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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
73/132

73.聖女の仕事



 エマちゃんがティアラを頭に掲げると、ひゅ、と音がしそうな勢いで、頭にティアラが吸い付いた。磁石みたい。

 その瞬間、フェイファー側から困惑の気配が漂ってくる。


 次に私が頭に乗せると……装着しようにも、何かに反発されて逸れていく。これも磁石みたい。

 ハーミッドが顔を顰めながら「やはり彼女が聖女など有り得ない」とか何とか言っている。言い方にムカつくけど、まぁ事実だよね。


「つまり、聖女は二人いると」


 レオナルド様が顎髭を擦りながら小さく呟く。小さいはずのその声は、異様な響きを持って部屋中に広がった。


「あ、でも」


 と、紫音が挙手する。


「あたし、回復魔術が使えないです」


 今度は、ラヴィソフィ側が困惑する。




 この三人の試験から分かったことがある。

 必要条件と十分条件か、と呟いた私の言葉に、紫音が首を捻る。

 数学が苦手だった紫音に、簡単に説明する。


 この場合、回復魔術を使えるのは聖女。だけど、聖女だからといって回復魔術を使えるとは限らない。

 ティアラが選ぶのは聖女。そして聖女はティアラを身に付けることが出来る。

 必要だの十分だのといった言葉を省いて、要点だけ伝えると、紫音も納得した。


「つまり、やっぱりあたしもエマちゃんも聖女で、美和ちゃんは聖女じゃないってことね」

「そうだね」


 なるほど、と、何人かが頷いている。




「さて」


 パシン、と手を合わせて、レオナルド様が仕切る。


「聖女が二人、これは双方とも認めるしかない事実ですな。

 本題に入りましょう。我々は和睦に至れるのか否か」


 場がキュッと引き締まった。

 ……けれど、一人だけはそれを意に介してもいない。


「じゃ、シヴァ。あたしたちはこっちの隅で話してるわね。あたしが参加しても交渉の邪魔でしょ」


 シヴァもハーミッドも、一瞬言葉が喉に詰まった。……確かに邪魔だとは思っていたんだね。


「せめて護衛を随伴してください」

「いらない。あたしと美和ちゃんの二人だけなんだから、遠くから見てるだけでもいいでしょ? 美和ちゃんの方も一人なら問題ないし」


 マークとロイが少し眉を寄せた。でも、紫音の言う通りだよね。

 それに、二人きりで話をしたい。

 私たちは頷き合って、会場の一番端に椅子を二つ、向かい合わせに置いた。




 ******




 まずは再会を喜ぶ。まさかこんなところで会えるなんて、というのは双方共に思ったこと。

 ただ、私は少し気になることがある。


「紫音、ブルフィアシリーズって作品、知ってた?」

「ん? 何かの小説? ドラマ?」

「ゲーム」

「知らないなぁ」


 シリーズものでパッと思い浮かぶのはコスメと洋ドラくらいだなー、と上目遣いで考える紫音。そうだよね、紫音はそっち方面は疎いはずだから。

 言おうか、言うまいか。ここが、私のプレイしていたRPGゲームとそっくりな世界だ、って。

 それを知っているのは、レオナルド様とマーク、ケインとマリクさん、そしてロイ。

 私が異世界人だということはここにいる全員にバレたけれど、絵物語(ゲーム)との関連はまだ伏せられている。

 ロイの時と同じく、私の一存で決めて良いのか。レオナルド様とマークの意見を聞きたい。だけど今はフェイファー軍との大事な話し合い中。ここで私が邪魔をするなんて言語道断。


 ふと気付く。

 紫音はブルフィアシリーズを知らない。私は知っているし、自分の付けた名称があちこちで使われている。

 ――私が紫音を巻き込んでトリップしたんじゃないの?


 血の気が引いた。


「美和ちゃん? 美和ちゃん!?」


 紫音がこちらへ身を乗り出そうとするのを、少し離れた場所で待機していた兵士さんが駆け寄ってきて止める。


「あ、ごめんなさい。だけど、美和ちゃんの体調が悪いみたいで」

「ううん、紫音、大丈夫。少し貧血っぽくなっただけ」

「そっか、美和ちゃん、昔からたまに倒れそうになってたもんね」


 紫音に余計な心配はかけられない。

 同じく駆け寄ってきたらしいセリアが、背中を擦ってくれる。「女同士で話がしたいだろ」って、ロイは今マークたちに付いているから、代わりに護衛に入ってくれてるんだ。


「ミワさん、何か飲まれますか? 冷たい水とか」

「もし、あるなら」


 見た限り、会談を行っているテーブルにしか水は用意されていない。我が儘かな。

 けれど難なく頷いたセリアは、部屋の外へコップを貰いに行き、そこに水魔術で水を汲んでくれる。え、水魔術の水って飲料水にもなるの? 水筒要らずじゃん。


「えー、便利! あたしもやってみようっと」

「やってみる? って?」

「あたしね、回復魔術は使えないんだけど。どうしてだか、水と土の魔術が使えるようになってたんだ」


 コップを傾ける手が止まる。

 水のお陰で気持ち悪さはひとまず治まったけれど、さっきからの混乱にまた一つ謎が加わった。




 体調は持ち直したけれど、紫音を巻き込んだ事実が胸の中でジクジクと痛みを増してくる。

 だけど、それを謝るにも、ここが私の知る世界だってことを話さないといけない。

 結局そこに行き着くんだよなぁ。


 仕方ないから、一旦それは横に置いておく。

 トリップしてから今までの話を、お互い教え合う。


「そっか、紫音は嫌な目とか危険な目には遭わなかったんだね」

「アルバーノの神殿にいきなり出ちゃって、聖女だってことになっちゃって。だからほとんど宮殿から出たこともなければ、食べる物すら管理されてる状態だったんだよね」

「……それはそれで辛かったね」


 紫音は活動的なタイプだから。


「でも乗馬は許されたから、ここぞとばかりに練習しまくって、もう乗りこなせるんだよ」

「何それ凄い」

「落馬って命に関わるのにね、意外だったなぁ。でもいいストレス発散になったよー。

 ただ、聖女の仕事内容は大変みたいなんだけど」


 聖女の仕事。その主たる物は、当然、邪神の封印。


「紫音は邪神の話、聞いてるの?」

「もちろん。そっか、美和ちゃんたちも知ってたんだね」

「ここにいる人は全員知ってるよ。一般人はまだ知らない」

「うん、それはこっちも一緒」


 紫音がどこか遠くを見る。


「聖女の仕事は、神聖国を外国から守ること。邪神を何とかすること」




 ゲームの情報を思い出せ。――使えるピースを洗い出せ。


 フェイファーは聖女を捜し求めていた。

 そして、一年ほど前にエマちゃんの情報を得て、ビエスタ国への進軍が決定される。


 戦いを仕掛けてでも聖女を欲しがった理由とは。

 ゲーム内で明言はされていなかったけれど、いくつかの情報がある。


 ひとつ、敵将であり皇子であるシヴァが、聖女は皇国にいるべきである、という意識を持っていたこと。というより、皇室全体がそういう考え方を持っていたこと。

 ふたつ、現皇帝が軍事政治主義だったこと。

 みっつ、過去クーデターを起こした時に復活した邪神は、時の聖女とシャイニー様の力をもって分割封印できたこと。

 よっつ、今もなお、邪神の半身という爆弾が、国内にあること。

 いつつ、現在のフェイファー皇国は、周辺諸国との関係が不安定であること。




 ということは、外国から守るという仕事は……不安定な国際問題に関すること、か。


「外国から守る、っていうのは、聖女の存在を使って国交を有利に進めようって話?」

「ハッキリとは言われてないけど、だぶんね。ただ、あたしは政治的な云々に口を出すだけの力がない。

 だから、皇王様とか皇太子様とか、そういう人たちがあたしの力を使うってことだろうね」

「だけどそれは、聖女の本当の仕事じゃないでしょ」


 思わず非難の声を上げてしまう。


「そう、本当の、そして一番大事な仕事は、邪神に関すること」


 紫音の視線が私の元へ帰ってくる。


「だからね、あたしはここへ、その話をしに来たの」


 和平を言いだしたのはあたしなんだ、と、紫音が強い決意を滲ませた。




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