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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
72/132

72.聖女のお目見え ……あれ?



 手っ取り早いから私も馬で行きたいわ、と変な駄々を捏ねるソニア様が馬車に押し込まれたのを見送る。ソニア様が馬術用の服装で現れたら、皆びっくりするよ。そこは普通にドレスで出席してください。

 一方、私はまた馬に二人乗りで会場へ向かう。荷物は馬車で運ばれるから、私たちは乗れなかった、という訳。


 国境にある会議場は、ゲームでも訪れている。

 議場の中心が国境線になっており、そこには柵も壁も付いていない。自由に行き来できるのが、この会場の特色なのだ。つまり、「この中では両国共に何も脅威はない」ということ。名目上は、だけどね。ゲームでは戦闘があったんだから。

 ゲームでは、ブルニ――二作目でここへ来ることになる。フェイファー皇帝を打ち倒して、ラヴィソフィとフェイファーの合併の話を進めるために使用されたのだ。そこで奇襲を受ける。

 だから私は少しだけ緊張している。


「聖女を戦闘に巻き込むことはしないんじゃないか?」


 そうであればいいんだけどさ。


「私の知る話では、エマちゃんはがっつり戦っていたからねぇ」

「……それもそうか。警戒するに超したことはない、と」


 後ろのロイの声がどことなく硬くなった。

 ここ最近は、護衛の仕事はあってないようなものだったから。

 だけどね、緊張が少しだけで済んでいるのは、あなたのお陰なんだよ?


「ロイがいるから、私は大丈夫!」

「ああ、絶対に守ってやるから」


 頼もしい声に、私はようやく笑顔を浮かべた。




 ******




 会場に入る前、レオナルド様が私の元に来て、こっそりと声をかけてきた。


「すまないね。君が狙われる可能性を極力下げたかったんだが、事情が変わった。ソニアの言い分も尤もだからね」


 そういえばそうだった。私がここに同行すると決まった時、レオナルド様とマークとの間で、そんなやり取りをしていた。


「積極的に狙われはしなくても、経済の一端を握っていると知れば何らかの形で取り込もうとしてくるかもしれない。だが、実務を担っている君がいてくれるとオイルの交渉で助かるのは間違いないからね。

 それから、マークは私が言い含めておいたから、君は『自分の知識』の中で使える物を選び出して、役目を全うしてほしい」


 自分の知識。それは、オイルのことではなくてゲームのこと。

 ゲームをなぞる状態は既に終わっている。だから、欲しいのは、パズルのピース――ゲームの情報と現実の情報とで同じ部分。

 ストーリーは違うけれど、会議場内の構造は把握しているし、相手のこともある程度分かっている。

 軍師補佐官としての本来の、そして隠された仕事は、現状とゲームの相違点を比較すること。レオナルド様はこの場でそれを行え、と言っているんだ。


 こちらを心配そうに見ているマークと、一歩退いたところにいるロイ。

 二人が守ってくれている。そしてレオナルド様とソニア様が、もっと大きな場所から守ってくれている。

 私がここにいる意味を、守るだけの価値があると思われる仕事を、自分自身に示さなければ。守ってくれている人たちに報いなければ。

 ペチペチと頬を叩いて、背筋を伸ばした。




 会場には、身分が下の人間から入場する。ということで、私たちは真っ先に席へ着く。

 厳密に言えば、私は着席するけれど、ロイはその後ろに控える。

 参列者は私やレオナルド様たちの他、私と同じく軍師補佐官の肩書きを持つケイン、公表されていないけれど聖女候補であるエマちゃん、聖女と協力しなければならない亡国王位継承者のラルド、エルフ代表らしきキャスパー王子。セリアは護衛の一人として参加していた。

 他にも、ゲーム内では名もないモブだった、あるいは描写さえされていなかっただろう兵士さんたちが、護衛として並んでいる。

 もう一度気を引き締める。ここはもうゲームの世界ではない。ゲームとは時期も違うし内容も違う。そして何より私がここにいる。

 フェイファー側も、下座から埋まっていく。ゲームではモブだった人たち。だけどここでは歴とした()()である人たち。

 心臓が高鳴りだした。両手をそっと握って緩めてしながら、開始時間を待つ。


 時間になり、上座に座る人たちが部屋に入ってくる。

 ラヴィソフィ側は、レオナルド様、ソニア様、マーク。

 フェイファー側は、シヴァ・ル・フェイファー総司令官、その副官で幼馴染みのハーミッド・クロス。そして聖女と思しき女性……。


 …………ん?


「美和ちゃん!?」

「紫音!?」


 重なり合った私たちの声が会議場に響き渡った。




 ******




 ハーミッドと後ろに並ぶ護衛が一斉に抜刀し、私はロイの陰へと引っ張り込まれた。ロイも抜刀している上に、セリアも私の前に滑り込んでいる。


「ストップストップ! ハーミッドさん、落ち着いて! 何もない! 何もないから!!」


 紫音の声が響いて、フェイファー側の動きが止まる。警戒態勢は続いているみたいだけど、それを見てラヴィソフィ側も一旦退いた。


「よしシヴァ、やっぱり戦争は止めよう。絶対に止めよう。向こうに美和ちゃんがいる」

「シオン、彼女は何者だ」

「あたしの友達。向こうの世界の大事な友達」


 はぁ? という声が向こうで上がっている。

 私は、紫音の言ってくれた「大事な友達」という言葉と、こっそりひっそりさよならを告げていた紫音が目の前にいる事実と、聖女の装いをしている紫音の立場と、そして敵国にいる紫音の現状と……色んな情報で頭がクラクラしている。

 それに比べて紫音はしっかりしたもので、


「何の因果か、仲良し二人が揃いました! あたしたちは積もる話をしますので、シヴァとクルストの司令官様で本題の話し合いをどうぞ!」


 と笑顔で言い放ち、国境線へと近付いてくる。ハーミッドが慌てて押さえ込もうとしたけれど、


「あたし、フェイファーに来た時に言ったよね? 大事な人たちがたくさんいる、って。それを諦めさせたのはシヴァたちよね?

 で、その大事な友人がここにいるのに、どうして話も出来ないの? やっぱりあたしが聖女だから? あたしが聖女なら、同じように異世界から美和ちゃんだって聖女でしょ!」


 と胸を張って睨み付ける。

 私が異世界から来たという事情を知らないラヴィソフィの人たちが固まった。

 私は私で固まった。私が聖女なはずがないよね?




 聖女の条件は回復魔術。そして紫音は、確かに聖女。

 聖女の礼服である白のドレス。そして聖女の証であるティアラ。どちらもゲームで見た通り……つまり本物だったから。

 となると、何が原因か知らないけれど紫音も回復魔術が使えるようになったのかな。ここへ来た時に魔術が使えるようになったとか?

 だけど私は使えないよ? 回復魔術どころか一般的な魔術すら使えないよ?


「ならば、ティアラを装着させてみれば良い。ティアラが聖女を選定するのだろう?」

「シヴァ。略奪された場合にどうしますか」

「美和ちゃんはそんなことしないよ」

「相手はラヴィソフィですよ」


 相手方トップ三人の話し合い(というより言い合い)を、私たちラヴィソフィ側は黙って見ているしかない。


「でしたら」


 それを破ったのは、ソニア様だった。


「先にエマに試させていただけません?」


 ニッコリと笑う美人に、一瞬ハーミッドが圧される。


「それも同様で」

「ですが」


 ハーミッドの台詞を、首を振って遮る。


「そちらの聖女様が本物だとしても、エマも依然候補のままですから。回復魔術、聖女以外も使えるとでも仰るのかしら?」

「やはり、回復魔術を扱える乙女は其方(そちら)にいらしたか」


 シヴァが目を細める。


「まさか、聖女様が偽物だとでも? 大神殿の祭壇に降臨されたこの方が?」


 ハーミッドの言葉に、横にいるケインが「それならば間違いなく本物ですね」と呟く。

 

 そんな混迷極まる場を、紫音がバッサリと斬り捨てる。


「めんどくさい! 美和ちゃんも、エマちゃん? も、一緒に試してみればいいでしょ?

 持ち去られるのが嫌なら、紐でも括り付けて握ってればいいじゃないの」


 後ろの兵士さんが会議場を出て行き、程なく長い紐を持ってきた。シヴァとハーミッドが頭を抱えて溜息を吐いている。


 なるほど分かった。フェイファー軍で一番強いのは紫音だ。




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