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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
80/132

80.異動後の初出勤と言っていいよね



「そう慌てて腹を括る必要はないさ」


 鍛冶屋さんから出て、軍事商業地区を抜ける。


「まだ俺は、お前の護衛だからな」


 すぐには戦場に出ない。だからまだ大丈夫。誰だって、覚悟するには時間がかかることだから。

 ロイはそう言って、私の頬を指の背で撫でる。


「さて、もっと急いで腹を括らなきゃならないことがあるだろ」


 そのままマークの執務室へと向かう。

 本格的なお仕事がやってくる。




 ******




 マークに連れられ、レオナルド様の執務室近辺へスムーズに出入りできるよう手続きを進めていく。

 今までだって会議だ何だと行き来はしていたけれど、毎日ここへ通うのはまた別物らしい。

 まだ拙い字でいくつもの書類にサインをしていく。内容も頑張って読み取っているよ。海外製品の説明書を読んでいる気分だ。分からないところは二人に確認。

 少しずつでも勉強の成果は出ているようで少し口元が緩んだら、事務官さんに微笑まれてしまった。……私の識字能力は色んな人に認識されているらしい。

 煩雑な手続きを全て終えれば、以後フリーパスで出入りできる『司令官付情報担当』のできあがり。

 何人もの文官さん――秘書官さんや事務官さん、他色々な方――たちに自己紹介をして(私は名前を覚えきれないよ?)、警備の皆さんにもご挨拶して、ようやく着任と相成りました。ふぅ。


 レオナルド様の執務室のすぐ近くに部屋を貰う。情報のやり取りをするなら離れるほど効率が落ちるものね。

 その後、ようやくレオナルド様にご挨拶。




「これからよろしく頼むよ、ミワ、ロイ」


 完全にロイが私の書記官だという体で話を進めるレオナルド様。護衛……が本職なんだよね?


「それにしても、ふむ」


 一通り仕事の進め方を指示したレオナルド様は、私たちを順に眺めながら顎髭を撫で、唇の右端を少し上げる。


「アシュカに酒を手配するか」


 アシュカさん……傭兵隊の第一部隊長さん?


「クルスト軍、神聖軍、両軍とも、大多数を引き上げるタイミングを計っている。衛生管理や兵糧の手配から、少なからず事情は漏れているだろうからね。ただし、暫くは念のため『対決中』という姿勢は崩さない。

 こちらからは、志願兵や傭兵隊、エルフ隊の一部を一旦戻そうと考えている。国軍が動くと目立つから、申し訳ないが後回しだ」


 笑みをすぐに引っ込めたレオナルド様に、最新情報を次々に伝達される。ロイは近くの秘書官さんにすかさず筆記具を求め、立ったまま逐一書き留めていく。


「フェイファー本国への対応、工作に関してはシヴァ殿に一任。シオン殿の書状が出来次第、作戦を始めるとのことだ。そちらの情報も必要だろうから、なるべく早く詳細を聞くとしよう」


 さっき言っていた、紫音(聖女)の仕事だね。


「一通りが済んだら、ユタル神殿への訪問だ。訪問の使節団にはミワにも入ってもらう」

「私ですか?」

「だから当然ロイも一緒だな」


 書く手を止めないまま、ロイが頷く。


「出立は五日後。だから四日以内に神殿関連の情報だけはきっちりと纏めておくように」


 ――これが最初の指示らしい。




 ******




 私たちは、出来たてほやほやの「情報担当の執務室」へと場所を移した。


 まずは必要物品の手配ということで、レオナルド様の元からの出向秘書官(という名の雑用係)に任命されたエリオ君に、追加で欲しいものを伝えてお願いする。

 だいたい揃っているし、一部は前の職場から引っ越してきているんだけどね。エリオ君に事務作業を手伝ってもらうこともありそうだから、そのためのデスクセットとか。オイル仕事に必要な、匂い漏れ対策ガラスキャビネット(コーヒー常備)とか。

 今まで一番の下っ端で何も仕事ができなかったというエリオ君は、キャリアアップに繋がると喜んでいる。ここでも雑用係のままなのに、ガッカリしないかなぁ。




 一息吐いたところで、小さなソファーセットでコーヒーを淹れる。

 ロイが紅茶やビール以外の物を飲んでいるのが新鮮。そして私は久々にアイスラテ。たまに飲むコーヒーは、マークの甘党猫舌隠蔽工作に付き合ってホットのブラックがメインだったからさ。

 小さな欠伸をしてから、何となくロイを眺める。

 相変わらずお洒落。ここ数日で、白って一口に言っても微妙な違いがあると知った。シャツって一口に言っても形が色々あると知った。シャツと合わせる服によって印象が変わると知った。

 そんな描写はゲームにはなかったと、出会った当初から何度も思っていた。

 こういうこともゲームとの違いとしてカウントした方がいいのかな。


「どうした、俺の顔をぼーっと見て」

「ロイってさ、ゲームで見てた以上に器用というか、何でもできるっていうか、お洒落だしセンス良いし、戦士ってだけじゃないんだなぁって」

「惚れ直したか?」

「……そもそも、そういう『今まで知らなかったことをもっと知りたい』っていう『お友達期間』だったはずなんだよね」

「で、知った結果は」

「……うぅ……」


 追い詰めないでほしい。気付くのに時間かかったけど、そもそも好きだったんだってば!


「ともかくね、ゲームでは役割をはっきりさせるためか、キャラクターがはっきりしてたんだ」


 ラルドは主人公。爽やかな性格でたまに天然で明るいキャラだけど、覚えていない……隠された過去に悩まされるシリアス面もある。

 ケインは知力担当。ラルドを支えるんだけど、隠し事をしているせいでギクシャクしてしまう、ワンコ系雰囲気とは裏腹な重い要素持ち。

 エマちゃんは色んな意味で癒やし担当。身分を超える奔放さと明るさ、そして聖女という大役を覚悟する芯の強さが強く押し出されている。

 セリアはクールビューティー。普段はキリッとしているけれど、ところどころで不器用さを見せてそれによって皆と打ち解けていく。

 そしてロイは皆の頼れるアニキ。パーティーのまとめ役で、誰かがダーク面に落ちそうになったら手を伸ばしてくれる安心感があった。


「だから、ロイが書記ポジションも難なくこなすっていうのが」

「意外だった?」

「うん、正直言うと」


 私の言葉ににっと大きく歯を見せてわらったロイが「やっぱり惚れ直してるな」と言ってから真面目な顔に戻る。


「最初に俺に基本を仕込んだのはマーク。完璧に叩き込んできたのは師匠」


 首を傾げて無言で先を促す。


「マークは孤児院に慰問に来たんだ。喧嘩しながら仲良くなって、ここで生きるのに役立つことを教えてもらった。読み書きだとか、国内地図だとか」


 幼なじみだって言ってたけど、そんな仲だったんだね。


「で、孤児院を出てリュークまで来てギルド員になった。その直後にギルドに紹介されて出会ったのが師匠だ」

「ギルド員?」


 はて。言葉では聴いたことがあるけれど、ゲームにはそんな描写はなかった。


「おっと、そこからか」


 ロイが腕を組む。


「それじゃあ、休憩後の仕事はその話からにするか」


 一番優先度が高いのは、直近で関わってくる、聖女とユタル神殿に関するもの。

 それより先に少しだけ、この世界のことをより深く知りたい。もしかしたら、私の持つゲームの情報に関わってくるかもしれないしね。




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