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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
63/132

63.出張準備



 明日からしばらくエルフのデイ森に行ってきます、という旨を奥担当の侍女さんに伝えて。

 つまり出張なのですよ。

 久しぶりの外! しかもメーヴの外! 駆け回ったフィールド!!

 上機嫌で廊下を進む私を見て、ロイが微妙な顔をしている。


「絵物語に出ているからか?」

「ご名答」


 んー、と暫く唸ったロイだけど、忘れてるみたいだな、と呟いて、私の一歩前に出てこちらを観察してくる。


「魔物が出るからな」

「うん、知ってる」


 そりゃそうだよ、レベルアップに勤しんでたんだもん。


「魔物を倒すのは俺だぞ?」

「うん、私は倒せないし、ロイにお願いするしかないね」


 あっけらかんと返す私に、やっぱりロイは溜息をつく。


「……マークが許すか?」


 ようやく私の足が止まる。

 ロイにそれを言わせたことに、少し罪悪感。


「許すも何も、今私の身柄はソニア様に拘束されている訳で」

「言い方」

「似たようなものでしょ。だから、いくらマークが軍での上司でも、ソニア様に楯突かなきゃ止められないよね」

「それでも、あいつにはミワの口から説明しなきゃならんだろう」


 私の身体をぐりんと回転させ、マークの執務室へ向かう方向へ誘導される。


「ね、ロイ」


 私は、頭一つ分高い所にあるロイの顔を見上げる。


「どちらにせよ、私は近々、外に出なきゃいけない。ぶっつけ本番よりマシじゃない?」


 心配しているのは、マークよりもロイのような気がする。

 マークだって多分心配するけど、ロイが横にいるなら渋々でも納得すると思うんだ。


「守ってくれるんだよね?」

「当たり前だ」

「じゃ、やっぱり問題ないよ」


 私が笑ったら、眉を下げて絆されてくれた。




 ここ数日バタバタしていてマッサージに来られなかった執務室。

 ついでだからやっていくよ、と申し出たら、マークがふわりと笑ってくれた。何で笑顔がこんなに美人なんだこの人。感情の脳内処理が追いつかない。オーバーヒートしてしまう!

 部屋の入り口に立つロイは少し不服そう。分かった分かった、後でロイもマッサージするから。筋肉の塊に果敢に挑戦してやるんだから!


 マークに事情を説明したら、少し眉を寄せたけど、溜息だけで済んだ。

 ほらほら、眉間の皺を伸ばすよ。ついでにこめかみも揉むから、ちょっと額に当てた手をどかそうか。


「確かに、ソニア様の指示でもあるし、ロイがいるなら移動も問題ないだろう。

 仕事の性質上、会談までに戻ってくることも確かだ。

 確かでは…………」


 言葉の最後が不自然に途切れたから、顔を覗き込む。


「私が全く手助けできないのも歯痒いが、君に会えないのが寂しいな」

「お前、俺が外に出ている間、今まで散々好き放題してきただろうが」

「それとこれとは話が別だ」

「んな訳あるか! ようやくこれで対等だろうが」

「お前は城下町へ一緒に下りているが、私は何もしていないぞ」


 ちょこっと出張に行くだけなのに、何でこんな言い合いしているんだろう、この人たち。




 ******




 毎日手紙を書くから、と言ってマークを宥めた。実際、勉強は続けなきゃだしね。

 うん、そこはかとなく既に付き合ってる風な行動だよね。どうかと思う。


 たぶん、いい加減、自分の心を決めないとダメなんだろうな。

 延び延びにさせても、マークにも、ロイにも、申し訳ない。

 私が「待って」って言うのを受け入れてくれたけど、それはいつまでもズルズル引き延ばしてもいい免罪符ではない。

 手紙の交換も、実際の世間話も、少しずつ少しずつ彼らのことを教えてくれている。

 それ、いつまでも続けていて良いのかな。良いはずないよね。


 告白されてから、まだ30日足らず。だけど、もう30日。


 ――よし。森を出るまで。デイ森への出張が終わる前に結論を出す。今密かに決意した。

 そうでもしないと私はいつまでもぐるぐる考えて身動きがとれない。

 デイ森への出張がどれだけかかるか分からないけれど、会談前までに戻ることを考えたら、そう長くかからないはず。

 少し先。だけど二人にとってはだいぶ先。

 ゴメンね、もう少しだけ待ってて。




 ええと、それじゃあ、荷物を纏めないと。

 部屋に戻って、使う物を出していく。

 そもそもそんなに荷物はないけれど、暫く外へ行くとなれば、必要な物は変わってくる。何か買い足さないといけないかな。

 私って出張の時には荷物が多くなるタイプなんだよね。今回は元々持っている物が少ない分、ちょっとは小さいパックになる……はず。あまり買ったら意味がない。


 うん、こんなもんかな。

 一通り準備できたと満足した時、部屋のドアがノックされた。




 立っていたのは、ついさっき別れたばかりのロイだった。


「服、買いに行くぞ」

「え、何故に」

「俺が買ってやりたいから」


 待った待った! このやりとり覚えがあるよ!?




 ******




「出張とは言うけど、貴重な外出だ。行き先もデイ森だし、そこまで気負う場所じゃない」

「そうだね。仕事は真面目にやるつもりだけど、正装できちっとする必要もないし」


 そう、必要ないから、別に服はいいよ?


「違うって。前にミワ自身が言ってただろ。外に出る時くらいは身なりを整える、って。

 で、あの後外に出たのは、俺が買った服を着てきた時だけだろ」

「……あ、そうだね」


 そういや、鞄に詰めた服も、いつも通りのファストファッション系。


「仕事の時に洒落た服を着なくても、移動くらいは楽しめよ。それが許されない場所じゃない」


 連れてこられたのは、城下町、例の服を買ってもらったレディース服のお店。

 お久しぶりです、と笑う女性と、ロイに挨拶している男性。ああ、この方がお姉さんの旦那様か。

 男性陣を見ていたら、お姉さんに拉致された。試着室に押し込められる。

 試着室の向こうからロイの声。


「ララ、お前さんの見立てと俺の見立て、両方買うからな!」

「ちょっと待って! 買いすぎ!!」

「何でだ、行きと帰りで二セットだぞ」

「あら、旅行ですか? いいですねぇ」

「おー、そうだぞ」

「出張!」

「半分旅行みたいなモンだろ」


 フフフッとお姉さんが笑い、向こうでもロイの笑い声が上がる。

 うん、大丈夫大丈夫。お姉さんには、ロイと一緒に出掛けることまではバレていない。変に誤解されては……いない、よ、ね?




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