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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
82/132

82.起こるイベント、起こらないイベント



 着任三日目。今日は午後から紫音たちとの面会。レオナルド様に招かれている。一気に話を聞いた方が早いもんね。

 で、午前中の今。ロイと一緒に城下町へ下りております。

 ユタル神殿に関連するイベント、メーヴ城下町でも一部発生するんだよね。神殿訪問準備も兼ねてその辺りの視察に来たんだ。




 早々に城から出てきた理由は、目を通すべき書類の多さにあった。

 片っ端から確認していくのはさすがに効率が悪い。先にある程度のカテゴリ分けをすることにした。で、執務室にお留守番のエリオ君がそれをやってくれている。

 ロイもその作業に加わればいいんだけど(そしてその間に私は日本語で情報をまとめ続ければいいんだけど)、イベント確認も兼ねて一度外へ出よう、となったんだ。


「あの通りの角に、威勢のいいおっちゃんがいるお店があるでしょ?」


 最初に城下町に連れてきてもらった時に、イベントが起きたお店があるなーと確認済みだった場所。実際に入るのは初めて。

 色々すっ飛ばしてユタル神殿へ行くことになったから、このイベントの役割(フラグ)がどうなるのか見ておきたかった。


 フェイファーから一度本拠地であるメーヴ城へ戻ってきた一行。ティアラを荷物に入れた状態でこの店に入るとイベントが発生する。そのイベントで回復魔術を使うと、もうちょっと力を出せそうな引っかかりを感じる。

 別行動をして調べ物をしていたケインから、ティアラには聖女の力を引き出す効果があるらしい、と知らされる。じゃあどうしたら、となった時、エマちゃんがユタル神殿の存在を思い出す。それじゃあそこへ行ってみようか……というのがざっくりした流れ。


 既にティアラの解放を知っている私たちは、このイベントは必要ない。

 そもそもイベントに対するフラグは『エマちゃんがティアラを持ってフェイファーから帰ってくる』なのかもしれないから、その前提が崩れている今、発生するのか疑わしい。

 でも、ここのイベント発生のフラグが『メーヴにティアラがある』だったら、現状でも発生する。そうなった時に、ユタル神殿でのストーリーのためにここのイベントを消化する必要があるのか、どうなのか。


 とまぁ、考えれば考えるほどこんがらがってしまったから、じゃあ実際に少し見てみようかとなったわけ。


 このお店はパン屋さん。ゲームでは、奥から店主のおっちゃんの叫び声が響いてきてイベント開始。

 見習いの女の子がオーブンからパンを取り出す時にバランスを崩し、高温の鉄板が彼女の上半身に倒れかかってきた。ラルドたちに説明しながらも、酷い火傷に焦ったおっちゃんが懸命に応急手当をする。様子を見て、エマちゃんが回復魔術を使用する。その結果、もう少しやれそうだという感覚へと繋がる。


 ロイにそんな説明をしながら実際のパン屋さんまでやってきた。

 店の外まで良い香りが漂ってきて、思わず顔が緩む。いや、朝ご飯は食べてきた。買わない。買わないったら。……昼ご飯用に持ち帰るのならアリかな……。

 店へ入ると、惣菜パンや菓子パンに食パン、バゲットにブール、フォカッチャ、ベーグルなどなど。スコーンやマフィンなんかもある。あ、ポン・デ・ケージョ、これ私の好きなやつ。うん、やっぱり買っていこう。

 種類の多い商品棚を覗き込んでいたら、ロイが後ろから軽く小突いてきた。ごめん、仕事だよね。


「買うから、決めたら言えよ」

「え、まさか」

「お前、俺に奢らせない気か」


 奢られる気はなかったです。ロイを財布にする気なんてないんだってば。でも、ここで意地張ってもしょうがないか。


「じゃあ、後で何かお返しさせてね」


 渋々ながら笑って了解してくれた。

 結局、ポン・デ・ケージョとバタープレッツェルを選んだ。もしかしなくてもだいぶ高カロリーなんじゃなかろうか。晩ご飯には気を付けなきゃ。

 買うついでに世間話という体で、見習いっ子の話を聞き出すことにした。

 しかし。


「ああ、城のキッチンで働くことになったからって、ちょっと前に辞めたところだよ。何でも女性向けランチをやってるらしくて、手が足らないから求人が出たんだとよ」


 私は目を見張って固まってしまったけれど、ロイは柔軟に話を続ける。


「じゃあ、今度はおっちゃんの店が人手不足で大変だな。代わりに見習いは取らないのか?」

「いやぁ、あいつは俺の姪っ子でね。メーヴに出てきたはいいがすぐには仕事がねぇってんで、俺の所で住み込みで仕事させてただけだよ。いい仕事がありゃそっちで稼いだ方がいいわな。だから手伝いはどうしても要るって程じゃない」


 その後も一言二言続けて話していたロイがチラリと私を見て、「種類があって選びきれないし、また来るよ」とおっちゃんに伝えて店を出るように促す。

 毎度あり! と大声で見送ってくれるおっちゃんに、私は曖昧に笑いながら会釈を返した。




 買ったパンを手に広場へとやってきた。昼ご飯もここで済ませてしまうらしいけれど、その前に現状把握。周囲に人が少ない場所のベンチに腰を下ろした。

 ペンとメモ帳を取り出して情報をまとめるロイ。私はその隙に、広場周辺にある出店からドリンクを二つ買ってきた。これで少しだけ奢りのお返し。

 横にくっついてロイの手元を覗き込んだら、軽い溜息と共に「無自覚娘め」と呟かれた。えー、この場合仕方ないでしょ? 文章読む練習になるし、内容が内容だから大きな声じゃ話せないし。

 説明したら、今度は大きな溜息を吐かれた。


 とにかく、さっきの情報を元に検討を始めよう。

 あの店には、見習いの人は誰もいない。おっちゃん自身が火傷する可能性は残るけど、イベント発生はまずないと見ていいかな。

 城のキッチンの求人ってことは、業務拡大+私の抜けた穴埋めってことかな。私が来たことによるブレ……それによってピースが変わってしまった?


「それを言い出すとキリがない。今回はミワの行動から来た変化だろうと予想が付くが、そうじゃないこともあるだろ?

 何らかの要因が絡んでゲームと現実とで違いが出る、くらいでどうだ? 細かいことはマークに丸投げしとけ」


 背景はこの際置いておく、ってやつかな。


「これは俺の勘だがな。

 今回の『パン屋に見習がいて火傷する』ってのは、神殿へ行くきっかけなんだろ? フラグ、とかいったか。他でフラグが立ったからすっ飛ばされたんじゃないか?」

「この場合は、会談が成功したこと……あるいは紫音がティアラを持ってこちらに来たこと、かな」

「そこも深く追求しないでいいだろ。何が真のフラグだったかなんて、後にならないと分からない」


 それもそうだね。頷くと、ロイが腕組みをして空を仰ぐ。


「とにかく、あー……イベント? が、どういう流れで起こるのかを一つずつ書き出した方がいいかもな。あらすじよりももう少し細かく区切る感じか。こっちから出す情報はそれがメイン」

「武器防具とかアイテムとか敵情報とかは?」

「重要な情報があれば現状と突き合わせるか。あるのかないのか、手に入る算段があるのかないのか」


 ラルドの王杖はビエスタ国王が持っているから、それは一致。入手時期はブルサンだけど、今すぐに貰いに行くことができるかどうか。そんな感じかな。




 ******




 一通り話し合いを終えて、少し早めの昼休憩。

 パンとドリンクを味わって、ごちそうさま、と手を合わせた直後。両脚を掬い上げられ、ベンチで横になる形になった。何が起こった?


「俺の膝枕なんてゴツすぎて無理だな、服丸めて枕にしてやるよ」

「いやちょい待ち」


 肩を軽く押さえられているせいか、咄嗟に起き上がれない。あれよあれよという間にロイの上着が頭の下に据えられる。


「ほら暴れるな。休憩だ休憩」


 髪を手櫛で梳かれ、少し力が抜けた。私はどうにもこれに弱い。


「仕事でマークの真似するな。あいつはある意味化け物だ、同じことをしたら倒れるぞ」

「真似してたわけじゃ……」

「じゃあ何で昨夜、執務室に戻った」


 お風呂入った後に仕事場へ戻ったの、気付かれていた。

 ワーカホリックになりたいのではない。マークの真似なんてとても無理。

 それでも、マークに言われたから。『情報のスピードに追いつけ、為すべきことを為せ』って。このままじゃ、私は置いて行かれる一方だから。少しでも進めたかった。


「それが倒れる第一歩だっての。いくら俺が支えてやるって言ってもな、倒れるつもりで事を進めるのを黙って見ているわけないだろ」

「……ごめん」

「だから、今は休む時間だ。昼からはシオンたちと話すんだろ? 夕食はトニーたちともう一つの仕事の話をするだろ?」


 そう、そうだった。


 メインの仕事は情報抽出。でもソニア様からはオイルもやれって言われている。奥トップからの要請ということは、まず間違いなく命令ですよね。

 やっぱり私は二足の草鞋状態。

 時間で区切ってやるか、日にち単位で区切ってやるか。それとも完全同時並行で集中切れたらもう片方とか? さて、どう進める?

 自分の執務室にオイルチームのトニーさんとサッシュさんを呼びつけるのは無理。最高レベルの情報統制区画だからね。かといって、薬師室まで往復する時間も勿体ない。

 検討した結果、しばらくは食事しながらミーティングをすることにしたんだ。今日は夕食。


「ほらな、ちょっとくらい休んでも問題ないほどの仕事量だ。ってことで、お休み」


 大きな手で目を覆われてしまった。

 温かさが心地良い。なんて贅沢なアイピロー。一気に力が抜ける。

 お休み、と口の中で呟いて、急に湧き上がった眠気に逆らわず身を委ねた。




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