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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第一章 ゲームの世界へ、こんにちは
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7.頭の回転が早すぎるのは苦手です



 既にキャスパー王子には『知らないはずのことを知っている』ことがバレてしまっている。

 それなら、周囲には、そういう謎めいたキャラで押し通す。特殊な能力があることにでもしよう。


 そのかわり、『この先の展開を知っている』事実を伝えるのは、二人だけにしようと決めた。

 軍司令官であるレオナルド様。そして、軍師であるマーカス。

 生き残るためにも、この二人を敵に回すのは得策ではない。むしろ、事情を知っていてもらった方が動きやすくなるんじゃないか、と考えた。


 そのための、回りくどい言い回し。私の言葉の意図が分かろうが分かるまいが、とにかく思わせぶりなことを匂わせないと、二人と話せないのではないかと思ったから。

 マーカス自身が再度の面会を希望し、更にレオナルド様に人払いを頼んでくれたのはラッキーだった。




「ふん。大人しくしていたか」


 私を連れてきた兵士さんが退室すると、マーカスが護身用の短剣を抜き放った。


「おそらくお前は知っているのだろうが、俺は剣も使える。下手な動きはしないことだ」


 おっと、いきなりのジャブがきた。


「はい、その通り、あなたが剣を扱えることも、レオナルド様が隠し武器をお持ちであることも、いざとなれば影の方が躊躇いなく私を殺すだろうことも、知っていますとも」


 初対面でファミリーネームで呼びかけ、『私はあなた方のことを知っていますよ』とアピールしたのだ。

 この世界で、この段階で、レオナルド様以外の認知度がどれだけあるか正確には知らなかったけれど、傭兵であるロイのファミリーネームを言い当てたのだから、効果はあったようだ。

 王子からも、自分の素性を一目見て言い当てたと、情報提供があったのかもしれない。


「ふははは、やっぱり面白いお嬢さんじゃないか」

「レオナルド様、笑っている場合ではないでしょう」

 

 余裕そうなナイスミドルをジト目で見るイケメン軍師。さっきから厳しい顔続きだよ、せっかくのイケメンが台無しだよ?

 

「御託はいい。お前はどこまで見通している?」

 

 マーカスの言葉とともに、笑顔のままだったレオナルド様の目がスッと細められた。それでも核心に迫ることを何も聞かないままなのは、この場をマーカスに任せているのだろう。

 

「少なくとも、主要な方々のことは知っています」

「では、この戦についても、主要な点は分かっているか?」

「……はい、分かっています」


 分かっていると言い切るのには勇気が必要だった。

 未だに不安は渦巻いている。今この会話のせいで、未来が変わっているのではないか。それを最小限に食い止めるためにはどうすれば良いか。

 彼らに伝えることも、本当は良くなかったんじゃないのか。

 それでも過去の言動はもうどうしようもない。ここから最善を尽くすのが、今やれること。

 

「なるほど。つまりお前は、『少なくともメーヴ城は戦場にならず』、『クルスト軍がフェイファー神聖軍に勝ち、あるいは決着は着かずとも不可侵条約を結び』、『数年後にはビエスタ国内の移動も比較的安心に行える』と知っていた、と」

「! はい」

 

 さすがマーカス。私が伝えたかったことを的確に言い当てた。

 だけどちょっと待て、やっぱり軍の名前がデフォルト名じゃないよ? 私の決めた名前だよ?


「マーク、一人で納得していないで私にも答え合わせをして欲しいなぁ」

「レオナルド様もだいたいは察していらっしゃるでしょうに……。では改めて。

 彼女は、生きて異世界に戻ることが目的だと言いました。その上で、ラヴィソフィ領に留まり、城で働きたいと主張し、落ち着いたら首都へ向かうと。

 わざわざ命の危険がある場所で留まるような物好きでもあるまいし、現に、雑魚一匹にも苦戦するような腕です。もっとも安全と思われる場所で戦火をやり過ごすつもりなのは明白です。

 そして、数年間であれば身柄の拘束も辞さない。これは、数年後には疑いが晴れる、つまり戦が終結すると考えているから故と思われます。

 首都へは自分の賃金で向かうつもりでいる。その頃には、この弱さでも首都へ行けるくらいには安全だということでしょう」

 

 親切にも解説までしてくれた。はい、全くもってその通り。

 しかし、あの短時間で、しかもわざとらしい挑発紛いのセリフの中から、その事実をきちんと拾い上げるなんて……これだから、頭の切れる人との会話は気が抜けないんだよ! 心臓に悪い!

 今回は隠さず打ち明けると決めていたから良いようなものの、疚しいことを隠すつもりの場合は秒で見破られそう。

 ……やっぱりこの人を敵に回すのは良くない……。


「さすがです、マーカスさん。お二方には、委細打ち明けさせてください。今指摘された点を含め、これから話すことは内密にお願いします」




 ******


 


 手首の拘束を外されてソファに促され、身体を覆う布を与えられた。侍女さんにお茶を淹れてもらってから、再び人払いがなされる。

 そして私は、ここが私のプレイしていたゲーム――壮大な絵物語とそっくりなこと、そこで語られている数年間の出来事はだいたい把握していること、親友と飲み会をした後に目覚めたら草原に寝ていたこと、着ていた服以外の持ち物はないこと、そして王子と出会ってここまでのことを説明した。

 それから。


「私の知っている話では、私のような異分子の存在はありませんでした。

 だから、私がここにいることで、私の知っていることを周囲に話すことで、どのような影響があるのか分かりません。

 私の願いは生き延びること。できれば元の世界に戻ること。下手に口を出すことで戦争の結末が変わってしまうのは本意ではありません。だから、」

「これ以上は何も言う気はない、と」


 レオナルド様が言葉を引き取った。


「ふむ。話は分かった」


 顎髭を撫でながら、レオナルド様は思案に耽る。


「にわかには信じがたい話ですね。

 ともあれ、我々にとっての上策は、今ここでこの女を殺すことです。そうすれば、この女の知る未来と変わらない結末になるでしょうし、敵の手に渡って利用される不安もなくなる。

 そもそも、この女が言っていること、全てが偽りないと証明された訳でもありません。いつ何時寝首を掻かれるかも分からない。危険分子は取り除いておくべきです」


 ――あ。その心配を忘れてた。


 そうだよ、私の身の安全はこの城内にいる限り守られると思っていたけれど、軍にとってはいない方が都合がいいんだ。


「死んで元の世界に戻れるのであれば、抵抗しないで殺されますけどね」


 胸の前でいつの間にか結んでいた手に視線を落としながら、ぽつりと言った。

 

 元の世界に戻るか、この世界にいるか、どちらにせよ生き残ることが前提だった。

 でも、ここで死んで元の世界に戻れるのであれば、邪魔者は消える方がいいに決まっている。好きな面々に会えないのは寂しいけれど、私の観光気分によって彼らの勝利を邪魔するのは本意じゃない。


 だけど、もし死んでも元の世界に戻れないのならば、ただの死に損じゃないか。

 さすがに自分の命を安売りする気はないよ……。




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