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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
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78.二度目の異動



 思った通り、休憩にならないどころか余計に疲れたソニア様との話し合いを終え、マークの執務室へと戻ってきた。

 忙しい上司は案の定疲れが溜まっているらしく、すぐにオイルの瓶を出してきた。マッサージだね。机の上には頭痛薬の瓶も見える。

 ……疲れているところに、このタイミングで、話をしなきゃならない。

 だけど、逃げるなんて出来ない。このままなあなあにするのは駄目。誠実に向かい合う、それは不相応にも二人から思いを寄せられた時に決めたことだから。


 オイル瓶を手にしたまま、マークの顔を見上げると、少しだけ悲しそうに微笑まれた。


「直接聞きたいからな」


 やっぱりこの人は分かっているか。最後の手紙で。今までの振る舞いで。


「マークも好きだよ。でも、ロイに対する『好き』とは違ってた。当然だね、二人は違う人なんだから。

 マークとは支え合いたい。ロイには甘えたい。

 それで、選んだのが、ロイだったの」


 手の中の瓶を弄んでから、もう一度マークを見る。


「あの夜の答えを、ようやく言える。

 ありがとう。だけど、ごめんなさい。私には、好きな人がいます」


 顔を背けてさらさらの髪をクシャリと掻き回したマークは、目を閉じて深呼吸をしてから、もう一度私に向き直ってくれた。


「こちらこそ礼を言おう。きちんと最後まで考えてくれて、ありがとう」


 寂しさや悲しさが消えて、堂々としたいつも(軍師)の顔。


「さて、それでは仕事の話に移るか」


 アッサリと話題を変えられて、こちらが面食らう。何となく、オイルの瓶をそのまま返す。


「ミワ、軍師執務室での仕事は終了だ」




 ******




 マークを凝視した。涼しい顔。


「俺が視界に映っていては、君は変に気に病むだろう」

「そんなことは」


 ない、とは言い切れない。

 今までの片恋人生、振られた相手と本当に吹っ切れて話ができるようになるまでは、やっぱり時間がかかった。見た目は普通通りに接するようにしていても、内心はギクシャクするし、相手も面倒臭く感じてるんじゃないかと疑心暗鬼になる。

 自分がお断りする立場になるなんて初めてだけど、同じ様な気分になり始めては、いた。


「だからと言って、ここから出るように、って。クルスト軍としていいの? 私の仕事は? オイルだけに専念するの?」

「当然、問題ない。そのまま仕事はしてもらうさ」


 というと?


「君の持つ情報は、邪神攻略に必要だ。だからメーヴにはいてもらわなければならない。

 だが、『軍師補佐官』という役職で会議に参加する必要はなくなっている。既に君が情報を持っていることは、主要メンバー全員が知っているからだ。名目を与えて内密に参加しなくてもよい」


 そう、だね。

 元々は、私を軍属にして、情報提供と共有をスムーズにするための人事だった。


「そこで君は軍師付から司令官付に変わった。同時にロイは、司令官と司令官付情報担当、双方の専属護衛となる」


 司令官付情報担当……もしや、それが私の新しい肩書き?


「今後必要な名目は、軍の会議に出席するためのものから、領内外へ渡る情報に触れるためのものになるんだよ」

「え、めちゃくちゃ重要なものなのでは?」


 少し目元を緩めたマーク。……ああ、うん、やっぱり少し心がざわめく。


「ああ、重要だな。

 君の持つ情報とこの世界の現状との共通点、相違点……微妙な違いを洗い出すこと。これは地道で膨大な作業だが、今後の動きに直結するものでもある。今以上にしっかりと取り組んでもらわねばならない」


 分かっていても、改めて言われると背中に微かな震えが走った。


「ソニア様のところで言ってきたそうじゃないか。自分は戦う力もなければ内政もできない、単なる一般市民だ、と」


 話が伝わるのが早いな! ついさっきのことなのにどこから聞いてきたの!?

 私の驚愕などどこ吹く風で、マークの話は続く。


「確かにそうだ。だが、一般市民でも仕事はできる。割り切れ。そして自分の為すべきことを為すんだ。

 今俺が示したような情報の早さ。君はそれに追いつかなければならないぞ」


 優しいけれど強い目。


「きっと君は、そうして少し物理的に距離を置いて仕事に夢中になれば、また俺と『普通に』接することができるようになるだろう?」


 この人は、私よりも私のことが分かっているのかもしれない。

 私が結論を言う前から分かっていて、私がモヤモヤするのを先回りして整えて。

 全て分かって準備して、だけど私の言葉を待ってくれて、そして発破を掛けてくれる。


「ま、俺はまだ君のことが好きだからな。近くにいたら手を出してしまうかもしれないし」


 少し意地悪そうに笑うけれど、どこまで本気かな。全部本気なのかもしれない。


「手を出されると困るけど、期待には応えたい。全力で当たらせてもらいます」

「ああ。直属の上司ではなくなるが、同じ職場の仲間だ。今まで通りよろしく頼むぞ」


 私たちは、仕事の顔で笑って頷き合った。




 ******




 それを待っていたかのように部屋の扉が開かれて、ロイが入室してきた。


「ま、そういうわけだ。俺からも言うぞ、手を出すな」

「確約はしないな」

「往生際が悪い!」


 言葉からして、私たちの会話を聞いていたらしい。


「悪い。何て言うのか気になって、つい聞耳を立てた」


 私に申し訳ないと謝るロイを、マークの方が茶化す。


「自分の恋人を信じてやれ」

「そういうのじゃねぇよ! 気になったのはお前の反応だ!」


 ……二人、仲違いしなくて良かった。

 私の顔を見て、二人が顔を見合わせて苦笑いをする。


「何を考えたか、俺でも分かる。大丈夫だ、気にするな。こいつはそんな度量なしじゃない」

「度量が狭いから配置換えしたんだが?」

「言ってろ」


 ぽんぽん言い合う二人を見て、少しだけ肩の力が抜けた。


「じゃ、こいつは貰っていくぞ」

「すぐ返せよ」


 べ、と舌を出すロイ。


「阿呆、真面目な話だ。仕事をするから用が済んだら戻ってこい」


 マークは呆れた溜息を吐きながら、机へ踵を返す。


「ああ、そう長くはかからない。俺も真面目に仕事に入るさ。また後でな、マーク」


 その後ろ姿にヒラヒラと手を振ったロイに連れられて、私は元の職場から足を踏み出した。




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