けないと分からないくらいの極々小さなサンプルを使用。食後のコーヒーを飲みながら確認していく。


「香り優先で、更に候補を増やしてみたんだよね。この辺とか」


 トニーさんの言葉を受けてサッシュさんが取り出した出したサンプル。ストロベリーやブルーベリーがある。


「花や葉っぱじゃなくても作れるんですか? 果汁を絞ったとか?」


 私は食品香料として馴染み深いけれど、あれは確か本物成分よりも合成成分が多かった気がするし。どうやって抽出したのかな?


「オレも見せてもらったんだけどさ、あれ凄いぜ。エルフの魔力をかけることで、エキスを濃縮抽出してるんだ」

「? 上手くイメージできない」

「瓶の外から、こう、ぐわーっと」

「もう少し提出書類風にお願いします」


 トニーさん曰く、材料を特殊なガラス容器に詰め、外側から魔力を注ぎ込む。それによって超高濃度のエキスが容器に繋がった小瓶へと溜まっていく……らしい。仕組みはトニーさんもよく分からないとか。

 必要なのはエルフの魔力。エルフ薬師でなくても可能。

 材料が少なすぎるとエキスは上手く抽出できないから、最低限の原料を準備する必要がある。


 水蒸気で抽出したり、オイルに浸して抽出したり、といった手段かと思っていたら、まさかの魔力経由。異世界人じゃ予想も付かないよ。

 ただ、必要なのがエルフ魔力と原料と抽出装置だけ、というのが手軽だね。


「選択肢が多いのは良いがな、種類が増えすぎるのもどうかと思うんだが」


 サンプルをとっかえひっかえ確認しながらのロイの疑問に、サッシュさんが頷く。


「今回はとにかく奥様へ数多くのサンプルを出すことを優先させました。どれを選ぶかはやはり奥様の指示になるかと」

「選択しやすいように、前と同じく費用の情報も持ってきてる。高すぎるのは既に弾いて来たけどな」


 極小サンプルをクッション付きのケースへしまい込みながら、トニーさんが書類を出す。

 覗き込むと、50近い項目が確認できる。ひぇえ。これを元にまたマーケティングとかするんだろうか。やっぱり厳選しないと大変だよね。


「同じ理由で、香りをブレンドするのもパス。組み合わせと配合比率までやり出すと手に負えないしさ。

 とまぁ、オレたちはそんな感じ。ミワさんたちはどうなってる?」


 申し訳ないことに、私自身の実務はほとんど進んでいないんだよね。

 ただ、フェイファー組が本国との駆け引きで使用し始めた件と、ソニア様に言われた件、これらを連絡しておかないと。

 フェイファー側の話はフンフンと気楽に聞いていた二人が、ジェルの話になって顔色を変えた。


「大量生産のためのマニュアルを考えなければなりませんね」

「今はミントだけだろ? 話し振りからして最低二種類って感じ?」

「恐らくオイルと同様に市場調査を行うでしょうから、それ以上の候補が必要では。どこまでオイルを流用しましょうか」

「具体的にどういう層に出すのか、奥様からの指示は?」


 この人たちも大概仕事が早いな。薬師室って実はエリート組らしいから、これで普通なのかもしれない。

 気圧されながらも話を続ける。


「女性からも一定の支持を集めたみたい。仕事中でもサッと取り出してスッと塗ってまたすぐに作業に戻れる、っていうのがオイルよりもやりやすいから、事務室の女性も思った以上に食い付いたって」


 紫音がよく香り付きハンドクリームを使っていた。そんな感覚だと思う。やっぱりリフレッシュに近い使われ方かな。


「男性は、香りの強さによっては身嗜みにも使えるかも、って意見があったって。これも手軽に使うこと前提だね」


 制汗剤に近いのかな。コロンはいわゆる香水だよね。それよりもアッサリとして、人に不快感を与えないように、って使われ方かな。


「当初の予想通り、事務女性は家に帰ってからのマッサージにオイルを使う。けれど男性はまず使わない。だから、昼間手軽に使うものとして打ち出す方針なんだって。

 女性向け、男性向け、両方欲しいらしいよ」


 だーよーねー、とトニーさんが天を仰ぐ。


「年齢層は、女性は10代から30代。それ以上になると保湿を重視したいんだって。

 男性は30代から50代。人間関係上、身嗜みに敏感になっているって分析されてる」


 エルフにはない感覚なのか、サッシュさんが不思議そうな顔でメモを取っている。寿命が桁違いだし、成長の仕方も人間とは別だもんね。

 そういえば男性の30代以上って、あれかな、加齢臭とかそういうのを気にするのかな。

 うーん、でも……。

 ロイの首元に顔を近付けてニオイを嗅いでみる。やっぱり。


「お前は……」


 呆れた声と共に額を押し戻された。

 トニーさんとサッシュさんが何やら納得した顔になっている。

 私は納得しない。


「ロイって加齢臭しないよね」


 35歳だよ? 人によっては気にし出す頃合いだと思ってた。思い込みだったのか。


「加齢臭?」


 三人が揃って疑問の声を上げる。え?


「年を取ったら独特のニオイがするでしょ?」

「しないっしょ」


 ――加齢臭が存在しない世界でした。人それぞれの体臭はあるのに。




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