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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
83/132

83.フェイファー国内の動向



 午後、レオナルド様の執務室に併設された会議室で、フェイファー組との情報共有が行われた。

 出席者はレオナルド様とマーク、私とロイ。シヴァと紫音とハーミッド。

 それぞれが着席してから、早速シヴァが現状報告。


「神官がこちらについた」


 工作始めてからそんなに日が経っていないのに早いな!

 驚いた表情の私に、シヴァが補足説明をくれる。


「我々が休戦協定を結んだ時点で、内々に通達しておいた。

 聖女がユタルへの訪問を許された、真の聖女はラヴィソフィにもう一人存在する、邪神対抗の意志は共通している、我々は目標のために協調することで同意した、といった内容を伝えてある。これにより、神官長が聖女支持に回った」


 ふむふむ、神官長。

 ゲームでは準モブ扱い。確かに彼は、フェイファーとラヴィソフィとの合併に友好的な姿勢だった。問題は一部の神官で、合併の障害はそちらが主。

 ……という話を、ここで共有しておく。

 両手指を突き合わせて軽く頷きながら、シヴァが微かに微笑む。多少なりとも安心材料となったようでこちらも嬉しい。


「それにしても、随分あっさりと立場を明確にしたな」


 マークが書類から目を上げてフェイファー組を見る。


「そもそも、与党野党みたいな関係が出来てたところに、あたしが現れた。そこで三権分立的な感じに変わったのよね」

「紫音、その二つは全く別物だと社会科で習った気がするよ?」

「喩えよ喩え。天秤状態だったのが三つ巴になったっていうか」


 ハーミッドが「それも微妙に外れていますね……」と眉間を押さえ一度目を閉じて、詳しい説明をくれる。


 皇室――皇帝と、神職――神官長は、ほぼ同等の権力を持っている。実際の政治と、民に根ざした宗教。上手くバランスを取っていたという。

 そこに、聖女が現れた。聖女の役割は神官に近い。しかしそこで神職側にパワーバランスが偏ってしまうと問題が起きる。聖女の保護と教育、そして外交への役割を持たせることで、皇室側も聖女との繋がりを保持した。


「それじゃあ、紫音とシヴァの婚約はまずかったんじゃないの?」

「私と同じく側室腹の弟が神官だ。同じように私を皇位継承から外し聖女陣営とすることで、神職、聖女陣営両方に皇室の血筋を食い込ませようとでも思ったのだろう」


 ひえー。政治の世界は分からないなぁ。

 僅かに口を開けて感嘆していると、ハーミッドが咳払いをして話を続ける。


 しかし、聖女が従軍することで神職側は聖女との繋がりが希薄となり、国内の権力バランスが崩れ始めていた。邪神対抗のための神殿奪取という出陣目的でも、神聖軍はあくまで国軍。手を出せない状況になり、神官長は対応を迫られていたという。


「彼は、よく言えば柔軟、悪く言えば日和見主義。皇室と神職の統合も視野に入れていたらしい。しかしそこで話が大きく動いた」


 ユタル神殿は神との契約が行われたという重大な聖地。アルバーノ大神殿は一番大きな神殿。それらが国を跨いでいるのは問題だと常々言われていたらしい。

 そこに、両国に一人ずつ聖女が現れた。このままではラヴィソフィの聖女に全てを奪われてしまうかもしれない。しかしフェイファーの聖女も合流したという。

 神職としては、下手に聖女たちを刺激してそっぽを向かれるよりも、双方の聖女を支援することで、神に連なる者として政治や国に依らない宗教活動を確立させることを選んだ。


「つまり、合併の動きが出ても、むしろ歓迎される?」

「だろうな」


 これもほぼゲーム通りってことか。


「邪神復活の兆しは聖女出現の前後から神官へ伝わっていた」

「神託ってこと?」

「言葉は分からず、ぼんやりとした意志らしい。だから、神職としてはまず邪神対策が何よりも重視されている」


 現在のクルスト軍の主目的は邪神対策となる。当然、協力関係となった神聖軍……聖女も、国内権力や外交よりも邪神対策が第一となる。フェイファー国内の邪神の封印が行われれば、より皇室の権威も剥がせるだろう。


「うわぁ、ドロドロ」

「権力争いとはそういうものだよ」


 思わず私が零したら、レオナルド様に苦笑された。そうか、この人も為政者だ。


「話を戻す」


 ハーミッドがトントンとテーブルを指で叩く。


 つまり、日和見主義だった神官長はシヴァたちの行動を黙殺するらしい。皇室へ面と向かって楯突かなくとも、シヴァたち神聖軍と聖女、ラヴィソフィの邪魔はしないという。


「そこで、シオンの……聖女の書状だ」


 そうそう、紫音が数日前にやっていた仕事。


「簡単に言えば、経済協定の通告と、聖女が皇室から足抜く宣言だ」

「単刀直入にいったな」


 マークが呆れ声を出した。


「国軍がここにあるから直接的な手は出せないだろうが、憂いは少しでも除いておきたい。幸いにも、奥方から手土産を貰った。一つはこのタイミングで使う」


 一つ?


「私の選んだオイルだな。シオンが選んだ物は情報操作と取得に使用する。

 とにかくこれで、皇室の動きを多少なりとも封じられる」


 ロイが腕組みをして低く唸る。


「つまり、ユタルへ行った後は、フェイファー邪神のために今度は俺たちがそっちへ行くってことか」

「え、どうしてそうなるの?」

「シヴァたちが皇室を抑えている間にさっさと何とかしないと、過去の話みたいに変に拗れるかもしれないだろ」


 過去、前回の邪神封印に関してか。

 私のゲームの知識と、レオナルド様、シヴァの情報を照らし合わせて分かった話。


 フェイファー家は邪神封印をいつ絶えるともしれない王家の血筋ではなく、邪神復活の時期になれば必ず現れる聖女だけに託したかった。それが王家との対立となり、あのクーデターに繋がった。

 邪神復活に乗じたクーデターを起こすつもりはなかった。クルスト王家に聖女の存在を隠されていたことで「まだ時間がある、今のうちだ」となったらしい。

 しかしそれで王家が参戦できないまま邪神に対抗することになり、聖女と賢者(とフェイファーでは呼ばれている)シャイニー様で戦った。結果、邪神は二つに分かれて封印されることになってしまった。


 うん、確かに拗れている。


「ユタル神殿への訪問は二日後。その後にビエスタ国王と大魔術師シャイン・ユジールとの面会を予定している。出来る限り速やかに進めよう」


 レオナルド様の言葉に全員が頷く。

 そして私は、首都のシャイニー様関連と、フェイファー邪神攻略のために必要な情報を集めて整理するんだね。よし、次の動きが見えた。


「それからミワ」


 レオナルド様の呼び掛けに顔を向ける。


「国王との面会までに、オイルの仕事を一つ頼むよ。詳しくはソニアに聞いてほしい」


 ……薄々予感はしていました。

 夕食までにソニア様と会って話を聞いて、それからトニーさんたちとの夕食ミーティングになるね。

 私に向かって、紫音が気合いの入ったガッツポーズをする。うん、「頑張れ」ってやつだね。

 がん……ばる…………。




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