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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第一章 ゲームの世界へ、こんにちは
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8.大好きですレオナルド様!!



「私はさすがに可哀想だと思うがなぁ」


 のんびりとしたレオナルド様の声に、ハッと顔を上げる。


「このお嬢さんには害意がない。愚鈍でもないようだし、仕事をさせるのは悪い話ではないな。ここで殺してしまうより、よほどいい」

「ず、ずいぶんはっきり断定していただけて、非常にありがたいのですが……その……」


 いいの?

 ちらっとマーカスを見る。当たり前だが、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「甘いことをおっしゃいますね。先程の少年と同じ、顔と目、ですか?」


 そういえば、先に主人公たちに会っていたんだっけ。

 主人公が軍に入る前に、レオナルド様との面会があった。その場でレオナルド様は「この少年たちの顔と目を見れば、大きな力になってくれることは間違いないだろう。何、長年辺境を守ってきた者の勘だ」と言ってのけて、快く迎え入れるのだ。

 本当に勘だったのか、あるいは何か知っていたのか、クリア後も分からないままだったけれど。この人のこの時の決断がなければ、ラヴィソフィ側の勝利はなかったはずだ。ゲームのストーリーは主人公ありきだからね。


 しかし、そうか。私も勘で受け入れてもらえるのかな。

 そうだと嬉しい。というか、ありがたい。


「平たく言えばそうだな。だが、判断材料はそれだけではない。

 この子は、生き延びることを優先している。であれば、いたずらに戦況を引っかき回すことは本当にしないだろう。

 戦が始まれば、どの仕事であろうと手は多い方がいい。何より我等が軍の勝利を願っているならば、仕事もきちんとこなすはずだ」

「フェイファーの手に渡り、命の危機に晒されることになれば、助命の代わりに自らの知識を吐く可能性は消せませんよ」

「そうだな、それが一番厄介だが。しかし、このお嬢さん、素直に本当のことを言うかな?」

「絵物語の筋を歪めて話すと?」

「予測不可能な未来にかけてフェイファーの味方になるよりも、予測できている我が軍の勝利に向けて、作り話くらいするだろうよ」

「この女の存在がフェイファーに知られるだけで、余計な戦いが生まれることになります。刺客を向けられるか、密偵に毒でも盛られるか、奇襲を受けるか、何かしらがこの女に向けて仕掛けられる。それは、この女の知識にもないこと。防げるとは思いません」

「自陣深くに囲うのだぞ。彼女の命が危ない、それは即ち私自身の身も危ないということじゃないか、はっはっは」

「そもそもが密偵で、こちらが油断した頃合いで動き出すという可能性は」


 本人そっちのけで、何やら話し合いが白熱している……。

 私を擁護したいレオナルド様 vs とっとと処分したいマーカス。

 マーカスの言うことはいちいちもっともで、我ながら怪しい人間だと再確認させられた。

 それにしても。


(スパイ疑惑は完全には晴らせないか。別に戦えなくてもスパイは務まるもんね)


「だからな。先程のラルド君たちと同じなんだよ。彼らも、彼女も、私にはそう見えない、というだけだ」


 最後の決め手がレオナルド様の勘か。

 って、やっぱり主人公の名前も私が決めたものだったかぁ……。

 もしラルドに会うことがあったら、心の中で「私が名付け親だよ」って挨拶しようか。


 結局はレオナルド様のその一言で決まるんだろう。

 マーカス自身が、レオナルド様に取り立てられた理由でもあるから。

 深い溜息とともに、お手上げのポーズでソファにもたれかかったマーカス。どうやら、議論の結果はレオナルド様に軍配が上がったようだ。


「よし、ミワ。城内での生活を許そう。

 あとは、そうだな。君が知り得ないことを知っていた事実。それから、異世界から来たこと。キャスパー殿とその従者、それからロイには、一切口を噤むよう私から要請しよう。今後はそう匂わせる行動をむやみにしないよう、注意すること」


 為政者にしては優しい目で、レオナルド様は私に頷いた。

 本当に本当に、ありがとうございます。




 ******




 メーヴ城。

 この城は、辺境伯領主の代々の役目上、大きく二区画に分けられる。

 城下町との境――表側に当たる、軍事拠点としての城。奥側が、コールマン家の居城。


 奥は、領主の執務室や家族各人の部屋、ダンスホールや貴賓室などなど、他領の領主邸宅とほぼ同じ機能を持つ(らしい)。

 奥の裏庭から更に奥には崖があり、そこから大きな湖へと繋がる。この湖の向こうがもう一つの辺境領、リューク地方だ。


 メーヴ城の大きな特色は表にある。

 軍議を行ういくつかの会議室の他に、食堂・医務室・訓練場・大衆浴場から兵士用鍛冶場、軍御用達アイテムショップ、城内勤務に当たる者のための単身者寮まで揃い、小さな町ならすっぽり入るくらいの規模である。ゲーム中でもだいぶマップ切り替えが多かったからね。

 これらが大きく城壁で囲まれており、限られた門から丘下へ下ると城下町。


 主人公たちも、最初は城下町、次第に城表と行動範囲を広げられるが、奥へ入れるのはゲーム終盤。

 私が城で仕事をするのであれば、表での仕事が妥当だと思われる。




「さて。それで君は、何をして働くか、希望はあるのかね?」

「機密事項に触れる機会のある仕事は認められないからな」


 どことなくぶすっとしたマーカスから釘を刺されるが、その辺は弁えていますとも。

 しかし、何をして働くかまではまだ考えていなかった。説得方法に必死になっていたし。


 看護師なり美容師なり、手に職があれば話は簡単だったろうけど、私は特殊技能は持っていない。

 仕事として比較的使えそうな技術は、料理と、見よう見まねのマッサージ。イラスト描きは……うーん、あまり何かに活かせる気がしないなぁ。

 無難なのは料理関連かな。


「食堂のキッチンで人手が必要なら、そこで働かせてもらうことはできないでしょうか? 一応料理はできますし、皿洗いとかでもいいんですが」

「食堂なんて、毒の混入を――」

「マーク、それくらいにしておけ。いいだろう、後で食堂に案内させよう」

「あ、大丈夫です、城内も把握できているので、一人で移動もできますから」

「ほう、そこまで分かっているのか。ここでの生活に馴染むのも早そうだな」

「やはりこの女、野放しにしておくのは――」

「おうおうそうか分かった分かった」

「レオナルド様、棒読みで投げやりになるのはおやめください」


 うん、マーカス。そろそろ諦めて。




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