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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
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64.旅行気分のフィールド移動



 馬専用口の手前で待ち合わせたロイは、黒ジーンズに、黒い半袖Tシャツ、臙脂色のジャケット。街歩きの格好とほとんど同じだけど、腰に下げている長剣が目を引く。

 スタイル良いから何着ても似合う気もするけど、やっぱりこの人、お洒落が好きでしょ。戦う職業の人って服に無頓着、というのは私の偏見だったのか。部屋といいプレゼントといい、この人はかなりのセンス持ちだ。


 ロイに買ってもらった私の服は、濃茶のジーンズに臙脂のベルト、薄い黒のショートスリーブ、それからチョコレートみたいな茶色の長袖ジップアップ。


「試着した時も今改めて着てみた時も思ったんだけど。これさ、やけに暗い色でまとめてるよね」


 ロイの色も同じく。

 一瞬目を伏せたロイだけど、どこか諦めたような顔で仄かに笑って。


「白いシャツの反対だよ」


 白シャツ……前にロイが教えてくれた、平和の象徴。


「ここ最近な、道中で、高頻度で魔物が出てきやがるんだ。ミワの話で気付いたよ、例のヤツの影響なんだろうな。

 密集地帯は避けて進むが、遠回りしすぎて到着が遅くなるのもマズい。なるべくミワを危険に晒さないようにするが、多少の遭遇は覚悟してくれ。

 でだ。万が一血が飛んでも、これなら目立たないだろ」


 馬に乗るんだからヒラヒラした服も無理だし、出来るだけ肌は隠してやりたいし、と、ロイが説明してくれる。


「悪いな、折角の服がこんなんで」

「違うよ、そういうことじゃなくて、ちょっと気になっただけ! っていうか、こんな服とか言ってるけど、これ、普通に高くてお洒落なやつじゃん」

「そうか?」


 そうです。値札切られる前に値段チラ見しちゃいました。その点はもう開き直ったよ。

 でもね、やっぱり汚すのは申し訳ない。値段だけじゃなくてね。お洒落だし、何というか……前に買ってもらった服とも組み合わせられるでしょ? それなら次に外出する時も着られるし。

 次の会談の前にはまた買ってくれるって言ってるけど、今度こそ自前で買いたい。だから、それ以外では、手持ちで組み合わせたいよね。美容院で見た雑誌の着回し特集を思い出す。


「色はとにかく、少しでも気に入ってくれたなら良かった。

 さ、じゃ、そろそろ行くか」


 荷物をロイの愛馬に括り付け、私たちは城を出発した。




 ******




 パカラン、パカラン、と、美人さんな馬に乗せられ、軽快に走っていく。

 下手にゆっくり歩くより、こっちの方が乗りやすいらしい。

 長閑だなぁ………………魔物にさえ遭遇しなければ。

 魔物と遭遇すると、ロイは上手く馬を操り、私を庇うようにしながら切って捨てていく。やっぱり安心だね。だけど長閑ではない。

 遠い目をしている私に気付いて、


「やっぱりミワには刺激が強すぎるか?」


 と気遣ってくれるロイ。


「いや、なんかもう、ほとんど慣れた」


 この世界に来て最初に敵とエンカウントした時も、今日ここまで何匹かをロイが切って捨てている時も、そこまでのショックはなかった。

 最初のアレは、命の危険を感じて感覚が麻痺しているだけかと思っていたけれど、そうでもなかったみたい。やっぱり繊細さとは程遠いね、私は。


「何となく気になるって言えば、どちらかというと、ロイに対してかな」

「俺か?」

「そんな軽装でよく戦えるね?」


 バランス取りながらちょっと後ろに目をやる。防具の類は全く付けてないんだよ。


「この辺の魔物なら、こんなモンでも充分だ。

 さ、気持ち悪くなってなければ、このまま進むぞ。このペースなら、何とか休憩なしでも森まで辿り着けるが……」


 私が少しだけ身を固くしているのに気付いているんだろう、「あの辺りで一度休んでおくか」と優しい声をかけてくれる。

 違う、と言いたいところだけど、本当のことも言えない。

 どことなく緊張しているのは、魔物でも、馬でもなくて、後ろからロイにすっぽり抱え込まれている状態だからですよ。


 マークには自分から触れているからか、マッサージで緊張することはほとんどない。不意打ちに笑顔見せられたり近付かれたり触れられたり、ってすると、だいぶ無理。処理落ちする。

 で、ロイと近付くのもほぼ問題ない。けど、今日は困ってしまった。普段こんな形で近付くことなんてないもの。

 うん、私が何とか慣れるしかないね。まだ道は長いし、帰り道もあるんだから。




 ******




 とか何とか言いながら、途中からウトウト寝ていた模様です。いつの間にかデイ森の入り口が目視できるまで馬が進んでいました。

 ホント、何よこれ、私の図太さ。


「起きたか?」


 ロイの声が、頭の上から降ってくる。

 要は、私が落ちないように寄りかからせてくれていた、と。

 ……よだれ垂れてないよね? そんなの見られてたら恥ずかしすぎる。

 ふるる、と頭を振って、意識をはっきりさせる。


「寝させてもらって、ありがとね」

「馬の移動は慣れないとしんどいからな。気にするな」


 あ、私、現世でも通勤電車で常に居眠りしていたタイプの人間ですから。それこそ気にしないで。




 何か夢を見ていた気がするけれど、起きた直後にどこかへすり抜けていってしまった。

 紫音に会いたいな、と唐突に感じたから、きっと彼女の夢を見たんだろう。


 マークも、ロイも、私に情を向けてくれる。

 だけど、それとは違う種類の情を持って、紫音は私を助けてくれていた。一番の親友。


 会いたいなぁ。

 でも、紫音と会えるようになるってことは、マークとも、ロイとも、お別れってことだ。

 久しく考えないようにしていた自問が心の底から浮かび上がる。


 元の世界に戻るのに、誰かを好きになって良いの?

 元の世界に戻らないなら、唯一の心残り、紫音を振り切るだけの決意があるの?


 ――うん。それも、森を出るまでに決めよう。

 そこまで含めて、自分の心に結論を出すってことだから。




 密かに決意した時には、森の入り口に到着していた。

 私たちを待っていたトニーさんが満面の笑みで出迎えてくれた。


「トニーさん、魔物はどうしたんです?」


 戦えないように見えるトニーさんだけど、実は強かったとか?


「秘蔵の、魔物除けの香を出してきましたからね」


 え、それ、だいぶ高いアイテムじゃなかったっけ……。


「さ、じゃ、行きましょうか!

 森の地図をお借りしています。これで、サクッとデイ王のお城まで向かいましょう。そして自分はエルフの薬についての話を聞きに行きます!」


 弾んだ声のトニーさんが、地図を掲げて見せてきてくれる。馬から下りた私たちは揃って覗き込んだ。

 あ、うん、私きっと、地図なくても辿り着けるわ。ざっと見た限り、セーブポイントやアイテム宝箱がないくらいで、覚えているマップと大きく違いはない。縮尺が違うくらいかな?

 私の様子を見たロイが、こそっと「物語と一緒か?」と確認してくる。

 頷くと、一瞬考え込んでから、すぐに笑みを浮かべて「準備万端だな」とトニーさんの頭をぐしぐししている。

 トニーさん、もう弟分認定されたのね。




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