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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
70/132

70.いくつかの方法



 先に晩ご飯を食べてて、とトニーさんに伝えたものの、このまま顔を出していいものかどうか。他の人を見たら挙動不審になる自信がある。何かあったってすぐバレそう。

 ロイはもう普段の調子を取り戻してるみたい……見た目だけは。さっきから抱き込んだまま離してくれないんだよね。私はぬいぐるみですか。大人しく頭を預けている私も私だ。


 ロイ、平然として見えるし、やっぱり今までにいくつも恋愛してきたのかな。してきたんだろうな、格好いいし。優しいし。強いし。大人だし。

 こんな時、どうすればいいのかも分かっていそう。

 だけどそんな話、詳しく聞きたくない。……恋愛経験値くらいは聞いても大丈夫かもしれない。

 口を尖らせて考えている私に気付いて、ロイが「どうした?」と覗き込んできた。


「えっと、ロイは経験豊富そうだなぁ、ここからどうしたらいいか教えてほしいなぁ、って」

「…………お前は……」


 項垂れた顔が少し赤い。私はまた何かやらかしたらしい。

 あ、そっか。言葉が足らなさすぎた。そんな聞き方したら、普通、セクシャルな意味に取られるよね……。


「ごめん、聞き方悪かった。

 恋愛経験たくさんありそうだから、こういう時に他人に対してどう振る舞えばいいのか知ってるかな、今から晩ご飯で皆に会っちゃうしな、困ったな、って、そういう」


 言い訳をしたら、ぎゅっと一際強く抱き締められた後、肩を持って引き離された。

 何か言われる前に先手を打つ。


「分かった。一旦、晩ご飯どうするかは横に置こう。

 ごめんなさい。私の軽率な行動はどうしたらいいでしょうか」

「やらかしたら学習するとは言っても、やらかすこと自体は防げないからな……心臓に悪い」


 だからごめんなさい。


「マークはたぶん既にやられてるな。それだけじゃない、トム様やトニーや、下手するとレオ様や、その辺りも危ないな」


 ん? 心配しているのはそっち? ロイ自身ではなく?


「そうだな、俺にやらかす分にはもう問題ないんだから、暫く他の男とは接触禁止にするか」

「極端過ぎる!」

「冗談だ。さて、だが本気でどうしたもんか……」


 もう一度抱き込まれた後、椅子に座って悩み出した。ナチュラルに膝上へ乗せられている。やっぱりぬいぐるみみたいだ。

 でも、私みたいな大柄な女が誰かの膝の上に乗るなんて、考えてもみなかったから。実は少し嬉しい。


「仕方ない、宿題だな。

 で? 本題は、これからどう振る舞うか、だったな?」

「うん、それが今一番必要なことで」


 ポリポリと頬を掻いてから、「それじゃあ」と提案されたことは――。




 ******




「すみません、遅くなりました」

「ミワさん。良かった、終わる前に合流できて。

 あれ? ロイさんは?」

「ミーティング内容を書き留めてから来るって言ってたよ」


 方法その一。まずはバラバラに姿を見せる。


「で、何か問題があったの?」

「いやね、オイルとジェルの違いについて、思い出した時に話をしてメモっておきたくて」

「それじゃ、後でオレにも教えてもらえる?」

「勿論」


 方法その二。本当に少しだけ仕事をしていく。


「それじゃ、急いで食べちゃうね」

「はーい。じゃ、食べるのに専念しちゃって」


 方法その三。喋らない。


「悪い悪い。遅くなった」

「あ、ロイさん! もう書類終わったんですか?」

「まぁな、大した量じゃなかったし。

 ……そうだ、トニー。こいつ、俺が貰ったから手出すんじゃねぇぞ?」


 方法その……あれ? え? 言っちゃうの? 聞いてないよ?


「マジすか!? え、ミワさん、そうなの? 昼間の話ってこれ??」


 タイミングいいのか悪いのか、私はご飯を口に運んだ直後だった。

 返事できないうちに、ロイとトニーさん、ついでにエルフ薬師のサッシュさんが話を進めている。


「ミワは自覚なく色々とやらかすからな、先にお前ら味方に付けとこうと思って」

「つまり、彼女に悪い虫が付きそうなら追い払えばよいのですね?」

「そうそう。後はだな、自覚なく男を煽るから、見かけたら諌めといてくれ」

「了解っす」


 水を飲んで口の中を空にした頃には、だいたいの話が纏まっていた。本人は置いてけぼりですけども?


 方法その四は、ロイに任せる……って内容だったんだ。任せたけどね、任せたのだけれどもね。こうなるとは。

 確かに、私が挙動不審になる間もなく話が付いた。多少照れた所で、スルーされるはず。当初の目的は達成された。まぁいいか、こうなってしまっては仕方がないもの。




 ******




 皆の食事が済んだ後、場所を屋内に移して、実際に少しだけやってきた仕事の話を共有する。

 私が最初、ジェルではなくクリームでもなく、オイルにしたかった理由。


「ヘッドスパもしたかったんだよね」

「ヘッドスパとは?」


 馴染みのない単語だからか、トニーさんが首を捻る。


「頭皮のマッサージ。クレンジング効果もあるみたいだけど、私の場合は香りでリラックスする方が目的だったんだ」


 汚れを浮かせて、マッサージで血流を良くして、そして香りで癒やされる。

 これはオイルが一番やりやすい。というか、オイル以外で出来るのか知らない。

 

 大衆浴場で行うことになるんだから、番台のお婆ちゃんには許可を得ている。軍に来るまでは中途半端な時間に入っていたから、あっさりOKを出してくれた。念の為、一番端っこの排水口付近を定位置にしている。

 最初はザックリとしか説明していなかったけれど、興味を覚えたらしいお婆ちゃんに詳しく話したら、予想以上に話が盛り上がった。


 しっかり洗わないとかえって汚れになるから、専門家でもない私は、完全自己責任で使っている。

 そういうわけで、基本的には「誰にでも使える、身体のマッサージに使う物」として話を進めていた。


「オイルとジェルでは、性別以外にも使用シーンが変わってくるんだよね」


 方やリラクゼーションを主目的とするもの。方やリフレッシュを主目的とするもの。

 ソニア様に提案するなら、そこまで含めた書類にしないと。

 ターゲットが変わるだけではない、そもそものコンセプトが変わってくる。商品とするなら、そこも重要なはず。




 ――と、一通り説明が終わって、トニーさんとサッシュさんが退席した後。


「やっぱりミワは、仕事の話が始まると恋愛沙汰なんて目に入らなくなるな。予想通りだ」


 と、ロイに笑われた。

 そっか、それで方法その二、だったんだね。




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